63話
ケンタウルスに乗ったバートンからの使者を国に帰したら、次は俺達の準備に時間を費やす。
皆に王国の軍隊が攻めて来る事と俺達で軍隊を蹴散らす事にした事を伝える。
「ワタクシは足を引っ張りそうなので家の中で待機しますね」
「あたしは家の中で良いですか?戦いは好きになれなくて・・・」
「オッケー!」
「おお、アーシャ殿!では我はアーシャ殿の護衛かの?」
「バカ野郎。サタンはもちろん外だ」
「外って言ってもサタンは家を守ってくれてればいいわ。迎撃は私とミーシャとジークでやるわ」
「正確には分からないッスけど、夜には軍隊とぶつかるかも知れないッス」
「いくらなんでも夜には進軍しないだろう?」
「そうなんスか?奇襲を掛けるつもりならウチなら夜に行くッスよ!」
「奇襲も何も、俺達がここにいるのも知らないだろ」
「ジークにしては考えが甘いわね。軍隊の中に結界の魔法や魔力を感知出来る者が居れば、すぐに攻めて来ると思うわよ」
「逆に警戒するかも知れんがの」
「更に裏をかいて、こっちから奇襲するか?」
「私は賛成よ」
「ウチも家を守りながらよりは攻めた方が良いと思うッス」
「お!ミーシャもそう思うのか?」
「もちろんッス!パトラさんとジークさんに勝てる人間は居ないッスからね!」
「団長とやらがいるかも知らないぞ?」
「私が殺るわ!」
「分かった、分かったから金色の瞳はやめなさい」
「ジーク様に心配は無用と思いますが、くれぐれも気を付けて!」
「ありがとう。ちょっと行ってくるよ」
「・・・王国の軍隊を相手に緊張感が皆無ですね」
ゴルドの独り言が聞こえる。
いや、怖く無いワケじゃないのよ?
でもさ、俺だってドラゴン退治してるし、パトラは神の領域に踏み込んだし、ミーシャだって団長と同じ魔法を使えるし・・・人間の軍隊程度、何とかなりそうな気がするんだよな。
「俺のフリードも久しぶりの出番だな」
「私も武器を用意しようかしら?」
「どんなのが良い?」
「そうねぇ・・・ナックル!やっぱり殴る感覚は捨てがたいわ!」
「・・・獣神。それは破壊神と同義なのか?それとも、パトラだけがオカシイのか?」
「ジーク、乙女に向かって失礼よ」
「乙女はナックルを欲しがりません!ついでに人を殴りたがりません!」
「人の事ばかり言ってるけど、あなたも随分と攻撃的になって来てるわよ?最初なんてゴブリンを殺すのもためらってたのにね」
「・・・嫌か?」
「いいえ?むしろ好都合よ。私も好きに暴れられるってモンよ」
「ミーシャはどうなんだ?」
「ウチはジークさんに会うまでは・・・あの村で戦力外だったッス・・・今はジークさんと肩を並べて戦えるのが嬉しいッス!」
「そんなもんなのかね」
「主殿、パトラ殿。我の障壁を破る程に暴れるのは控えて欲しいのだが・・・」
「大丈夫!見えない位に遠くで戦うわ」
「ってなワケで家の守りは任せたぞサタン!」
「あい分かった!任せよ!」
「じゃ、行くか!」
留守番は金色の猫に任せて俺とパトラ、ミーシャは森を駆け抜ける。
魔力感知が出来なくても、軍隊がいる所は遠くからでもすぐに分かった。遠くの空が明るい。大人数でかがり火や松明を用意してるから、空に反射して赤くなっていた。
これじゃ奇襲してください。って言ってるようなモンだ。
「とりあえず、ウチが宣戦布告して来るッス!」
「気を付けてな。俺達も近くにいるから無理するなよ?」
「ジークさんが優しいッス!惚れ直すッス!」
「早く行きなさい!」
ミーシャが鼻歌を歌いながらダッシュで部隊の前線へ踊り出る。
「何者だ!?」
「ミーシャッス」
「ミーシャッス?変な名前だな」
「違うッス!ミーシャって名前ッス!」
ああ、やっぱり皆、ここでつまずくんだな。
「ミーシャね・・・ん?お前は獣人か?」
「そうッス」
「ふん!人モドキが何の用だ?」
あぁ?殺そうかな?
