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76話

「端的に言うと、私、殺され掛けたんです!」

「・・・なんのこっちゃ?」


フレイの思い詰めた表情は可哀想に思うが、流石に何の事か分からない。


「昨日も話ましたが、私は王女とはいえ、王位継承権がほとんど有りません。どうせ有力な貴族に嫁がされて政治の道具として生きて行くのならと、幼い頃に城から逃れ、乳母が昔働いていた研究所でお世話になっていました」

「幼い頃って10歳頃だよな?」

「はい。昔から物の成り立ちや道具の工夫とかに興味が有って、気が付けば、私も職員として働いてました。と、言ってもお手伝い程度ですが」

「フレイ様がお手伝いなどとんでもない!フレイ様の噂は聞いてましたよ?最近では、魔物の生態を研究されていたとか?」

「そ、そんな大した事は出来ていませんよ!魔物の発生と分布に手を付けたばかりですから!」

「それで、一体何が有ったんだ?」

「実は、研究所にある品が持ち込まれました。ゴブリンの頭蓋骨、頭の骨に良く似た物です」

「・・・似た物?」

「はい。実際にゴブリンの骨と比べると、どうしても同じには思えませんでした・・・重いんです。とてつもなく。大きさと形は同じなのに、非常に重いんです」

「・・・魔法かな?」

「どうしても分かりませんでした」

「魔法ならオルトが見えるだろ?」

「オルトさんが辞職した後だったので・・・」

「アーシャならどうかな?鑑定の魔法で」

「え?アーちゃんの魔法って・・・亜空間じゃないの?」

「2つの魔法を使えるんだよ?」

「す、凄い!」

「ニーナ以外、俺達は2つずつ使えるぞ?」

「羨ましい・・・」

「フレイは?魔法を使えるのか?」

「私のは光の魔法です」

「光?具体的には?」

「明るく照らす魔法です。私自身はあまり使い道が有りませんけど、オルトさんみたいに魔道具に出来れば、とても便利な魔法なんですよ?」

「照明の魔道具か!俺達も凄く助かってるよ」

「はい!街でも普及してますね。おかげで使用権だけでも生活出来ています」

「使用権?」

「魔道具を作る為に魔法の術式を差し出しますから魔道具が売れる度に少しずつ代金が入るんですよ」

「ほほう?それは興味深い話だな・・・まあ、そっちは後回しにして、頭蓋骨の話に戻ろう」

「そ、そうでした。その骨を観察したり触ったり、検査をしていると、時折、魔物が発生するようになったんです」

「発生だって?」

「はい。密室にしているハズの研究室の中に急にラージラットやスイートビーが現れるんです!」

「ラージラット?スイートビー?」

「私達が最初に食べてたネズミよ。スイートビーは毒素の無い蜂。どちらもさして危険な魔物ではないわね」

「だ、そうだが?」

「いやいや!ラージラットに噛まれたら骨折も有り得ますよ!?スイートビーの針は体から抜けにくくて危ないんですよ!」

「そうなの?どちらも食糧のイメージしか無かったのよね」

「まあ、俺達からしたらドラゴンすら食糧だったからな」

「・・・と、とにかく!魔物が発生するなんて異常事態なんですよ!」

「んー・・・そうか?」

「ジークさん・・・想像してみて欲しいッス」

珍しくミーシャが声を上げた。難しい話の時はいつも、静かに眠・・・瞑想しているんだが。


「トイレ中なら大変ッスよ!」

「おぅ。それは大変だな」

「お酒を飲んでる時も困ります」

「料理中なんて考えるだけでも悲鳴が出そうッス!」

「・・・なるほど。いつ、どこに出るか分からないってのは危険なんだな」

「そうなんです!やっと分かってくれましたね!」

「その頭蓋骨が危ないってのは理解出来た。それがどうして『殺される』に繋がるんだ?」

「呪いの頭蓋骨を研究所に持ち込んだのは・・・私の産みの母親、現王妃だったのです!!」


フレイは悲惨な表情で熱く語り掛けてくる。

「ふーん」

「・・・あれ?」

「で?理由は?」

「それを調べる為に王城へ潜入しようとしていたのです!」

「・・・別に俺には害が無いからどちらでも構わないんだが・・・仮に、悪意が有ったのなら、フレイはどうしたいんだ?」

「・・・」

「逆に悪意が無かったら?」

「け、研究を続けます・・・あんな危険な物が存在するなんて、王国の為になりませんから」

「だろ?」

「え?」

「俺の感覚からすれば、呪いの頭蓋骨なんて城の中で保管出来るワケが無い。やはり、研究所に依頼を出すだろうな。悪意を持って頭蓋骨を送るなんて無駄で確実性が足りないから、嫌がらせ程度にしかならないだろう」

