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67話

「兵士達よ!聞いてくれ!」

バートンが声高らかに兵士達に語り掛ける。

いつの間にか視界に収まり切らない程の兵士達に囲まれていたようだ。


「隊長・・・」

「お前達と王国を見捨てて、ジーク様に仕えた事、私は後悔をしていない!」

「・・・」

「何故なら!!」

「・・・」

「見よ!!私の頭を!一度は不毛の大地と成り果てた私の頭を!」

バートンはローブのフードをバッと引き剥がす。

「「「おおぅぅぅ!!!」」」

「これがジーク様のお力だ!ジーク様は私の絶望を憐れみ、慈悲を授けて下さった!」

「「「おおぅぅぅ!!!」」」

「そしてお約束して下さった・・・ジーク様の配下となり、ジーク様のお役にたった者には希望という祝福を与えると!!」

「・・・ほ、本当に・・・」

「そんな事が!?」

「だが、バートン隊長の髪が!」

「全て本当なのか!?」

「・・・総長から始まり、王国兵団を襲った悲劇は、本日!ジーク様の御威光により、終焉を迎えたのだ!!」

「「「おおぅぅぅ!!!」」」

「特務隊!集合!!」

「「はっ!」」

「お前達にも辛い日々を過ごさせた・・・」

「「は、ははっ!」」

「私と一緒に・・・来ないか?」

「隊長!・・・隊長!待っていました!声を掛けて下さる日を!もちろんです!私も連れていって下さい!」

「是非!是非とも私もジーク様のもとで!隊長と一緒に!」

「そうか!ありがとう!・・・亡命は強制をしない!他の兵士達もジーク様のご慈悲にすがりたい者は私の元へ集うが良い!!」


造反作戦成功!

7割かな?年齢高めの兵士がドンドンと押し寄せ、俺とバートンにひれ伏す!

凄い光景だ!ハゲ散らかした連中が、そのハゲを見てくれと言わんばかりに頭頂部をこちらに向ける!岩場の地面と相まって、もはや岩に生えている海苔のようだ!!


バートンが俺に笑顔で投げ掛ける。

「これがジーク様の御威光によるモノです!」

「そうなのか?髪の毛が欲しいだけだろ?」

「そんな事はございません!私の他にも希望を授かった者達も、誰1人として王国に戻った者はおりませぬ!王国に仕えるより、ヤマタイ国に、そしてジーク様に仕える喜びを皆は理解しているのです!!」

「そんなもんかね?」

「ジーク、ここで問答しても意味は無いわ」

「そうだな。ではバートン」

「はっ!」

「可能であれば皆を連れて開拓地、ギルドの予定地を助けてやってくれ」

「はっ!道すがら、ヤマタイ国の決まりも指導しておきます!」

「ああ、頼むぞ」

「お任せを!」


兵士達はバートンに任せておけば良いだろう。

向こうには他の信者達もいるから大丈夫なハズだ。


「あれ?ニーナは行かないのか?」

「私はジーク様個人にお仕えしていますからね」

「そうか、わかった」

「それに籠絡の隙も伺いますから!」

「だから、俺に言うなよ」



寝返った兵士達が立ち去り、残された兵士達はただ茫然と突っ立っている。

改めて眺めると、随分と若い連中が揃っているな。

年齢とともに頭皮がダメージを負うのだろうな。


「お前達はどうしたい?」

「・・・どうって言われても・・・」


そりゃそうだ。頼りの上官達が王国を見限り、ヤマタイ国へと亡命した。自分達は頭皮にダメージは無い。王国に守りたい者がいるだろう。自分の力を試したい者もいるだろう。


「降伏か、撤退か?まさか玉砕は無いだろ?」

「え、ええと・・・見逃して下さるのですか?」

「いいよ」

「本当ですか!?」

「こっちは攻められたから守ったに過ぎない」

「・・・こっちも上からの命令で・・・」

「知ってるよ」

「帰ると・・・最悪、反逆罪かもしれません」

「マジで?」

「マジです」

「どうしよっか?」

「ジーク様、1つ提案が・・・」

「お、ニーナ、何だ?」

「偽物を討伐させてはどうでしょう?」

「ほう?」

「ゴブリンに模様を塗り、角と髪を生やしましょう」

「・・・やってみるか」


ミーシャがゴブリンと牛の匂いを探し、早速捕獲。

パトラが器用に指先に電撃の魔力を集め、ゴブリンの肌をなぞるように火傷の痕を作って行く。

俺は魔法で髪を生やし牛の角を付き立てる。

・・・即席ジークの完成だ。似てる。俺に似てる。

これ、イケるんじゃねーか?


