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54話

温かい・・・。


体が、心が安らぐ・・・。


全てから解放されたようだ・・・


もう出たく無いな・・・。


ああ・・・良い湯だ・・・。


このまま・・・このまま・・・。




いかん。死んじゃう!


ハッと目覚める事に成功した俺は、やはり温泉に浸っていた。

このまま夢から目覚めなければ溺れていただろう!


飲酒後の入浴、ダメ。絶対ダメ!



九死に一生を得た俺は温泉から這い出る。

もう力が入らない。

温泉って言いながら、湖の水を魔道具で暖めただけなのに、異常なまでの効能だな。

後でアーシャに鑑定してもらおう・・・。


と考えながら服を探す。

酔っ払ってたから記憶があやふやだ。

どのくらいの時間、浸かってたのかな?


ふと、人影が見える。


おや!?これはもしや!?

ラッキースケベな感じ!?





んなワケ無かった。

運の良さもゴブリンか?くそが!


「おお!ジーク殿か!・・・いや、ジーク様!」


人影の正体はグラーフだった。

彼は俺の股間を一瞥した直後に態度を改めた!

そうだろう!そうだろう!

分かる!分かるぞ!


人間ではとても敵わないイチモツ。

まさに魔王!

これぞ魔王!

どうだ?恐れおののくが良い!


「流石は魔王様!圧倒的じゃないか!?」

「だが、イチモツの性能こそが全てだと思うなよ!?」

「それでも・・・そんなのは飾りです!偉い人にはそれがわからんのですよ!」

「認めたくないものだな。自分自身の、若さゆえの過ちというものを・・・」



ところで・・・何でグラーフがこのネタ分かるんだ?


打ちひしがれているグラーフを尻目に自分の服を見つけ、最後に一言。


「あえて言おう。カスであると!」


決まった。

泣き崩れるグラーフ。


さて、気にせず温泉を出る。

いやぁ・・・気持ち良かったな!

泉質もいいが、何より景色が最高だ!

正面には湖。左手には不滅の炎。

コントラストが絶妙だった!


これ、日中ならどうなんだろな?


俺は新たな楽しみを胸に、温泉を後にする。

宴は一段落を迎えたようだな。タフな連中だけが所々で盛り上がっている。

おや?不滅の炎の辺りはいまだに人だかりがあるぞ?

ステージに誰かが立っているな。行ってみよう。


「・・・志願者は居る?」


ステージに立っているのはパトラだった。

志願者?何の事だ?


「俺が行こう!」

「かかって来なさい!」


ハゲ掛けた若者?が、ステージの上に飛び乗る。

パトラに向かって構えた!


「コイツら何してんの?」

近くにいたサタンにそっと尋ねる。


「主殿、パトラ殿を倒せば髪を授けるとは本当かの?」

「は?なんだソレ」

「いやな、パトラ殿が屈強な兵士達を集め、自分の望みを叶えた者や自分に勝った者には主殿の秘術を褒美にすると宣言したのじゃ」

「・・・末期症状だ・・・」


とうとうバトルジャンキーが覚醒してしまった!

自ら闘いを求め、自ら敵を作り、自らの力で打ち倒す。

完全に末期症状だ。戦闘中毒の末期症状だ!


