62話
「サタン、待たせたな」
「主殿・・・とうとう人間の国を落とすのか?」
200才を超えた金華猫は大いなる勘違いをしているようだ。
「誰だ!?間違った情報を与えたのは!」
「バートンから聞いておるぞ?ヤマタイ国の主力をぶつけ、人間の国の首都を陥落させるとな!信者の連中から主殿の護衛を任せられたからの」
「誤解だ!せいぜい首都の歓楽街を見物するくらいだよ。今回の遠征は人間の生活水準の確認と唐揚げ屋出店の市場視察なんだ」
「ちなみに唐揚げ屋出店はワタクシの要請ですがね」
「なんぞ、つまらん!我の力も必要無いではないか?」
「ゴチャゴチャうるさいわね!暇ならついて来なさい!この引きこもりが!」
「うぬぅ・・・」
「サタンさん、一緒に行きましょ?」
「あいわかった!アーシャ殿がそこまで言うのであれば仕方ない!我も同行してやろうぞ」
「面倒臭い奴ッスね」
「引きこもりのくせに」
「我、何も聞こえん。聞こえんぞ!」
「・・・こんがり焼いてやろうかしら?」
「だがサタンの幻術は頼りになると思うんだ」
「おお!主殿!我の力を認めてくれるのは主殿とアーシャ殿だけじゃ!」
「あら?私も認めてるわよ?サタンの能力は。そう、能力だけはね」
「性格に難が有るんスよ。プライドが無駄に高くて扱いが面倒ッス」
「200年以上を生きて来たんだ。目上として接すれば良いだろ?」
「流石に主殿は器が出来ておる!その方らも見習うが良い!」
「お断りよ。どちらが上か教える必要があるわね」
「ほほう?パトラ殿も獣神に進化したとは言え、我の特殊障壁にはいまだに敵うまいて?」
「敵うぞ?」
「なぬ?」
「多分、今ならこの拳で割れるんじゃないかしら?」
パトラは目の前に拳を握ると力と魔力を込め始める。
その拳をおもむろに腰の辺りに引きつけ、正拳突きの要領で素振りする。
バンッッッ!!!
「「「ヒッ!」」」
何故か空中から破裂音と衝撃が炸裂する!
「しょ、衝撃波・・・」
「パンチが爆発?」
「ビックリしたッス!」
「パトラ様、そ、その辺でご容赦を!」
「まだまだイケるわよ?」
「わ、分かった!パトラ殿の力は我の想像を超えておったわ!」
「パトラ、さっきのはどうやったんだ?」
「熱を加えて空気を叩いたの」
「また簡単に言ってくれるな。つまり、熱と衝撃で水分か何かを気化・・・ちょっとした水蒸気爆発か?」
「さあ?ジークもやってみたら?」
「えぇ?出来るかな・・・」
俺も拳を固めて魔力を込める。魔法を発動させないように気を使いながら、ゆっくりと・・・。
間違って毛を生やしてもしょうが無いからな!
そして、かなりの力を込めた拳を腰の辺りに引きつける。
精神を集中し、一点に狙いを定める!
・・・ん?ちょっと待て!
「いや、駄目だ。多分、腕が砕け散るな。衝撃波で俺の腕が吹き飛ぶかも・・・」
「おぅふ!忘れてたわ!あなた、ゴブリンなのよね」
「・・・やろうと思えばやれるんですね・・・流石はジーク様、獣神と張り合えるとは・・・」
「ジークさん、無茶すれば駄目ッスよ?」
「主殿もパトラ殿も規格外じゃの・・・」
改めてパトラが打ち出したクレーターを確認する。
ただのパンチで半径2メートル、深さは30センチってところか?本気だしたらどうなるんだろな?
