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64話

獣神パトラと向かい合うのはノースティン王国のナンバー1、ニーナだ。

男物の着物を羽織り、髪を一本に結び、鋭い眼光を放ち、油断無くパトラを見据えている。さながら侍の女性版のようだ!

うちのパトラさんなんてゴスロリファッションで金髪、金色の瞳。身長はおよそ130センチ。

大人と子供、着物とドレス、侍と幼女。


色んな意味でチグハグな組み合わせの二人が西部劇のように緊張感を漂わせている。


「私にも見せ場が欲しいのよ。悪いけど、お侍さんにはこのままお帰り願うわ!」

「なんという威圧感・・・一体、あなたは?」

「紹介するッス!ヤマタイ国最強のパトラさんッスよ!」


ミーシャの出番が無くなってしまったなと思ったら、とうとう解説に回りやがった。


「何!最強は魔王ではないのか!?」

「俺?それはないな。うちの最強はパトラだ」

「ジークさんも強いッスけど、パトラさんは更に上を行くッス。王国最強がニーナさん程度ならヤマタイ国への進軍は諦めた方が良いッスよ?」


親身に説得するフリをしながら自然とディスる。やるなミーシャ!


「私・・・程度だと!?」

「そうね、ニーナじゃ、ミーシャ・・・そこの犬の獣人にも勝てないでしょうね。でも、あなたは私が直々に相手をしてあげるわ。光栄に思いなさい?」

「これでも団長の役目を預かる身。簡単に倒せると思うなよ!?」


不意討ちのつもりだろうか?ニーナは話ながらパトラに急接近。パトラは素手なので、武器を構える前に一撃を加えようとした。

だが、パトラは元々が武器を使わない。体術と電撃の魔法、火炎の魔法を駆使して戦うスタイルだ。そして、異常な程の俊敏性を誇る。


「動きが荒いわ」

「いつの間に!?」


一度、フェイントを入れてから後ろに回り込む。どうやら、そのフェイントが残像となって錯覚を起こさせるらしい。


「それで本気なの?加速の魔法も有るんでしょう?出し惜しみしてないで、全力で掛かって来なさいよ」

「手加減はいらない、か・・・では、ノースティン王国団長、ニーナ。推して参る!!」

「おお!本当に侍っぽいな!なんだかこの人、面白そうだ」


すると、パトラが俺を見てニコリと笑う。

だが、その顔がニーナに向く時には凶悪なとても良い笑顔に変わっていた。


「ジークがあなたに興味が有るそうよ!ここで殺すのは止めてあげるわ」

「生殺与奪を握っているつもりか!」


ニーナがパトラの回りを駆け回る。前にミーシャがパトラと戦った時の戦法だな。ほら、そのまま加速の魔法を使う所まで一緒だ。

そんな攻撃じゃパトラには届かない。


「まだまだ遅いわ、ふっふっふ」


ニーナが円の外側から機会をうかがう。

なんと、パトラは一瞬でその円の更に外側に飛び出て、拳をニーナの背中に突き付け、笑っている!

「何だと!?」

「俊敏性で私と張り合うつもりなら、この位やってみなさいな!」


今度は私の番。とでも言うかのように、パトラはこの場から消え去る!


「どこに消えた!?」

「「「こっちよ?」」」


何故かそこら中からパトラの声が聞こえる。

もしかして音速を越えて動いてるのか!?

パンチで音速を越えたのはまだ理解出来るが、全身が音速を越えるだと?本当に神の領域だな!


