40話
「ジーク様!我々は貴方様に救いの手を差し伸べて頂きました。しかし!敵国ノースティン王国には、滅亡の刻を怯えながら待ち続ける憐れな同胞達が大勢住んで居るのです!どうか!彼等を救っては頂けないでしょうか!?何卒!何卒お願い致します!!」
どうしてこうなった?
俺は間違ってしまったのか?
特別、やり過ぎた感は無いんだが・・・。
「その前に、ちょっと待て。俺はノースティン王国に喧嘩を売った覚えは無いんだが?」
「こ、これは失礼を。まず、ノースティン王国の戦略から説明させて頂きます」
「頼む」
「奴等はジーク様の情報をグラーフ殿、正式には冒険者ギルドから提供された際に、大きく揉めました。ジーク様と共存を求める王族の多くが籍を置く穏健派、ジーク様を討ち滅ぼそうとする強硬派、さらに先程の2人はジーク様を手元に置こうとする改革派です。今はまだ、強硬派の力が大きく、戦争を仮定して進めていました」
「改革派って、俺を飼い慣らす事が改革なのか?」
「いえ、改革派とは元々、今の王国へ不満が有り、次の国王を選挙で選ぶべきだと主張する連中です。改革派は人数は少ないものの国でも有数の権力者が在籍しています」
「強硬派とは違うのか?」
「強硬派は主に軍の同胞達です。しかし、これは程無く瓦解するでしょう!ジーク様の御威光によって!」
「どういう意味だ?」
「先程も申し上げた通り、滅びの風からジーク様が皆を救って頂ければ!きっと皆も開眼し、正気に戻るでしょう!」
滅びの風とは・・・ハゲの事だろうか?
俺が毛を与えれば正気に戻ると?
むしろ、バートンの方が状態異常じゃないか?
混乱という名の状態異常な。
「俺が封印された邪法を使うのは構わないが、それで、寝返るとは思えないんだが?」
「邪法などと・・・ジーク様の御業に触れ、我々は開眼出来ました!恐れ多くもご謙遜や心配には及びません!そして、我々は日夜、1日、1日とすり減って行く魂魄を見送りながら涙しておりました・・・必ずや!我等の力となってくれましょう!」
いちいち言い方が芝居掛かっているんだよな。
ハゲを哀れんでるだけだろ?
なんか仲間を増やしたがってるけど大丈夫かな?
まずい事態になったら全滅させようかな?
相手すんの面倒だし。
ちょっとサタン風に振る舞っておくか・・・。
「良かろう。思う通りにするが良い。ただし、俺の技を無条件に流布する事は許さん。・・・そうだな、これからは俺の役に立った者に対しての褒美としようか」
「御意!!」
バートンは深々と一礼の後に下がって行った。
「ジークさんの思惑通りッスか?」
「そんなワケないだろ!俺もワケ分かんないよ!何で髪の毛を生やしたら開眼すんの!?悟りを開くの!?何で簡単に祖国を裏切っちゃうの!?王国の兵士ってアホなの!?」
「それだけ嬉しかったんスねー」
「俺はハゲに同情しただけなのに・・・」
しばらくしてからパトラ達が帰って来た。
アーシャがかなりくたびれている様だ。
「皆、ご苦労さん」
「お待たせしましたジークさん」
「ジーク、まずはダイクンとサイクンの報告からよ」
「材料はたっぷり仕入れて来たよ!」
「グラーフさんが頑張ってくれたんだよ」
「オレは店の紹介をしただけだ。目利きは双子が、交渉はパトラがやってくれたんだ。もう一匹の金華猫は何もしてないけどな!」
「そうね、サタンは行くだけ無駄だったわね」
「何を言うか!我も働いたぞ!金獅子の姿で交渉中に威圧したりな!」
「・・・手は出して無いだろうな?」
「も、もちろんじゃ!」
「街にも迷惑を掛けて無いだろうな?」
「それは、そのー・・・」
「コイツは金獅子の姿でアーシャを護衛してたのよ。おかげでちょっかいを出す不届き者は居なかったわ。だけど・・・」
