39話
魔物の進化って何だろう?
パトラはケットシーから金華猫に進化した。
俺は異常に強くはなったがゴブリンのまま。
コロマルはオークキングの肉を食べて白銀狼に。
元々の素質だろうか?
獣人も多様だ。
ミーシャ、アーシャは見た目の変化は無いと思う。だが、身体能力、魔力は桁違いに強化されている。
スティーブは外見がデカくなった。そして、身体能力もかなり向上しているらしい。
・・・このように。
「スティーブ、筋肉増えたみたいだな」
「ヤバいッスよ?ベヒーモスとかアースドラゴンとかみたいッス」
「照れるね!そんなに褒められると」
俺とミーシャは目が点になっていた。
俺の作ったクレーターが湖になろうとしている中で、スティーブはそのクレーターの内側から丸太で穴を空けている。力ずくで・・・。
「何をどうやったら丸太でトンネルを掘れるんだ!?」
「トンネルって何ッスか?」
「土の中を貫通させる穴の事だ。今みたいに水を通したり、人が通れる穴を開けたりするんだが、崩れ落ちる危険が付きまとうモノだ。もちろん、俺の魔法で今回は危なくは無いけどな」
「これ、トンネルって言うんですか?溝を掘るより簡単かな?って思いまして」
「このまま村まで地下を堀り続ける気か?」
「いえ、少し行った所で元々の川に合流する予定です」
「他の所は溝にしてくれ」
「分かりました!」
スティーブは丸太2本をドリルの様に回転させて穴を掘り続ける。スティーブに頼まれて丸太に硬質化の魔法を掛けてある。
確かに岩盤よりは硬くなっているだろうが、物理法則を無視しているとしか思えない。
俺なら2本の丸太を抱えるだけで精一杯だろう。
「熊の獣人って恐ろしいな」
「ジークさんのお陰ですよ!白銀狼の美味しい肉を頂いて、こんなに力強くなりました!」
と言いながら開通。せっかくなので丸太はスティーブにプレゼントしよう!
家に置いても無駄だしな。
さて、次の日は手伝いの村人6人で湖から新しく川を引く。
もちろん普通は不可能だ。
それをやるのはこの俺、魔王ジークだ。
穴掘り魔術で溝を作り、さらに硬質化魔法で金属並みの硬さに整える。
村人達でルートの確保と高さの確認、それから細かい整形を手伝ってもらう。
作業は順調だな。
土木工事ならお任せ下さい!魔王ジークがお客様のご希望に沿ったプランを提供致します!
ご用命はヤマタイの村、湖畔のジークまで!
・・・これを仕事にするのもアリか?
アホな事を考えながら作業を進める。
予定では村の畑を通るようにしてある。川から簡単に水を汲めるように作る計画だ。最後は元の川へ合流させる。氾濫の危険が無いように、村を通り越してから合流させるのだ。
スティーブが感心しながら称賛する。
「ジークさんの魔法は便利ですよね!」
「湖を作っちゃう程ッスからね!」
だから、何でミーシャが誇るんだ?そのドヤ顔はどうした?鼻が膨らんでるぞ?ブサイクだぞ?
「今日は、この川を作ったらおしまいだな」
「1日で川が・・・」
「これがジークさんですよ!」
ミーシャ、無い胸を張っても切ないよ?
お前は働け。ドヤ顔はもうお腹いっぱいだ。
「何とかなりますね!湖がいっぱいになる前に川を作るなんて、どうなる事かと思いましたが」
「問題は湖のほとりなんだ」
「と、言いますと?」
「俺は村に小川をいくつか作りたいんだ。用水路っていうんだが、地面より上に飲み水を、地下には汚れた水をそれぞれ流すモノだ」
「・・・ではサイクンに協力を求めましょう。僕達は土地の精査をしておきますね」
スティーブは察しが良いな!
今の説明だけで大まかに想像して、必要な人材に手を借りる。
素晴らしい!まさに村長に相応しい能力だ!
戦闘力だけではない、将来性のある優秀な獣人だと、改めて思った。
夕方になり、サイクンは居ないが、帰ってきたらすぐに作業を始められる様にと、スティーブと打ち合わせの時間。コロマルが狩ってきた猪を食べながら明日以降に流れを確認。
普通にミーティングだな、これ。
社長と監督、現場の意見交換。土木工事の内容はお粗末だが、職場としてはもの凄くしっくり来るぞ?これで報酬が有ったら仕事として成立するんじゃないか?