俺とサタンが見守るが、予想通り闘いにならない。

男の拳をかわしてデコピン。ステージ上から吹き飛んで行った・・・。


「どうしてこうなった?」

「元兵士達の数人が酔っ払ったのじゃろうな。パトラ殿を疑うような言葉を二、三度放ったのじゃ」

「それでパトラが怒って挑発したってワケか・・・」

「パトラ殿は主殿の力を疑われたと思ったのじゃろう」

「でも、パトラの顔は怒りよりワクワクが強いんだが?」

「むう・・・確かに楽しそうじゃ」


「パトラ!殺すなよ!?」

「分かってるわよ!これはね、選別なのよ?」

「選別?何の?」

「あなたの親衛隊を作ろうと思ってね」

「要らねーし!」

「じゃ、私の親衛隊!」

「・・・必要か?」

「響きが良いじゃない!?特別感が有るわよ?」

「バトル特化の精鋭か・・・」

「でも、ロクなのが居ないのよ・・・」

「そりゃそうだろう?獣神と闘いになる奴なんて兵士をやってるワケが無い!」



「ウチがいるッス!」

声だけで分かる。

振り返らずに応じるパトラ。


「そうね・・・私とジーク以外で最強はあなたかもね?ミーシャ!」


どこからともなく風が吹く。

獣神と獣人の闘い。パトラがステージから降りる。


「本気で行くッス。そして、ジークさんはウチの旦那様になるんスよ・・・」

「私がソレを許すと思うのかしら?」

「チンチクリンには負けないッス!」

「・・・手加減は必要無さそうね?」


おい!おい!おい!大丈夫か?ガチっぽいぞ?

・・・まさか!?


「サタン、コイツら酔っ払ってないか?」

「主殿?・・・主殿が飲酒を解禁しておったではないか?」

「・・・しまった・・・俺が酒を飲みたくて・・・」

「手遅れじゃ。障壁を張ろうか?」

「あ・・・ちょっと待て。ついでだからミーシャの能力を見ておこう」

「大丈夫かの?」

「ダメなら頼むよ」

「承知した」


俺とサタンは二人を凝視しながら息を飲む。


葉っぱが1枚、二人の間に飛び込む。

一瞬、二人は消えた様に見えた!

葉っぱを合図にお互いが拳を突き出した!

スピードは互角!

・・・なんてね。パトラが手加減している。

良かった!理性が有って!

パトラの本気は未知数だ。推定だが、その気になれば前の獣人の村と同じ位の炎を出せると思う。

1日あればこのヤマタイ国を滅ぼす事が出来るだろう!


「ジークは私のモノよ!!」

「違うッス!ウチのモノッス!!」


どちらも間違ってますね。

俺は俺だけのモノですよ。


「あなたみたいな子供になびくワケないわ!」

「そっちこそ、チンチクリンじゃないッスか!」


うん。子供の喧嘩だな。


「これがウチの全力ッスぅぅ!」


ミーシャの魔力が膨れ上がる!

そしてミーシャの髪が紅く染まった!

パトラに喧嘩を売るだけの事はある!

もしかしたら、ミーシャだけでも人間の街を制圧出来るんじゃないか?

グラーフやバートンならこれ程の魔力を込めた、ミーシャのダガー、シルフィードに近づく事すら出来ないだろう。


パトラの血を飲んだせいか、今なら俺にも魔力が直接見えるみたいだ。

パトラは別格として、次が俺か?。続いてアーシャだろうか?そこからサタン、コロマル。かなり弱くなってスティーブ、グラーフ辺りか?

今のミーシャはサタンと同等の魔力量を持っているようだな。これは強い!


直撃したらパトラすら無傷では済まされないだろう。


・・・サタンに止めさせるか?

だが、パトラの表情が気になる。

まるで、これからデザートを注文するかのようなワクワク顔だ。間違いない。


「見せて見なさい?ガキんちょが!」

「ナメるなぁぁぁッスゥゥゥ!!」


ハッ!あれは!?

ミーシャのシルフィードが緑色の光を纏う!


「ウチのダガーが真っ赤に染まる!お前を倒せと輝き唸る!くらえ!シャァァァイニング、ダガァァ!!」


ソレはダメなヤツな!

東方の不敗な流派の技は使っちゃダメですよ!?

真っ赤じゃなくて緑色だし!

一方、パトラは左右の拳に魔力を纏って対抗する!


「無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄ぁぁぁ!!」


パトラさん!あなたもアウトですよ!!