俺の殺気を感じたのかパトラが俺の手を握り、首を横に振る。
そうだった。これから奇襲だったな。冷静に冷静に。
「忠告に来たッス。このままだと魔王にこの軍隊は潰されるッスよ?」
「はぁ?魔王?・・・どうせゴブリンだろ?何を皆で騒いでるんだかなぁ?ゴブリンごときが国を興したって言うが、んなワケ無いだろ!?ハッタリに決まってるさ!」
「ヤマタイ国の事も知ってるんスね?」
「どうせ村か集落だろ?王族や貴族様から、俺達兵士に耳障りなホラ話の元を潰して来いってお達しが出たからな。ちゃっちゃと行ってごみ掃除を頼まれたのさ」
「ごみ掃除?・・・ジークさんの事ッスか!?」
「そうそう、ジークだ!ゴブリンが魔王だってよ?笑わせてくれるよな?」
「他にもパトラさんも居るッスよ!この軍隊じゃ勝てないッス!早く戻った方が良いッス!」
「さっきからうるせえガキだな!そうだ!ゴブリンと一緒に奴隷として売ってやろうか!?」
「嫌ッスよ、そもそも、お前らには無理ッス」
「は?人モドキがふざけた口を利いてんじゃねえ!」
そろそろ出番かな?
と思ったら兵士達の奥から少し偉そうな奴が出てきた。
「何の騒ぎだ?」
「な、なんでも有りません!」
「何の騒ぎだと聞いている!」
「いやね、この人モドキが軍を引けって騒いでるんすよ。うるさいから、少し痛い目に合わせようかと・・・」
「・・・ならば、どれ、わしが小娘を味見しようか」
「キモイッス!さっきから人モドキって失礼ッス」
「人モドキを人モドキと呼んで何が悪い!?」
「話にならないッス・・・もう面倒ッスね。宣戦布告。死にたくなければ帰れッス」
「宣戦・・・布告?」
「ウチはヤマタイ国の者ッス!痛い目に合いたくなければ、さっさと引き上げるッス」
「・・・クッハッハッハ!宣戦布告と来たか!?貴様ごときが国の代表だと!?人モドキは黙ってわし等のいう事を聞いておれば良いのだ!」
「・・・さてはお前ら、貴族ッスね?」
「ほう?貴族を知っておるのか?」
「ウチ達、獣人達の敵ッス!!」
「違う、獣人達の飼い主様だ!」
「聞き捨てならんな」
我慢出来なかったんだ。
腐った思想の兵士に俺は怒りを覚えた。
自然と愛槍フリードを握る手に力が籠る。
「な、なんだキサマ!?キサマもヤマタイとかいう村の者か!?」
「それは違うな。ヤマタイの村ではなく、ヤマタイ国だ。そして、その国の王は魔王と知っているか?」
「ゴブリンだろう?知っているとも」
「そのゴブリンはたてがみを生やし・・・」
俺はローブのフードをかき上げる。
「額から角を生やし・・・」
仮面をゆっくりと取る。
「身体中に模様を刻み・・・」
フリードの布を破り捨てる。
「オリハルコンの槍を持つ事を知っているか?」
兵士達に向け、槍を構える。
兵士達は慌てて剣を抜き、少し震える切っ先をこちらへ向ける。
「な、な、何故、こ、こんな所に魔王が・・・」
「何故、だと?わざわざ出向いてやっただけだろうが?軍を動かす手間が省けただろう?」
「そ、総員!戦闘体制を取れ!!総長に連絡を!だ、誰か早く行け!」
「足が震えてるな。それじゃあ俺に殺されてしまうぞ?良いのか?」
「ば、馬鹿にしおってぇぇ!!」
「何人だ?」
「・・・へっ!?」
「何人で軍を編成したんだ?」
「・・・1500だ!1500人もの大軍でキサマ等を討伐してやるぞ!!」
「ほう?1500の『人間ごとき』で俺を討てると思ったのか?」
「くっ!なんだ、この威圧感は!これがゴブリンだと!?」
「ミーシャ、少し離れていろ。俺が先陣を切る。この勘違いした連中とは話すだけ無駄だ」
「分かったッス!」
「ナメるな!!」
兵士達が襲い掛かって来た。
これで一応、正当防衛だな。
魔力を込めたフリードを横一閃!
