51話
「さて、俺とパトラ、ミーシャとアーシャ、スティーブの変化はとりあえず確認出来たな」
「そうね。サタンは極楽鳥の肉を食べるの嫌がったから・・・次はコロマルを見にいきましょうか?」
「そうだな。コロマルの進化は気になるな」
「元が白銀狼だったわよね?」
「強くなったか、それとも姿が変わったか?」
「家に居るかしら?」
「行ってみるか!」
コロマルはサタンと共にダイクン、サイクンの家に住んでいる。俺達の家の斜め向かいだ。
普段は街周辺の巡回にでているんだが、異常があれば困っているかも知れない。パトラみたいに。
とりあえず考えるより行ってみよう。
俺達は家から出てすぐに足を止めた。
アーシャだけが気付かずに歩いて行った。
俺とパトラとミーシャにはコロマルの声が聞こえていたからだ。
(誰かー!ミーシャ様!ジーク様!パトラ様でも誰でもいいので聞こえたら助けてくださーい!)
「アーシャ!待て!」
「どうしたんですか?」
「今、コロマルの声が聞こえた!」
「ええ?・・・特に鳴き声は聞こえないですけど?」
「実は俺とパトラとミーシャはコロマルの念話が聞こえるんだ」
「初耳です!本当ですか!?」
「ああ。言ってなかったな、すまん」
「ジーク、アーシャ、それよりコロマルよ!」
「今、俺達にコロマルの助けを呼ぶ声が聞こえたんだ!・・・俺が行く」
「気を付けて下さいね?」
「ああ」
ダイクン達の家に向かって呼び掛ける。
「ダイクン!居るか!?サイクンでもいい!」
(この声はジーク様!良かった!すいません、助けて下さい!)
「コロマル!どうしたんだ!?」
(あ!危険は無いんです!僕が家から出れなくなってしまって・・・)
「入ってもいいか?」
(はい!大丈夫ですよ!)
俺はダイクン達の家に入って行った。俺も含め、この街ではカギを掛けない。元々が獣人の生活だった為、施錠の習慣が無いのだ。
「コロマル?どこだ?」
(僕の部屋です!入り口の左側です!)
「2つあるぞ?」
(その右側です)
「ここか?」
ドアをゆっくりと引き開ける。
壁が有る。
あれ?ドアを開けたら壁?
何で?やっぱり大工のダイクンは特殊な家を作って居たのだろうか?
「何だ?これ?」
壁を触ってみる。柔らかい。ふさふさだ。まるで毛皮みたい。
・・・毛皮?
(ジーク様!そこ、背中です!)
「背中?・・・どうなった?何で壁が背中に?いや、背中が壁なってるのか?」
(僕、急に大きくなったみたいで・・・)
「・・・なるほど!進化したんだな!?」
(えっ?僕、進化出来たんですか!?)
「しかし、大きくなっただけなら壁を壊して出たらいいだろ?」
(制約があるので・・・皆に害のある行動は出来ないんです・・・)
どういう事だ?・・・ん?もしかしたら・・・。
「もしかして、俺の命令のせいか?」
(・・・すいません)
「いや、俺が悪かった!本当にすまん!・・・では、コロマルに命じる!己に危険が有る場合は今までの制約は一時的に解除とする!」
(ありがとうございます!ジークさん!では早速・・・すいません、皆さんは一度外へ、ここから離れてもらっても良いですか?)
「分かった!」
アーシャに声を掛けてから皆で俺の家の前まで離れる。
「いいぞ!コロマル!」
(じゃ、行きますよ!?)
ダイクンの壁がメキメキと膨らみ、程なく弾ける。予想していた通りなので、障壁の魔術を張っていた。
(ふぅ!やっと出れました!ジーク様!本当にありがとうございます!)
「いや、俺のせいで身動きが取れなかったんだな。本当に悪かった!・・・しかし、これ程とはな・・・」
2メートルは楽に越えている!スティーブがおよそ220センチなら・・・コロマルは250センチ近く有るんじゃ無いか!?
まるでマイクロバスだ!