・・・なんやかんやでのんびりと見学してるな俺。

パトラが3割位の力で相手をしているからだろう。

常に余力を残しつつ遊んでいる。

勝負の行方は分かりきっているが、ミーシャの底力を見てみたい。おそらく、パトラも同じ事を考えているのだろう。じわりじわりとミーシャを追い詰めて行く。


またもミーシャが動いた!

物凄いスピードでパトラの周りを旋回する・・・。

うん?残像が見えるぞ!どうなってる?


「ミーシャ・・・やるわね・・・でも、それくらいじゃ、この私は倒せないわ!速さで私に挑むのは愚かと言っておくわ!」

「手も足も出せないクセに!このまま沈むッス!!」


ミーシャがパトラを捉えた!

オリハルコンダガー、シルフィードが突き刺さる!?


そんなワケ無いな。


「残像よ?」

「何でッスかぁぁ!!」


ガッツリ踏み込んでるよ!フェイント掛けてるよ!

逆に何故気付かない!?

バスケットボールのフェイントと同じ位だよ!


もしかして・・・目の前で見れば違うのかな?


隙だらけのミーシャの懐に金色が飛び込む!

やっぱりパトラの本気の踏み込みは全然違うな!

目で追う事が出来ない。多分、掌底で打ち上げたと思うが・・・金色が近付いたと理解した時には、ミーシャは宙に浮いていた・・・。


ドダッ!

地面に仰向けに落ちるミーシャ。


フワリと髪をかき上げるパトラ。

クソッ!10歳くらいの見た目なのに色っぽい!


予想通りの圧勝。


「満足出来たか?」

「まさか!私の相手は魔王じゃなきゃ務まらないわ」

「勘弁してくれ・・・」


サタンがコロマルを呼んでミーシャを家へ強制連行。

ついでにサタンとコロマルも今晩は休むらしい。


出来ればパトラにも眠って欲しいのだが・・・。


「それじゃ、行くわよ」

「どこに?」

「お姉さんが遊んであげるわ!」

「・・・マジですか・・・」


いかん、瞳が金色に輝いている!

なに楽しくなってんだよ!?

このバトルジャンキーは俺に闘いを求めている。

そちらは獣神という神の領域にたどり着いたのかも知れないが、俺はゴブリンなんです。

多少、強くなったけど、ゴブリンなんです!

ドラゴンを倒したけどゴブリンなんです!!


「降参です」

「却下よ!」

「俺は闘いたくないんだが?」

「私が闘いたいの!」

「ケガしちゃうだろ?」

「治せばいいわ!」

「・・・いい加減にしろよ?」


この酔っ払いが!!

俺は無防備に歩いて近付く。

パトラは一瞬だけ俺に構えたが、どんどん近付く俺と距離を保とうと後退する・・・そしてステージの柱にぶつかり退路が無くなった。

俺は構わず、さらに近付く。

パトラが怯えの表情に変わってゆく・・・。


アイアンクロー。

俺は右手をパトラの顔面に添えて、指だけで頭部全体を握り圧迫する。


「アガッ!イダダダダ!ググ!イギギギ!」

「何か言う事は?」


ちょっぴり力を緩める。


「クッ!」

フッとしゃがみ込んで俺の束縛から逃れる。


残念。反対の手が有るんだな。


「ウギァァァ!」

「オイタが過ぎるな?」

「アダダダダダ・・・」

「ゴメンナサイは?」

「クッ・・・」

「ゴメンナサイは!?」

「ハアッ!!」


パトラが裂帛の気合いと共に魔力を溢れさせた。

指先に熱を感じて慌てて手を放した!


聞き分けの無い!この酔っ払いが!

どんだけ呑んだんだ?


「こ、今度はこちらの番よ!」

「は?許すと思うか?」


俺はパトラの脇に回り込んで尻尾を2本とも握り締める!


