50話
「で?パトラさんよ、何があった?」
「本当の所は私も分からないのよ?」
「極楽鳥の影響か?」
「おそらくね。ジークのソレも同じでしょう?」
「俺は・・・極楽鳥の魔力を使って、自分で生やした」
「生やした?自分の意思で?・・・ゴブリンが?」
「あの肉を食った後、自分の腹の中で暴れまわる魔力を感じてな、力ずくで抑え込んだんだ。それはいいが、今度は抑え込んだ魔力の塊を持て余してな。何となくだが、額の所が収まり易かったんだ。そのまま眠ってしまったらしく・・・起きたら生えてた。それも2本。ニョキっと」
「・・・そうだったの・・・私は・・・夢を見てたわ。確か・・・金華猫の魔力が極楽鳥の魔力を飲み込んで・・・自由自在に魔力の塊を操れるようになったわ。その魔力の塊で私を覆って、人の形を創ったの。やっぱり、猫より人間の方が・・・闘い易いと思って・・・そして、起きたらこの姿!」
「・・・そうか、分かった」
「2人だけの時だから言えるんだけど・・・」
「魔物の進化・・・だな?」
「・・・うん。幻獣の力が進化を促す・・・」
「しかも、力を取り込んだ者が『望む方向』に、な・・・」
「・・・これは、言えないわね」
「誰にも・・・な」
「ミーシャとアーシャには悪いけどね」
「あいつ等の身を守る為だ」
「・・・そうね」
「勝手に進化した、もしくは、気付いたら進化って事にしとこうな」
「分かったわ!」
「もし知性が有って害をなす魔物が、この進化法に気付いたら・・・世界がヤバくなりそうだ」
「そうね。最弱種族ゴブリンすら魔王と呼ばれる力を持てるなんて・・・まるで、神の奇跡ね」
「俺、そいつ大嫌いだ!」
「私も・・・いえ、今は分からないわ」
「パトラ?」
「そう。パトラの生き方も楽しくなって来たの」
「・・・俺は・・・」
「そうね。ゴブリン・・・だもんね・・・」
「・・・まあ、進化したかも知んないけどな」
「そうね!・・・アーシャに頼む?」
「それは・・・」
「怖いのね?・・・ま、別にいいでしょ?ジークはジークだし。ゴブリンだけど強くなったし!」
「ああ」
・・・たぶん、今は、まだ・・・
パトラと内緒話をして、確信が持てた。
俺の進化の過程が・・・。
俺は最初、とにかく身の危険を感じ続けていたんだ。
ゴブリンといえば雑魚。雑魚といえばゴブリン。
死ぬのが、痛いのが嫌だった。
だから最初は『強さ』。
体中に模様が浮き出て、魔力が増えた。もしくは魔力成長の上限が増えたんだ。見た目も威圧感が出たのだろう。
次が『髪』。
オークキングすら易々と倒せる強さを手に入れた俺は、獣人と共存、村に住み始めていた。皆は受け入れてくれてたが、鏡を見る度に自分がゴブリンである事を思い知らされていた。
そして『角』。
これは正直言って願望ではなかった。だが、荒れ狂う魔力を邪魔者と感じ、押さえ付けて俺の力にしようとした。検証はしてないが、おそらくは、極楽鳥の力を丸々吸収出来ていると思う。今も俺の体中を巡る魔力が、今までとは桁違いなのが分かる。
これからは全力を出すのはマズイだろう。
湖の失敗が可愛く感じる程の大惨事を引き起こす予感がする。
先に手加減を練習しなければならないな。
ならパトラは?
パトラは『強さ』だ。
おそらくはファンタジー世界を謳歌する者として、強い事は必須なのだろう。
一貫して強さを求め続け、幻獣になり、幻獣を越えたんだ。
『魔王より強く』か・・・。
なったんだろうな。
俺が魔王。その俺が最強生物と謳われるドラゴンを倒した。それも上位のドラゴンだ。
これが世界に認知されれば、魔物の王、魔王として申し分無いだろう。
そして、パトラは明らかに俺より強い!
つまり魔王より強くなったと実感したのだろう。
・・・人間の形に変化したのは・・・なんでだ?
闘い易いから・・・嘘臭い。
理由は、猫のままでも無敵だったからだ。
おそらく、俺にも言ってない願望が有るのだろうな。
俺はパトラの願いは分からないが、出来る事なら手伝おうと思っている。
俺が、この世界で楽しく生きていられるのは、間違いなくパトラが居るからだった。そして、これからも一緒に居たい。
・・・と思ったが、この事は子供の姿をしたパトラには絶対に言えない!
