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planetarian 前日譚 第五夜 ほしのとゆめみ 前編  作者: オーガスフロンティア
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第二十一話 ㈱アシタノヒューマン 10 別れと始まりと(13)

二体のアンドロイドの再テストをすることになった里美たち。

アンドロイドは子供の対応を、出来るようになるのか?

 西暦2033年12月


 花菱商事立ち合いの最初のテストから、既に2か月が経とうとしていた。

 里美達の最初のテストから、翌週。

 倉橋里美、如月やよい、千駄木実乃瑠せんだぎみのるの三人が、再試験のため、アシタノヒューマンに訪れていた。

 松永の代わりに、比較的、若い年齢の千駄木が選ばれたのは、既に契約の手続きが終わったので松永が行く必要もないだろうという判断、プラネタリウム館の担当となっているので一度は見ておくべきという点、それから、前回の試験で問題点は分かったので今回は再確認するだけなので、とりあえず男性の付き添いを入れておこうという軽い理由だった。


「へぇ~、意外と可愛いですね。」

 千駄木が、あやめの前に立ってじっと見ている。千鳥ゆうなは、またしても花菱商事の新しい訪問者に、びくびくしていた。(この人は大丈夫なんだろうか。)最初に来た女の人といい、里美さんといい、そしてこの新しく来た男性も、自分達が可愛がってきたアンドロイドをおかしな物をみるような目で見られるのが、もやもやとした感情・・・率直に言えば〝不愉快〟という言葉になるのだが、そんな感情を持った。そして、二体のアンドロイドが傷つけられたり、蔑んだりすることは、同時に、自分達が蔑まれることだと思っていたのだが、自分では、そのことが理解できずに、とにかくもやもやしていたことだけは、気付いていたのだった。

 しかし、その時は、里美とやよいも同じような感情を持っていた。

「すみません、千駄木さん、私達、テストを始めますので、少し離れていていただけますか。」

 と、言って、年上の千駄木を遠ざけた。

(なんだかいやらしい目で見てたわね。あの人、アンドロイドがうちに来た時に、変なことしないでしょうね。なんであの人が来たのかしら。)と、例によってやよいが里美に耳打ちしている。

(たまたま、ほかに来られる人がいなかったからじゃない?)

 とは、言ったものの、確かに青いスカートのスリットから、未成熟な女性の足首から大腿筋だいたいきん・・・つまり太ももが、足を踏み出すたびに、まぶしく現れたり消えたりするさまが、男性の性的欲求を誘発しているようで、気にはなっていた。

(まさかねぇ・・・。ただのロボットなのに・・・。あんな物で興奮するのかしら?)

 と、里美は思っていたのだが、実際には、世界中の闇ルートではセクサロイドが流通しており、マフィアやシンジケートの収入源となっていた。日本でも、それは違法とする根拠がなく、それは里美達が知らないところで流通していた。

 千駄木がそのような目で、あやめを見ていたのかは定かではない。

 ともあれ・・・。

 今回も、松永をのぞいた同じメンバーが開発室で試験を始めようとしていた。


 《お久しぶりです、里美様。前回お会いした時から、1万と75時間が経過しています。》

「あら、そう?私たちの事は忘れていない?」

 《はい、私達のストレージデータに記録されています。ログを確認なさいますか?》

「それは必要ないわ。それより試験を始めるわよ。勉強してきてくれた?」

 《大人と子供の区別についてですね。ネット上の映像記録5万時間分を抽出して学習しました。日本国内の映像は50パーセントとし、のこりの50パーセントを国外の映像にしました。それから教育機関の子供の扱いに関する文献資料を考察し、子供への対応について学習し終えております。この文献は・・・。》