「ジークさんだ・・・」

「ジーク様っぽいです」

「そう?似てないわよ」

「いや、俺にそっくりだよ」


「じゃ、これを持って魔王を討伐としろ。寝返った兵士は殉職した事にしよう」

「分かりました」

「もし、身に危険を感じたら遠慮なくヤマタイ国においで」

「魔王様!ありがとうございます!」

「気を付けてな」


若手兵士達を見送ってから一度家に帰る。既に昼を過ぎていた。


「戻ったか・・・首尾はどうじゃ?」

「全て予定通りだ。むしろ亡命の人数が予定以上だったな」

「そうか。怪我は無いか?」

「ありがとう大丈夫だよ。今回の怪我はパトラに切られたサタンだけだったな」

「まったく、災厄じゃよ、あの小娘は」

「まあ、そう言ってくれるなよ。あれでも優しい所も有るんだよ」

「パトラ殿にのう・・・信じられん。が、主殿に免じて追及は控えよう」

「はは、頼むよ」

「何の話かしら?」

「何でもないよ」

「さあ昼飯にしようかの」

「腑に落ちないわ・・・」



「本当にこの人数で軍を蹴散らすとは・・・」

「と、言ってもほとんど戦って無いんだけどな」

「皆さんが無事で何よりです」

「ありがとうアーシャ。ねえ、帰って早々で悪いんだけど、何か食べる物はある?」

「パンケーキの残りがあるッスよ」

「それでいいわ」

「戦場にはスライムが集まる頃だが?」

「人間を喰ったスライムはちょっとね」

「分かる!」

「午後はどうする?」

「疲れたッス。明日から動きたいッス」

「ニーナは?」

「私は大丈夫ですが?」

「これが鍛練の差ってヤツね」

「悔しいッス・・・」

「そうだな、急ぐ必要も無いし、明日の出発にしよう」

「「「はい!」」」


皆が昼寝に入った。特にパトラは寝間着に着替えて本気で眠りについた。

今のうちに晩御飯を調達しておこうと家を出た。



・・・ゾクッ!


寒くも無いのに寒気を感じた!さっきの戦場の方か?

どうする?1人で行ってみるか?だが、何か有ったらマズイかな?

躊躇していると、2階の窓がバタン!と空いた。


「待ってて、今行くから!」

「パトラ!」

「1人で行っちゃ駄目よ!」

「分かったよ」


あのおぞましい寒気をパトラも感じたようだ。

俺も一度家に入ってローブを羽織る。

パトラもトコトコと2階から降りて来た。


「二人でいいか?」

「私がいるなら大丈夫よ」

「頼もしいな」

「獣神ですからね」

「「ふふふ」」


途方も無い魔力を遠くに感じつつも、俺達は笑い合った。二人なら危険は無いだろうからな。


俺もパトラも家から出てから無言となる。

緊張しているのだ。このとんでもなく大きい魔力がプレッシャーとなって、足を重くする。


「見えた」

「何だ?アレ・・・」

「・・・ベヒーモス・・・」

「・・・あれがベヒーモスか」


軍と戦った岩場から角の生えた虎のような魔物が見える!どうやら他の魔物に囲まれているようだ!一体どうなっている!?

「集まったスライムを食べに魔物が集まって、更にその魔物を食べに来た・・・って所かしら?」

「食物連鎖か・・・他の魔物も、良くあんな奴に立ち向かうな」

「確かにね」

「・・・いや、違うぞ!ベヒーモスが他の魔物を従えてる!戦うぞ!」

「へぇ・・・面白そうね!」


魔物の群れはベヒーモスをボスとして集団行動をしていたのか?

油断・・・したワケじゃないが、既に俺達は魔物に囲まれているようだ。


「アイツは私が殺るわ!」

「気を付けろよ!俺は周りと遊んでるから」

「そっちも油断しないでね」

「よーーーい、ドン!」


パトラが真っ直ぐにベヒーモスへと駆け上がる!途中の魔物を吹き飛ばして。

この分なら心配は要らないな。俺は俺の仕事をしよう。


魔物が相手なら手加減は要らないな。思う存分フリードを振るえる!ザクザクと音はしているが、手応えは無い。刃が触れる前に魔力の刃で切り刻んでしまうからだ。魔物の死体で身動きが取れなくならないように、愛槍を振り回しながら駆け巡る。

30匹を越えた所で数えるのが馬鹿らしくなり、ただ無心で魔物の殲滅を遂行した。粗方片付いただろうか?

