第一話 ㈱アシタノヒューマン 3
ほしのゆめみが、いよいよ誕生します!
しかし、宇宙開発を巡る不穏な事態が・・・。
ここからplanetarianの世界に、少しずつ暗い影を落としていきます。
平穏な世界と、緊張が始まる世界。
残酷な時代の流れは止めることができない・・・。
西暦2033年6月。
社内では、新しいアンドロイドの開発が進められていた。
千鳥ゆうなのデザインを元に、二体の開発が進められ、搭載するAIは三ヶ島吾郎が、二つの性格プログラムを組んでいた。
一体は、オレンジ、赤、茶系の色を配し、長距離観光列車の添乗員風で、性格は冷静で、お客をきちんとおもてなしするタイプ。
もう一体は、青、紫を基調にした宇宙船の乗務員、もし、宇宙観光船などというものがあれば、その船に乗っている添乗員といういでたちだった。性格はおとなしく控えめで、どちらかというと子供にあわせることが出来るタイプとなった。
それぞれをSCR5000シリーズ、FL CAPELⅠと、Ⅱにナンバリングされた。
「歌は歌わないの?」
ふたつの筐体は、裸体の状態で斜めに立っている鉄のベッドにはめ込まれて、幾多のケーブルがつなぎこまれている。
そのアンドロイドを点検したり、動作試験をしている三ケ島吾郎に、千鳥ゆうなが近寄って聞いてきた。
「ん~。発注者からそういったオーダーが入れば、歌わせる機能も追加できるけど、部品交換も必要だし、こいつらは歌わないねぇ。」
「そっか~。歌ってくれたらいいのになぁ・・・。」
やはり、千鳥ゆうなには、このプロジェクトが仕事であること以上の思い入れがあるようである。自分がデザインをかってでたせいもあろう。
千鳥ゆうなのイメージ画
「こっそり、仕込むことはできないの?」
と、そ~っと近づいて、聞いてみる千鳥ゆうな。
「あのねぇ・・・。歌わせるユニットっていくらするか分かる? 仮に入れられたとしても、品質検査するのは僕だけじゃないんだから、すぐばれちゃうよ。納品伝票だって、設計図だってあるんだから、そうそう簡単にはいかないよ。気持ちは理解するけどさ。スピーカーくらいはついているけどね。」
吾郎が、すぐ横のコンソールに立って操作を始めると、無表情の二体のアンドロイドの瞼が開いたり閉じたりした。一体はオレンジ色の瞳の吊り目、もう一体は大きな琥珀色の瞳を輝かせていた。
「つまんないなぁ・・・。」
世間では、アンドロイドアイドルが活躍していて、ステージの上で歌ったり、踊ったりしていた。ゆうなは、それを引き合いに出していたのだが、本当にステージで活躍できるアンドロイドは非常に高価で、歌と踊りはできるけれども、それ以上のことはできなかった。
「ちょっと喋らせてみるよ。」
吾郎がコンソールを叩くと、
「おはようございます。(なめらかで落ち着いた声)」
「おはようございます。(可愛らしくて張りのある声)」
と、二体のアンドロイドが同時に喋った。
「喋りの方はこんなもんかな。そうだ、この二体にAIを搭載したら、ゆうなさんにも会話テストに参加してもらおうかな。」
と、吾郎が言うと、ゆうなは、
「えっ本当ですか?嬉しい!是非、お願いします!」
と、前に両手を合わせて組み、目を輝かせて言った。
「実は、二つのアンドロイドは性格分けしてあって、CAPELⅠは、淑女タイプ。CAPELⅡは、少女タイプなんだ。発注元が、静岡のデパートなんで、来客者をある程度想定してみたよ。」
「えっ?でも、発注数は一体じゃなかったんですか?」
「本当はそうなんだけど、ほら、サブリースで貸し出すだろ?試験も兼ねてるから、二体使ってみて、どちらかよい方を選んでもらおうというわけ。二体同時に製作すれば、コストも抑えられるし、開発という点では、うちの会社には必要なことなんだ。」
「うーん・・・、デザインした身としては、実現してもらえるのは嬉しいことだけど、アンドロイドも命の選別があるのねぇ・・・。候補落ちしたアンドロイドは、どうなるの?」
ゆうなは、複雑に表情を浮かべて、コンソールを操作している吾郎の後ろから話した。
候補落ちしたアンドロイドが、無残に処分されてしまうことを想像しているようだ。
「なんだ、大げさだなぁ・・・。まあ、昨今のアンドロイド排斥運動があることを考えれば、そういう気持ちも理解するけど。しょせんアンドロイド、機械の集合体といえばそれまでだけさ。今は人間とアンドロイドが共存している世界だから、うまくやっていくしかないよ。」
吾郎は、まだ言葉を続けたいと思ったが、仕事に集中したいので、そうしなかった。
(今は、アンドロイドなしでは生活できなくなった。人が人で足りうることは、その相手が人間であろうが、アンドロイドであろうが関係ない。むしろ、人間らしくない人達もいるし、人間性を喪失した事件や戦争だってある。しかし、何をもって人間性というのか?戦争だって殺人だって、人間のしてきたことだ。しかし、僕らの作っているAIアンドロイドは、人に平安と安心をもたらす意志を持ったアンドロイドだ。そうして、これからの僕らの社会を作っていかなければならない。)
吾郎の〝うまくやっていく。〟という言葉の中にはこれだけの意味が含まれていたが、ゆうなに分かってもらえるかどうか分からなかった。
しかし、千鳥ゆうなは、そんな理屈を並べなくても、うまくやっていこうとするだろう。
それは、彼女の女性という性が、本能的に共同生活を求めるのだからかもしれない。
ともあれ、この二人を含めて、㈱アシタノヒューマンの社員、経営者も含めて、二体の新しい希望をもったアンドロイドの開発を進めていた。
「しかし、雨がよく降るなあ・・・。」
吾郎が、天井を見上げて唐突につぶやいた。きっと一息いれたかったのだろう。
この時代は温暖化が進んでいて、吾郎が言った通り、大量の雨が降っていた。農産物を守るために巨大な建物で覆ったり、排水設備を強化したり、住宅は道路から1m以上かさ上げしたりと、いろいろな対策が講じられるようになっていた。
「吾郎さん、ロビーでお茶しませんか?」
なんとなく雰囲気を察したゆうなが声を掛けた。
「ああ、そうだな。ゆうなさんのデザインの話も少し聞きたいし。」
吾郎は折っていた腰を伸ばして、手でトントンと叩いた。
実は、この二人、その後結婚することになるのだが、今はなんとなく気の合う二人でしかなかった。
もしかしたら、AIテストをしていくうちに、ふたりの愛情がAIに乗り移るかもしれない。
AIに愛情を理解することが出来るのか?
それは二体のアンドロイドが花菱デパートで多くの人間と交わることでわかるだろう。
今回から連載掲載することになりました。
真面目に執筆しなければならないなぁ・・・と思っています。
暗い展開であるかもしれませんが、これがplanetarianの世界なので、仕方ないですね。
この原作が、終末SFに帰属していることは間違いないでしょう。