「わかった、わかった。その説明は、もういいわ。」

 里美が(ふぅ。)とため息をつくと、

「倉橋さん、すみません。どうしても、この回りくどいところをどう直していいのか、思いつきませんでした。」

 と、吾郎が頭を掻きながら謝った。里美は恐縮して、

「あ、いいえ、いいえ、後は私たちがなんとかしますから・・・。」

 と、苦笑いして言葉を返した。

「じゃあテストを始めるわよ。私が子供の役をするから、あやめちゃんは、そのつもりで対応してくれる?」

 《はい、承知しました里美様。よろしくお願いいたします。》

 と言って、あやめは、ゆっくりと頭を下げた。

 里美は子供と同じくらいの視線になるようにしゃがみ込んだ。

「『ママ~、じぃじ~。』」

(ぷっ。)

(くっ。)

 里美は子供を演じてみせたのだが、普段の里美からは想像もつかない姿だったので、やよいと千駄木は、可笑しくてしかたがなかった。

 そしてゆっくりと子供を演じる里美に近づくあやめ。

 あやめも、スカートの後ろを膝に折りこみ、ゆっくりとしゃがんだ。

(へぇ・・・。)

 わざわざスカートを織り込む所作に、吾郎は感心した。どこでそんな所作を覚えたのか・・・。一応、人間の女性っぽくなっているんだな。と少し感動した。

 《お客様。お客様は、お母さまと、おじい様と、お離れになってしまっているようにお見受けします。お困りのようでしたら、わたくしにお申し付けください。》

「『ママとじぃじを探して~!』」

(ぷぷっ。)

(くくっ。)

 《承知いたしました。幸い、花菱デパートにはお客様をお呼び出しできる館内放送があります。お客様は、こちらでお待ちください。》

「『ママーーー!』」

 里美がそう叫んだ時だった。


 《あかーい、めーだまーの、さぁーそりー♪

 ひーろげーた、おーわしーの、つぅーばさぁー♪

 あおーい、めーだーまーの、こぉーいぬー♪

 ひーかりーの、へびーの、とーぐろー♪》

 ※歌詞 宮沢賢治 星めぐりの歌


 なんと、子供をあやすように、あやめが歌を歌い出した。

 これには吾郎は驚いた。

 たしか、このアンドロイドには歌を歌う機能はついていなかったはずである。

 《おーりおんは、たかぁーく、うーたいー♪》

「あ、あやめちゃん・・・。」

 千鳥ゆうなは、あやめに近づき、膝をついて、あやめを抱きしめた。

 ポロポロと涙を流すゆうな。

 《ゆうな様。大変申し訳ございませんが、只今試験中ですので、そのような行為をされると、わたくしは、どのように申して良いのかわかりません。》

 と、あやめが瞳をゆうなに向けて喋った。

「うん、いいの、いいのよ・・・。ごめんね・・・。ごめんね・・・。」

 ぐずくずと泣いているゆうな。

 あっけにとられる里美たち。

 吾郎は、あやめを抱きしめたままのゆうなを見守りながら、ちょっと困った顔をして、

「すみません、千鳥は、思い入れが特別強くて・・・。なにせ、このアンドロイドは歌を歌うように作られていないものですから・・・、僕達もちょっとびっくりしています。」

 と説明した。

「あ、いえいえ・・・、そうですか・・・、そうなんですね・・・。」

 吾郎に説明されても、里美たちにはピンと来ない。

 ただ、彼らの表情から、特別なことが起こったことだけは分かった。

「まあ、あの、対応としては、良かったと思いますし、合格ってことで良いと思います。」

 と、里美は、両手のひらを向けてコメントした。

 やよいは、

「うん、いいと思いますよ。歌って子供をあやすなんて、グッジョブです。」

 と、便乗した。

「そうですか・・・、試験を中断してしまってすみませんでした。ホントにうちの開発陣は、問題ばかりですね。」

 と、吾郎は言ったが、

「いえいえ、素晴らしいじゃないですか。これなら私達も安心して受け入れることができます。」

 と、里美は返した。ただ、本当は少し不安だったのだが・・・。

「あやめ、試験は合格だ。良かったな。だけど、どうやって歌を歌ったんだ?」

 と、吾郎が聞いた。

 《はい、内臓スピーカーと私達の音声を混ぜ合わせて歌声にしています。お聞き苦しいところはございませんでしたでしょうか? 人間の大人は、子供を泣き止ませるときに歌を歌うこともあるようですので、この手段を採用しました。》

