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さんだいのきせき  作者: ちくましゃん
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落花 大家族 時刻表

二月十四日、二十二時五十七分。

私はお台場にある見晴らしの良いお洒落なホテルにいた。今日は彼と付き合い始めて五年目の記念日で、久しぶりのデートをしている。着慣れていないドレスがなんだか落ち着かない。目の前の彼も、なぜだかそわそわしている。彼のスーツ姿は初めて見たので、とても新鮮だった。「あのさ、」唐突に彼が神妙な面持ちで私に声をかけた。「どうしたの?」「これ、僕の気持ちなんだけど、受け取ってくれるかな?」そう言って、カバンの中から小さな箱を取り出し、ふたを開けた。心臓の音が今までで一番大きく鳴った。「わ、私でいいんですか?私なんか仕事も勉強も全然できないし、運動神経も悪いし、昔から人と関わるの苦手だし……。」「それでも僕は!君とこれからの人生を歩んでいきたいんです!」「!!……こんな私で良いんでしたら、よ、よろしく、お願いします…。」昔から、陰キャ代表として陽キャの鬱憤を晴らす物と化していた私は、その言葉に救われた気がした。涙があふれて止まらなかった。


荒野に、一輪の花が咲いた。


四月十三日、十七時七分。

荷物をまとめた長男が家を出ていった。私は、長男を笑顔で見送ったあと、一人寝室に引きこもって、泣いた。別に親子仲が悪かったわけではない。私はただただ、さみしかった。私の気持ちを察してくれた長女が残り三人の妹と弟を率いて家事の一切合切をやってくれた。私は布団の中でうずくまりながら残り四人の子供たちが家を出るときのことを考えていた。一人家を出ただけでも胸が張り裂けそうなのに、あと四回も同じ経験をして自分がはたして耐えられるのか、自信がなかった。単身赴任している夫のことを考えながら、私は一日中終わる気のしない苦しみと闘っていた。


花弁が一枚、また一枚と散っていき、残った種もどこか知らないところへ飛んで行ってしまった。


九月九日、十時零分。

私の周りには五人の子と十人の孫がいた。私の子供たちが全員巣立ってから四十年と少し。その間、夫にも先立たれ、一人ぼっちの時間が随分と長かったが、幼少期のころとは違い、思っていたよりも穏やかな気持ちで過ごしていた。思い残すことは、何もなかった。私は、目の前で泣きそうになっている孫に震える手を伸ばした。あたたかい。こうやって孫が私のことで悲しんでくれているというのなら、私にも生きる価値はあったのだろう。孫がベッドの上に私の腕をそっと戻した。その腕が再び上がることは、二度となかった。


一面に広がる花畑の中心で、一輪の花がその一生を終えた。

どうも!ちくましゃんです!

今回の作品はいかがでしたか?今回の作品は恋愛要素も少し加えていたので、あえてバレンタインの日に更新してみました。(あまりバレンタイン関係ないんですけどね……ハハハハハ)

今回は僕の作品史上初の主人公が語るパターンの小説でした。三人称の作品であれば事実をつらつらと述べていくのでも良いのかもしれませんが、一人称だと感情の描写がより重要になると僕は思っています。今までのように、一辺倒に語る訳にはいかなかったので、少し大変でした…。

さて、次回はもっと幸せな終わり方をしたいものですね。

次回も是非読んでみてください!


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