第六話 ㈱アシタノヒューマン 7 目覚め
このくだり。なかなか終わらないなぁ・・・。
千鳥ゆうなのキャラが好きになったというか、目の前に浮かんでくるようで、いろいろ続けて書いてしまいます。
なかなかメインタイトルまで辿り着かない・・・(-_-;)
開発室では、AIのインストールが順調に進行していた。
データ送信量を示すゲージが終盤まで伸びて、完了まであと僅かなところまできた。
三ヶ島吾郎は、目の前の内線電話の受話器をとって、杉本開発部長に電話を掛けた。
「杉本部長、もうそろそろインストールが完了します。・・・はい。・・・はい。えぇ、問題ありません。・・・はい。失礼します。」
「いよいよね。」
千鳥ゆうなが、顔を紅潮させて見守っている。
さっきまでは、別れの寂しさに悲しんでいたが、今は、彼女達の自立を祝福したいという気持ちで高揚していた。
やがて、ゲージがいっぱいになると、「完了」の表示があれわれた。
「インストール完了です。」
佐伯が確認のための言葉を発した。
《本機は、FL CAPELⅠです。新たなAIシステムがインストールされました。データセーフティモード起動。プログラムチェック開始・・・。》
「静香」と呼んでいたAIが、FL CAPELⅠにインストールされ、機体に搭載されている合成音声が流れ始めた。
と、同時に「あやめ」と呼ばれていたAIも、FL CAPELⅡから、同様の合成音声が流れた。
「おお~っ。」
到着した杉本開発部長が声を上げた。
おじさんになっても、これには驚嘆しているようである。
まあ、男なんていつまでたっても単純で、そんなものであろう。
むしろそれが健全だとも言える。(作者より。)
少しずつだったが、散っていた社員も、聞きつけて集まってきた。
「おっ、声はまだ出ないのか~。」
「ん、今、動いた?」
など、口々に適当なことを言っている。
男性社員にあっては、
「おれ、最初に静香さんと話してみたいなぁ~。あのちよっときつい感じがそそられるんだよね~。」
「あやめちゃんの天然ぽいところもいいぞ。手をつないで歩いてみたいよ。」
などと、勝手な事を言い、女子社員のなかには、顔をしかめて聞いている者もいた。
「私たちの子に手を出さないでくださいよ。セクハラで訴えますからね!」
ゆうなはすっかり保護者づらである。
「お~、怖い、怖い教官どの。十分に心得ております。」
と、男性社員は、ゆうなを茶化した。
《・・・プログラムチェック完了。アンドロイド搭載AI起動します。》
社員全員が一斉にガラスを挟んで、開発室を覗き込んだ。
「おおおー。」
「ちょっと、ちょっと!押さないで!」
吾郎は、背中から社員達に押されて、操作盤に押さえつけられた。
「モニターが見えないから!」
ガラス越しで良く見えないが、両機体のまぶたが開いているようである。
佐伯は室内に備え付けているカメラで確認した。
「まぶたが開いています!」
二体のアンドロイドは、まぶたを開いて瞳孔の位置にあるレンズを動かして、ピントを調整している。
その後、瞳を動かして辺りを検索しはじめた。
たまらず、ゆうながマイク越しに語りかける。
「おはよう、静香さん、あやめちゃん。気分はどう?」
静香《おはようございます。ゆうなさん。気分は平穏です。正常に起動できました。ただし、現在の時刻は、14時20分ですので、こんにちは。が正しい挨拶だと思います。》
あやめ《おはようございます。ゆうなさん。私は・・・、いつでも・・・、皆さまが・・・、〝気分〟と呼ぶ感情を、良好に保つように心掛けております。現在の・・・時刻は・・・、14時を回っているはずですが・・・、〝おはよう〟・・・と仰るからには・・・何か理由があるのですね。わたしが推察しますところ・・・、ゆうなさまは、私たちが軌道したことを、〝目覚めた〟・・・と解釈し、最初の挨拶を〝おはよう〟とした。と、解釈すれば良いでしょうか。》
