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52話

夕方の宴に備えてアーシャには家の2階で休んでもらう事にした。

パトラの鑑定で魔力を使い過ぎたようだ。

ミーシャが付き添ってくれるみたいなので任せておけば大丈夫だろう。


「パトラ、ドラゴンの素材で防具を作るんだろ?職人に当ては有るのか?」

「ノースノートの街に凄い有名な職人が居るのよ。ノブターっていう名前よ。多分、引き受けてくれると思うんだけど・・・」

「ノースノートの街ならゴルドも知ってるんじゃ無いか?」

「というかノースティン王国の武具を扱う商人で彼の名前を知らないヤツが居たら、そいつはおそらく詐欺師よ?」

「王国中で知られている鍛冶師か。ゴルドの言ってた信頼出来る鍛冶師と同じ人かな?」

「だと思うわよ?」

「ふーん・・・んで、どんな防具にする予定なんだ?」

「こっちからは指定出来ないわ。素材を準備して、簡単な要望を伝えて・・・後はお任せよ」

「簡単な要望ね。動き易いとか格好良くとか?」

「動き易いは通ると思うけど、格好良くは難しいと思うわよ?」

「ちょっと不安だな・・・料金とかは?」

「それが厄介な所なのよ!嫌な仕事は上乗せよ?気にいった仕事は無料でも頑張るらしいわ」

「・・・やっぱりゴルドの言ってた信頼出来る職人っぽいな」

「ドラゴン素材なら面白そうね!」

「オリハルコンも有るしな!」



多少は不安が残りつつも、ゴルド経由でノブターという鍛冶職人に頼む事にした。

さっそくゴルドに頼みに行こうとしたら留守だった。


今日はグラーフもゴルドもダイクンやサイクンも居ないのか・・・そういえばイライザ達メイド隊や他の信者達の姿も見えないな。



・・・なんだか落ち着かない。

おそらく宴の準備だろうが、昨晩のうちに呼びに来るまで自宅待機と言われ、ヤキモキしながらも、その時を待つ。




せっかくなので計画を練り直す。もちろん、これからのヤマタイの街の事だ。


まずはこの世界の文化、文明の水準を確認する為に俺が人間の街を視察する。

その為にはドラゴン素材の防具を用意しなければならない。

ゴルドにノブターへの繋ぎを頼む事から始めよう。


次に街の設備だな。温泉を頼む為にかがり火が必要になった。

グラーフに魔道具の手配を頼んでいる。そうそう、グラーフはギルドの支店も任せてある。

湖の南側を伐採し、開拓しながらの建築だ。合わせて宿屋と酒場も始めるらしい。


スティーブには獣人の奴隷解放をゴルドと進めてもらっている。連れて来るまでに衣食住を整えようとしている。大変だと思うが、なんとか頑張ってもらいたい。


皆、それぞれ忙しいのに、更に宴の準備でてんやわんやだろうな・・・。

ドラゴンの肉が楽しみらしいが、無理はしないでもらいたいものだ。



色々と考えてみたが・・・やっぱり落ち着かない!

お祝いをされるのを待ってるってのはソワソワというかワクワクというか・・・。



そして、夕方になって来た頃、スティーブが呼びに来たようだ。



「皆さん、お待たせしました!宴の準備が整いましたよ!」

「おう!忙しいのに、なんかすまんな」

「僕達が楽しみなんですよ!」


そうか?そうかもな・・・。

現代の日本と違って娯楽の少ないこの世界だ。

今までは明日の飯を確保しなければ、ゆっくり休む事すら出来なかったんだよな・・・。


娯楽はこれから追々考えるとして、今日の宴が楽しみなのは間違いないだろう。

・・・なら、俺も楽しむとするか!



俺の家から湖に向かって歩く。

この方向は温泉の方かな?


やがて、ハゲた人間達がわんさか集まって来た!

「「「おお!ジーク様!」」」

「お?皆も集まってくれたのか?」

「勿論でございます!我らのカミ、ジーク様の偉業をお祝いする宴ですぞ!?」

「そ、そうか・・・ありがとう」


カミ?神?髪?・・・俺を信仰するのは勝手だが、俺を何だと思っているんだろうな?恭しい態度なので悪い気はしないが、いつか暴走するんじゃないかと、少し不安に思う。



見渡すと凄まじい人数だ・・・。

俺が聞いているよりは明らかに多い!300人は越えて居るんじゃないか!?

全員がもれなく歓声をあげている!

