59話
時間も有るし、ゴルドの店で木の板を買ってトランプを作ろう。何でも売ってるからな。まさか、ゴルドの店があんなに凄いとは思って無かったがな。
2階建ての建物に品物が詰まってた。一階が食品や日用品で2階が武具と家具だそうだ。
倉庫も同じ位の建物だったが、流石にその中は見ていない。
「アーシャの亜空間はゴルドの店ぐらいの大きさなのか?」
「確かめては無いですけど、もっと入ると思いますよ?」
「凄いな!使い方次第で俺とかパトラより強くなれるんじゃないか!?」
「ええ!?いや、無理ですよ!」
「そうか?大量の石を落とすだけでも大惨事じゃないか?」
「・・・うーん・・・ジークさんは穴掘り魔術で貫通しそうですし、パトラさんは気合いだけで全部吹き飛ばしそうですし・・・」
「気合いで吹き飛ばすって面白そうね?今度試してみようかしら?」
「パトラは前に咆哮に魔力を乗せて岩を粉砕してるからな。普通に出来そうだ」
「ほら、お二人に敵うワケ無いですよ?」
「そんなモンかな?」
「そもそも、あたしは戦うのが好きじゃ無いので・・・」
「俺もなんだが・・・いや、違うか?俺は自分が痛いのを嫌うだけで、相手が痛いのは構わないからな」
「そうね魔王」
「そうなんスか魔王」
「野蛮ですよ魔王」
「非道ね魔王」
「危険な存在ッスね魔王」
「逆らう者は皆殺し魔王」
「どんな語尾だよ!?」
魔王の称号をおちょくられながら歩く。
ゴルドの店よりノブターの工房が手前にあるので、少しだけ顔を見ていく。
「ノブター、どうなった?」
「・・・おお!魔王様!」
また礼拝を始めたノブターを、パトラとミーシャとアーシャがドン引きで見つめる。
「気に入ってくれたか?」
「儂は世界一の鍛冶師になれますよ!この炉があれば武具も日用品も思いのままですわい!」
「そうか!期待してるぞ!」
「そうそう、魔王様の防具はローブを考えました!こんな形はどうですか!?」
ノブターは布でローブの形を作ってくれていた。
俺は服の上から羽織ってみる。
ブカブカだが動きの邪魔をしない。丈も長めにしてあるので足元まで保護してくれそうだ。
「良さそうだが、肩の辺りがブカブカだな」
「ドラゴン素材は厚みが出そうですからな」
「なるほど。ミーシャとアーシャの分も頼むな」
「この二人ですかな?二人とも、防具に希望があれば何でも言ってくれ」
「あたしもローブがいいですね」
「ウチは急所を守る鎧がいいッスけど、動きを阻害するのは勘弁して欲しいッス」
「ローブは魔王様と似た感じでいいかな?」
「そうですね」
「赤毛の嬢ちゃんはバートン隊長みたいな鎧はどうだ?」
「バートンさんの・・・それはちょっと重そうッスね、グラーフさんみたいなヤツがいいッス!」
「あれか!分かった!あれも儂が作ったヤツなんだ」
「へぇー、何でもイケるんスね」
「おう!問題は女神様のだな」
「「女神様!?」」
「あら?私、獣神なんだけど?」
「イメージが違い過ぎるッス!」
「戦闘狂のイメージが強過ぎて・・・」
「パトラ、諦めろ。これが現実だ」
「泣いてもいいかしら?」
「皆で何を言ってるんだ?紛うことなき女神様だろうが?」
「あ、ああ。いいんだノブター。こっちの話だ」
「解せん・・・」
「それで?問題って?」
「女神様の可憐なイメージはドラゴンの素材で表現するのは難しいんだ」
「単純に服の中に鱗でも仕込んだらどうだ?」
「攻撃を受けた時に女神様は無事でも、服が無事にすまないだろ?」
「なんだ、そんな事を心配してたの?私は構わないわ。不意の一撃さえ防げれば大丈夫よ?基本的には私に近付けないと思うし」
「死角からの奇襲とかは?」
「イージスの指輪があるから大丈夫よ?私の全身を保護出来る程の性能だから」
「ああ!パトラさんがイージスを耳から指に付け変えてるッス!羨ましいッス!」
「本当に良いんですな?」
「いいわ、見た目優先でお願いね。せっかくアーシャが選んでくれた衣装だもの」
「パトラさん・・・」
「良く似合ってるしな!」
「今は私も気に入ってるわ。だから私のは見た目優先でお願いね」
「分かりました!」
「どのくらい掛かる?」
「・・・明後日の朝には出来ると思うが?間に合うか?」
「大丈夫だ。こっちの準備もあるからな」
「ああ、染料も頼みたいんだが」
「染料?自分達の好みでいいのか?」
「そうだ。色は儂が決めてもいいんだが、せっかくだからな。自分の好きな染料を用意して、今日のうちに持って来てくれ」
「分かった。後、これは差し入れだ」
アーシャに目配せして、パンとチーズと酒を出してもらう。
「おお!助かるよ!儂は鍛冶を始めると買い物どころじゃ無いからな」
「飲み過ぎ注意な!」
「はっはっは!分かっとるよ!」
では早速、ゴルドの店で染料を選ぼうか。俺は褐色。体の模様と似た色だ。分かりやすいだろ?
