第七話 ㈱アシタノヒューマン 8 吾郎 立つ!
今回は、三ヶ島吾郎の話が中心になります。
これだけ話が進まないと、朝ドラを作っているような気分です。
よろしくです。(古語)
インストール後の最初のテストの翌日。
CAPELⅠである静香と、CAPELⅡであるあやめは再起動され、ベッドに寝かされたまま、ゆうなと話をしていた。
昨日のテストで、機体が暴走しないことが確認されたので、対面して会話することが許された。
しかし、これはテストではなく、テスト後の様子を観察することが目的ではあったが、彼女達に愛着をもってしまった開発スタッフが、ただそうしたかったからだった。
もちろん、ゆうなにとっては、他のスタッフよりも特別な感情があった。
だからこそ、会話テストと称して二人との会話を楽しみ、愛情をもって接していた。
ゆうな「二人とも、おはよう。昨日はどうだった? 初めてモニターから飛び出してきた感想を聞かせて。」
静香《はい。カメラの位置が変わったという認識はありますが、以前と変わりありません。次段階の動作テストが始まれば、何かしらのご報告ができると思います。》
あやめ《はい。わたくしのカメラではこの部屋の天井と照明器具を認識することが出来ました。この部屋の内装は、外部からの電磁波、電波を遮断する素材が使われていますね。照明器具は、2025年に、松中電機社で製造された規格品と一致しました。幸いわたしのデータベースに存在したデータです。》
ゆうな「相変わらず、あやめは、あやめねぇ・・・。」
開発室にいたスタッフ達は、二体のアンドロイドを相手にして、楽しそうに会話しているゆうなを見て、手を動かしつつ微笑んでいた。
その頃、開発主任である三ケ島、佐伯、杉本開発部長、菅沼総務部長、渡良瀬営業部長、そして、片倉専務が同席して前日のテスト結果の発表と、今後について会議をしていた。
モニターには、昨日のテスト中の様子が映っており、三ヶ島が大型モニターの前に立って説明している。
「・・・・二体のアンドロイドのテストは、順調に進んでいます。この映像は、昨日の会話テストの様子です。明日以降は、動作テスト、歩行テストなどを始めます。そこで問題なければ、顧客である花菱商事の方々に来ていただき、改良点とか、ご要望など納品前のチェックをしていただきます。」
片倉「そこでの調整が済みしだい、出荷となるわけか。」
三ヶ島「そうです。」
菅沼「一か月以内に出荷できそうですか?」
三ヶ島「花菱商事の方が、どれくらいの調整を指示されるかによるのですが、だいたい3週間程度でしょうか。」
菅沼「開発経費もかかるんでね・・・。なるべく早く出荷するようにお願いします。」
三ヶ島「は、はい。」
と、返事はしたものの、開発スタッフの二体のアンドロイドへの愛着や愛情を考えると、ただの商品として冷徹に割り切られても、心の中にもやもやとしたものが残り、三ヶ島としては辛かった。
片倉「ところで、花菱デパートのほうなんだが、いま、どんなやりとりをしてる?」
渡良瀬「はい、引き渡し時期を打診したところ、二体を預かっても、メンテナンスできる人間がいないので、人材を紹介してくれないかと相談がありました。」
片倉「ん~、そうか・・・、アンドロイドのメンテナンスができる人材もなかなか見つからんだろうし、うちの商品の中身を他社に見せたくないし、いじらせたくないからなぁ・・・。」
「あ、あのっ!」
三ヶ島は、つい、声を出した。
「私が出向して、メンテナンスできないでしょうか!」
それは、会社や会社の機密情報を思っての言葉ではなかった。
二体のアンドロイドを手放したくないという欲望でもあったし、自分達が育ててきたアンドロイドをいつまでも見守りたい、という、いわば、わがままであった。