ふと、パトラを見ると、なんと!ベヒーモスと渡り合っている!あのパトラがトドメをさせないだと!?

一体、ベヒーモスの強さはどうなっているんだ!?


「パトラ!大丈夫か!?」

「くっ!強い!でも・・・燃えて来たわ!」


パトラをも凌駕する筋力の塊は、俊敏性こそ獣神に劣るものの、前足と爪、牙、角、尾全てを駆使してパトラの攻撃をいなす!もちろんパトラも一撃すら喰らわずに追撃を繰り返す!だが、筋肉の上からの打撃では決定打にならず、胴は尾での守りが硬い!

明らかにイライラし始めたパトラが両手を頭上に揃え、魔力を高める!

・・・おい!高め過ぎじゃね?


「おい!パトラ!待て!」

「待たない!喰らえぇぇ!!」


声を掛けた時には既に、家と同じ位の火球が出来ていた!まるで小さな太陽だ!

俺は慌てて障壁を貼る!こんな攻撃、パトラにも何かあったらどうする!?


「ゴッ!」

小さな太陽に触れる前にベヒーモスは蒸発してしまった!その膨大なエネルギーはパトラの周りを溶かし始め、メルトダウンを起こし始めている!

くそ!!時間が無い!!

「パトラ!!空に打ち上げろ!!」

「くっ!こんのぉぉぉ!!」


空に太陽を打ち出してた後、しばらく見上げていると小さな、小さな爆発が起こった・・・。

小さな爆発だと思ったのたが、遅れてきた音は耳をつんざくような大爆音だったのだ。

俺とパトラは目を見合せて失笑。

フッと緊張と力を緩めた直後、空から熱風が叩きつけられた!慌てて障壁を張り、余波をやり過ごした後、今度は目を見合せて爆笑!


「はっはっはっは!!有り得ねぇ!あっはっはっは!!」

「あ~はっはっはっは!!見た?見た!?はっはっはっは!!」


巨大な魔力を感じたのか、ミーシャとサタン、ニーナが駆け付けた。

そして、大口を空けて笑い合っている俺達を見てポカンとしていた。



「主殿!何があったのだ!」

「さっきの空の爆発はなんなんスか!?」

「ご無事ですか!?」

「あー・・・大した事じゃ無いんだが、ベヒーモスが出現したんだ」

「ベヒーモスですって!?」

「魔物としては最上位、幻獣にも匹敵する程の強さと聞いた事があるのう」

「それで、何で爆発が起きたッスか?」

「筋肉の鎧でパトラの攻撃が通らなくてな」

「ちょっとイラッとして魔力を込め過ぎちゃったみたい」

「・・・ちょっと?いやいや!ちょっとの爆音じゃないですよ!?」

「最後の熱風も凄かったッス!」

「どの程度だったのだ?」

「まるで小さな太陽だったな」

「どれ程の熱量が・・・」

「ベヒーモスなんて、太陽に当たる前に蒸発しちゃったわね!」

「ベヒーモスが蒸発!?想像もつかんな・・・」

「サタンなら核爆発も解るだろ?」

「・・・我、パトラ殿には絶対服従を貫くぞ!!」

「下手したら大陸が丸ごと無くなる所だったな!はっはっはっは!!」

「危うく世界を滅ぼすとこだったわ!あっはっは!」

「「「笑い事じゃない!!」」」

「「サーセンシタ!」」

「・・・ともかく、ベヒーモスなんて最上位の魔物と戦った無傷なのは何よりでした」

「そうだな。あ、それから、そのベヒーモスなんだけど、どうやら他の魔物を従えてたんだ。そんな話、聞いた事あるか?」

「・・・無いですね。同種の魔物であれば分かるのですが・・・」

「ベヒーモスもテイムの魔法が使えた。とかッスかね?」

「なるほど、それなら有りね」


皆で辺りを見渡す。

魔物の残骸がそこら中に山積みになっていた。

一番奥の所はパトラのミニ太陽で溶けた跡がガラス状に固まり、光を反射している。


「もの凄い惨状ですが、従えていた魔物の数と種類は分かりますか?」

「俺は種類を知らないぞ?確か・・・ケンタウルス、牛の魔物、狼の魔物、猿の魔物、鳥の魔物も何種類か居たな、土の人間みたいな奴もいたか?全部で・・・え~と、300位かな?」