「だけど?」
「コイツ自身がアーシャにちょっかい掛けてたの。度が過ぎたからちょっぴり叱っておいたわ」
「街中でな。言う事を聞かないサタンがパトラに吹っ飛ばされてしまって大騒ぎだった」
「サーターンーくーん?」
「主殿!誤解である!我はアーシャを気づかってだな・・・」
「アレは無いよな」
「しつこかったわね」
「・・・」
「・・・舞い上がってしもうた。すまぬ!しかし、グラーフこそ!」
「オレは何もしてない!」
「この脳筋ハゲは馬鹿みたいにアーシャに貢いでいたわね。食べ物とか服とかね。挙げ句の果てに自分の家の隣に家を買おうとしてたわ」
「おい、本当か?」
「・・・舞い上がってしまった。すまん」
「それで、アーシャが疲れ果ててるんだな?」
「「誠に申し訳ない!」」
「あ、あたしは大丈夫ですよ」
「・・・パトラ、お仕置き」
「任せて!」
パトラは楽しそうに1人と1匹に雷撃を喰らわせている。弱い威力でじっくりと・・・。流石だ。
「「サーセンシタ」」
1人と1匹がアーシャに向かって綺麗に土下座を決めた。
アーシャは困った様に苦笑い。
この位で許してやろうか。
「ジークも予想してたでしょうに」
「パトラも楽しんだ様だな」
「あら?心外ね。私はお仕事を頑張ったわよ?」
俺達は顔を見合って笑う。あまりに予定通りだったからな。
俺達をポカンとした表情で皆が見ている。
俺は咳払いを一つして場を改める。
「では、こちらの報告だ。まずは湖からの川を2本作り終わった。住宅予定地の近くに1本と農地に1本だな。今は住宅予定地に用水路を作る為に土地の精査中だ。あ、用水路ってのは生活用の水路だ。地上に綺麗な水を、地下に汚水を流す予定だ。スティーブが担当してくれている」
「下水道ですって?・・・かなり進んだわね」
「そして・・・ノースティン王国から文官と兵士達が来た」
「兵士が!?どうしたの!?」
「えーっと・・・。何と言うか・・・部下になった」
「はい?」
「兵士達が俺の部下に寝返って、文官は怯えて逃げて行ったんだ」
「な、何があったのかしら?」
「禁断の魔法を使ったんだ」
「禁断の魔法・・・まさか!?」
「そう、アレだ。絶望から救ってやったんだ」
「・・・兵士達は・・・もしかして不毛の大地に?」
「いや、徐々に滅びつつあったようだな。今は同胞達を救う為に再度、王国へ遠征中だ」
場にいる皆は困惑の表情、怯えの表情、心配の表情で俺とパトラを見ている。
何の事か分からないが、とても恐ろしい事が起きているのか!?そんな表情だ。
いや、ただの毛根の話なんだけどな。
パトラの理解がやたら早い。
やっぱり俺の相棒だな!
それから簡単な小屋を作り、アーシャの亜空間から資材を出してもらった。
アーシャはついでにグラーフが買い与えた品々も出して行った。
要らなかったらしいな。
明日からは家作りチームと水路チーム、農地チームに別れて作業を進める。
家作りチームは俺とダイクンとアーシャ、弟子達。
水路チームはスティーブとサイクン、グラーフ、俺。
農地チームは基本的に村人達だが、ミーシャ、サタン、コロマルが護衛をしつつご飯を狩る。
俺は水路の計画段階までは参加して作業は他の奴に任せる予定だ。
グラーフは3日に1度のペースでギルドへ顔出しをしているらしい。朝に出掛けて夜中に戻って来る。
よっぽどアーシャから離れたくないらしい。アホだ。
双子の弟子達もどんどん仕事を覚えていった。大工道具が足りずに仕事が滞り、ミーシャに粘土をこねてもらった程だ。今では手分けして、それぞれが作業をこなしている。
それから20日程たっただろうか。
パトラ、ミーシャに連れられてバートン達が仲間を連れてやって来た。
ぞろぞろとハゲ散らかしたオッサン、いや若いのか?
