第五話 ㈱アシタノヒューマン 6 ゆうなの想い
尻切れトンボになってしまった前回の続きです。
もうちょっと続きます。
誰かイラスト描いてくれないかなぁ・・・。
女性社員達の大騒ぎが落ち着いて、三ヶ島吾郎は、まだ《魂》の吹き込まれていない二体のアンドロイドに向かっていた。
二体のアンドロイドは、あおむけになったまま両手を胸の前で組まされ、眠っているかのようである。
「さあ、いよいよ開始するとするかな。」
〈静香〉と〈あやめ〉のAIを、それぞれの筐体に吹き込む作業が始まった。
「佐伯、データ送信ケーブルのチェックを。」
真剣なまなざしで、吾郎は佐伯と呼ばれるスタッフに指示を出した。
「千鳥君、そろそろ二人のAIを止めてくれ。」
「はい。じゃあ、静香さんと、あやめちゃん、少しの間、眠っててね。」
《承知しました。》
《了解されました。》
千鳥ゆうなが、コンソールに向かって停止コマンドを打ち込むと、二人の顔は画面から消えて、数行のプログラムがパラパラッと表示されたあと、完全停止した単語が表示され、そのままコマンド待ちの画面となった。
「三ヶ島主任、接続ケーブルチェック完了、異常ありません。」
「よし、電源を入れるか。みんな外に出てくれ。」
AIをインストールした瞬間に、暴走して危害を与えてはいけないので、アンドロイドがつなげられた部屋から出る必要があった。
部屋を出た廊下にも操作盤があり、強化ガラス越しに見守ることができる構造になっている。
集まった社員達も含めて全員が廊下へ出たあと、ガラス越しに中の様子をうかがっている。
ついさっきまで二体のアンドロイドを囲って大騒ぎしていたのに、突然誰もいなくなって、二体のアンドロイドは見放されたように見えた。
「それではみなさん、いよいよAIのインストールを始めます。まずは本体に電源を入れますが、いきなりは動きません。安全のために手足、胴体は動かないようになっています。彼女達が唯一動かせるのは、顔のみで、表情を作ることができ、会話することもできます。それでは始めます。電源を入れます。」
三ヶ島吾郎がキーボードをたたくと、アンドロイドが寝かされているベッドのような椅子の赤ランプが点灯した。
二体には、まだわずかな電力を充電できるバッテリーしか積んでいない。
せいぜいプログラムを走らせて会話できる程度である。
「佐伯、異常はあるか?」
「いえ、全て順調です。コンピューター、顔パーツとも正常な値を示しています。その他のパーツにあっては反応がありません。いつでもインストール開始できます。」
「了解。それではインストールを開始する。」
吾郎がまたキーボードをたたいてコマンド入力すると、インストールを始めた自動プログラムが立て続けに表示されはじめた。
「うん。順調だな。特に問題もなさそうだ。」
吾郎がつぶやいている周りで、開発部長や社員らが、固唾をのんで見守っている。
送っているデータの数量を表示するゲージが少しずつ増えていく。
案外時間がかかりそうだった。
「三ヶ島君、どのくらいの時間がかかりそうかな?」
杉本開発部長が聞いてきた。
おじさんになると、こういった待ち時間に耐えきれないらしい。
「そうですね、このペースだと30分から50分くらいでしょうか。」
三ヶ島吾郎がそう答えると、
「そうかね。じゃあ私は事務室に戻っているよ。あとで報告してください。」
と、他の数名も合わせて、つれなく戻って行った。
三ヶ島吾郎と佐伯、そして千鳥ゆうなの三人だけが、操作盤の前で、モニターや部屋の中のアンドロイドの様子をじっと見ていた。
「なんだ、千鳥君、随分と静かじゃないか。」
吾郎がゆうなに声を掛けた。
「うん・・・。嬉しいはずなんだけど、なんだか寂しい気分になっちゃって・・・。」
「そうか・・・。」
吾郎は、なんとなく、ゆうなの気持ちがわかって黙っていたが、ゆうなが声を発した。
「なんかね・・・。私たち、ずっとモニター越しに彼女達と話をしていたでしょ。いよいよ二人が自立するんだな。って思ったの。変ですよね。だって自分の子供でもないのに・・・。」
吾郎は、ゆうなが泣いているのが、なんとなくわかったが、黙ってモニターを眺めていた。
目の前にあるモニターに流れ続ける自動プログラムだけが、足しげく働いている。
「ごめんなさい。ちょっとおトイレ行ってきます。」
と言って、ゆうなは顔を見せないように、その場を離れた。
佐伯も、ゆうなと吾郎の気持ちを察して黙っている。
送信データのゲージが、半分程度進んだころ、佐伯がおそるおそる声を掛けた。
ゆうなは、まだ戻ってきていない。
「主任・・・、千鳥さん大丈夫でしょうか。」
「大丈夫に決まってるだろ。ちょっと寂しくなっただけさ。AI相手に感情的になるのも、おかしなもんだけど・・・、まあ、人が作ったモノだし、感情移入してしまうのも当然なのかもしれないな。特に女の子なんて、人形を可愛がったりするだろ。そんな感じじゃないのかな。ん・・・。ちょっと酷い言い方かな?」
「そうですよ。主任、もうちょっと千鳥さんに優しくしてくださいよ。僕、お二人に幸せになってもらいたいんです。」
「ちょっ・・、なんだなんだ君まで・・・。」
と言ったところで、少し冷たい言い方をしてきた自分を思い出し、それもそうだな。と、吾郎は顧みた。
(結婚・・・、結婚かあ・・・、それもいいかな。)
と、吾郎は思った。
よく考えてみると、ほぼ機械いじりしかしていない自分に、これだけ親しくしてくれる女性はいなかった。
彼女が幸せに思ってくれるなら・・・。
と、思ったところで、少し目を腫らしたゆうなが戻ってきた。
「すみません・・・。持ち場を離れちゃって・・・。様子はどうですか?」
「ああ、順調にインストールされているよ。なあ、佐伯!」
吾郎は、にっこりとして顔を佐伯に向けた。
佐伯は吾郎の想いを瞬時に理解し、
「は、はい!全て順調です!」
と、両拳を握って元気よく答えた。
「な、なによ~、二人とも、なんか変な話でも、してたんじゃないの?」
さっきまで泣いていたゆうなが、からかってきた。
「いい話です!いい話です!」
佐伯が力説するので、もうそれ以上は語るな。と吾郎は態度で示した。
「わたしの静香とあやめに変なことしたら、許しませんからね!」
ゆうなは的外れな事を言ったが、吾郎は微かに頬を緩ませて、黙って聞いていた。
小説を描いている人は、どんな気持ちで書いているんだろうか。
やっぱり自分が面白いと思ったり、感動しながら書いているんじゃないかと思うのです。
作曲やアニメもきっとそうなんだろうなぁ・・・。
良いアニメは、作り手が喜んでいることがすぐに分かります。
第五夜は、もうちょっと続きます。
書いているうちに、ストーリーを作っているので、だらだらと続いてしまうというか、勝手に始まってしまうという感じです。
ある意味理想なのかも。