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さんだいのきせき  作者: ちくましゃん
11/14

戯け 遅筆 行き廻る

 「今日も書けない…か。」

僕は、腿の上に載せていたノートパソコンを閉じ、座っていた草むらに寝転がった。真っ暗になった視界。星だけがその闇の中で自分の存在を強く主張していて、僕には眩しかった。遠くから汽車の音が聞こえる。旅の目的は未だ達成される目途が立っていなかった。


 次の朝、泊まっている宿へ戻ると、「おかえりなさいませ!」と、小学校低学年くらいの女の子が屈託のない笑みで僕を出迎えた。僕は少女と同じ目線になるようにしゃがんで、

「ただいま。元気に挨拶出来て偉いね。今日は学校無いの?」

そう言うと、彼女は分かりやすく口をとがらせて、

「今日は土曜日だからありません!今日、お出かけする約束したの、覚えてる?!」

あぁ、そうだ、今日は近くの大きな公園まで創作活動しに行く約束しているんだった。僕はこの宿に泊まり始めてもうすぐ1ヶ月となる。本当は1週間程度でまた別の場所へ行こうと思っていたのだが、オーナーの娘に勉強を教えたことをきっかけにオーナー一家と親しくなり、子供たちの面倒を見る代わりに料金を安くしてくれているのだ。あと……

「ここなら、ヒントが見つかる気がするんだ……。」


 2人で家を出て、公園まで行くと、僕はパソコンを、彼女は大きなスケッチブックを僕の鞄からごそごそ取り出した。「勝手にどこか行かないでね。」

彼女が草むらで黙々と絵を書き始めたのを見届けて、僕は近くのベンチに座り、少しの躊躇いの後、パソコンを開けた。


 「ねぇねぇ!見て見て!」

その声で顔を上げると少女が満面の笑みでどんぐりを広げた。

「そのどんぐり、どうしたんだ?」

「えっとね、なんか絵描くのつまんなくなったから、あっちの方を歩いてたら…あっ…ごめんなさい。」

僕は苦笑しながら、少女の頭を撫でた。

「突然いなくなったら心配しちゃうから、次は気を付けるんだよ。」

もちろん、彼女から目を離したわけではない。急に立ち上がっててくてくと歩いていく様子が可愛くて、彼女の様子をそのまま観察していたのだ。

「僕も、ちょっと煮詰まってるんだ。ここら辺ちょっと散歩する?」

少女は目を輝かせて勢いよく頷いた。


 「お兄ちゃん!これ見て!」

少女が手に持った四つ葉のクローバーを僕に見せる。お兄ちゃん、悪くない。

「おっ!四つ葉のクローバーじゃん!よく見つけたね!」

そう言うと、少女は笑って「でしょ!」と僕にピースした。


 宿に戻る頃には僕たちは泥だらけになっていた。でも、僕の心はしみ抜きされたように鬱屈な何かが抜かれていた。お風呂を借り、オーナー一家と夕飯を済ませ、僕は再び外に出た。昨日と同じ場所に着いた僕はスケッチブックと鉛筆を取り出し、新しい物語の構想をさらさら描き出す。一時間程経ったころ、僕は構想を描き終えた。その出来に満足し、スケッチブックに栞を挟んで、寝転がった。「……今日も星がきれいだな……。」涙が溢れて止められなかった。

戯け(おどけ)

ふざけた行いをすること。しゃれ。


遅筆ちひつ

文章などを書くのが遅いこと。また、その人。


行き廻る(ゆきめぐる)

あちらこちら巡り歩く。


(オンライン国語辞典より)

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