髪が少ないと老けて見えるな。そいつらが作業小屋に入って来る。30人くらいだろうか?小屋が狭い!
「ジーク様、まずは10名の同胞に声を掛けました」
「明らかに、もっといるんだが?」
「同胞同士で手を取り合った結果です。王国には救いを求める同胞がまだまだおります!」
「契約は皆に伝えているのか?」
「もちろんでございますとも!ジーク様の役に立った者だけに、神の御業が降り注ぐと!」
「神の御業・・・髪の?・・・まあ、いいか。そうか、分かった」
「ジーク様!我々にはどのようなお告げが!?」
お告げ?神の?コイツらは俺を何だと思ってるんだ?
パトラが面白そうにニヤニヤ笑う。
「そうだな、俺から指示を出す前にお前達に頼みがあるんだ。今、俺達はこの地に村を作っている。獣人達と一緒にな。まずは獣人と喧嘩をしない事、仲間同士で争わない事を誓ってくれないか?」
「「「喜んで誓います!」」」
辺りを震わす程の大音声で答えてくれた。安心だ。
「ならば、これからは村作りを手伝ってくれ。苦手な者は金華猫のパトラの指示に従って皆の食事を狩りで取って来てくれ!」
「「「承知致しました!」」」
何だか決起集会みたいな雰囲気だな。
力み過ぎて問題が起こらなければいいが・・・。
来てくれた兵士達はほとんどが土木、大工の作業に入ってくれた。普段から砦の修復や建造等も訓練の一環だったそうで、本職には及ばないものの、手早く作業をこなしていった。
兵士達が増員され、更に20日が経った。
最近では、ダイクンが作業から抜けて皆の監督や指示に時間を使っている。師匠っぷりがサマになってきたようだ。
俺とサイクン、スティーブも指示に回る事が多くなっている。
俺は空いた時間に見廻りをしつつ、褒美を与える兵士を見定めていった。
今のところは6人。いずれもバートンが直接、声を掛けた剛の者達だった。バートンは仲の良い者だけではなく、俺の役に立ちそうな者にも白羽の矢を立てていたらしい。
皆の協力で、ようやく家が皆に行き渡ったようだな。
用水路は家を建てる前に巡らせたので下水道も簡単に完備出来た。川に用を足す感じだが、今まで使っていた土の穴よりは全然マシだろう。
村からかなり離れた場所に浄化槽も建造した。と、いっても体育館程の広さで深さの2メートル位の浅いダムを作っただけだが・・・。使い始めて2日でスライムの群生地となっていた。絶対にここのスライムは食べない様に厳命しておいた。
仕事が落ち着いて来た頃、バートンが訪ねて来た。
「ジーク様に許可を頂きたく参りました」
「許可?何か申請されてたかな?」
「いえ、こちらをご覧下さい!」
バートンが自分の腕を捲り上げる。
そこには、俺の模様を模したようなタトゥーが入っていた。
「こちらを魔王ジーク様への信仰の証とする許可をお願い致します!」
「ああ、構わない」
「ありがとうございます!それでは失礼致します!」
ん?タトゥー入れてみた報告なのかな?
信仰なんて大袈裟な言い回しをしてたが、あいつは普段から芝居掛かった口調だからな。髪が生えて浮かれちゃったか?オシャレにも気を使い始めたか?
しかし俺の模様に似せる必要はないだろ。皆から邪悪、禍々しいとか言われてるんだがな。本人が気に入ったなら好きにすればいいか・・・。
そして次の日、朝から村にいた兵士全員がタトゥーを入れていた。
・・・俺はドン引きした。