「な、何の魔法だ!?」

「「「魔法?魔法はまだ使ってないわ」」」

「くっ!どうなっている!?」

「こうなってるわ」


今度は辛うじて俺にも見えた。

ニーナの腰にあるナイフを抜いて、後ろから抱きつくようにアゴの下から突き付けている。


「・・・参った」

「物分りが良い娘は大好きよ?」

「勝負有りッス!」


「あなたは本当に何者なのだ!?」

「私はヤマタイ国のパトラ。種族は獣神よ」

「じゅう・・・獣神!?まさか、おとぎ話の?」

「そうらしいわね」

「か、神様・・・私は神様と戦っていたのか!?」

「とは言っても進化したばかりで、まだ体が慣れてないんだけどね」


ニーナが崩れ落ちる。

そりゃそうだろ。人間の身で神様に勝てるワケないだろうからな。


「あなた達はこれから王国を滅ぼそうとでも言うのか?」

「え?なんで?」

「なんで・・・って・・・」

「お前達がヤマタイの国を攻めようとしたんだろ?俺達は降り掛かった火の粉を払ったに過ぎない」

「だが、魔王が国を起こし、人間の奴隷にされていた獣人を解放し、軍の有力者を引き抜いていると報告が有ったんだ」

「うんうん。そこまでは合っているぞ」

「ならば、次は王国への進軍しかないだろう!」

「だから、なんでそうなる!?」

「国を大きくする為には人が必要だからだ。多くの人間を隷属させる為にはノースティン王国へ攻め込むのは自然だろうが?」

「まず、前提が勘違いしているな。俺は国を無理に大きくするつもりはないんだ。仲間と楽しく、便利な生活を出来ればそれでいい」

「それを信じろと?」

「・・・もう夜も更けて来た。明日、また話をしよう。それまでに自分の身の振り方を考えておけ」

「待て!逃げるつもりか!?」

「逃げる?誰に言っているのかしら?まさか、私があなたを殺せなかったとでも思っているの?そうじゃ無いわよね?・・・見逃してあげるのよ、今は、ね」


またパトラが消える。格好いいなソレ。

俺とミーシャはゆっくりと歩いて家まで戻るとしよう。

敵に背を向けるのは危険なのだが、ここは威風堂々と帰りたい。

パトラは早く帰って寝たいのだろう。夜更かしはお肌に悪いからな!


ニーナの後ろには総長をはじめとして兵士達が茫然と突っ立っていた。

パトラ達の人外の戦いに手も足も出なかったな。何より総長への疑いが色濃く残っているのかも知れない。そんな時に頼りの団長すら完敗だったのだから当然だろう。

俺達を追ってくる気配も無かったのでパトラも姿を現す。


「先に戻ってもいいぞ?」

「私もそうしたいんだけどね。ミーシャが悪さをしないか見張らないといけないの」

「人聞きが悪いッス」

「ジークが和風の塊だったニーナに興味を持つのは分かるわ。でも、ミーシャがジークに色仕掛けなんて認めないわ!色も無いのに」

「無実の罪で悪口を言われてるッス!ジークさん、どう思うッスか!?」

「・・・侍風だったよな・・・武器は洋風だったのが残念だ。ゴルドなら何か知らないかな?」

「無視ッスか・・・」

「明日、本人に聞いてみたらどう?」

「素直に話してくれるかな?」

「力ずくで良いじゃない」

「出来ない事も無いがな・・・ますます俺の事を勘違いしそうな気がする」

「面倒なら、本当に王国を滅ぼしたちゃったら?手伝うわよ?むしろ、私1人でも良さそうね」

「楽しそうッス・・・」

「でも王国にはニーナより強い人は居ないのよね。つまんない作業になりそうだわ」

「作業って、まさか大量虐殺の事ッスかね」

「手に汗握る戦いは無いだろうな。そして美味しい料理屋さんも消え失せる・・・」

「はっ!それは駄目ね!何とか落とし所を見つけるわよ!」

「そうだ。だから一度、頭を冷やす時間を作ったんだ。一晩経っても俺達に刃を向けるなら・・・ミーシャの出番かな?」

「やっと、ッスね!宣戦布告の時の口喧嘩しかしてなかったから、寂しかったッスよ」

「ほとんど戦ってないからな」

「解説係でいいじゃない」

「それは嫌ッス!出番が欲しいッス!」


軍隊と向かい合って、出番が欲しいって・・・ミーシャも随分とパトラの影響を受けてしまったようだな。


家に帰った俺達は晩御飯を食べながら事の顛末をアーシャ、ゴルド、サタンに教えた。

アーシャはホッと安堵の息を吐いた。どうやら、俺達が軍隊を皆殺しにすると思っていたらしい。俺の事を何だと思っているのか!?

・・・あっ、ゴブリンか・・・。


ついでにゴルドに着物の事を聞くと、どこかの民族衣装のような物だと言う。つまり、着物を着る文化がどこかの地域にあるという事だな。

なかなか興味深い。もしかして和食の文化も有るかも知れない!これは、何としてもニーナから聞き出さねばなるまい!明日が楽しみだ!