「これならサタンの障壁も粉砕出来るんじゃないかしら?」
「む、むむ・・・」
「パトラさんの上限突破が止まらないッスね」
「むう・・・やはり神の領域は格が違う」
「サタン、納得したか?パトラも、もう良いだろ?」
「我も鍛練が必要なのかも知れんの」
「私は見下されなければそれでいいわ」
「全く、どっちも大人げない!」
「ジーク様にしか仲裁出来ないじゃれ合いですね」
「そうッスね。ウチも調子に乗ったッス」
「パトラ、腕は何ともないのか?」
「ん?なんとも無いわ。服も・・・大丈夫そうね」
「ノブターの話じゃ魔力を込めれば修復出来るんだったな」
「主殿、我等の魔力量ならば、わざわざ意識せずとも常に魔力を放出しておるのだぞ?」
「そうなのか?」
「サタン、放出と言うより溢れていると言った方が正確よ?」
「そうよな。逆に意識せねば魔力が溢れてしまうからのう」
「俺もそうなのか?」
「主殿はまだまだ眼が育っておらんからの、無理も無い。我やパトラ殿は無意識に相手の魔力が見えるんじゃ」
「そうだな、俺はよっぽど集中しなきゃ見えて来ないからな」
「気にしないで?すぐに慣れるわよ」
「ゴルドやアーシャやミーシャはどうだ?」
「ウチは見えないッスけど、匂いで何となく感じるッスよ」
「あたしは駄目ですね。さっぱり感じません」
「魔力とは眼や鼻で感じ取れるものなのですか?ワタクシもさっぱり分かりませんね」
「そうね。私達は進化の過程で力を手に入れたからゴルドには難しいでしょうね」
「人間も進化出来れば面白そうなんですがねえ」
「人間の進化か・・・そういえば、グラーフが二つ目の魔法を手に入れたって言ってたな」
「グラーフが?それは凄い!これで奴も団長・・・ノースティン王国のトップと並びましたね!」
「そんなに凄い事なのか?」
「肉弾戦は元から抜群の強さでしたからね。一つ目の魔法にも恵まれてギルドマスターになる程の能力でしたが、二つ目の魔法次第では国内で最強にも手が伸びるかも知れません!」
「グラーフの一つ目の魔法ってなんだ?」
「結界ですよ?まさか知らなかったのですか?」
「知らん。気にもしてなかった。むしろ魔法を使えるとは思って無かったからな」
「ま、まあ、ジーク様やパトラ様が相手なら結界が有っても無意味かも知れませんね」
「結界、気配の察知か・・・普通なら奇襲や暗殺には絶対的に優位性があるがな」
「皆様は正面からねじ伏せる事が出来ますからね。なら二つ目の魔法は?」
「知らん。文句と自慢話は受け付けて無いからな」
「あのハゲ、聞いて欲しそうにしてたから、あえてスルーしたのよ」
「グラーフの事より、ノースティン王国に危険な魔法を使う奴はいるのか?」
「そうですねぇ・・・やはり、総長と団長でしょうね」
「どっちが上なんスか?」
「団長ですよ。総長がナンバー2です。総長の魔法は一つ。『圧縮』です」
「圧縮ね・・・想像してみたら、圧縮そのものより魔法を解除した時の膨張の方が危険じゃないか?」
「流石はジーク様!言葉だけで全てを理解出来るとは!」
「アーシャの魔法の方が優秀だな」
「そうね。圧縮なら重量と維持が問題点よね?それよりは格納が出来る、亜空間の方が使い勝手が上ね」
「パトラ様も理解が早い!では次に団長です。彼女は『加速』と『障壁』だそうです」
「・・・え?彼女?王国最強は女性なのか?」
「そうです。名前はニーナ。綺麗な人ですが、腕前は人間離れしてるらしいですね。王国最強と謳われますが実際に軍を指揮してるのは総長の方だそうです」
「じゃあ、要注意なのは総長の方か?」
「そうなりますね。総長は苛烈な性格で、特に戦いとなると魔法を遠慮なく連発するらしいです」
「有名人は手の内がバレちまってるんだな。団長とは戦いたく無いんだが、念のため、魔法も覚えておこうかな・・・加速と障壁だっけ?」
「加速ッスか・・・ウチと同じじゃ無いッスか?」
「え?ミーシャの二つ目の魔法は加速だったの?」
「そうッス!あれ?見せませんでした?」
「もしかして、あの残像のヤツ?」
「そうッス!パトラさんすら翻弄したのは加速の魔法ッスよ!」
「ああ、見てたよ。あれ魔法だったんだな」
「なら、その後のシャイニングダガーは?」
「あれも魔法ッス!超高速で振動させてたんスよ!」
「凄いな!高周波ブレードか!?」
「ん?なんスか?それ」
「い、いや、なんでもない・・・」
ふざけた必殺技の名前だなと思っていたら、とんでもない代物だった!ミーシャのシャイニングダガーを受けれるのはパトラしかいないだろうな。
「私のスピードなら団長とも殺り合えそうね」
「だから、闘う前提なのはやめてくれ」
「パトラ様がその気になったら、2日もあればノースティン王国は壊滅でしょうね」
「それは無理よ!だって私のお昼寝の時間が無くなるじゃない!お肌に悪いわ!」
「「「「「・・・」」」」」
絶句。
戦争より昼寝。
絶句。
戦争よりお肌。
絶句。
殺ろうと思えば殺れる。
「ま、まぁ、バトルジャンキーのパトラがバトルより大事なモノが有るなら何よりだ」
「あら?あなたも大事よ?」
「ん、ありがとな」
「ストーーーーッップ!ウチの前でイチャイチャはけしからんッスよ!?」