俺は断じてロリコンではない!勘違いされては困る!どっかのギルドマスターと同類と思われたら生きて行けない!
「頼む!パトラ!早く成長してくれ!」
「なっ!急にどうしたの!?びっくりしたじゃないの!」
「いや、子供の姿のパトラと一緒に居ると、何かと勘違いされそうで・・・」
「そうなのよ!私もこの姿はがっかりよ・・・」
「だってさ、パトラのキャラって姉御肌だろ?なのに美少女って・・」
「そんな・・・美少女なんて・・・」
おっと!パトラが顔を隠して照れている!
「んんっ!まあ、アレだ、猫の方が気楽だったって思う所も有るワケだ」
「・・・それも・・・そうかもね・・・」
パトラがシュンと落ち込んでしまった。
「べ、別に今の姿がダメってワケじゃないからな!?」
「そうなの?」
「猫じゃないからな・・・例えば・・・アゴを気軽に撫でれなくなったり?」
「えっ?そ、そうなの?・・・そう・・・ふーん・・・ふーん・・・んんー?・・・んー?」
何してんだ?アゴ出して。
・・・あぁ!撫でてもいいよのアピールか!
・・・いや、むしろ『撫でろ』だな。
俺は優しくパトラのアゴを撫でてあげた。
「ぐぶぶ・・・ぶふ、くぬふふぐ・・・」
・・・やっぱり・・・可愛く無い。
俺達が遊んで居るとミーシャとアーシャが帰って来た。来て早々・・・。
「ああ!ジークさん!・・・ウチにはしてくれた事無いのに・・・うぅぅ!」
「あらあら、やっぱり仲良しですね?」
「あ、お帰りー。丁度良い大きさ有った?」
「スルーなんスか?ウチはスルーなんスか!?」
「はいはい、今度な」
「ふふん!」
パトラがドヤ顔だ。さっきの変な声と合わせて、残念なヤツだ。おい、鼻の穴が広がってるぞ?
元が美少女になってるせいで、余計に残念に見えるぞ?
「はい、パトラさん!きっと似合いますよ?」
アーシャが服を広げる。
・・・な、なんだと!?
アーシャが選んだ服はゴスロリだった・・・。
「ア、アーシャ?そ、それは・・・本気なの?」
「パトラがゴスロリ?マジで?このキャラで?」
「お願いです!着てみて下さい!」
いつになく、アーシャが真剣だ。
普段はぽや~んとしている、あのアーシャが真剣だ!パトラが気圧されている!
「わ、分かったわ・・・」
ロリータ服を持って部屋に戻るパトラ。
チラチラとコチラを見ている。
俺は視線をはずす。
パトラは諦めて、部屋に入って行った。
アーシャのワクワク顔に敵わなかったようだな。
しばらくして、おずおずとパトラが出て来た。
その姿を見たアーシャは・・・。
「キャァァァ!!パトラさん!素敵ですぅぅ!」
「そ、そうかしら?」
「パトラさん!似合うッスよ!本当に似合って可愛いッス!」
「うん、本当に似合ってるよ」
「そ、そう?ジークがそう言うなら・・・」
お?またしてもパトラが恥ずかしがる。でも、本当に似合ってるんだよな。金髪の美少女のゴスロリファッション。ゲームとかマンガにいそうな位に似合ってる。
「後、3着買って来たので、着てみて下さい!」
「・・・勘弁して下さい・・・」
後で聞いたのだが、こういう服は着る時が面倒なんだそうだ。
しっかし、どっから買って来たんだ?
この街でゴスロリファッションなんて、1回も見た事が無いんだが?
「あ、そうだ!ミーシャとアーシャは極楽鳥を食べて変化は無いのか?」
「フッフッフ。ジークさん!ウチの胸を見てみるッス!好きに堪能して良いッス!」
「いや、遠慮します」
「何でッスか!?ウチに胸が出来たんスよ!」
「だからと言って、子供に興味は湧かない」
「くぅっ!無念ッス!」
「胸?ほとんど変わらないじゃないの」
「少し出て来たんス!」
「ふーん」
「アッサリと流されたッス!でも、ジークさんはウチが大人になったら・・・」
「大人になったら・・・何かしら?」
パトラの尻尾がプラズマを纏う。
そして、瞳が金色に輝く。
・・・だから、ソレ、怖いからやめて?
「きょ、今日の所はこれぐらいにしてやるッス」
「・・・そう?私もこの姿で闘う練習をしたかったのだけどねぇ?」
「ヒィィィ!!」
「はい、ストップ。後にしてくれ」
「後も嫌ッス!!」
「それで?アーシャは変化があったか?」
「あたしも・・・」
「ん?どうした?変化が無くても別に・・・」
「あたしも胸が・・・」
ついつい見ちゃった。
あれ?服の上からでも分かる位に胸が膨らんでいる気がするぞ?