「「300!?」」

「ジーク、もっと居たと思うわよ?私達が戦ってる内に逃げ出してたもの」

「そうなの?気付かなかったな」

「すいませんジークさん。牛とか猿とかの魔物なら分かるんですけど、土の人間ってどんな魔物でしたか?」

「俺も無心で切り刻んでいたからな・・・詳しく覚えてはいないが、人間が泥をかぶって、それが乾いた感じだったかな?」

「武器は持ってましたか?」

「無かった・・・と思う。どうしたんだニーナ?そんなに珍しい魔物なのか?」

「・・・変異種かも知れません」

「変異種?・・・何!?・・・探せ!喰うぞ!!」

「分かったッス!」

「喰うとは・・・ジーク様、どういう事です?」

「説明は後だ!早く探せ!」

「承知!」


この魔物の残骸から特定の魔物を探すのは至難の業かも知れないが、やるだけやってみよう。


小一時間も探しただろうか?

「見つけたッス!!ジークさん!これッスよね!?」

「・・・どれどれ?・・・そうそうコイツだよ!」

「・・・確かに土の・・・人間?・・・」


ニーナは駆け付けると、すぐに魔物の検分を始めた。

周りから部位を探し、復元もしているようだ。

俺の一撃は敵をスッパリ切るのではなく、引き裂きながら吹き飛ばすような感じなので、復元は非常に難しいと思うが、器用に足も手も形を整えている。


「満足したか?」

「ええ!完全に私の知らない魔物です!新種か変異種か・・・生きてるうちに見たかったですね!」

「ニーナにそんな趣味が・・・どうでもいいや、腐る前に喰うぞ!ミーシャ!どうする?焼くか!?」

「どうでもいいって・・・」

「皮は本当に土ッスから食えないッスね、洗ってから茹でて見るッスよ!」

「分かった!家に持って行こう!皆、手伝ってくれ!」

「我、無理!猫だし!」

「私も嫌よ!汚れるじゃない!」

「では私が手伝います!」

「さあ、急ぐッスよ!」


俺が頭と肩の部分を、ミーシャが下半身を、ニーナが腕3本を持って走る。

そう、この魔物は腕が4本だったのだ。間違いなく人間では無い。皮膚に泥が吸着する形で中身は普通に動物のように内臓らしきモノがあるのだ。

もっとも、腕一本と腹の辺りは俺の一撃で弾けとんで、跡形も無いが・・・。


早速、家の前で魔物を洗い流し、俺はバーベキューセットを、ミーシャは下処理を始める。


「ジーク様・・・ほ、本当に食べるのですか?」

「喰う!もしかしたら進化出来るかも知れないからな!」

「進化・・・本当ですか!?」

「落ち着け!もしかしたらと言ってるだろ?」

「魔物は、他の魔物を食べて進化するのですね・・・」

「何でもってワケじゃ無いがな。少なくとも、幻獣の血はお前も身を持って体験してるだろ?」

「サタン様の血、ですよね?あれはサタン様の力ではなく、幻獣の血だから・・・と言う事なんですか?」

「おそらくな。そして、幻獣以外でも進化を促す魔物は存在する」

「ベヒーモスとかですか?」

「・・・違う。俺の予想で変異種だ・・・実は前にメタルなスライムを食った事がある。その次の日に俺の身体中に、この模様が浮かんで来たんだ。そして」

「異常な強さを手に入れた。と」

「そうだ。他にも白銀狼、極楽鳥・・・ああ、ドラゴンも食ったな」

「ドラゴン・・・食べれるんですね・・・」

「この魔物も変異種の可能性がある。美味しかったらおそらくハズレだ。アタリは驚く程に不味いからな」

「確かに、サタン様の血は・・・」


ニーナの顔が一気に青くなる。思い出しただけでけれは酷いな。もしかしたら吐いちゃうかも。





「煮えたッス!!とりあえず酢味噌を付けて食べてみて欲しいッス!元が不味いのはウチのせいじゃ無いッスから責めないで欲しいッス!!」

「「「「やっぱり不味いのか・・・」」」」

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