おっと!思ってたより威力が乗ったな!
胴から上下に別れた兵士達が弾け飛ぶ。
前列10人位が消えただろうか?
これはアレだな。俺がこの世界に来た時にグラーフがゴブリン達を殲滅してた状況に似てるな。
「思ってたより弱いな」
「くっ!」
「いや、思ってた位ッスよ?ジークさんが強過ぎなんスよ!なんせドラゴンも討伐してるんスからね?」
「アイツは強かったな」
兵士達がざわつく。
「何だと!あの最強生物を!?」
「・・・ド、ドラゴンだと?まさか、火山のか?」
「ま、魔王はドラゴンも討伐してるのか?」
「こんな化け物と戦えるか!」
「嘘だろ・・・」
「総長はまだか!?」
「ころ、殺される・・・」
「おい、戦いにもならないぞ?早く掛かって来い」
「た、助けて・・・」
「断る。来ないならこっちから行こうか?」
「ヒィィィ!!」
俺が一歩踏み出したと同時に、何故か兵士の一人が血を吹き出して倒れた!
俺はコイツ等にまだ何もやってない!・・・と思う。
「貴様等はそれでもノースティン王国の兵士か!!」
「「「総長!」」」
「敵前逃亡は許さん!誇りを持って魔王を討て!」
「「「ハッ!」」」
「ほう?お前があの有名な総長か?」
「・・・ゴブリンにも知られてあるとはな」
「なに、自分がハゲているのが気になって、部下達もハゲるように鉄仮面を強要している総長様だろ?聞いてるよ」
またしても兵士達がざわつく。
「き、貴様!!」
「おや?まさか本当の事なのか?」
「総長!どういう事です!?まさか、魔王の言っている事が・・・」
「そ、そんなワケが無いだろう!?完全武装でも無理なく戦えるようにと普段から言っているだろう!?」
「完全武装で動きが鈍るのにな。兵士どもは体術もこなすのだろう?鉄仮面など邪魔でしかないだろうに」
「・・・」
「「総長!」」
「そして、お前は何故にその鉄仮面をかぶらない?これ以上、ハゲるのが嫌なんだろう?」
「・・・殺す!」
「お前にも無理だ。団長とやらを呼んで来い。お前よりは強いんだろ?」
「おのれぇぇ!侮辱しおってぇぇぇ!先程から好きに言わせておけば!あんな小娘が、この私より強いだと!?そんなワケがあるかぁぁぁ!!」
「なら、ここで俺に殺されろ」
「俺の方が強いに・・・決まってるんだぁぁぁ!!」
・・・遅い。
剣を振りかぶってからが遅い。敵に胴をさらして近づくなんて何を考えているんだ?
難なく横に避ける。
フリードを盾にして剣を抑え付ける。
そのまま肉薄しての・・・腹パン。ボディブローだ。
あっぶね!ゲロが掛かりそうになった。やるな総長!
「やはり弱い。相手にするのも面倒だ」
うずくまる総長を蹴り飛ばし、兵士の群れに返してやる。なんて優しいんだ俺。
「ぐっ!」
「総長!」
兵士達に囲まれて守られる総長。意外と人望が有るのかな?