ついついミーシャと比べる。
あれ?ミーシャは微妙だぞ?本当に膨らんだ?
「ああ。アーシャ『は』胸が大きくふくらんだわね。アーシャ『は』」
「ア、アーちゃん・・・アーちゃんの・・・アーちゃんの裏切りものぉぉぉ!」
「「「・・・」」」
「見るなッス!同情なんて要らないッス!同情するなら胸をくれッスゥゥゥ!」
「・・・その・・・な?ミーシャ、女性の魅力は胸じゃ無いから」
「そ、そうッスよね!?ウチは魅力あるッスよね!?」
「・・・残念だが、足りないな」
「・・・無念ッス」
哀れみの空気を入れ換えるかのように、我が家のドアが勢い良く開く!
「ジークさん!おはようございます!あっ!ジークさん、とうとう角を生やしたんですね!?」
「おお!スティー・・・ブ?」
「はい!いつものスティーブです!」
「全然いつも通りじゃないわよね?」
こいつ、またデカくなりやがった!
前回の白銀狼で一気に大きくなってたのに、今は俺の1,5倍くらいのデカさだ。
俺はゴブリンだから、他の人間達よりは頭1つ分くらい小さい。
だからといって、俺の1,5倍はあり得ないだろ!?
「スティーブ・・・俺と話をする時は離れてくれ。首が疲れる」
「ええっ!?そんなぁ!」
「もしくは屈んでくれ」
「・・・こんな感じですか?」
片足を下げてくれた。これなら、少し見上げるくらいだからマジで助かる。
「じゃ、今度から気をつけますね!・・・すいません。さっき、パトラさんの声がしたんですがどちらに?そして、この女の子は一体・・・」
「パトラだ」
スティーブが周りをキョロキョロ見回す。
「どこです?パトラさん」
「私よ?私がパトラ」
「・・・すいません。ちょっと体調が崩れたみたいなので、一度、家に帰りますね・・・」
「マテマテマテマテ!スティーブ、本当にパトラなんだ。実は、さっき起きた時に、俺達も本人もびっくりしたんだが、パトラが人間の姿になってしまっててな?おそらく、戦闘能力はほとんど変わらないと思うんだけど・・・」
「私も何が何やら・・・あっ!そうだ、アーシャ!」
「は、はい!鑑定の魔法ですね?掛けてみましょうか?」
「ちょっと怖いけどね!やっぱり、自分の事は知っておきたいわね」
「分かりました!いきますよ?・・・」
久しぶりにパトラが鑑定の魔法を受ける。
・・・アーシャの額に汗が浮かんで来た・・・。
「パトラさん。種族が・・・進化してます・・・とんでもないモノに・・・」
「・・・何かしら?」
「・・・獣神・・・」
「「「「・・・」」」」
全員が息を飲んだ。
「獣神・・・獣神パトラ・・・」
「幻獣の上が有ったんですね。でも、パトラさんは他の幻獣すら、圧倒する力をお持ちでしたからね!獣神と言われて納得です!」
「納得しないでよ・・・」
「ダメなんスかね?獣の神様ッスよ?」
「すいません、ちょっと魔法で疲れてしまったみたいで・・・」
「大丈夫?無理させてごめんなさいね?」
「大丈夫です、少し休めば楽になると思います」
「パトラ・・・様?神様ならパトラ様か?」
「や、め、て!!絶対やめて!」
「サンダーライ・・・」
「ジーク!!絶対ダメよ!?いくらジークでも、それはダメよ!?」
「・・・これは、ジークさんの種族も気になって来ましたね!?」
「「いや?」」
「えっ?あれ?気になりません?」
「「いや?」」
「そ、そうですか・・・」
俺とパトラの拒否だ。いくらスティーブでも、それ以上は何も言えなかった。
ミーシャ、アーシャは何も言わない。察してくれているのかも知れないな。前に調べた時も進化してなくてヘコんだの知ってるからな・・・。
「さてスティーブ。見ての通り、少し困っているんだ。街の皆にパトラの事を伝えたいんだが、何か方法は無いか?」
「有りますよ?と、いうか、僕が来たのは今日の宴の話ですから!宴の席で皆に伝えればいいんじゃ無いですか?」
「ああ!そうだったな!自分達の変化にいっぱいいっぱいですっかり忘れてたよ!」
「でしょうね!僕も1回忘れてましたよ」
「は、はは・・・」
おそらく、この場の全員が忘れてた。