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73話

オルトをヤマタイ国に誘ってから店を出る。辺りは夕焼けを迎えていた。

とっとと帰ってメシにしよう。予定ではニーナチームが見つけた美味しいご飯を用意してくれてる手筈だ。

おっと、彼女達が帰ってきたみたい。


「お帰り~」

「ただいまッス~」

「戻りました!」

「楽しんだ?」

「はい!あたし達は楽しかったですよ!そちらは?」

「オルトって魔道具職人をヤマタイ国に勧誘したわ」

「「「おお!」」」

「後は・・・ヨーダに会った・・・」

「あの軽薄貴族ですか!?パトラ様!ご無事ですか!?」

「もちろんよ。ふふ、ありがとね」

「はぅ!・・・な、何故?パトラ様にもトキメキを感じてしまった・・・」

「さて、ニーナは置いといて晩ごはんにしよう」

「そんな!」


「今日の晩ごはんはお魚です」

「おお!ザリーガ以外の魚はこの世界で初めてだな!」

「ジーク様、ザリーガは魔物ですよ?」

「そうだっけ?」

「ヤマタイ国では、ただの食料ですけどね」

「これはサタンさんの一押しですよ」

「へぇー、サタンがね!それは楽しみだな!」

「主殿にそう言ってもらえるのは嬉しいが、本当の所はパトラ殿に手を貸して欲しくての」

「どうしたの?」

「我が気になって用意したのは魚の煮付けなんだが、何かが足りん。パトラ殿なら、と思ったのじゃ」

「そうなのか。だが、まずは買って来たのを味見しようか」


みんなで「いただきます」をしてから味見する。

醤油・・・いや、魚醤か?悪くない。

・・・悪くないんだが・・・。


「普通に美味いッス」

「ワタクシは十分に美味しいと思いますが?」

「これよりも美味しくなるのですか?」

「砂糖、魚醤、みりん・・・」

「分かりそうかの?」

「うるさい」

「酷くね?せっかく買って来たのに、酷くね?」

「酒、薬味・・・薬味!?」

「薬味とな?」

「生姜とか?」

「それよ!あ~、スッキリしたわ!アーシャ、ジンジャーをお願い」

「ジンジャーですか?あの辛い球根ですよね?」

「そのまま食べれば辛いんだけど、温めると美味しいのよ」

「分かりました・・・はい、どうぞ」

「ありがとう」


適当に木の皮を硬質化させて、おろし金を作る。

本当は輪切りが良いのだろうが、今は即席だから多少の事は我慢しよう。

分量はパトラにお任せする。


「ん、良い感じね」

「どれ、我も味見を・・・旨い!!これじゃ!これぞ魚の煮付けよ!昨日のヤキトリのように、パトラ殿なら日本人好みのような味にしてくれると信じておったぞ!」

「引きこもりのじじいに信頼されてもね」

「パトラ殿の当たりが強い!」

「パトラ、俺も食べていいか?」

「もちろんよ」

「いただきます」


「・・・」

「どう?」

「おっ!旨いな・・・」

「でしょ?」

「これならいくらで・・・んっ!?ぐっ!?」

「ジーク!?」

「がっ!・・・がっ!」

「主殿!」


・・・ヤバい!魚の小骨が・・・喉に・・・!


「ジーク!大丈夫!?」

「ぐっ・・・骨が・・・」

「ジーク様!どうしましょう!?パトラ様!」

「パンを!パンを飲み込ませて!」

「駄目です!骨が深く刺さってしまうかも知れません!」

「なら、どうするの!?」

「・・・がっ!」

「ジークが、ジークが死んじゃう!!」


いや、死にはしない。だが苦しい。


「こうなったら・・・ジーク!口を開けて!」

「・・・あ?」

パトラが俺の口の中にゆっくり指先を・・・。


・・・あれ?パトラの瞳が金色に?まさか!?

気付いた時には遅かった。『ゴッ!』という音と共に激痛が俺の喉を襲う!

