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56話

緊急事態だ!


幼女と一夜を共にしてしまった!


「起きろ!起きてくれパトラ!」

「う・・・朝からやかましいわね・・・」

「何でパトラがこのベッドに寝てるんだ!?」

「え?あぁ、当たり前でしょう?私のベッドが無いんだから」

「・・・なるほど。いや、そうじゃ無い!2階にもベッドが有るだろ!」

「私達は婚約者なのよ?何が問題なのよ?」

「幼女!」

「・・・忘れてたわ・・・」

「とにかく起きて支度をしてくれ!」

「必死ね!大丈夫!私はロリコン扱いしないわ」

「俺が嫌なの!」

「チッ!面倒くさいわね・・・」

「そう思うなら早く大人になってくれ!頼むから!」

「あなたも無茶を言うわね?」

「とにかく!俺は幼女NGなの!・・・アニキじゃあるまいし・・・」

「え?何?」

「何でもない、前の世界の話だ」

「・・・そう?」

「・・・パトラはこれから2階に寝ること!」

「横暴よ!断固拒否するわ!」

「・・・なら、俺が家を出ます!俺の貞操が危険を訴えている!」

「そんなぁ・・・」

「とりあえずだ、とりあえず寝る所は別にしてくれ」

「むぅ・・・いいわ、『とりあえず』ね」

「ふぅ」


た、助かった・・・。


ロリコンなんて生きて行けない!

俺のアニキがそうだった・・・。

昔、アニキの部屋に入った時にパソコン画面がヤバかったんだ。一瞬でアニキの尊厳が吹き飛んだ。

昔からスポーツなら何でも器用に高いレベルで出来る人だった。弟としてアニキを尊敬していたが、そのパソコン画面を見た瞬間に冷めた。いや、むしろ残念な生き物を見る目を向けるようになった。

その嫌悪感が自分に向くかと思うと身震いする!


絶対にあんな生き物になってたまるか!