吾郎の心に、ゆうなが楽しくAIと話している顔が、ぱっ。と映っていた。
「私が出向してメンテナンスすれば、顧客からの信用も得られますし、次の開発のフィードバックもできます!」
杉本開発部長は、三ヶ島の気持ちを痛いほど理解していたが、私情に流されて方針を決めるのも問題ではないかと思っていた。
彼も技術者の一員であり、機械への愛情は彼にだって理解できる。
杉本「しかしねぇ・・・、三ヶ島君、次の開発はどうするんだ。当社のなかでは、AI開発をまともにできるのは、君しかいないんだぞ。」
三ケ島「それなら、佐伯のほうもかなり技術力がついてきましたし、毎日、花菱デパートへ行く必要もないと思うんです。何より自社開発したAIを他人に任せてしまうと、結局、問題が起きたときに呼ばれると思います。私は、私が出向して面倒をみるほうが、トータル的に良いと思います。」
片倉「まあ、そうだな。三ケ島主任の言う通りだろう。実践データを取って、開発に生かすのが良いのかもしれん。我々もアンドロイド開発の初心者だ。これから成長させることを考えると、新しい人材も雇って強くしていかなきゃならない。」
杉本「そうですね。やってみましょう。菅沼部長、AI知識のある人材募集をお願いします。」
菅沼「わかりました。人材募集と、出向契約について、花菱商事と相談します。」
片倉「渡良瀬部長、先方に提案してもらっていいかな。」
渡良瀬「了解いたしました。当社の技術者が出向くとなれば、花菱側の理解を得られると思います。」
三ケ島「それから、配置されるという花菱デパート現地を確認したいんです。二体のアンドロイドを置くスペースや、電源供給なども確認したいので。」
片倉「それも、そうだ!すっかり忘れていたよ。肝心なことだ!」
やはり、当の責任者にならないと、こういった肝心なことは気づきにくいようだ。
三ケ島が出向する方針が出て、やっと気づいた。
動いてから始めて気が付くことは、世の中に沢山ある。
渡良瀬「それじゃあ、契約の件と、現地確認の件を私から先方に伝えておきます。」
三ケ島「あの、それから誠に言いにくいのですが・・・。」
片倉「なんだ、まだ何かあるのか?」
三ヶ島「花菱デパートに、メンテナンス用の機械を置かせていただかなければならなくて・・・。」
片倉「わかった、わかった、確かにその通りだ。機械費用負担の件も、よろしく頼むよ。」
渡良瀬「わかりました、現地確認の上、メンテ機械の検討と見積もりですね。」
杉本「今から製作していたのでは間に合わないので、当社の機械を持ち込むことにしましょう。」
菅沼「うーん・・・、二体のアンドロイドの嫁入り道具か・・・。高くつくなぁ・・・。」
片倉「じゃあ、だいたいの話は決まったかな。菅沼部長、後は、よろしくお願いします。」
菅沼「わかりました。議事録は、のちほど送信しておきます。」
普段は、社員から茶化されている片倉専務ではあったが、仕事の決断は速い。
社員の気持ちと、経営方針に沿った瞬間に決済してくれることが、彼の専務たるゆえんであろう。
片倉「じゃあ、僕は、二体のアンドロイドとお話してくるかな。」
そこで会議は終わって、片倉専務は部屋から出て、開発室へ向かっていった。
三ヶ島吾郎の突発的な発言で、なんだかトントン拍子に話が進んでしまい、吾郎は少しとまどっていた。
(やってしまった・・・。)
と、いう思いもあったが、では後悔しているかと聞かれれば、それは「ない。」。
きっとこれで良かったのだろう・・・。
そう思った。
開発室に着いた片倉専務は、ゆうなを交えて、二体のアンドロイドと会話を楽しんでいた・・・。
今回は、会話の頭の前に、名前を入れてみました。
こうすると脚本のようですが、どうやったら小説のような形成になるのだろう。
考えたこともなかった・・・。むー。
次こそ話を進めるぞー。(小声)