モミクシャにされる事は無いけど、圧巻だ。

・・・軽く恐怖を感じる。

だって、目が血走ってるんだもん。



少し圧倒されつつも、ゆっくり歩きだすと道が割れ、モーゼの気分を味わう。

歓声が凄い。オッサンの咆哮だ。

ハゲたオッサン達の雄叫びだ。

黄色い声は聞こえない。一切ない。


モーゼというよりは刑務所か?と思える程だ。


奥に見覚えの有る連中が見えた!


バートン達だ。功績をあげて俺の魔法で髪の生えた人達が集まっている。30人程だろうか?メイド隊も居るようだがイライザは見えないな。


どうやら髪の生えた連中は、他の信者よりも格上の扱いの様だな。他の信者とは一線を隔てている様に感じるな。

こんな所で順位とか序列を作るのはどうかと思うよ?


「ジーク様!おめでとうございます!」

「おう!ありがとな。ところでバートン。俺が聞いていた人数より、かなり多い兵士達がいる気がするんだが?」

「はい!今は250人程になりましたが、全く問題ありません!」

「あるだろ!?どうするんだ?食糧とか、住居とかは?」

「食糧は各々で調達するでしょうし、住居は特に気にしなくて大丈夫ですよ!ジーク様は『家畜が増えたな』程度の認識で結構ですから!」

「俺の存在を高く設定し過ぎだ!」

「何をおっしゃいます!?一瞬で湖を作り、絶望に沈んでいた我等に希望を授け、未知の文明で瞬く間に街を作り、幻獣を配下に治め、世界最強と謳われるドラゴンを屠った英雄ですぞ!?」

「ああ!もういいから!」


バートンが演説中に周りの歓声が更に高まる。収めようにも手遅れだな。もはや怒号だ。勘弁して下さい。


「じゃっ!スティーブ達の所に行くから!」

「あっ!ジーク様ぁぁぁ!」


面倒だから俺は逃げ出した・・・。

褒められ続けるなんて俺からすれば拷問でしかない。

何より周りのハゲ達に恐怖していた!


逃げ出す様に奥に進むと、そこにはゴルド、スティーブ、グラーフにダイクン、サイクンが見えた。


周りは獣人達だ。この街では人間達と獣人達で交流が普通に有る。バートンやグラーフが俺の意を汲んで住人達に教育しているからだ。


人間達は俺とパトラを『様付け』して呼ぶ。スティーブやゴルド、バートンは『さん付け』にさせてあるらしい。

魔王の配下としては皆が平等。もちろん、立場や歳の部分は有る。だが、それは本人だけの経験や努力であって、生まれつきのモノでは無い。

この世界に生を受けた瞬間に敬われる存在なんて無いし、同時に卑下される存在も無い。特に知性を持ち、言葉が通じるのなら、それは話し合いや協力する事も出来るハズだ。


キレイ事なのは勿論解っている。

やむを得なく対立する事も有るだろう。

だが、理由も無く敵視し、争ったり、見下す必要も無い事も確かだ。


ならば、この街だけでも、不要な争いを無くしてやろう。

たとえ、それが魔王の傲慢だとしても、だ。


「難しい顔してどうしたの?」

パトラが俺の顔を覗き込む。

「何でも無いよ。獣人と人間がもっと仲良く出来ればいいのになって思っただけだから・・・」

「・・・そういう事は力ずくで決めてもいいのよ?」

かわいい顔して何て事いうんだ!?力ずくって!


「人間も獣人も畏れる存在、魔王。あなたが力を見せつけて、あなたの街を、国を創ればいいのよ!」

「他の国を敵に回しても?」

「私がついてるわ。獣神パトラ様が!ね?」

「はっはっは!獣を司る神が後ろだてなら心強いな!」


流石はパトラ!簡単に俺の不安や不満を取り除いてくれた!そして、後押しまでしてくれる。

感謝しか無いな!


「お!ジーク殿!」

「グラーフ!心配したぞ!極楽鳥の肉で体に異変は無いか?俺みたいに角が生えたり、スティーブみたいにデカくなったりとか?」

「それな!また、スティーブがデカくなってるじゃねーか!?俺は朝から仕事があってな、昼過ぎに家に帰ったらびっくりだったよ!」

「コロマルとパトラもヤバい変化だったんだ!それでグラーフは?」

「ぬっふっふっふ・・・」


また壊れたかな?