「ハゥッ!!・・・アッ・・・アウゥゥ・・・」


パトラ脱力。

勝負有りだ。


「ゴメンナサイは?」

俺は三度目の降伏勧告を迫った。


「・・・ウゥゥゥ・・・ゴメンナサイ・・・」


生れたての子鹿のようにプルプルしながら獣神は己の負けを認めた・・・。


そっと手を放す。

そのまま崩れ落ちる獣神パトラ。

調子に乗り過ぎた獣神パトラ。

飲み過ぎてやらかした獣神パトラ。


やはり、コイツらに酒を飲ませてはならない!

俺は俺を戒めた!



「うぉぉぉ!ジーク様!魔王様ぁぁぁ!!」

「やった!ジーク様が暴君を!あの暴君を!」

「魔王様が!また私達を救ってくださった!」

「ありがとうございます!ありがとうございますジーク様ぁぁぁ!!」


「・・・おい!パトラ!お前、俺の知らない所で何をやって来た?コイツら、お前の事を暴君とか呼んでるぞ!?」

「フゥフゥ・・・た、大した事はしてないわ!ジークの・・・」

「おい!何故言い淀む!?」

「ジークの嫁探しを・・・」

「・・・は?嫁?俺の?」

「あなたに無理矢理、妹やら、娘やらを宛がおうとしてたの!私はそれを止めただけよ!」

「・・・力ずくで?」

「・・・はい」

「はぁ。そんな事が・・・しかし、それくらいで暴君何て呼ばれるか?」

「・・・」


パトラが黙秘権を行使した。

仕方ないのでギャラリー達に質問する。


「お前達・・・は後でお仕置きするとして」

「「ヒイィィィィ!」」

「どうしてパトラが暴君なんて呼ばれてるんだ?」

「・・・差し出せと・・・」

「何を?」

「一族の綺麗どころを男女関係無く差し出せと!」

「・・・意味が分からん」


俺が温泉で陶酔している間に、酔ったパトラがホントに独裁者みたいな発言をしていたようだ!

このヤマタイ国にパトラより強い者なんていない。

おそらくこの世界で誰1人として勝てないだろうな。


先程の闘いはパトラが酔っていた点と、俺に即死クラスの攻撃を与えない事が前提だったから勝てただけだ。言ってしまえば、一撃当てるだけのゲームだ。


しかし、パトラの真意が見えて来ないな。

何かの仕事をさせるつもりか?

だが、酔った頭でそこまで考えられるだろうか?


「私達も理解出来ないのですが、パトラ様からのお達しは『ただし、イケメンに限る』と」

「・・・パトラ・・・もしかして・・・ハーレムでも作ろうとしてたのか?」

「・・・あわよくば・・・」

「正気か?ホントに暴君じゃねえか!?」

「だって!しょうがないじゃない!?ジークは異常にお堅いし!周りの男達はハゲてるし!!」


ギャラリーのほとんどが崩れ落ちる!


「私だって異世界を満喫したいのよ!!」

「泣きながら叫ぶ事か!?全く・・・」

「うぅぅ!は、反省してます・・・でも、ジークも悪いんだからね!?もっと、こう、エロスを求めるべきよ!!」

「堂々と言うな!!」

「私だって、私だってこんなチンチクリンじゃなければ・・・」

「ふーん・・・じゃ、俺と結婚するか?」

「はえ?」

「それなら満足出来るのか?」

「そ、そ、そ、そそそんな・・・出来る!」

「分かった。それじゃ、パトラが大人の姿になれたら結婚しよう!」

「う、うん・・・うん?今じゃないの!?」

「え?嫌だよ、こんなチンチクリンとなんて」

「ガフッ!」


パトラ、吐血。


ドタッ!


パトラ、撃墜。



ふぅ!これで一件落着だ!

パトラと婚約する事になったけど、俺は構わないと思っている。いや、違うな。パトラ以外とは想像すら出来ないんだよ。


元日本人。

そして、いつでも俺を気遣ってくれる存在は稀だろう。

こんなゴブリンを好いてくれる奇特な奴も稀だろう。








これで、大人の女性ならな・・・。

思い通りにならないな、この世界は・・・。




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