さっくりと夜が明けて、朝から作戦会議だ。

ベーコンとパンとコンソメスープの朝食を終え、呑気にお茶を飲みながらだが・・・。


「軍が進撃をやめると思うか?」

「無理だと思いますよ?団長や総長の意思では無いでしょうからね」

「王様の命令って事か?」

「うーん・・・もしくは派閥のボスとかですね」

「前に聞いたな、軍を操る強硬派だっけ?」

「そうです。所詮、団長だ総長だと言っても二人とも中間管理職ですからね」

「団長がトップで総長がナンバー2じゃ無いのか?」

「軍隊の中では、ですね」

「なるほど。貴族か」

「正解です。おそらく、ミーシャさんとお話していたと言う輩が関係者でしょうね」

「あいつら、腹立つ感じッス!あいつらは皆殺しでもいいと思うッス!」

「俺もそう思う。少なくともヤマタイ国には要らない思想の持ち主だな」

「ふんふん。貴族は皆殺しっと・・・」

「・・・パトラさん、聞くのも怖いんですが、一体何のメモですか?」

「デスノートね」

「死神はむしろお前だろうが!?」

「私は獣神ですけど?」

「ちなみに、王族もそんな感じですよ?」

「でも保守的な穏健派なんだろ?」

「何と言いますか・・・自分達に逆らう者がいると考えないと言うか・・・説明が難しいですね」

「傲慢?」

「ああ、とてもぴったりな表現です!」

「ふんふん。王族も皆殺しっと」

「パトラ、駄目だぞ?」

「なんで?」

「美味しい料理屋さん」

「何言ってるの?料理屋さんは一般庶民でしょ?」

「宮廷料理人とか気にならないか?」

「・・・鋭いわね!なら多少は選別して残しておこうかしら?」

「あ、基本的に虐殺予定は変えないんだな」

「だってムカつくもの!うちのミーシャに舐めた口を利いて・・・タダで済むなんて認めないわ」

「パトラさん・・・」

「私の名前を聞いただけで震える位まで恐怖をばら蒔いてやるわ!」

「やっぱり破壊神の方がしっくり来るな」

「ワタクシのような者が増えるのですね・・・」


とりあえず、お茶を飲んでクールダウンしよう。このままではパトラが暴走しそうだ。


「ジークさん、人間が来るッス。多分、昨日のニーナさんッスね・・・どうやら1人ッスよ」

「1人?・・・これは良い方向に話が進みそうだな」

「奇襲じゃ無いんですか?」

「少数ならともかく、1人は無いだろうな。俺達を信用してくれたか、丸腰のアピールか・・・まあ、どっちでも良い。話をしてみよう」


「はいよ、いらっしゃい」

「いつの間に家が?この間の演習では・・・」

「ああ、昨晩用意した」

「昨晩?何を言っている?」

「ヤマタイの国から持ってきたんだ」

「・・・家・・・を?持ってきた?」

「そんな事はどうでもよろしい。それより、ニーナ。軍はどうするか決めたのか?」

「・・・軍は進撃を止めない」

「・・・そうか・・・では、何故、たった1人でやって来た?」

「軍の総意は進撃を肯定したが、私個人は否定したからだ」

「ほう。その意図は?」

「勝てない」

「・・・つまらんな。その程度の答えか」

「ジーク、そんなもんよ?軍隊なんて」

「待て!もちろんそれだけじゃ無い!魔王が何を思っているのか聞きに来た!」

「昨日も言ったが、俺は平穏な暮らしを望んでいるんだ。まあ、国の中にはそうじゃない奴もいるけどな」


パトラをチラリと見る。

パトラは優しい微笑みでうなずく。いや、違う違う!お前の事だよ!お前さっき虐殺の話をしてただろ!