「アーシャ!ジークに治癒を!急いで!」

「はっ!はい!!」


い、息が出来ない!喉が熱い!ヤバい!これは本格的にヤバい!本当に死ぬかも・・・。




「はっ!・・・お、俺は一体?」

「良かった・・・ジークさん!良かった!」

突然アーシャが抱き付いて来た!アーシャのウサギ耳がくすぐったい。

「あれからどうなったんだ?」

「・・・体は大丈夫ですか?」

「・・・うん、大丈夫そうだな。ありがとう」

「よがっだ!ぼんどうじ!ぼんどうじじんばいじだんでずよ!?」

「心配かけたな。もう大丈夫だから泣き止んでくれ」

「ぐすっ!ぐすっ!・・・」

「皆はどこ行ったんだ?」

「だずげでぐだざい!」

「はっ!?」


アーシャから詳しい事を聞くと俺は丸1日、意識を失っていたらしい。パトラが何を思ったか、俺の喉に魔法を当てて小骨を黒焦げに。当たり前の事だが、俺の喉も黒焦げに。そりゃ息も出来なくなるわな!

殺す気か!?

慌ててアーシャが治癒促進の魔術を使って癒してくれたのだが、アーシャの魔力が尽きても俺は目覚めず、パトラ、ミーシャ、サタンと次々に魔術を掛けてくれたらしい。深夜のうちには何とか喉が元通りに回復したのだが、俺の意識は目覚めない。ゴルドは薬草を買いに出ていき、ミーシャはパトラを責める。焦った皆はニーナの提案で、城の回復師を拿捕してくる事にしたらしい。


「・・・拿捕?つまり、誘拐じゃないか!?」

「そ、そうなんです!大変なんです!」

「・・・あいつ等!アーシャ、フリードを取ってくれ!」

「はい!皆を止めて下さい!」

「うん。出来る限り頑張る」

「気を付けて!」


俺は部屋を飛び出し、宿屋の入り口に向かう!

宿屋から出ると・・・向かいからパトラが大きな、人が1人、まるっと入る様な大きな袋を担いで歩いて来た!・・・動いてる。袋がモゾモゾと動いてる。


・・・手遅れだったか・・・。


「ああ!ジーク!意識が戻ったのね!!」

パトラが袋を放り出して俺に抱き着く。美少女に密着されて、ドキドキする。髪から良い匂いがする。


・・・いや、そうじゃない!

「パトラ、まさかとは思うが・・・その袋は?」

「え?・・・あの・・・その・・・あう・・・」

「・・・誘拐?」

「な、な、なんの事かしら?」

「モゾモゾと動いてるぞ?」

「・・・ミーシャ!袋を遠くに捨てて来て!」

「了解ッス!」

「待てコラ!!」

「「ひっ!」」

「ひ、じゃない!・・・とりあえず、袋を開けろ」

「わ、分かったッス・・・」

「パトラも。一度離れなさい」

ちょっと残念だけども。

「うぅ・・・」


ミーシャが袋を縛っていたヒモを解くと予想通り、人の頭が出てきた!

