42話
「いい歳こいて二日酔いとは・・・アーシャ、治癒促進の魔術を頼む!」
「ダメよアーシャ!ジークを甘やかしちゃ」
「くっ!たまにはいいじゃないか!?」
「パトラさん、魔術を掛けてあげましょうよ?お酒に罪はありませんから」
「私の時は激怒したくせに!」
「パトラの時は『やらかした』からだよ!あっ、頭痛い・・・」
「今回は誰にも迷惑を掛けてませんしね」
「ぐぬぬ・・・」
「じゃ、間を取って、薬草にしましょう!」
「二日酔いに効く薬草が有るのか?」
「有りますよ?今、取って来ますね!」
何故かパトラがニヤリと頷いた。
アーシャが2階の部屋に取りに行ってくれた。
ええ娘や!アーシャちゃん、ええ娘や!
俺達の家は前の間取りと似せてある。
1階が応接室とキッチン、リビング、俺とパトラの部屋だ。2階がミーシャとアーシャの部屋。更に2階には後2部屋増やしてある。
そして、向かいの家にはスティーブとグラーフが住んでいて、その隣、つまり俺達の斜め向かいにはダイクン、サイクン、サタン、コロマルが居を構えている。
スティーブの家は2人しか住んでいないが、急な泊まり客や20人程が入れる会議室を完備していて、さしずめ旅館の様な作りになっている。
ちなみにゴルドもスティーブの家に泊まった。
俺達の家だけでも広く大きくなったので、アーシャ1人では全ての部屋は管理しきれていない。早急に手伝いの者を迎えなければならないな。
なんて考えていたら、アーシャが薬草を煮出し終わったらしい。
・・・パトラが毛を逆立てて逃げて行く。
そんなに不味いのか?
俺はアーシャに礼を伝えてから、恐る恐る口を付ける・・・。
「おっ!酸っぱくてスッキリするな!最初はびっくりする程だが、慣れると癖になりそうだ」
「ジーク、それ飲めるの?」
「昔から酸っぱいのは平気だからな」
「・・・チッ、つまんないわね!」
「おかげで胃のムカつきも頭痛も楽になったよ」
「ゴルドにもプレゼントしようかしら?」
「そうですね、あたし、準備しますね」
またしてもパトラの悪い顔。
「さて、ゴルドもスッキリした様だし、軽く商談に入ろうか」
ゴルドが面白い顔をしている。涙目で口を窄めてほとんど息をしていない。
パトラ、グラーフは爆笑、スティーブは苦笑いしていた。
一段落ついた所で話を始める。
「ゴルドにはこのヤマタイの村と人間達の国とで交易をして欲しい」
「元々の仕事です!お任せ下さい!」
「スティーブ、前の村からの移住は終わっているか?」
「全員が完了しています。ただし、前の村の解体は終わって無いですね」
「え?解体の必要があるのか?」
「ジークさんの作った空堀があるとは言え、ゴブリン等の魔物が住み着いてしまうかも知れませんよ?」
「・・・待ってくれ。使い道がある」
「では、そのまま保留にしておきますね」
「ゴルド、このミスリルで、獣人の奴隷は何人買い取れる?」
バレーボール程の塊を目の前で錬成し、渡した。
「これ程とは・・・造作もなく、簡単に用意出来るのですね・・・この量であれば20人程かと思います。売りに出ている獣人奴隷のほとんどですね」
「スティーブ、獣人の何人かを補助と管理に回してくれ」
「ジークさん!ありがとうございます!獣人の奴隷解放をしてくれるんですね!?」
「と言っても、奴隷達を放って置くことも出来ないからな。前の村を有効に活用し、農業に従事して貰おうと思う。どうだろう?」
「ヤマタイの村の身内がいるかも知れません。もし、身内がいれば迎い入れても?」
「もちろんだ!」
「ありがとうございます!早速人員を決めますね!」
「次はコチラだ」
今度は拳2つ分程のオリハルコンを造る。
「ゴルド、このオリハルコンで布、魔道具、木工職人を用意すればどの位だ?」
「国に売りますか?鍛冶に売りますか?」
「俺はどちらでも構わない」
「であれば国に。ジーク様が用意したとお伝えしてもよろしいですか?」
「今回は大丈夫だ」
「ありがとうございます。では・・・魔道具は照明100、水を20、木工職人を10人、布は寝具で100組といった所ですかね」
「そんなになるのか!?」
「それはもう!いいですか?ノースティン王国が必要となると、国と国との交渉にすら使える素材と言う事なのです。この塊で小さな村であれば買い取れる程なのですよ?」
「そ、そうか・・・では、木工職人を5人にして、家事の得意な人間の奴隷を頼む」
「かしこまりました!・・・それと、ミスリルを後少し頂けませんか?王国にワタクシの部下が4人おりますが、後2人と馬車を増やしてこの村との交易をスムーズに致します。」
「この位でいいか?」
「ジーク様、大き過ぎます・・・」
「難しいな・・・」
俺はゴルドに野球ボール程度のミスリルを渡したのだが、呆れられてしまった。
明確な基準があればいいのだが・・・。
貨幣はまだ扱いたくは無いしな。
「交易の護衛料金に充てたらどうだ?」
「ジーク、信者が居るわ」
「なら、ミスリル販売の利益はそのまま貰ってくれ。ゴルド商会の力が増せば、俺の利益にも繋がる」