(僕もびっくりでしたけど、それどころじゃなかったですから・・・)
「多分、私と同じで部屋が小さかったんじゃないの?」
(そうです。荷車くらいの大きさの部屋でした。今までなら、その部屋でも無駄に広く感じてましたけど・・・)
なら、隣の部屋はサタンだったんだろうな。
もう跡形も無いけども。
「コロマルの家も考えないとな・・・」
(実は、僕、毛皮があるので屋根があれば十分なんですが・・・)
「そうなの?私は家の中の方が楽だったんだけど?」
(ジーク様?こちらの女性・・・パトラ様の匂いがするんですが・・・誰ですか?)
「そのままパトラよ?ちょっぴり進化したの」
(ちょっぴり進化?魔力の濃さがとんでもない事になってますけど?本当にパトラ様です?)
「ああ。間違いない」
(ちなみにジーク様は昨日までのパトラ様並みの強さになってますね?)
「え?そうなの?ってか、分かるの?」
(こう見えて幻獣ですよ?)
「そう見えるよ?今は特に」
迫力が凄い。威圧感が凄い。
マイクロバスが迫ってくるようだ!
(僕は魔力の濃さとか大きさとかを匂いと一緒に感じる事が出来るんです)
「へぇー。知らなかったよ」
「私が魔力を直接見れるのと同じかもね」
「そういえばパトラも相手の魔力を見ただけで察知出来るもんな?」
「でも、魔力が少なくても強い相手もいるから、それだけでは当てにならないのよ?」
「そういうモンなのか?」
「例えばドラゴンも魔力は少なかったのよ?」
「そうなのか?ブレスは半端無かったぞ?」
「だから連発しなかったでしょう?」
「・・・ほう、なるほどな!」
コロマルのちょっとした自慢話からどんどん脱線してしまった。
進化の確認をせねば!
「コロマル、大きさ以外に変化は感じるか?」
(口の中に違和感を感じているんですが・・・)
「口の中?・・・パトラ、分かる?」
「・・・うーん・・・とりあえず、見せてみてくれる?」
コロマルが口を大きく開く。
幼女のパトラが覗き込む。
絵面がデンジャラス!
食われる瞬間にしか見えない!
丸飲みされそうだ!
もし相手がコロマルじゃなかったら、マジで焦ってるだろうな!
「コロマル!今ならあなた、言葉を話せるんじゃないかしら?」
(言葉を?・・・やってみます!)
コロマルの変顔六連発。
笑っちゃいけない。彼女は必死なんだ!
笑っちゃいけない!絶対に笑っちゃいけない!
あ、無理。
「く、くくく・・・」
「ヒーフハフ!ハハフハンヘヒホヒヘフ!」
「コロマル・・・頑張って!」
いや、すまんかった!
俺は気持ちを入れ替え、真剣な眼差しで見守る。
しばらく練習したら、段々と聞き取れる様になってきた。すごいなコロマル!
「どーでふか?わかりまふ?ききとれまふか?」
「おしい!もうちょいだ!さ、し、す、せ、そ。言ってごらん?」
「は、ひ、ふ、へ、そ!」
「いい感じだ!もう1回!」
「さ、ひ、ふ、へ、そ!」
こんな感じで昼過ぎまで特訓は続いた・・・。
「完璧よ!頑張ったわねコロマル!」
「ありがとう、ございます!まだ、くちが、いたいですけど、このまま、れんしゅう、してみ、ますね!」
外国人がゆっくり日本語を話してる時みたいだ。もちろん聞き取れるし、会話が成立する。
元々、言葉は理解しているから口の練習だけすればいい。とは言え、コロマルの頑張りは凄い事だ!