「詳しく教えてくれるな?」

「ジ、ジーク?怖いわよ?」

「ああ?」

「わ、私が話します!ジーク様!お怒りを収めて下さい!」

「・・・」

「ジーク様が意識を失い、皆で治癒促進の魔術を掛けた事はご存知ですか?」

「アーシャから聞いた」

「治癒促進の魔術では手におえないとなりまして、私が王族専属の治癒師ならばと交渉を提案したのです」

「それが、何故、誘拐に変わったのか・・・パトラ」

「な、なにかしら?」

「お前だろ?交渉なんてまどろっこしいから、とりあえず無理やり連れて来ようと言い出したのは」

「誤解よ!私は無実よ!」

「ウチが・・・ウチが強引な方法を選んだッス!」

「ミーシャが?・・・何故、止めなかった?いや、実行犯はパトラだろ?」

「だって、ジークが死んじゃうかと・・・」

「お前の魔法でな!」

「ごめんなさい・・・」

「・・・ふぅ。分かった。もう、その事はいいよ。ケガも治してもらったしな。それより・・・」


俺は転がっている袋を見やる。


「こいつ、どうする?」

「殺す?」

「なんで?」

「私達の事を城で喋られたら厄介よ」

「殺しません!・・・おい、動けるか?」

「・・・ん・・・」

「口を塞いでるわ」

「本格的に拉致じゃねーか!早く解いてやれ!」

「分かったッス!」


「ぶはっ!はぁ、はぁ、はぁ・・・」

「女だったのか、大丈夫か?」

「ひっ!」

「怖がってるッスね」

「当たり前だろ!」

「少しお待ち下さい!私が話してみます!」

ニーナが袋から出てきた治癒師と向き合う。


「私はニーナ。数日前まで王国近衛兵団で団長と呼ばれていた。が、今はこちらのジーク様に仕えている。私の事は分かるか?」

「え?団長!?」

「ひとまずは無礼を詫びさせてくれ。手荒な真似をして済まなかった・・・」

「ほら、お前達も!」

「ごめんなさいね」

「済まなかったッス・・・」

「は、はぁ」

「ケガは無いか?」

「いえ、特には・・・それで、私は?・・・」

「心配しないでくれ。これ以上、危害を加えるつもりは無い。すぐに解放するよ」

「はぁ、良かった・・・」

「少し、いいか?俺はジークという。さっきまで俺が倒れてたから、こいつらが焦って無茶をしたみたいなんだ」

「倒れて?貴方は大丈夫なのですか!?」

「俺はもう大丈夫だ。優しいんだな、ありがとう」

「ふぁっ?・・・あっ、いえ・・・」

「待ちなさい!何で急に、淡い桃色の空気が漂ってるの!?あなた、ジークに近寄らないで!」

「そ、そ、そんなつもりじゃ・・・」

「パトラ!」

「うっ!」

「ワケ有ってここでは仮面は取れないが、俺からも詫びを入れさせてくれ」

「だ、大丈夫です・・・あの」

「ん?どうした?」

「ジーク様は何者なのでしょうか?あの誇り高い団長が、王国を差し置いてまで・・・」

「言葉は選ばなくてもいい。私は国を裏切ったのだ」

「それも違う。国がニーナを大切にしなかったんだ」

「・・・ジーク様・・・」


「パトラさん、ヤバいッス」

「ヤバいわね・・・ジークの周りに女を近付けるのはマズいわね!」

「殺るッスか!?」

「最終手段ね」

「・・・聞こえてるぞ!」

ビクッ!2人が跳ね上がる。

「アホな事を言ってないで、晩ごはんにしよう。準備してくれ」

「「はーい!」」

「君も良かったら食べて行かないか?無礼を働いたお詫びに。大丈夫、宿の人もいるから安心してくれ」

「・・・団長は?」

「本当に安心してくれ。国を見捨てたとはいえ、私は民を見捨てたつもりは無い!」

「・・・そうですか、分かりました。ご一緒します」

「ありがとう」

「はわわ・・・」

「ジーク、仮面越しとはいえ、微笑み掛けるのは色々アウトよ!」

「仮面越しでも駄目なのか!?」

「駄目ね」

「駄目ッス。ライバルが増えるッス」

「そんな事は無いと思うんだが・・・」

「そうだ、名前を聞いてなかったな」

「私はフレイ・ノースと言います」

「・・・ノース?もしかして?」

「一応、第三王女です・・・」

「「「「なんですと!?」」」」

「えへへ」

「おい、ニーナ!」

「・・・すみません・・・」

「すみませんで済むか!?」

「フレイ様は滅多に人前に出られないので・・・」

「顔を知らなかったと?」

「・・・はい。いえ、正確には幼い頃しか知らなかったものですから・・・」

「無理もありません。私、10歳頃から5年程は研究所で活動してましたから・・・」

「王女なのに?」

「第三王女なんて、ほとんど王位継承権が有りませんからね。得意な事で王国を支える事を選んだ結果ですよ」

「それが何故、治癒師の格好をして城に?」

「・・・」

「ワケ有りか?」

「はい」

「・・・そうか。とりあえず、ご飯にしようか」

「はい!」



宿へ戻り、部屋で晩ごはんが出来上がるのを待つ。その間にアーシャとサタン、それから気付け薬を買ってきたゴルドを紹介する。ゴルドはフレイと面識が有ったようで社交辞令的な挨拶を交わしていた。

フレイは幻獣、金華猫を見て興奮していた。アーシャとはウマが合うらしく、すぐに打ち解けたようだ。


フレイ・ノースは金髪、口元のホクロが可愛い。丸いメガネを掛けていて、歳は16、7か?インテリ感の有る美少女だった。

・・・何故、俺の周りは大人の女性が少ないんだ?