俺は一瞬で昨日の光景が頭に浮かんだ。

アーシャとの妄想でおかしくなった彼を・・・。


「ど、どうした?」

「聞いてくれ!魔法を使える様になった!とうとう2つ目がな!」

「お?おめでとう!・・・今で2つ目なのか?」

「凄いだろ!?」

「ジーク、人間達は使えても1つが普通よ?魔力が極端に多い者だけが2つって感じね。私達魔物とは違うのよ?」

「そうなのか?グラーフ、3つ目の魔法を持ってる人間は居ないのか?」

「いるわけ無いだろ!?人間だぞ?」

「人間以外ならどうなんだ?」

「伝説では・・・獣を司る神、獣神といわれる神がいるらしい。子供のおとぎ話だから当てにはならんがな」

「その獣神なら、3つの魔法を使えるのか?」

「4つの魔法だ・・・と思ったな。詳しい事は忘れたよ。子供の頃の話だからな。なんにせよ、獣神なんて見た事も聞いた事も無いな」

「そうか。ところで例の魔道具は?」

「おう、準備出来てるぞ!今、渡してもいいのか?」

「・・・いや、もう少しだけ後でな」

「ん?何か企んでるな?」

「そんな事は無いぞ?」


おや?グラーフのクセに勘が鋭いな?

「それより、獣神な・・・ここにいるぞ?」


俺はパトラを指差す。


「何を言っているんだ?この女の子がどうした?」

「獣神パトラだよ」

「はぁ?どうしたんだジーク殿?頭は大丈夫か?」

「ジーク、この腐った脳筋ハゲには死を与えるべきじゃ無いかしら?」

「え?パトラ?」

「進化したんだ幻獣、金華猫から獣神へと」

「・・・」

「・・・グラーフ?」

「・・・」

「・・・逝ったわね」

「・・・」


グラーフが白目で気絶している。

俺とパトラは時間が無いので放置。


「ゴルド!忙しい所、集まってもらってすまないな」

「魔王ジーク様の晴れ姿を見ないワケにはいきませんよ!部下達も育って来ましたからね。体に余裕も出来そうですし」

「そうか!良かった!実は、また仕事を頼みたくてな。ノブターって知ってるか?」

「おや?ジーク様もご存知でしたか!ワタクシの信頼している鍛冶職人ですよ!・・・もしや、ドラゴン素材の防具を依頼する予定ですか?」

「ああ、腕が良いらしいと聞いたが、ツテが無くてな。ゴルドならどうかと思ったんだ」

「お任せください!きっと彼ならドラゴン素材も最高の防具に仕上げてくれますよ!」

「そうか!良かった!詳しい話は明日にでも相談出来るか?」

「かしこまりました。予定を空けておきますよ」

「よろしくな!」

「それから、ワタクシからもお願いが有りまして」

「お?珍しいな。どうした?」

「ダイクンとサイクンの件ですが・・・」

「独立の件か?弟子達も出来たしな」

「はい。その辺もお話させて欲しいですね」

「分かった。そのダイクンとサイクンは・・・」


ゴルドの後ろから、ひょっこりと2人が顔を出す。

「「ジーク様!ドラゴン討伐、おめでとう!」」

「おう、ありがとな」

「凄いね!最強生物だよ!?」

「ジーク様はゴブリンだよね!?」

「サイクン!ジーク様に失礼だぞ?」

「ごめんね、兄ちゃん」

「気にする事は無いぞ?事実だから」

「・・・」


突然、2人が沈黙して顔を伏せた。震えている。

ん?と思って隣を見るとパトラが瞳を金色に光らせていた。


「この位で怒るなよ、俺は気にしないよ。悪気も無いようだしな」

「そう?・・・良かったわね?2人とも?」

「「すいませんでした!!」」

「だから気にするなって!それより、コロマルの件は聞いたか?」

「聞いたよ!問題無いね!」

「帰ったら直すから大丈夫!」

「一瞬だね!」

「楽勝だね!」

「ははっ、すまんな。それと、これからのコロマルの家だが・・・」

「こっちからもお話があるんだ!」

「ゴルドさんの後でお話出来る?」

「ああ、分かった。んじゃ明日な」

「「うん!今日は楽しもう!」」

「そうだな!ドラゴンが旨いといいな!」


ゴルド、ダイクン、サイクンと話をしていたらスティーブが近付いて来た。

体が大きくなったから、すぐに気付いた。


「スティーブ、ご苦労様だったな!ここまで盛大だと思わなかったよ!」

「実は僕も予想以上でしたよ!皆に話したら大興奮で盛り上がっちゃって!ドラゴンの肉が足りるかな?」

「マジか・・・」

「冗談ですよ!ザリーガの唐揚げや果物も用意してますから大丈夫です!」

「そ、そうか。焦ったよ」

「でもジークさんの挨拶から開始したい所ですね」

「得意じゃないんだが・・・」

「でも、皆が期待してると思いますよ?特に信者達はジークさんとお話した事も無い人達も多いですしね」


言われて改めて見回す。

人混みで良く分からなかったが、恐ろしい人の数だ。

前の世界を思い出す程だな。

全校集会とか夏祭りとか・・・。






・・・でも、ハゲ多いな・・・。



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