「ありがとうございます。・・・信者?パトラ様、信者とは?」
「うふふ・・・ジークの魔法は聞いたわね?実は王国から文官と兵士が来たらしいの。その兵士の髪が可哀想でジークが髪を生やしてあげたのよ」
「・・・それに喜び、ジーク様に従っていると?」
「それだけじゃ無いわ。他にも王国に居る同胞を勧誘しに行ってきて、今では30人位いるわ」
「分かります。王国の兵士達は民を守る為、分厚い甲冑を着込んでいて、頭皮が損傷を受けています。民を守る者が民から指を指される。ワタクシも痛ましく思っておりました」
「そんなに大勢なのか?」
「8割の兵士が不満を持っているでしょうね」
「・・・ヤバいかも・・・」
「まあ、その信者達は功績があった者だけに髪の魔法を掛けると決めてあるの。ジークの一言で何でもやるわよ?国も滅ぼす勢いでね」
「おぉ・・・軍の力すらジーク様の前には利用されるのですね・・・恐ろしい!」
「滅ぼす予定は無いから!」
「私とジークの指示を『カミのお告げ』として待ちわびてる位よ。信者と呼んでも過言ではないわよね?更に信者を扱う時は腕を確認しなさい?」
「腕ですか?」
「ジークの模様とそっくりなタトゥーを入れてるのよ。信者かどうか一目瞭然よ」
「・・・もはや信者というより狂信者では?」
「否定は出来ないわね」
なんとも言えない空気が漂う。
「ついでに言うと、バートン達が、また勧誘に遠征中だ」
「バートン?まさか特務隊長ですか!?」
「知っているのか?確かに隊長と呼ばれていたな」
「おっふ!その人は特務隊の隊長だと思いますよ。軍のナンバー3ですね。トップは王国近衛団長。通称団長です。ナンバー2が王国兵士団総長。この人が通称総長です。それぞれに軍や隊をまとめて居ます。特務隊は少数精鋭で有名ですよ?」
「・・・弱かったけど?」
再び、なんとも言えない空気が漂う。
「やはり規格外ですね、ジーク様は」
「バートンは総長に恨みを持っているようだったな。総長の命令で鉄仮面を装着していたようだったからな。そして、総長は損傷では無く、自前の薄毛らしいな」
「すいません。そこまでは存じ上げません」
「多分、軍でも上の方しか知らないんじゃないかな?他の兵士はそれぞれ、直属の上司の命令だからな」
「・・・これは・・・国が割れかねない・・・」
「大袈裟だなー」
「大袈裟よねー?」
「分かりました。その辺りも念頭において活動する様にしましょう」
「ああ、気を付けてくれ。まずは護衛に3人付ける。腕が立つ者を用意させるから後で活躍した者を連れて来てくれ。そうするとゴルドの命令も聞く様になると思う」
「私もそれで小間使いが増えたわ」
「事も無げに・・・ま、ジーク様ですからね」
「うん、慣れてくれ」
「前向きに検討します」
「あっはっは!ここで『お約束』か、はっはっはっはっは・・・」
ゴルドの知識、人徳、交渉力。どれも一級品だ!
俺はパトラの次に信頼出来る人が出来て上機嫌に浮かれていた。
次の来客が来るまでは。
「ジークさん、バートンさん達が見えました。が、すいません、外まで来てもらえますか?」
「分かった」
軽く、嫌な予感が走る。
「ジーク様!この者達を使ってやってくれませんか!?皆、カミの御業を待ち望む者達です!」
そこには5、60人が整列していた。
嫌な予感的中!
あれ?女性も居るぞ?7人か?
「パトラ、女性を先に救ってあげたいんだが?」
「大賛成よ!女性は女性として生きる事が難しくなるのよ・・・可能なら今すぐ癒して欲しいわ!」
「と、いう事でバートン。契約を違えるがいいか?」
「ジーク様の御心のままに」
「すまないな。では女性は先に術をかける。もちろん、その後はしばらく働いて貰うからな」
「ありがとうございます!実は私も僭越ながらジーク様に奏上しようと考えておりました。パトラ様も口添えを頂きありがとうございます!」
深々と頭を下げる一同。そんなのいいからちゃっちゃといこうよ。
「ではアーシャ、いつもの様に1人ずつ中へ」
「分かりました!」
やはり、髪が薄いのはいつの世も、いつの時代も苦労しているんだな。
女性達は涙を流しながら、晴れやかな笑顔で俺に礼を言う。
一通りの仕事が終わって外に出てみると・・・。
女性達が跪き、声を揃えて。
「ジーク様!ありがとうございます!」
そして、驚愕の言葉。
「これよりは生涯、ジーク様に身も心も捧げます!」
「これからは昼も夜も、いかなる時もお申し付け下さい!」
「もはや奴隷として扱われても満足でございます!」
「私達で良ければ、ジーク様のお側に!」
「忠誠は体で証明致します!」
「ご要望があればどの様な事も応じます!」
「むしろ、ジーク様が調教して頂ければ幸福に包まれるでしょう!!」
やめて!俺の貞操がヤバい!
名前も知らない女性達に奪われかねない!
喜んでゴブリンの奴隷に身落ちするなんて、何を考えているんだ!?
ほら、パトラがキレている!
あれ?何で俺を睨んでいるんだ?
俺、悪く無い!
・・・悪く無いよな?