「頑張れ!・・・っと、忘れてた!俺達はグラーフの様子もみないとな。すまないコロマル」
「だいじょうぶ、ですよ!ぼくに、きにせず、いってください。きようは、ありがとう、ございました!」
「あ、そうだ!夕方にドラゴンの肉で宴をするからコロマルも一緒にお披露目しような?」
「ありがとう、ございます!それまで、れんしゅう、して、ますね」
俺達はコロマルを励ましつつスティーブの家に訪ねて行った。が、またしてもグラーフは不在。
最近はそれなりに忙しい様だ。
予定が崩れ、暇が出来た俺達は一度、自分達の家に戻る。
「コロマルの住む所を考えないとな!」
「モフモフしたいわね!」
「分かるわー。抱きつきたいよな」
「ウチならいつでもいいッスよ?」
「・・・どうやら、反省の色が見えないようね?」
「・・・でもッスよ?パトラさん?ジークさんが子供を遠慮するなら、パトラさんも同じなんスよ?」
「・・・」
「・・・」
・・・ミーシャ・・・この気まずい空気をどうするつもりだ?責任を取れ。お前のせいだぞ?
「・・・ジーク・・・」
泣きそうな顔でこちらを見るパトラ。
「駄目です!子供はNGです!」
「そんなぁ!せっかく人間の姿になれたのにぃぃ!」
「駄目なモノは駄目なのです!」
「ジークさんは無駄にお堅いんスよ!」
「少なくとも、二人とも色気が無い!」
二人とも・・・白目で放心状態に・・・。
そして、まさかのアーシャからの辻斬り。
「イライザさんならどうなんです?」
「「許さん!」」
パトラとミーシャの同時否定。
なぜお前達が決めるんだ?
確かに彼女達メイド隊には興味が湧かないけれども。
「イライザさんなら、大人の女性ですよね?」
「アーシャ!もう二人を刺激するんじゃない!」
ほらほら、パトラの瞳が金色に!
ミーシャの髪の毛が燃えるような赤色に!
・・・赤色?
「アーシャ!そのままミーシャを鑑定しろ!」
「は、はい!」
素早くアーシャから魔力が飛ぶ!
とっさの事なのに、この魔力は流石だ。
「あ!みーちゃん!魔法が使えるよ!2つ目の魔法が使えるようになったよ!」
「・・・マジッスか!?」
ミーシャが魔力を練り始める。
「こら!家の中で魔法を使う気か!?」
「はっ!あ・・・申し訳ないッス!」
「じゃ、後で魔法の練習をしましょう?アーシャは後で・・・あら?アーシャ?」
アーシャがしゃがみ込んでいる!どうした!?
「もう、無理です・・・」
「魔力切れね。命拾いしたわね?」
「全く・・・何でそんな体調でパトラ達に喧嘩売ったんだよ?」
「単純にジークさんの好みが気になって・・・」
「今じゃ無くてもいいだろ?・・・むしろ、アーシャの好みのタイプは?」
「あ、あたしは・・・その・・・」
「脳筋ハゲよね!?」
「断じて違います!・・・あふぅ・・・」
「大丈夫か!?・・・もう、いいからゆっくり休め」
「すいません・・・」
倒れ掛けたアーシャを抱えながら声を掛ける。
俺はアーシャを2階の部屋に連れて行った。ミーシャにも付き添ってもらっている。
「アーシャが魔力切れなんて珍しいな?」
「朝のパトラさんの鑑定がしんどかったんです」
「なんたって神の仲間入りだもんな」
「幻獣から獣神ですからね・・・」
「その獣神ってのは初めて聞いたッス」
「伝説とか残って無いのか?」
「あたしも聞いた事が無いですね」
「知ってそうなのは・・・グラーフかゴルドか?」
「・・・サタンならどうだろう?」
「なるほど!200年以上生きてますからね!」
「そうだな。後で聞いてみよう・・・他にも聞きたい事があるからな・・・」
何となく聞けなかった事がある。
かなり、年を食ってるのは間違い無い。
『だからこそ』おかしいんだ。
200年前の日本人とは思えない。
江戸時代の日本人としては違和感が無さすぎるんだ。
まるで、俺やパトラと同じ時代を生きていたような。
俺達と同じ時代から、200年前のこの世界に来たような・・・。
どうやったら確認出来るかも分からない。
そして、確認するのも少し怖いような・・・。
サタンがどこまで覚えているかも分からないが、聞くだけ聞いてみようと思った。
パトラのついでに。
だから最初の質問は・・・。
「獣神サンダーライ◯ーって知ってるか?」
これしか無い!