「総長、先程の魔王の言葉。真偽の程は!?」
違った。
「お前達、それどころじゃ・・・」
「どうなんだ!?本当に俺達をハゲさせる為だけに仮面を被らせていたのか!?」
「お、落ち着け!ヤツの魔王の妄言に惑わされるんじゃない!」
「妄言?では魔王のハッタリだと?」
「もちろんじゃないか!俺はお前達の事を思ってだな・・・」
「元、特務隊長バートン」
「な、なんだ?バートンがどうした!?」
「アイツは今、俺の仲間として生きている」
「何だって!?」
「やはり知らんのか?では貴様の嫌がらせでハゲた兵士達の中にヤマタイ国に亡命した者達がいる事は?」
「・・・そんな・・・はずは・・・」
「俺は秘術によって・・・髪の毛を生やす事が出来るんだ」
兵士達が驚愕の表情を浮かべる。
・・・そこまでか?
「・・・だが、俺に刃を向けた者にはご褒美は無い」
「ま、待て!!謝る!!貴殿に刃を向けた事を謝るから!どうか俺にも!髪の毛を!」
「だが断る!」
「ち、ちっくしょぅぅぅぅ!!!」
「さっきの、うちのミーシャへの暴言、赦すと思うか?性根の腐った人間は俺の国には不要なんだ」
「・・・そうか・・・分かった・・・分かったぞ。貴様は嘘を言っているな?我々、誇り高き王国兵士を侮辱し、騙し、惑わしているのだろう?」
「何?」
「俺は騙されんぞ!魔王め!ここで討伐してくれるわ!!行け!誇り高き兵士達よ!このゴブリンを討伐するのだ!」
だが、他の兵士達は動かない。周りを見回し、俺と総長を見比べ、動かない。
「ど、どうした!?お前達、まさか魔王のハッタリを信じるのか!?」
「・・・ハッタリって、さっきお前が信じて俺に詫びを入れただろうが?・・・そんな上官に従うと思ったのか?恥を知れ!」
「おのれ!貴様が!貴様のせいで!」
おや?総長が魔力を纏ったな。
今度は本気という事か?
いや、待てよ?確か総長の魔法は・・・。
「くらえ!そして死ねぇぇぇ!!」
総長の道具袋が異様に伸びる。
外側から握るように掴んで、その先がどんどん伸びて来る!如意棒か!?カリ◯塔から神様のいる所まで伸びるのか!?
「そんな物に当たるワケが無いだろう?」
「バカめ!」
道具袋が破けて刃が飛び出す!
俺は内心ヒヤリとしながらも、さも、平気な顔をして障壁の魔術を発動する!
ガギン!と音がして刃が砕ける!
・・・ギリギリセーフ!あぶねーな!!
「子供騙しで俺を倒せると思うか?」
「こ、子供騙しだと!?」
「・・・ふぅ。お前の相手はもう飽きた。早く団長を呼んで来い」
「・・・貴様はこの俺が!」
「あなたじゃ無理よ」
兵士達の群れ。その奥から女性の声がした。
「とうとう真打ち登場・・ってか?」
「待たせたようね。ここからは私が相手よ」
「「「「「団長!!」」」」」
兵士達を割って現れた女性はどうやら、ノースティン王国最強、団長ニーナらしい。
なるほど。見ただけで分かる。強い。
髪は後ろで一本に結び、オデコが強い!
そして、何故か着流し。
綺麗な顔をしているが、目力が強い!
そして、何故か微笑み。
武器は日本刀で無いが、構えが抜刀術、強そう!
そして、何故か目を閉じる。
「抜け!魔王を不意討ちで倒した等と言われたくは無い!」
・・・あ!やめる。女性と戦うのは嫌だ。
ここは・・・。
「ここは私の出番かしら?」
「そうだな、女性とは戦う気にならない」
「私以外ならぶちのめしても構わないのよ?」
「・・・なんか嫌なんだ」
「・・・そうね、ジークが女に優しいのは知ってるわ。だから・・・コイツは私がやるわ」
「すまんな、頼むよ」
「ウチの出番が無いッス・・・」




