58話
「おい!ノブター!起きろ!」
俺のフリードを見て気絶してしまったノブターを叩き起こす。・・・軽くだよ?
「・・・はっ!ま、魔王様!これは一体?」
「あ、オリハルコンだ。変質しちゃった」
「や、やっぱり!どうなってるんだ?この形状は間違いなく、儂の作品だ・・・」
「・・・気付いたらオリハルコンになってたみたいだな、ははは」
「「ははは・・・」」
ゴルドとパトラも乾いた笑い声を放つ。
「はははって!あり得ないだろ!?」
「ノブター、ごちゃごちゃ言わないの!なってしまったモノはどうしようも無いんだから!」
「め、女神様・・・分かりました!」
「流石パトラ!ナイスアシスト!」
「ジークも、フリードを早く隠して!」
「お!そうだな」
奥の人だかりに気付かれるのもマズイかな?言われてから慌てて布を巻き付ける。
「ね?規格外でしょう?」
「ゴルドさんの言ってた通りだったよ・・・魔王様には常識が通じない・・・」
「あれ?何だか酷い言われようだな?」
「あなたの行いよ?自業自得ね」
「うっ!パトラが冷たい!」
「常識とかはどうでもいいけど魔王になった由来からしておかしいからね?分かってるの?」
「うん」
「規格外は褒め言葉よ!魔王なんだから多少の妬みや僻みは覚悟しなきゃ!」
「そ、そうなのか?」
「チートを使えばもっと酷くなるわよ?」
「・・・あぁ、そっか・・・」
「ま、私は楽しいけどね」
「「ジーク様!」」
人だかりからダイクンとサイクンが走って来た。
「おお!どうした?」
「丁度良かった!これから呼びに行くとこだったんだ」
「整地が終わったのか?」
「そうだよ!見てみて?」
気付けば、人だかりが左右に分かれて大きな空き地になっている。いくつか、四角い穴が空いている。もしかして、整地どころか基礎の工事に入るところか!?
「もしかして、基礎工事になってるのか?」
「こんだけの人が手伝ってくれてるからね!」
「早いとこお願いしたいな」
「おお!任せろ!・・・ノブター、ちょっと待っててくれ」
「あいよ」
本当に広いな・・・。
庭?じゃ、ここの穴は?倉庫?あれ?こっちにもあるぞ?
全くワケが分からない。普通は土台を見れば間取りとかが何となく分かるんだが・・・今回はお手上げだ。敷地がやたら広い事だけは分かる!
考えるのをやめて硬質化の魔法を掛けていく。
ダイクンとサイクンがニマッと笑う。くっ!気になる!一体、どんな家が建つんだ!?
「ありがとジーク様!」
「でも、しばらくはこっちに来ちゃダメだよ?」
「ええー?スッゴく気になるんだけど?」
「「ダメ!」」
「分かったよ・・・ま、俺もしばらく人間の街に行ってくるから見れないんだけどな」
「そうなの?どのくらいの期間?」
「未定だけどな・・・30日くらい掛かるかも」
「やった!中も仕上げれるね!」
「楽しみにしててね」
「分かった分かった。無理すんなよ?」
「「はーい!」」
と、なると・・・。
「パトラ、アーシャを呼んでドラゴン素材を格納してもらってくれ」
「そうね、任せて」
「さて、ゴルド、ノブター。ドラゴン素材はゴルドの店の近くに移動するぞ?」
「良く分からんが、儂は構わんぞ?」
「ワタクシも問題有りませんね」
「ノブターの工房はどうする?」
「屋根と壁と・・・釜があれば良いな」
「良し、これから行って作るぞ!」
「え?」
「ノブター・・・ジーク様なら容易いでしょう。早く行きますよ?」
「そ、そうなのか?」
「ほらほら、アーシャが来る前に済ませるぞ」
ゴルドとノブターを置き去りにして先に走り去る。一足先に着いた俺は、近くの木を蹴り倒し、手刀で枝を落とす。ゴルドの自宅兼店舗の裏手に穴を掘り、丸太を付き立てる。六本の柱を立てた頃にゴルド達が到着した。
「ゴルド、このミスリルと布を交換だ」
「かしこまりました。しばらくお待ち下さい」
「ノブター、釜の大きさは?」
「デカ過ぎても扱いが難しいからな・・・」
ノブターはウンウンと悩みながらも地面に印を付けていく。俺はその印以外の場所に穴掘り魔術を薄く広く掛けていく・・・整地と盛り土を合わせて済ませる。ノブターに聞きながら、釜の高さ、穴の大きさを合わせて、穴掘り魔術を掛ける。ノブターが手作業で形を整えたら完成。仕上げに硬質化の魔法を掛ける。
「おわっ!どうなってるんだ?一瞬で硬くなった?・・・ミ、ミスリルだ!!なんだと!?どういう事だ!?」
「そういう事だ。ノブター、他言無用だぞ?」
「・・・ま、魔王様・・・」
ノブターの顔が畏怖で染まる!
