第二十話 躍動のマリア
「はぁ、全くなんだってのよ」
両手に〈刀〉を持ちながら歩を進めているマリア。
(せっかく何か分かると思ったのに、これじゃあ借りた意味ないじゃない)
正確には決闘後、ケガ人の運搬やら施設の点検やらの混乱に乗じて落ちていたところを拾っただけなのだが。
まぁ借りたというよりかは盗んだの方が正しいのかもしれない。
「っく、仕方ないわ。まだアイツ寝てるだろうし今のうちに返しに――」
「あ、マリア」
「ひょわあああああああああ!!!???」
突如として眼前に現れた綾乃。
マリアは素っ頓狂な声を上げると、手にしていた〈布都御魂〉を放り投げてしまった。
「よっ」
軽く跳躍、今しがた空を舞った〈布都御魂〉をキャッチした綾乃は着地すると「あれ?」と首を傾げた。
「これ、どうしてマリアが持ってたの?」
「え!? いや、これはその! あ、あれよ!」
まずい。
さすがに本人の前で秘密を知りたかったから少し拝借したなんて言えない。
今までなら悪気なく言えただろうが、どうしてか今回は気が引けた。
と、とりあえず何か言わなきゃ!
あたふたするマリアを他所に、綾乃は「ああ」と手づちを叩いた。
「もしかして〈武器科〉から持ってきてくれたの?」
「ヴぇッ!?」
なんで武器科に持って行ったことがバレてるの!?
冷や汗が止まらない。
心臓が五月蠅くなり続け、目が異常なまでに泳いでいる。
「え、えと……マリア? 大丈夫かい?」
「えぇ! えぇ! 私は正常よ! 至って正常よ!」
「そ、そうか。そりゃよかったよ」
あははと苦笑する綾乃。
だがその眼は心なしかまったく笑ってないように見えた。
さらに口調も、いつもより棘があるような。
(こ、これは……)
絶対絶命。
恐らく綾乃は全てを知っていて、マリアに情状酌量の余地があるのか見極めているのだろう。何故か女の姿になっているが、その身からあふれ出す怒りのオーラ(幻覚)は間違いなく強者のそれだ。
(み、認めなきゃ)
緊張がピークに達した瞬間。
「とりあえず〈布都御魂〉のこと、ありがと。おかげで入館手続きの手間が省けたよ」
「私がやりました」
「何を!?」
それから数分。
ようやく落ち着いたマリアは「なんだあ」と快活に笑った。
「そうそう! アンタ怪我してるから休んでおいた方が良いと思って取りに行ってあげたのよ! 感謝しなさいよね」
つーんと腕を組みそっぽを向くマリア。
ちなみに冷や汗はまだ止まっていない。
「うん、ありがとね」
「い、いいのよ気にしなくても」
なんとか飄々と答えたマリアは、改めて綾乃に向き直る。
と、そこであることに気付いた。
「あれ、その髪」
「え? あぁこれ――」
そう。綾乃が女性化しているとき、大抵髪は下ろしていたはずなのだが、どうしてか今はポニーテールにくくられている。
それに、くくっている道具にも見覚えがあった。
間違いない。それは綾乃が女性化を抑える為に使っていた『反作用リング』であった。
「先輩との決闘で力出しすぎちゃって、完全に抑えるまで時間がかかりそうなんだよ」
「……相変わらず難儀な体質ね」
「あはは、まぁ仕方ないね」
言いながらポリポリと後ろ髪を掻く。
「って、決闘と言えば」
そこでマリアが思い出したようにある方向に視線を向ける。
そこには先の決闘でボロボロに破壊された〈第十二闘技場〉の姿があった。
「いくらなんでも無茶苦茶し過ぎよ。アンタたち周りのこと考えられないワケ?」
「うーん、弁解の余地もないね」
嘆息を吐くマリア。
「でもまぁ、逆に安心したわ」
「ん?」
「さすがのアンタも『序列三位には勝てなかった』ことよ」
「――」
「アンタ自分のこと人間じゃないとか言ってたけど、案外そうでもないんじゃない」
確か綾乃は、全てを護るために人間をやめたと言っていたか。
ヒトを越えた力、一体どれほどの可能性を見せてくるのかと若干の恐怖を交えて決闘を見ていたが、結果的には祀羅に敗北した。
だがしかし、決闘途中に双方力を出し過ぎたのが原因か〈疑似戦界システム〉を以てしてもエネルギーを抑えきれず、決闘終了直後に設備が崩壊したのだ。
「というかアンタが人間じゃなかったらそれ以上の実力を持つ私はどうなるのよ。ま、まぁ人間離れした実力として褒められるのも悪くはないわね……」
「……」
「ねぇ、聞いてるの?」
「う、うん。焼肉はタンが美味しいって話だよね」
「誰もそんな話してないわよ……」
ギクッと頬を引きつらせる綾乃。
どうやら完全に話を聞いていなかったようだ。
ジト目で非難の意を伝えるマリアだったが、追及する気力もなかったためそれ以上は何も言わなかった。
そんなマリアの様子を見てか、綾乃が慌てた表情で指を一本立てた。
「そ、そうだ! 〈布都御魂〉を持ってきてくれたお礼に何か奢るよ!」
その言葉に一瞬耳を立てたマリアは、何かに気付いたように綾乃の身体をじっくり見やる。じっくりと、嘗め回すように視線を移動させた後、小さく吐息を吐いた。
「厚意はありがたく受け取るけど、その前に」
びしっと人差し指を差す。
「――恰好だけなんとかしなさいよ」