この機体には、きちんと声帯を模した装置が組み込まれていて、合成音声ではない人間のような声を実際に発生させている。
二体が同時に喋ったので、集まった社員に、よく聞き取れなかったが、二体の性格の違いは、なんとなく理解できた。
ただ、佐伯と吾郎だけは、別のモニターに記録されていく文字を読み取っていたので、よく理解していた。
「なんだかあやめちゃん、ますます変な会話になっているなぁ・・・。」
つぶやく吾郎。
「うん、でもあやめちゃんらしくて素敵。」
再びマイクに向かうゆうな。
「ごめんなさいね。二人同時に喋るとわかんないから、きちんと名前を呼びかけるから、一人ずつ返事してね。」
静香《はい!承知しました。》
あやめ《はい!わかりました。》
「それじゃあ、静香さんから始めるわね。」
ゆうなは、それぞれにあらかじめ用意していた質問を投げかけて、まずは、機体の視聴覚が正常に作動して認識されているかチェックを始めた。
「まずは、今、見えている物を、認識できた順に教えてください・・・。」
二体の質疑応答が終わった後、いったん試験を終えることにした。
「お二人ともお疲れ様、以上で最初のテストは終了です。またしばらくおやすみしてね。」
静香《はい。承知しました。》
あやめ《はい、お休みさせていただきます。》
「二体ともスリープモードに入ります。」
しずかにまぶたを閉じる二体の顔を、モニターを見ながら、佐伯が報告した。
「やったなー!三ヶ島主任、佐伯君、千鳥君、みんな!、本当におめでとう!まずは成功だな!」
と、杉本開発部長が三ヶ島の肩を、勢い良く叩いた。
「はい、ありがとうございます。これもみんなのおかげです。残るは手足の動作や、歩行テストですが・・・、まあ、言って見れば廉価版のような機体ですので問題ないと思います。片倉専務にも報告しておかないといけませんね。」
三ケ島吾郎が肩を降ろしてほっとしているところに、女性社員によってケーキが運ばれてきた。
「じゃーん! 今日は静香さんとあやめちゃんの誕生日ということで、片倉専務からのお祝いでございまーす!」
「片倉専務から、開発が成功したときはお祝いしてくれと、前に頼まれていたんだ。」
「はは、なんだそうでしたか・・・。もう少し、片倉専務に報告したほうが良かったですかね。」
「うわぁ、盛大だなぁ!ありがとうございます!」
佐伯がケーキを覗き込んで品定めしている。
至ってシンプルで、いちごの乗ったショートケーキである。瑞々しいいちごの微かな香りと、砂糖とバニラの甘い香りがしている。
ケーキは、小皿に取り分けられ、紅茶と一緒に全員に配られた。
いつもは仕事で笑わない吾郎も、この時ばかりは顔を崩した。
「ハーピバースデー、トゥーユー!
ハーピバースデー、トゥーユー!
ハーピバースデー、ディア 静香さーん、あやめさーん!
ハーピバースデー、トゥーユー!
おめでとー!」
数個のクラッカーが鳴らされ、キャーという女性社員の歓声と同時に拍手が沸いた。
「ありがとう・・・、みんな!ありがとう・・・。」
ゆうなは、おもわず浮かんできた涙をぬぐった。
「なんだ、千鳥くん、また泣いているのか。」
「(主任!優しく!・・・優しくですよ!)」
「えー!ナニナニ!またってどういうこと?」
「あれー?もしかして痴話喧嘩ですかぁ?お熱いことで。」
「君たち、いい加減にしろって!」
「はーい!今度は二人のウェディングケーキを用意しまーす!」
手を上げて、はしゃぐ女子社員。
「ちょっと、ちょっと、からかわないでよ~。」
ゆうなは、目に浮かべた涙をぬぐいながら返事をした。
そして、次の動作テストが待っていた。
ざざざーっと書いているつもりですが、これでも4時間くらいかかってます。
文章を書くのって意外と骨が折れます。
もっとサクサク進められないものだろうか。
ええ、まだまだ続きますよ。
先(ケンタウルス座)は果てしなく遠いですから・・・。
始めちまったものは仕方ねぇ・・・。