そして、膝を付き、俺に対して礼拝を始めた。
「ノブター?何をしているんですか?」
「今、魔王様の奇跡を目の当たりにした・・・」
「・・・あぁ、魔法ですね!おや?炉をミスリルにされました?」
「サービスだよ」
「鍛冶師には最高の贈り物ですね?・・・はい、ジーク様の所望の品です。お確かめ下さい」
「ありが・・・ゴルド?魔道具が一つ混ざってるぞ?」
「これから必要でしょう?炎を生み出す魔道具ですよ!」
「・・・流石、ゴルドだ!」
俺はノブターに見えないように魔道具を体で隠し、オリハルコン化する。振り返って、魔道具に魔力を込める・・・ゆっくり、ゆっくりと。
「ノブター、炉の火力はどのくらいだ?」
「どのくらいって・・・炎が白っぽくなれば最高なんだが・・・」
「少し離れてろ」
このくらいかな?
昨日、不滅の炎を生み出しているから加減は何となく分かる。と思う。これ、一発勝負なんだよ。
魔道具を起動させつつ炉に投げ入れる。
「すっげぇぇぇぇ!!完璧だ!完璧な白炎だ!」
「ノブター、更に驚く事が有りますよ?」
「これ以上?そんなワケあるか!?」
ノブターは炉を見つめたまま、ゴルドに毒づく。
「ふふふ・・・この炎は・・・」
「・・・なんだよ?」
「消えません。意図的に魔力を抜かなければ、この炎は消えないのです!」
「・・・何を言ってるんだ?魔道具だろ?込めた魔力が尽きたら消えるだろ?」
「ノブター、本当に消えないんだ。不滅の炎にしたからな」
「魔王様?魔王様まで・・・まさか、本当に?」
「明日には理解出来るだろうよ。それより、早く布を掛けて屋根と壁を作るぞ?手伝ってくれ!」
「お、おう!」
頭がぼうっとしているのかノブターの反応が鈍い。チラチラと炉を確認しながら布を何枚も重ねて張り、屋根と壁が出来た。正確にいうと、布を硬質化させて、屋根と壁にした。
丁度、完成した頃にアーシャとパトラが到着。ミーシャも付いて来たようだ。
「何が何やら・・・一時間で工房が出来ちまった・・・そんで、炉の炎が不滅だと?最高の白炎が不滅?まさかな?・・・もし本当なら・・・もし本当なら・・・えらい事だぞ・・・」
何かブツブツ言ってるノブターを放っておいて、ゴルドとドラゴン素材の置き場を相談する。
工房の隣に倉庫を増設して、他から見えない様にした。
そろそろ鍵の習慣も考えようか?