「ふんふん」

「更に、フレイが魔物の発生を研究していると聞いて研究素材を用意したとしか思えないんだが?」

「あっ!」

「フレイからしたら危険な物を調べさせられてるのかも知れないが、依頼者からしたら、危険だからこそ調べて欲しい・・・違うか?」

「なる程!」

「分かってくれたみたいだな。実際の所はどうなのか知らないが、もっと視野を広く持った方が良いな」

「・・・はい。すいませんでした・・・」

「謝る必要は無い。まだ、何一つ答えは出ていないからな」

「でもジークさんの言う通りです・・・」

「こちらこそ済まない。説教臭くなってしまったな」

「フレイ。ジークも悪気が有ったワケじゃないの。フレイを気に掛けるからこそ言いたかったと思うわ」

「分かっています。むしろ、自分が子供みたいに見えて来ました」

「いや、子供だろ」

「幼い頃から大人達に紛れて研究漬け・・・いつしか考え方が片寄ってしまっていたようです」

「聞いてる?」

「末席とはいえ、これでも王族!己を殺し、他を助け・・・」

「自分の世界に入っちゃったな」

「民達の指針として!民を導く者として!私はこれから生きていきます!」

「でも継承権無いんだよね?」

「崇高な理念を抱きながらも、それを押し付けず、太陽のように暖かく、皆の支えとなって!」

「大変だな、それ」

「ジーク様のように!」

「ちょっと待てぇぇぇ!!」


何を言い出すんだ、この娘は!?俺がそんなに面倒な事をするワケが無いだろう!?


「信者が増えたわね」

「発毛以外での信者は珍しいですよね?」

「あ~あ・・・これから王都は大惨事になるのにな」

「ジーク様!私は構いません!むしろ、民をないがしろにし、私腹を肥やした国王はじめ王族、それに連なる貴族も殲滅するべきです!」

「何て事を言うんだ!?自分の親だろ!?」

「確かに、私をこの世界に誕生させた事は多少の感謝を感じます・・・」

「うんうん。そうだよな?」

「が!誤った教育・・・いえ、洗脳を施し、私も王族として王族の為に生きる事を強制した罪は消えません!そして、私は今、この場で生まれ変わったのです!」


「こいつ、ヤバい奴だ・・・」

「信者どころか、いきなり狂信者じゃないの!思い込みが激し過ぎるわね。相手するのが面倒なタイプよ」

「どうする?引き込む?諦める?」

「とはいえ、こんなに話をしてから本人を粛正というのもどうかと思いますし、アーシャも嫌がるのでは?」

「あたしは流石に反対ですよ?フレイちゃんはやれば出来る子です!」

「それ、誉め言葉じゃないからな?」

「ジーク様のお側に置くのはやめるとしても、フレイ様はまだ更正の余地があると思います。私が粛正するのは利己的な貴族や王族に限定するべきでしょう」

「逆にフレイと一緒に粛正の対象を定めるというのはどうだ?」

「難しいですね。フレイ様は王国の中枢とはほとんど関わりが有りませんでしたから」

「・・・んー・・・」

「ジーク。今、使えねぇな。と思ったでしょ?」

「いやいや、そこまで邪険には思ってないぞ?フレイには教育を施した上、王国の立て直しを頑張ってもらうからな。フレイの手足が必要だなと思ってさ」

「もちろん必要ですよ!私では武力以外ではお助けするのも難しいですし・・・」

「フレイ、王国で真っ当な王族、貴族に心当たりはないか?」

「居ません!」

「少しは考えてくれ・・・」


つ、疲れる・・・。

この王女様の世間知らずには手を焼きそうだ。本当に思い込みが強過ぎて、他を全否定してしまう。これ、暴君の素質が溢れ出ているんではなかろうか?