パトラは染めなくてもいいな。ミーシャは藍色かな?アーシャは灰色を選んでいた。本当は銀色が良かったらしいが染料が無かったらしい。
ノブターの工房に染料を持ち込んでから、改めてゴルドの店で買い物をする。今度は、トランプの材料を用意する。木の板がいいか、紙がいいか・・・プラスチックなんて無いしな。
今回は木の板を使う事にしよう。マークや数字を書き込むのも簡単そうだし、裏から見えにくいのが一番かな?
「このトランプはアレンジした方がいいかな?」
「やめた方がいいわ。ルールの整合性が取れなくなるのも有るかも知れないしね」
「確かにそうだな。ジョーカーどうしよ?」
「・・・私が書くわ!」
「こういうの得意なのか?」
「そうでもないけど、ちょっとやりたい事が出来たのよ!」
「ジョーカーだけアレンジ?」
「イタズラよ、イタズラ」
「何書く気?」
「私達は馴染み深いヤツよ」
「あんまり変なのにすんなよ?俺は他の書いてるからな・・・スペード、ダイヤ、ハート、クラブ。キング、クイーン、ジャック・・・これは変えれるのか?でも、ブラックジャックとか・・・やっぱりやめよ。普通がいいかな?」
独り言を呟きながら描き続ける。意外と時間が掛かるな。クオリティは高くないんだが、大きくぶれないように作るのは難しい。
やっぱり俺は土建専門だな!
なんやかんやで何とか形になったトランプをもってゴルドに紹介を始める。最初にマークや数字の案内をしておく。ジョーカーはまだ乾いていないらしい。
「まずは前提として、トランプの遊びは一つじゃないの。ルールと言って、遊び方が色々あるの。今日は2つ教えるわ」
「分かりました!」
「ゴルド?何書いてるんだ?」
「遊び方の記録をとっているんです」
「そんなに難しくないぞ?」
「最初はババ抜きよ」
「ジョーカーは乾いたのか?」
「オッケーよ!ほら?」
「・・・俺じゃねーか!!」
「馴染み深いでしょ?」
「バカですか!?よりによって俺かよ!?むしろパトラの方がジョーカーじゃねーか!?」
「どういう意味よ!?」
「最強の手札だろうが?」
「ババ抜きなら嫌われるじゃないの!?」
「俺なら良いのかよ?」
「逆に負け、じゃなくて勝ちにしたら良いじゃない?」
「だったら、なおさらパトラでもいいだろ?」
「あなたの方が分かりやすいでしょ?皆も一発で分かるでしょ?」
アーシャ、ミーシャ、ゴルドが深く頷く。
「ほらね?」
「俺のイメージは一体・・・」
「そのうち、変わっていくわよ。時代や場所でね。今回だけはジークにしてみただけよ!」
「そ、そうか・・・じゃ、ルール説明だが・・・」
今回は俺は参加せずに、皆への説明係に入る。マークに馴染みが無いし、手札を他のヤツに見せないように持つ方法とか、戦い方、つまり表情での駆け引きとかを指導していった。
簡単なルールなので3回目くらいで皆もスムーズに遊べるようになってきた。そこで、今度は罰ゲームを用意する事にした。
「パトラさんの悪い顔が出てるッス!」
「ゲームは罰ゲームがあって、初めて燃えるのよ!ふふん、皆、覚悟はいいかしら?」
「先に罰ゲームを決めましょうか?」
「ダメよ!罰ゲームは一番あがりの人がビリの人に命令するの!」
「・・・物凄く危険なゲームになりそうだ・・・」
「パトラ様に一番を獲らせるワケにはいきませんね」
「ここは全力で阻止しましょう!」
「パトラさん対ウチらで勝負ッス!」
「ちょっ、ちょっと!いくら何でもそれはズルいんじゃない?」
「パトラ、諦めろ。罰ゲームのルールを指定したパトラが悪い。素人相手に圧力掛けるからだぞ?」
「くっ!それでもビリになる気は無いわ!」
「それなら、今度は俺も入ろうかな?」
「「「「望むところだ!」」」」
「・・・フッフッフッ・・・甘い、ブランデーケーキより甘いぞ!昔からトランプは異常に強いんだ!強過ぎて、誰も相手をしてくれなくなる程に!」
一同は戦慄の表情を浮かべる・・・。
「ブランデーケーキなんて分からないでしょ・・・」
そっちか?俺のトランプの強さじゃなくて、甘い食べ物に戦慄したのか?確かにこの世界は甘い食べ物が少ないからな・・・いや、そんな事はどうでもいい!