「ノブター・・・ダメだな。ゴルド、また明日来るよ」
「そうですね。ノブターが現状を理解するのはしばらく掛かるでしょうから」
「今日は1日付き合わせてしまったな」
「お気になさらず・・・むしろ、ワタクシの仕事の種がそこら中に落ちてましたから」
「ふふふ、まだ公にするなよ?」
「もちろんですとも!ふふふ・・・」
「本当にこの二人は悪巧みが好きなのね!」
「パトラさんも同じ顔をしますよ?」
「同類ッスね」
「私のはもうちょっと品があるわ!」
「品が?・・・威圧感の間違いッスよ?」
「そうですね、パトラさんのが一番怖いですよ?」
「そうなの?ショックだわ」
せっかくだから、ゴルドの店でショッピング。今日の夜ご飯はパトラが作るらしい。どんな腕前か楽しみでしょうがない!
「あら?チーズが有るじゃない!」
「ご存知ですか?」
「ええ、私、大好きよ!ねえ、チーズフォンデュなんてどう?」
「珍しい所を攻めてくるな?もちろん大歓迎だ!」
「日持ちもいいから多めに買って行きましょう?」
「カルボナーラとかも食いたいな・・・」
「いいわね!リゾットとかも美味しいわよ」
「名前だけじゃ全然想像つかないッスね・・・」
「そのまま、酒のツマミにもいけるしね」
「パトラ様もジーク様も珍しい食材に興味を示しましたね?」
「私達には結構馴染み深いわよ?そうそう、唐揚げにもおすすめよ?なんなら今夜に一緒にどう?」
「いいんですか?是非とも!異世界の料理・・・楽しみです!」
「期待されてるぞ?」
「初めて食べたら驚くでしょうね」
「自信満々だな?あっ、香辛料もあるよ?」
「助かるわ!やっぱり塩だけじゃ難しい料理も多いから・・・」
皆でワイワイと買い物して帰る。さりげなく、アーシャが酒を買っていたのは見なかった事にしよう!さりげなくと言ったが、10本位買っていたが・・・。
アーシャの亜空間に収納してもらい、暗くなった道を歩く。ノブターの炉から光が溢れていた。ノブター自身は椅子を用意して炉を見つめていた。信用出来ないのかな?それとも、何か考え事でもしているのだろうか?
少し歩くと今度は明るくなってくる。温泉の近くの不滅の炎が辺りを照らし続けているからだ。
家に着いた後は、パトラとミーシャが料理を始める。アーシャが酒を持ってきてくれたので、俺とゴルドで先に頂く。ちょっぴりチーズをもらって、酒のお供にしてみた。
「美味しいですね。チーズはパンと一緒に食べる物だとばかり思ってました」
「本当は種類に合わせて食べ方を変えたりするんだけどな」
「種類?チーズに種類が有るのですか?」
「製法とかまでは詳しく分かんないけどね。フレッシュチーズとかは牛を飼ってるとこじゃなきゃ難しいんじゃないかな?・・・あれ?このチーズ、やけに濃厚だけど、牛じゃなくて山羊かな?」
「山羊ですよ?むしろ、牛の乳でも作れるんですか?」
「ああ、そうだよ?牛の方が乳が多いから安価なんだ」
「なるほど・・・やはり安価な方がバリエーションが増えやすいんですね」
「そうとも限らないんだな、これが。代替え品とか応用品には使われるだろうが、元々は違う素材って事もある。服なんかもそうだろ?最初は絹で作ってて、麻とかで見た目だけ似せるとか?」
「ありますね!高級品も需要は有りますからね」
「そういう事。料理だって本場とそれっぽいモノじゃ、売る相手が変わってくるんだ」
「舌の肥えた人と興味で食べる人・・・でしょうか?」
「そうだ。俺のいた世界では、地域ごとに食べ物、服、家、文化・・・さらには言葉すら違ったんだ」
「言葉?・・・言葉が通じないのですか!?」
