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第十話 中華の虎アル


「それじゃあこれで今日のスケジュールは終わりだ。帰っていいぞ」


 教卓に立った唯我はあくびを漏らしながら言い放った。

そのあと気怠そうに腰を丸めると、とぼとぼとEクラスを後にした。


(ようやく来たと思ったらそれだけか……)


 少女姿の綾乃は手元の時計を見やる。予定の時刻より三十分もオーバーしていた。


 ……この先生、本当に大丈夫なのだろうか。


 目を線にしながら頭を落とす。


「ようラッキーマン。マリアちゃんに助けてもらった感想はどうだ?」


 ポンっと肩が軽く叩かれ、横から悠斗の声が飛んできた。

 彼の言葉に疑問を抱くこともなく、綾乃は「いや~」と後ろ髪を掻いた。


「さすがSクラスって感じだったよ。僕なんか出る幕がなかったもん」


 若干嘘を孕んだ言葉だったが、おおよそは間違っていない。

 『例の力』を解放した後、綾乃は見事に動けなくなってしまったのだ。

 そこを後から現れたSクラスの生徒たちに狙われ、マリアの防衛もむなしくやられてしまったわけである。意識が目覚めた時、マリアに散々嫌味を言われたので恐らくペアとしては敗北してしまったのだろう。

 出る幕がなかったというより、そもそもなくなったと言った方が正しい。


「だよなー。てかなんでお前とマリアちゃんが組むことになったんだか……この学園のAI絶対ぶっ壊れてるだろ!」

「そういう悠斗はどうだったの?」

「始まった瞬間に同じペアの女にやられた」


 スライムのように机にへばりつく悠斗。


「……そりゃまた、なんというか」


かける言葉が見つからない。何というか、可哀そうな悠斗であった。

 悠斗は拳を握りながら呻くように続ける。


「クソッ……ちょっとケツ触っただけじゃねぇか」

「じゃあ僕はここで」

「おい待てッ! 見捨てるのかッ!?」

「自業自得じゃん。というかなんでお尻を触ったのさ」


 ゴミを見るような目を向ける綾乃に、悠斗は頭を抱える。


「――そこにお尻があったから」

「さよなら悠斗。短い間だったけど良い友人だったよ」

「お、おい待て待ってくれ――」


 綾乃に伸ばしかけた手が、何者かによってがしりと掴まれる。


「……ッッ!!??」


 びくりと肩を震わせる悠斗。

 続けて、カタカタとぎこちない動きで腕の主を見やると、


「君が痴漢の民! ここに確保! さっそく豚箱に行くアル!」


 綾乃と同じくらいの背丈をした少女が、銀色に輝く手錠を悠斗に掛けた。


「て、手錠!?」

「逮捕ネ!」

(また一癖ありそうな子が来たなあ)


 まず違和感を覚えたのが珍妙な格好だ。綾乃たちが茶褐色をベースにした制服ならば、少女は炎のように真っ赤な制服を纏っている。細部には金の装飾が施されていて、制服というよりかは、どこかの民族衣装のように見える。また肌が大胆に露出しているので、なんとも目のやり場に困る。

 短く結ったポニーテールを揺らした少女。快活な笑顔を見せると、見た目からは考えられないほどの力を以て悠斗を担ぎ上げた。


「うおおおおおおおおおッッッ!!!??? 助けてくれ綾乃ォォォッッッ!!!」

「無駄アル。大人しくするネ」

「いやだァァァァァァッ! ケツで人生終わりたくなィィィィッ!」

「ちなみに加害者の性格判断の為にさっきから録音してるヨ」

「はいそれはもう大変に反省しております。二度とこのようなことがないように――」

「分かればよろし。では……」


 言いかけて、


「っと、忘れるところだったアル」


 急速反転した少女は一文字に閉じていた目を薄く開けた。


「さっきの戦い、なかなかに面白かったネ。四皇生徒会副会長としてこれからも期待しているヨ」


 「では」と片手を上げると、副会長を名乗った少女は爆速で去っていった。


「あぁ、今のが」


 それを見届けた綾乃は少しだけ目を丸くする。

 四皇生徒会副会長――紅花ホンファ。つばめとの決闘の際、名前が何度か耳に入ってきたので記憶に残っていた。

 紅花を表す言葉で最も的を射ているのが「暴走」と、つばめが語っていたことを思い出す。確か良くも悪くも自分の欲求に素直過ぎるせいで、時折全校生徒を巻き込むほどの大問題を起こすこともあるとか。

 果てについた二つ名は〈暴走の紅虎ラグナロク・タイガー〉。本人はいたくこの二つ名を気に入っているらしい。

 にしても、と綾乃は苦笑を漏らす。


(本当に噂通りの人だったな)


 四皇生徒会とも長い付き合いになりそうだ。唯一会っていない〈重双の装甲姫〉と呼ばれる書記少女がいるが、これも近いうちに顔を出すとしよう。

「帰ろう」

 小さく吐息を吐く。綾乃は鞄を背負うと、教室を後にした。


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