程なく晩ごはんが出来上がる。今日は鶏肉の唐揚げだ。俺の大好物。王女の口に合うだろうか?

まずは「いただきます」で始まる我が家の食卓。フレイも従ってくれた。


「ほ、ほいひいでふ!!」

「ははっ!熱いだろ?慌てなくていいからな」

「はひっ!」

「フレイ様、落ち着いて下さい」

「・・・んぐ!はぁ、とっても美味しいです!初めて食べました!これは何という料理ですか?」

「唐揚げっていうんだ。いくらでも用意出来るから、ゆっくり食べてくれ」

「は、はい!」

「それで、フレイ・・・様?」

「フレイでいいよ?パトラも私と同じくらいの年齢でしょ?お城じゃないから礼儀なんて要らないよ!」

「助かるわ!それじゃフレイはどうして治癒師の格好をしてたか教えてくれない?」

「・・・実は、お城に忍び込んでいたの」

「何で?普通に自分の家じゃないの?」

「私は内地に家を持ってるの・・・と言っても国王から与えられた家だけど」

「国王?お父さんじゃないのか?」

「父親ですよ?でも、ほとんど話をした事は無いですね。挨拶も敬語ですし、臣下の1人みたいな感じです。乳母と執事が家族みたいな感じですね」

「そうなのか・・・寂しくないか?」

「家では大丈夫です。・・・けど、周りには友達を作れなくて・・・」

「あたし、友達になるよ!」

「っ!ありがとう!アーシャ!」


そういうモンなのか?王族ってそんな感じなのか?他に知り合いが居ないから分かんないな。


「パトラ、俺の仮面は取ったらマズイかな?」

「うーん・・・どうかしら?駄目なら戦争よ?」

「でもなぁ・・・」

「そうよね、少し可哀想な気もするのよね」

「ジーク様、大丈夫だと思いますよ?オルトのようになると思います」

「あぁ、そっか!」

「あれ?ジークさん、ゴルドさん、オルトを知ってるですか?」

「・・・ああ。数日後に俺の国に来てもらう事になった」

「オルトが?ジークさんの国?」

「そう、俺の職業は魔王なんだ」

「魔王?・・・あっ!ゴブリンの!?」


仮面を外して素顔を見せた。

フレイは一瞬は驚いたものの、直ぐに納得の様子を浮かべた。

「なるほど!団長やゴルド商会の会頭、幻獣すらも従えるワケですね!」

「もっと凄いのが近くにいるけどな」

「え?」

「パトラの種族な・・・獣神なんだ」

「獣神・・・獣神ですか・・・すいません。聞いた事も無いですね」

「獣を司る神よ。と言っても、獣達に何かしてるワケじゃないんだけどね」

「か、神・・・」

「一応ね。だからどうしたって感じなんだけどね」

「本当に・・・とんでもない方々に囲まれてるんですね・・・」

「気にしないでくれ。俺の事は少し変わったゴブリンだと認識してくれればいいから」

「魔王で神や幻獣を従え、商会の会頭や元団長から慕われる方が・・・少し変わったゴブリン?」

「・・・君は、話が通じそうだな。今日の夜は時間があるか?」

「はい」

「少し長くなってしまうが、身の上話を聞いてくれないか?」

「・・・是非!お願いします!」


俺は洞窟で他のゴブリンから呼び出された事から、魔王と呼ばれる事になった経緯。そして、これからの願望を包み隠さず話した。

決して初対面の女の子に語る内容ではない。が、瞳に知性の光を浮かべた、この第三王女なら信じてくれるんじゃないかと思えた。




・・・話を続けて行くうちに、ふと思った事がある。


内容のほとんどが嘘臭いと気付いた!

俺なら信じない!

少なくともゴブリンの仕業とは思えない!

逆に、この話を信じる奴の正気を疑われるかも知れないな!


でも、1つだけ言わせてくれ。



「はい。全て僕がやりました」




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