俺の数少ない特技を披露する時が来た!
「なら、あたしから行きますね?」
アーシャが俺の手札から一枚を選ぶ。
視線で誘導しつつ、わざとらしく渋い表情をする。なんて古典的な所から攻める。次の番、その次の番と続けてその所作を繰り返す・・・。そして、実を結ぶ。
どうでもいい時から、ここ一番のポイントまで繰り返す事で、相手は俺のパターンを勝手に誤解する。
相手に俺を勘違いさせる事が一つの技となるんだ。これは実際の戦いと同じかも知れないな。相手は俺をゴブリンと侮るから全力を出す前にやられる事が多い。
更に、相手に調子付かせるのもポイントだ!相手の油断は最強のオトリになるからな!
「ジークさんだ・・・」
「残念だったな?俺はジョーカーに嫌われてるからな!」
「ジョーカーの絵柄はあなたなんですけど?」
「あれ?俺の決め台詞なのに・・・」
「決め台詞なんて持ってるの?どんだけトランプに自信が有るのよ?」
「はい、そうこう言ってるうちに一番あがり!」
「えっ!?もう!?」
「本当に強いッス!」
「本当に強いんですね!」
「流石はジーク様!やりますね!」
「さぁて?ビリは誰かなー?」
「・・・もう負けられないわね!」
「次はあたしの番です!」
「・・・ワタクシもコツが分かって来た気がします」
「パトラさんには負けないッス!」
・・・パトラ。お前はポーカーフェイスが出来んのか?あまりに顔に出過ぎるぞ?
ミーシャ、それじゃ気持ち悪い。変な顔をしろ、という事じゃない。やっぱりアホの子だ。
ゴルド・・・は、本当に慣れて来たみたいだ。元々、商売や交渉は相手の考えを読んで攻めるのが基本だからな。将来的に、ゴルドは強敵になりそうだ。
アーシャは堅実だな。一手一手が丁寧だがその分、相手に読まれやすいんだ。
さ、今のうちに罰ゲームを考えよう。痛くなくて笑えるのがいいな。
よし決めた!
「はい、ミーシャの負けー!」
「ジークさんがウチから離れないッス!トランプじゃなくて、現実なら良かったッス!!」
「なんか、とんでもない事言ってるけど?ま、いいや。罰ゲームは・・・二日酔いの薬草かな?アーシャ、持ってる?」
「はい!沢山持ってますよ!今、作りますね!」
「そ、それだけは・・・それだけは!」
「・・・うん、却下」
「ジークさん・・・魔王ッスね!嫌いじゃないッスよ!」
「ミーちゃん、そういうのが好みなの?」
「そうかも知れないッス・・・いや、ジークさんだけッスよ!?」
「全く嬉しくないんだが?」
「慣れるしかないわね。ジークの新たな一面が開花するかも知れないわ!」
「丁重にお断りします。俺の事より罰ゲームだ!ほら、ミーシャ、温かいうちに飲め!」
「うう・・・誤魔化せなかったッス・・・」
皆が見守る中、ミーシャが意を決して薬草のお茶を飲む。メッチャ酸っぱいお茶なので香りだけでパトラとゴルドの顔も変形していく。俺とアーシャはむしろ美味しいと感じているので何ともない。
そして、当の本人は目を見開き、毛を逆立て、物凄い形相で飲み下す!
「くぁぁぁ!!・・・酸っぱいッス!!」
「良く頑張った!おかわり要る?」
「絶対に要らないッス!!」
皆で笑いながらミーシャの勇気を称賛した!
こうして、トランプ大会を楽しんだ後は温泉でのんびりと体をほぐし、人間の街への遠征に向け、英気を養った。
そう、ダラダラと遊び倒しただけだった!