「ミーちゃん、置いてきぼりだよ?」
「パトラさんに負けてられないッス!こうなったらこの体で・・・」
「胸を抉るわよ?」
「サーセンシタ!」
「と、会話しながらも道のりはかなり進んだな。ゴルド、大丈夫か?」
「なんとか、ですね。これでも行商をしてきましたから、足には自信が有ったのですが・・・」
「速度を緩めようか?」
「いえ、皆様が道を作ってくれているので、付いていくだけならなんとか大丈夫です」
「分かった、キツくなったら言ってくれ」
「ありがとうございます」
「今の速さなら王都までどのくらいで到着出来そうなんだ?」
「そうですねぇ・・・後2日程でしょうか?」
「意外と近いんだな。逆に王国からも3日くらいで大軍を寄越せるって事か・・・」
「いえいえ、軍なら10日程ですよ?鎧を着て、馬車の道を作りながらになりますからね」
「なるほど、少数精鋭ならではの速度という事か」
「ジーク様も2、3人ならもっと速く行けるでしょう?」
「うん。俺とパトラとミーシャなら、もしかしたら1日で行けるかもな」
「バートンは2日だそうよ。信者の勧誘で良く行き来してるからかしら?」
「信者もかなり増えたよな・・・俺、王国から恨まれてないか?」
「正直に言うと、恨まれてますね。とは言え、流石はバートン隊長ですよ」
「どういう事だ?」
「王国には五千からの兵士が居るそうです」
「そんなに居るんだ・・・あれ?1割位がヤマタイ国に来てるんじゃ無いか?」
「そうなんですが、一つ、小細工が有りましてね」
「ほほう?」
「なんと、王国の兵士は減っていないのですよ!」
「どういう事だ?」
「簡単ですよ、引き抜く前に志願者を斡旋しているのです。王族は兵士を数でしか見ていないでしょうから、気付いた時にはハリボテ兵団の完成ですよ」
「しかし、現場の指揮をする者達は気付いているだろ?」
「その上官達こそがヤマタイ国に来てるんです」
「・・・マジですか?」
「マジです」
「なら、既に王国の兵隊は・・・」
「下手をしたら、既にヤマタイ国の方が軍事力は上かも知れませんね。まあ、ジーク様とパトラ様が居れば、元々の五千の兵隊も紙切れ同然でしょうがね」
「はあ・・・こんなハズじゃ無かったんだがな」
元特務隊長バートンの手腕は凄いな。
俺が知らないうちにヤマタイ国はノースティン王国と戦争を出来る程の力をつけてしまっていた。
・・・もっと早く言ってくれ!
「ジークさん、後ろから魔物が走って来るッスよ」
「距離は分かる?」
「30分位でぶつかると思うッス」
「迎撃しましょうか?」
「うーん・・・休憩して様子を見ようか?アーシャ、俺が空き地を作るから家を出してくれ」
「もう夕方ですし、今日はこのまま休みませんか?」
「魔物次第かな。雑魚ならこのまま泊まろうか」
皆に手マネで離れてもらってから穴堀魔術で空き地を作る。広く浅く。加減も慣れたもんだな!
「・・・なんか、出掛けてる気がしないッス」
「家だからな」
「こんな森の中で休憩があるなんて・・・」
「家だからな」
「雨風も気にしなくていいですね」
「家だからな」
反則だ。家を持ち運ぶなんて反則だろ!
硬質化もしてあるので安全性も自信があるし、生活用品は揃っているし、心が安らぐベッドもある。
完璧だ。最高の安定感だ!
「お茶をいれたッス」
「そういえば、魔物が近づいてるんだっけ?」
「お茶を飲んでるうちに来るでしょう?見張りは要らないわよね?」
「ミーシャ、近くまで来たら教えてくれ」
「窓を空けとけば匂いで分かるッスよ」
窓を空けて夕日を見ながら皆でお茶をすする。
なんと贅沢な時間だろう!
これが遠征とは思えないな!
「ジークさん!魔物はケンタウルスッス」
「おう!やっと来たか。お出迎えでもしようかな」
「私も行くわ」
「過剰戦力が迎撃に入りましたね」
「だから様子見だって!それにケンタウルスなら会話が出来るだろ?」
「来たッス!」
「はい、こんにちはー」
「ジーク様!急ぎのご報告が!」
ケンタウルスに薄らハゲの若者が乗っている。
どうやら若者は伝令だったようだな。
「そんなに慌ててどうした?ヤマタイ国に何か有ったか?」
「い、いえ!ヤマタイ国は今のところ問題有りません!バートン隊長からジーク様へのご報告です!どうやらノースティン王国が軍を率いてこれからヤマタイ国へ攻め込むらしいです!」
「・・・ふーん」
「ふーんって!!どうしますか!?ジーク様からの指示をヤマタイ国へお伝えしますよ!?」
「パトラ、行ける?」
「手伝ってね」
「もちろんだ。と、いう事でヤマタイ国は動かなくていいぞ」
「・・・はい?」
「俺達で蹴散らしとくよ」
「・・・はっ!はい!!では、隊長とスティーブさんにお伝えします!」
「よろしくな。いや、お茶でも飲んでけよ」
「え?いや、急がなければ・・・」
「真面目だな!俺が帰ったらご褒美だな」
「あ、ありがとうございます!!よろしくお願いいたします!!」
ご褒美ってのは髪を生やす魔法なんだけどな。信者は基本的にその為に頑張ってくれてるからな。
なのに、髪が生えた後も何故か俺に仕えてくれているんだがな。
・・・なんか欲しいのかな?