「決めた。フレイ、お前はヤマタイの国で学校を作れ。そして、運営と生徒のどちらも経験しろ!」


「はえ?」

「正直に言おう。今のフレイは危険だ。方向性が違うだけで現ノースティン王国の連中と大差ない」

「そ、そんな・・・せっかく生まれ変わったのに」

「気のせいだ」

「誤魔化しじゃなくて、本当に気のせいなの。むしろ勘違い。または妄想。あるいは空想。いえ、願望かしらね?」

「し、辛辣です・・・」


ここでニーナが無表情でフレイに向き直った。


「フレイ様・・・良く聞いて下さい。理解しているかと思いますが、私はこれから修羅となる覚悟です」

「ゴクッ・・・はい」

「私が何故、権力中枢の粛正を行うのか・・・分かっていますか?」

「もちろんです!私利私欲にまみれた貴族、王族を取り除く為でしょう?」

「では、放置している現状ですが・・・国はそれなりに平和です。飢えて亡くなる人もほとんどいませんし、魔物の被害も限定的です」

「・・・はい」

「貴族、王族にどれ程の罪があると思いますか?」

「・・・それは、え~っと・・・」

「・・・」

「・・・ごめんなさい。説明出来ません。ですが、居なくなった方が・・・何となく、国が良くなると思います!」

「何となくで人は殺しません!」

「は、はいぃぃ!」

「フレイ様!しっかりと自分の頭で物事を考え、理解し、実践する。そして、その結果を元に次をより良い物にするのです!」

「え~っと・・・」

「フレイ様・・・いえ、フレイ!あなたはジーク様のお側は相応しく有りません!学校からやり直しなさい!」

「ええっ!?ニーナさんまでそんな事言うんですか!?」

「言います!あなたは今のままではジーク様の足を引っ張ります!それどころか、私からの粛正を受けてもおかしく有りませんよ!?」

「そこまで!?」

「そもそも、学校の卒業を待たずに王城を飛び出したのはどこの第3王女ですか!?」

「わ、私です・・・」

「同世代のお友達が1人も居ないのはどこの第3王女ですか!?」

「はい、私です・・・」

「ジーク様のお役に立とうとしても、自分の力では足を引っ張るだけというのが分からないのはどこの第3ですか!?」

「・・・私です・・・」


落ちたぁぁぁ!フレイ撃沈!

正論で逃げ道無く追い詰めたニーナ!

2度の追撃からの邪魔者扱い!これは痛い!


「んん!・・・さっきも伝えたが、フレイにはもっと研鑽を積んで欲しいと思っているんだ。焦る事はない。が、悠長に構える余裕はないぞ?俺の国では能力に応じて権力と義務を与える。ノースティン王国の王族だろうが、獣人だろうが始まりは同じとする。特別扱いは無しだ!そんな学校を作りたい。いや、そんな国の中枢を作る!・・・せっかくだからな。フレイにも頑張ってのし上がって欲しい」

「は・・・はい!?・・・ヤマタイ国では獣人が優先されるのでは無いのですか!?」

「何故だ?」

「魔王ジーク様は獣人を庇護していると聞きましたが?」

「安全の保証程度だな。獣人を特別扱いする気も人間を特別扱いする気も無いぞ?」

「えっ!そうなんですか!?」

「ああ。この国の王族、貴族が獣人を迫害しなければ庇護するつもりも無い」

「はく・・・害?」

「獣人を奴隷として扱う貴族がいる。これは事実だ」

「・・・」

「ジーク様、フレイはそんな事も知らないお子ちゃまなんですよ!どうか御慈悲を!」

「お、おう。そうか・・・こんな基本的な事からなのか・・・」

「フレイ!これが一般常識という物です!あなたに一番足りない物ですよ!」

「一般常識が足りない・・・」

「ええ!人として成熟していない証明です!ジーク様のお側に仕えたいのであれば、まずは学校から。理解しましたか?」

「・・・はい・・・」


「さて、お説教タイムは終わりにしようか。フレイはどうする?5日後にヤマタイ国の集合住宅に移るか?それともこの国でやり直すか?」

「ヤマタイ国に行きます!」

「即決ね。そういう所は好感が持てるわね」

「分かった。挨拶回りや引っ越しの準備を進めてくれ」

「はい!分かりました!学校の構想も練っておきます!」

「期待してるぞ?」

「はい!頑張ります!」


意気揚々と部屋を出ていくフレイを見送って、俺達はため息をつく。


「あの娘は時間が掛かりそうね」

「学校は前から考えてたからな。時間を掛けて常識を学ぶには面白いだろう?」

「そうなんだけど・・・生徒と経営なんて上手く行くかしら?」

「失敗したら・・・諦めよう」

「諦めたら、そこで試合終了よ?」

「バスケがしたくなるセリフだな」

「それにしても、今日はニーナが熱かったわね!」

「出過ぎた真似をしてしまいましたか?」

「いや、物凄~く助かった」

「そうよ?私もジークも相手をするのが面倒だったから。それに、フレイの事はニーナの方が詳しいでしょうしね」

「・・・あそこまで酷いとは思いませんでしたが、家出娘と考えれば知力はともかく、一般常識が足りて無いのはやむを得なく感じます。いずれにしろ、今までの生活よりは学校生活の方が本人の為でしょう」

「本人の為ね・・・それだけ?」

「・・・バレてます?」

「バレるよ、そりゃなぁ。王族の血を絶やしたく無いんだろ?」

「はい。王族の中にも真っ当な人間が育ってくれれば、私やジーク様が苦労せずに済んでいた話ですからね」

「全くだ。悪い娘では無いから、将来はノースティン王国を任せたいよな」

「頑張ってもらうしかないわね」

「私も後押ししますね」

「ミーシャとアーシャは学校に行くか?」

「「面倒ッス」」





アーシャはミーシャの答えを分かっていたのだろう。一瞬で寄せて言った。


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