 と、あやめが言うと、

「うん・・・。良かったよ。とっても良かった・・・。」

 と、抱きしめたまま、ゆうなが言った。


「里美の演技も、なかなかのものだったわよ。」

 と、からかうやよいと、笑いをこらえている千駄木。

「ちょっと、あんただって同じことやるのよ!」

「私は、別のテストを用意してまーす。」

「千駄木さんも、笑ってないでテストに協力してもらいますからね!」


 その後、如月やよいによって静香のテストも実施され、こちらは少し子供向けの対応ではなかったと思われたが、マニュアル通りのような対応はできたので、とりあえず合格となった。


 二体のアンドロイドのテストが終わり、吾郎たち開発スタッフはビルのエントランスまで降りて行って、里美達を見送ることにした。

 日が落ちてきて、あたりは柔らかい夕焼けに包まれ、自動運転のタクシーが迎えに来ている。

 吾郎が先頭に立ち、

「本日は、どうもありがとございました。出荷するまでに出来るだけのことはしておきます。」

 と挨拶した。

「はい、では、よろしくお願いします。」

 タクシーに乗り込む里美達。

「わたしは、来年からお邪魔する事になりますので、今後ともよろしくお願いします。」

 と、吾郎が出向のことを含めて挨拶した。

「はい、こちらこそ、よろしくお願いします。」

 里美たちは、頭を下げると、タクシーは浜松市に向かって静かに発進した。

 いつまでも見送っている吾郎とゆうなを残して、開発スタッフ達はビル内に戻って行った。


「ねぇ、吾郎さん。」

 ゆうなは、すっかり生気を取り戻していた。

「私達も、あの人達みたいに強く生きていかなくちゃね。」

「うん・・・、まあ、賑やかな人達だったね。」

「あの人達だったら、あやめちゃんを預けてもいいかなって思っちゃった。」

「うん、そうだね・・・。きっとちゃんと付き合ってくれるよ。」

 吾郎の脳裏には、世間の一部に発生している反アンドロイドを叫ぶ人達がよぎった。


「ねえ、吾郎さん。」

 ゆうなは、吾郎の顔をじっと見た。

「私達も・・・、よ。私達も!」

 じっと見たまま笑うゆうな。

「わかった!わかったよ!」

 吾郎は、しょーがないなぁという顔をして顔を背けた。

 ゆうなは携帯端末を、すすすーっと操作した。すると携帯端末から、

 《本人確認のため、声紋認証します。氏名と生年月日を正確に話してください。》

 と音声が流れた。


「千鳥ゆうな。2020年12月19日生まれ。」


 《本人確認しました。記録します。》


 ゆうなは、

「はい、今度は吾郎さんの番よ。」

 と言って、携帯端末を吾郎に手渡した。


 携帯端末の画面には、〝婚姻届け〟の文字が映っていた。



 後日・・・、松永の指示により、如月ゆうなの姪っ子が、アンドロイドの相手をして試験することになった事を記しておこう。


やっと、やっと、ゆうなと吾郎のエピソードが終わりました・・・。

こんなに長くなるとは思いませんでした。

声を混ぜ合わせる発想は、ミックスボイスです。

ミックスボイスとは、歌い方のテクニックの一つで、地声と裏声が混ざった声のことを言います。

もう半年以上も練習しているのですが、どうしても出せません・・・。

正直言うと、結構苦し紛れに出てきたアイデアだったのですが、うまくはまったと思います。


しかし、第五夜の本題は、これからなのです・・・。

次は短いと思います。


まだまだ、これからもよろしくお願いします。

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