「さて、アーシャに二日酔い止めの薬草でも頼むか」

「うげっ!私、アレは無理よ!治癒促進の魔術にして!」

「ほう?ところで昨日は何をしたか覚えているか?」

「・・・記憶にございません」

「・・・」

「・・・」


しばらくの間、俺達は見つめ合った。

だが、そこに甘い空気は一切見当たらない。

お互いが無表情で威圧し合う。

お互いが一歩も退かない。


「教えてやろうか?」

「結構よ」

「反省する気は無いと?」

「・・・無いわ!」

「ほほぅ?酒グセの悪い嫁ってどうなの?」

「うっ!・・・分かったわよ!・・・しばらく酒は飲まないわ」

「しばらくね・・・よし、今はそれでも良いか。俺も自分が飲みたくて酒を解禁させたしな」

「そうよ!同罪よ!」

「だが、所構わずに喧嘩してないんだが?」

「な、何の事かしら?全く身に覚えが無いわね!」

「余計にタチが悪い!少しは反省しろ!」

「・・・はい」

「よろしい!」


パトラに酒を飲ますのはここまでの苦労がついて回るのか・・・。


やっと折れたパトラを連れて部屋を出る。

程なくミーシャとアーシャも階段から降りて来た。


「おはようございます」

「おはようアーシャ、早速だが二日酔い止めの薬草を頼めるか?」

「だと思って準備してますよ。ミーちゃんも飲む?」

「もらうッス・・・」

「パトラには魔術で頼む。酸っぱいのが苦手みたいなんだ」

「パトラが苦手っていうか・・・平気なのはジークさんくらいですよ?」

「え?そうなの?あんなに爽やかな感じなのに」

「獣人は皆が苦手ッスよ?」

「ミーシャも苦手なのか?」

「無理ッスね。むしろ平気な人は変人ッスよ?」

「そ、そうなのか・・・」

「とりあえず薬草を出しますね?」


2階からアーシャが煎じた薬草を持って来た瞬間、パトラが毛を逆立てた。ミーシャは・・・見当たらない。逃げたようだ・・・。


「ふぅ。スッキリしたよ、ありがとなアーシャ」

「アレならいっぱい有るからいつでも言ってください。あたしも良く飲みますし・・・」

「もしかして、部屋で晩酌でもしてんのか?」

「えへへへ、ミーちゃんが先に眠ったらあたしの独壇場ですから!」

「へぇー!今度は二人で飲もうか?パトラとミーシャの酒グセの悪さにはこりごりだからな」

「いいんですか!?是非とも!」

「あら?私の前でデートの約束かしら?」

「あ、聞こえてた?」

「ジークさんが言ったんですよ!?あたしからじゃないですよ!?」

「誘いに乗ったじゃない?・・・思わぬ伏兵ね」

「アーシャ、パトラに魔術を掛けてやってくれ」

「は、はい!」


アーシャが問答無用で治癒促進の魔術を流し込む。

パトラは何か言いたそうにしていたが、魔術が体を巡ると目を閉じてリラックスし始めた。

アレ、気持ち良いんだよな。


「さて、匂いに逃げ出したミーシャは放っておいてゴルドと打ち合わせに行ってくるよ」

「私も行くわ!腕利き鍛冶師、ノブター。私も気になってたのよ」

「アーシャはどうする?」

「ミーちゃんが帰ってきたら魔術を掛けてあげるので、家で待ってますね」

「分かった。ゴルドの後でダイクンとサイクンに呼ばれてるから帰りは遅くなると思う」

「はーい」


ゴルドの家は少し離れている。俺の家は湖や温泉に寄っているが、ゴルドの家は民家が立ち並ぶ地区の近くだ。家と商店を兼ねているから客が多い方が都合がいいに決まっている。


テクテク歩きながらパトラと相談する。


「ドラゴン素材は全部渡すのか?」

「そうねぇ・・・ノブターの気分次第って話だけど、説明は聞きたいわね」

「使えそうな素材は皮と爪と角と翼か?」

「牙と鱗も有るわね」

「どんな防具になるのかな?」

「ゲームならドラゴンのアーマーやローブ、シールドやブーツ、ヘルムね」

「シールドとヘルムは却下だな。俺の動きを邪魔しそうだ」

「せっかくだから私もお願いしてみようかしら?」

「当然だろ?オリハルコンだって用意するよ」

「ありがとね。でも、ジークのオリハルコンって加工が大変なんでしょ?」

「3日間、茹でるらしいよ?」

「気が遠くなるわね。だって、一度の整形で終わらないんでしょ?」

「そりゃそうだろ。冷める前に鎧の形なんて無理だろうな・・・こりゃあ、街の観光が遠くなりそうだ」

「それでも安全第一よ!」

「分かってるって!ともかく話をしてみてからだな」


そんな相談をしているうちにゴルドの家にたどり着いた。が、聞き慣れない声がする。誰だ?


「ゴルドさんよ!本当に魔王が来るのか!?オリハルコンを持って!?ドラゴンを持って!?」

「ゴルド、起きてるか?」

「おお!ジーク様!おはようございます」

「ま、魔王!あなたが魔王ですか!?」


聞き慣れない声の主は巨漢だった。力士か?レスラーか?と、思う程の体格だ。


「ジーク様、この方が鍛冶師ノブターですよ」

「おっ?あんたがそうなのか!・・・あれ?何でだ?昨日の夕方に話をしたはずなんだが、一体どこに住んでいるんだ?」

「昨日の夜に鳩を飛ばしたのですよ。そしたら朝に訪ねて来たんです。ワタクシも驚いてますがね」

「居ても立っても居られないだろ!?オリハルコンを持ってる魔王に会えるんだ!更に、最強生物のドラゴンを倒して素材で防具を作るんだろ!?そりゃあ、徹夜で駆け付けるってモンだぜ!?」

「ああ・・・それで、朝からこのテンションか」

「これなら仕事を受けてくれそうね?」

「・・・ゴルドさんよ!この美少女は・・・」

「パトラ様です。ジーク様の・・・相棒でしたか?」

「ゴルド!私達、婚約したの!」

「おお!これはこれは!おめでとうございます!面白い事になりましたね!」

「面白いって・・・」

「ありがとね!」

「・・・魔王ジーク!儂と戦え!!」

「「「は?」」」

「パトラさん!儂が魔王を倒したら、儂と結婚してくれ!」

「え?嫌!」

「ぬおおお!おのれ魔王め!可憐な美少女を手籠めにしおってからに!!」

「・・・何やら誤解が有るようだが?」

「ええい!問答無用じゃあ!」


ノブターの一撃!いきなりハンマーを振りかぶって、物凄い形相で振り下ろす!