「そうなんだ!ちゃんと勉強しないと飯も食えない」
「・・・それは、厳しいですね・・・」
「とはいえ、別に他の地域に行かなきゃ行かないで生活に困る事は無かったがな」
「流通などはどうなんですか?」
「国を跨ぐ時は通訳を使うかな?どちらの言葉も分かるってヤツを雇うんだ。そこまでしなくても、国の中で生活出来るんだけどな」
「一つの国の中で全ての生活が成り立つのですか?」
「そうだよ?俺のいた国は1億人くらいが住んでたからな」
「1億・・・それは凄い・・・強国ですね!」
「そうでも無いぞ?基本的に戦争禁止だし、他の国より小さいし・・・」
「それ以上?まさか、1億人の国以上の国が有るんですか!?」
「ざらにあったわよ」
「おっ!パトラ、ご飯出来たのか!」
「今日はチーズフォンデュよ?」
「そうだな、材料切るくらいか?」
「パンとフルーツと野菜を用意したわ。大変だったのは串を作る方ね」
「ご苦労様。じゃあ、早速食べるか」
「「「「「いただきます」」」」」
「串で材料を刺して、鍋のチーズを絡めて食べるんだ。物凄く熱いから気を付けてな」
「チーズって煮るとトロトロになるんですね!」
「終わった後の片付けが大変だけどな!」
「大丈夫よ?魔法で燃やしちゃうから」
「鍋ごとかよ!」
「アフッ!アッフッ!」
「はっはっは!だから熱いって言っただろ?」
「・・・んぐ。あー、びっくりしました!でも、凄い濃厚で美味しいですね!」
「だろ?たまに食べると旨いんだ!」
「お二人の知識の広さは桁違いですね・・・」
「本当の得意分野は娯楽だけどな」
「娯楽?例えばどんな?」
「食い付くねぇ!」
「もちろんですよ!ジーク様の知識は商売の種が詰まってますからね!」
「ゴルド、この世界で、娯楽といえば何が思い浮かぶの?」
「そうですね・・・芝居や王族の広報や酒と料理といったところですね」
「切ないわ!芝居と酒はともかく・・・王族の広報ってどういう事?そんなのが楽しみなのかしら?」
「庶民からしたら王族のアレコレは芝居の中の出来事と大差ないんですよ」
「歌とかカードのゲームとかは?」
「歌は教会に行けば・・・しかし娯楽と言われれば微妙ですね。カードのげえむとは何ですか?」
「うーん、説明が難しいな・・・明日、簡単なのを作って持ってくよ」
「・・・分かりました。楽しみしておきますよ!」
「今回は雑な作りにするからな」
「はい、概要が分かれば大丈夫ですよ」
「トランプでいいよな?」
「ウノとかオセロとかも簡単よ?」
「オセロもいいね、トランプとオセロを作って持って行こう!」
「一体どんなモノでしょうか・・・ジーク様、危険なモノでは無いですよね?」
「危険?まさか!子供からジジイまで男女問わず遊べるよ!」
「ウチも気になるッス」
「あたしも出来ますか?」
「・・・オセロなら遊び方も簡単かな?」
「そうね、まずはオセロにしましょうか」
「じゃ、明日は早起きだな」
「それでは、明日は首を長くして待ってますよ!」
お腹も一杯になって気持ち良く解散。
日の出と共に起きてオセロを作る。
平たい木の板に線を書き、木の枝を小さく刻んでいく。フリードが包丁みたいだ。輪切りの枝の片面に墨を塗って完成だ。
理解出来れば十分だろうからクオリティは低くても大丈夫だ。
久しぶりに俺もやろうかな?パトラは強そうだからサタンがいいか?
そんなセコい事を考えながら朝ご飯。チーズが残ってたみたいでパンと合わせて出てきた。うん!シンプルだけど美味しいな!
俺達はまた、皆でゴルドの店へと出掛けて行った。