「平穏な暮らしとは?どうせ、逆らう者を殺し続けるのではないのか!?」

「魔王って聞けばそう思うよな・・・」

「どうなのだ!?ここで言葉を濁すのであれば、私も軍を率いてヤマタイの国に攻め入るぞ!?」

「ならば、答えよう。俺の平穏な暮らしとは・・・」

「・・・ゴクッ!」

「美味しい料理!」

「・・・え?」

「楽しい遊び!」

「は?」

「格好いい服や心地の良い家!」

「可愛い服や音楽も必要ね」

「そしてぐうたら生活!」

「それは駄目よ!働かない夫なんてヒモじゃない!」

「ええー?だって魔王と獣神だぜ?働くのー?」

「待ってくれ!・・・ちょっと待ってくれ!」

「なんだよ?」

「そのぅ・・・アレだ!世界を滅ぼそうとか、支配下に置くとかでは無いのか!?」

「面倒だ」

「だから、私がやっても良いって言ってるのに」

「ちょっとパトラは黙ってなさい!ややこしくなるから!」

「むう・・・」

「平穏って、本当にそう言う意味なのか?」

「本当だ・・・が、昨日のように敵意を向けられて無抵抗とは行かないぞ?」

「それはそうだろうが・・・」

「お前達だって殺されたくは無いだろう?」

「もちろんだ!だが、魔王と獣神の力は世界の恐怖に繋がる。簡単に信じるワケには行かない・・・」

「そう・・・か、ではどうする?魔物だから、獣人だから、王国を見限ったから攻め滅ぼすのか?まさに魔王の所業だな」

「ぐっ・・・だが・・・」

「ジーク、無理よ。これ以上は話が進まないわ」

「・・・そうかもな」

「ニーナ、あなたは私に敗れたの」

「・・・」

「あなたは私達に仕える気はないかしら?」

「獣神に?」

「むしろ魔王の方にね」

「・・・なるほど、近くに置いて確認させると言う事か?」

「それもあるわ」

「も?他には?」

「あなたがニーナに興味が有るって言ったんじゃない!忘れたの?」

「それはそうだが・・・」


チラリとニーナを見る。目が合った。

何故かニーナはハニカミながら顔を伏せる。

どういう事?


「ニーナ、あなたに選択肢を授けるわ」

「え・・・はい?」

「ここで死ぬか、ジークに仕えるか、あなたが王国を滅ぼすか。どれが良いかしら?」

「・・・」

「・・・」


しばらく俺とニーナが無言で見合う。

「魔王ジーク様に仕えます・・・」

「よろしい。では、もう1つ決めてもらうわ」

「はい」

「テイムを受け入れて私達と暮らすか、受け入れずに離れて暮らすか、よ」

「それは離れて暮らすだろう?」

「いえ、テイムを受け入れます!」

「なんで!?」

「近くで見なければ、ジーク様の考えを理解出来ないでしょうから・・・」

「そんなもんかね?」

「良く言ったわ!・・・これは罠だったんだけどね」

「え?」

「ジークに仕えるのに離れて暮らすのはおかしいでしょ?今を逃れる為の方便とも取れるワケよ」

「は、腹黒い・・・」

「失礼ね!あなたの為なのに!」

「しかし、本当に良いのか?王国を裏切る事になるぞ?団長だろ?」

「・・・団長ではありますが・・・王国の犬となって、ただただ命令をこなすのも嫌気がさしていたのです」

「あ、本当に中間管理職だったんだ・・・」

「是非ともジーク様の配下に!」

「そうか・・・なら、ミーシャ、よろしくな」

「はーい、ならニーナさん、いや、ニーナ、行くッスよ?」

「はい!いつでも大丈夫です!」


ミーシャのテイムの魔法。二人の力は同じ位。これでもテイムは可能なんだろうか?ああ、相手の同意があれば可能だったっけ?


「終わったッス。ではニーナ」

「はい」

「ニーナはこれからジークさんに仕えるッスよ!」

「承知!身命をとして!」

「硬い硬い、無理すんなよ?楽に行こう」

「はい!!」



こうして、ノースティン王国、団長・・・いや、元団長ニーナが俺の配下に加わった。

少し頭が硬い感じだが、悪い人ではなさそうだ。

何より、侍。色々と聞きたい事があるから楽しみだ。


「あ、私からもニーナに注文があるんだけど?」

「どうしました?」

「あなた、ジークに色仕掛してくれない?」

「「「は!?」」」


ニーナもミーシャも驚愕の一言。もちろん俺もだ!



「ジークが色ボケしてくれれば私にも手を出すんじゃないかと思ってね」

「色ボケって・・・」

「・・・分かりました!やってみます!是非ともやらせてください!」


やらせてくださいの意味がオカシイ。何故嬉しそうなんだ?そして俺の前で言う事か?




・・・もしかして、コイツもポンコツか?






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