とりあえず、避ける。


「ノブター・・・あなた、ジークに何のつもり?」

「パトラさん!魔王に騙されてはいけませんぞ!気をしっかり持つのじゃあ!儂が今救ってみせるぞ!!」

「依頼どころじゃないな。埋めるか?」


さっと穴を掘る。さっと落ちる。さっとフリードを突き付ける。


「勝負有りだ。まずは話を聞け」

「誰が魔王に騙されるモノか!ゴルドさんよ!あんたも騙されてはいかんぞ!?」

「話を聞いてくれない?私も怒るわよ?」

「パ、パトラ様!どうか!どうか落ち着いてください!」

「私に言ってるのかしら?私の前にコイツを落ち着かせたら?」

「はい!すいません!・・・ノブター。落ち着いてください!このままでは命の危機です・・・いや、世界の危機です!!早く謝りなさい!!」

「ど、どうしたと言うんだ?ゴルドさんよ!何でパトラさんを怖がってるんだ?」

「早く!!」

「お、おう・・・すまなかったなパトラさん!」

「許さない・・・と、言いたい所だけど、あなたに依頼があるから、ここは抑えてあげるわね」

「ふは!やりました!世界の危機は回避されました!もう!ジーク様も助けてくださいよ!?」

「いや、何でここまでパトラを恐れるのかが理解出来ないんだが?」

「そうよね?不思議ね?ねぇ?ゴルド?」

「え?あ・・・はい!そうですね!」


ゴルドが直立不動で奇妙なスマイルだ!


「話を戻すぞ?ノブター、俺とパトラの防具をドラゴン素材で作ってくれ」

「魔王とパトラさんの・・・分かった!パトラさん!体型の採寸をしよう!今すぐ!隣の部屋で!二人きりで!」

「・・・コイツ、ヤバい奴なんじゃない?」

「私もそう思うわ!依頼は引き下げましょう!」

「ゴルド!この話は無かった事に」

「そんな!ノブター・・・このダメ男が!いい加減にしなさい!ワタクシも怒りますよ?」

「ま、待ってくれ!ゴルドさんに見捨てられたら、儂は、儂は・・・」

「一体どうなっているんだ?」

「簡単な話ですよ。ノブターが好きに仕事をしても販路や販売が出来ないのです。ワタクシが信頼しているのは鍛冶の腕ですからね。ジーク様ならご理解頂けるかと思います」

「なるほどな、分かった。俺もノブターの扱いはそんな感じでいいか?」

「結構です!若干のお仕置きも必要かも知れません」

「そうだな。人の婚約者に唾を付けようなんて、この俺が許すワケがないだろ?ノブター君?」

「やめて!私の為に二人が喧嘩をするなんて!」


パトラがめっちゃ楽しそうだ。


「パトラ、煽って遊ぶんじゃない!」

「つまんないわね・・・いいわ、さっきのジークの言葉で満足してあげる」

「パトラさん?パトラさんはゴブリンの魔王の方が良いのか?この儂よりも?」

「当たり前でしょう?あんたの出る幕じゃないわね」

「クッソォォォ!魔王なら幼女の二人や三人くらい、侍らせてるんじゃないのか!羨ましいぞぉぉぉ!」

「「「気持ち悪い!」」」

「はぁはぁ・・・」


目が血走ってる!ヨダレ垂れてる!

マジで気持ち悪い!どうしようかな、コレ?


「分かった、分かった!パトラの部下にしてやるよ」

「ちょっとジーク?勘弁してよ?」

「本当か?魔王様!」

「部下っていうより奴隷だな。パトラ、後でミーシャにやらせよう」

「・・・あぁ、テイムの魔法ね!」

「何!?儂をパトラ様の使い魔に?」

「不満か?」

「むしろご褒美じゃな!」

「それと、パトラの種族だが、人間じゃなくて獣神なんだ」

「ジュウシンとな?ソレはなんじゃ?」

「この前までは幻獣、金華猫だったんだが、進化して獣神となった。獣を司る神だな」

「め・・・女神様!女神様降臨じゃぁぁぁ!!!」


ノブターは滂沱の涙を流し、嗚咽しながら跪く。

俺達はドン引きしながら後ずさる。


「コレ、テイムの魔法、要らなくね?」


「つまり、魔王と女神が結婚するという事ですね!ヤマタイ国も安泰というモノです!」

「後々の話だよ、パトラが成長したらな」

「私は今でもいいんだけどね?」

「ま、そっちの話は置いといて。ノブター、仕事の話は出来るか?」

「えぐっ・・・えぐっ・・・」

「・・・ダメそうだな。感動で自分を消失してるみたいだ。ゴルド、後でまた来る」

「え?コレは置いて行くんですか?」

「正気に戻ったら教えてくれ!」

「じゃ、またね!」


俺とパトラは捨て台詞を吐きながら俊敏に脱出・・・退出する。あんなに気持ち悪い生き物を相手してられるか!


「魔王ジーク様、獣神パトラ様・・・共に恐ろしい方々だ・・・」


残されたゴルドが呟く。

そして、ノブターを一瞥し、ため息をつく。


「こんな気持ち悪い生き物はワタクシも勘弁願いたいのですよ?肥満ロリコン髭ダルマ鍛冶師・・・そして、パトラ様の狂信者になりそうですね・・・逆にパトラ様のファンを集めて親衛隊も面白そうですね」







ゴルドの独り言が危ない方向に矛先を向けて行く。

パトラが聞いていたら戦慄していただろう・・・。





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