それから2日、試行錯誤を繰り返し、ヤマタイの村候補地にはインフラが整えられていった。
パトラ達が買い出しに出掛けて4日目。
ずいぶんと騒がしい連中が来た。
8人の人間達だ。
2人は商人風、もしくは役人風。
残りの6人は甲冑を着込んでいる。西洋式のフルプレートといった感じだ。重くないのか?蒸れないか?
「珍しい客が来たようだな?」
「貴様が魔王ジークか?本当に言葉を・・・ゴブリンと聞いていたが、髪の毛と、その禍々しい模様は何だ?」
いきなりな挨拶だな?
グラーフがいうには、国は俺を取り込みに掛かるだろうと予想していたが、この感じでは討伐を選んだか?
「お前らは何の用でここまで来たんだ?」
「魔物に教えても知っているか分からんがな。我々はノースティン王国の者だ。この方はザイス様。王国の重鎮であるぞ!頭が高い!」
「だからどうした?」
「貴様がどのようなイカサマをしたかは分からんが、魔術で湖を作ったと聞いてな。監査と捕縛に来てやったのよ!」
「捕縛だと?この俺を、か?」
「先程から貴様は自分の立場を理解しているのか?いや、無理も無い。何せ魔物だからな!」
「「はっはっはっ・・・」」
殺しても良いかな?
パトラなら殺ってるな。間違いない。
「立場ね。俺は魔王との事だが?人間の言う事を聞く義務は無いだろう?」
「義務、と来たか!いくらかの知性は有るようだな」
「ならばどうした?」
「ちょこざいな!挑発のつもりか!?」
「どっちがだよ・・・」
「王国守護兵にゴブリンが敵うとでも?笑わせる!」
「・・・俺は今忙しいんだ。これ以上の話し合いはしたくない」
「話し合い?違うな!これは命令だ!我々に捕縛され、奴隷として飼ってやる!」
「拒否する。面倒だ。殺して良いか?」
「兵士共よ!この生意気なゴブリンを少し痛め付けてやれ!・・・殺すなよ?」
兵士達が構える。槍、剣、大盾。2人ずつで連携も取れてそうだ。
だが、遅い。
俺は布に包んだままのフリードで槍と剣を叩き落とす。いや、加減を間違えて粉砕してしまった。
盾はミーシャが連撃でズタズタに切り裂く。
ミーシャは客が来たときは基本的に喋らせない。俺の後ろで警戒させているから、いざという時には素早く対応出来る。
何より、アホの子だから、交渉中は邪魔なんだ。
「そんな・・・王国守護兵がわずかな間に・・・」
「殺して無いがな」
「オレ達は素手でも戦えるぞ!」
兵士達は鉄仮面を脱ぎ捨て、構える。
・・・だから、甲冑が動きの邪魔だろう?
半分の、3人の腕の骨を折る。
悪意を持って接して来た相手だ。優しくする必要は無いだろう?こっちは魔王だし。
改めて、兵士達の顔を見る。
・・・ハゲだ。
頭頂部からハゲている。いや、ハゲ散らかしている!
そっか、あの重い鉄仮面を支えているんだ。そりゃハゲるわな。そして、本当に蒸れるのだろう。
「ハゲばっかりじゃねーか!」
「・・・ぬぉ!こんのぉ!無礼者めがぁぁ!我々の誇りを侮辱しおってぇぇぇ!」
キレた!
ハゲ、気にしてたみたい。
「誇り?ハゲが?」
「我々の訓練の成果だ!来る日も来る日もフルプレートで訓練!訓練!訓練!雨の日も!暑い日も!蒸れる日も!耐え続けて!今に至るのだ!」
顔を真っ赤にして怒鳴りまくる。
本当に怒ってるのか?それとも・・・。
「よりによって、ゴブリンのくせに髪を生やしやがって!我々は・・・我々だって・・・」
泣いちゃったよ。
悲しいんだな、ハゲ散らかしてるのが。
「き、貴様等!何をしておる!?ゴブリン如きと何の話をしておるのだ!?」
「うるさい!お前ら文官には決して分からないだろうな!?この苦労が!この魂の苦痛が!」
仲間割れしちゃったよ。
少し不憫になって来た。
俺もゴブリンになって髪を失い、茫然自失となった。
あの絶望を思い出して、俺は・・・俺は・・・。
「お前達に話が有る」
「ゴブリン風情が!」
「お前達・・・髪が欲しいか?」
普通の魔王なら『力が欲しいか?』だろうな。
「な・・・何だと?」
「ええい!惑わされるな!魔物の甘言だぞ!」
「お前達は自らの修練の為とはいえ、髪を失う必要は無かったはずだ。例えば今の様に鉄仮面だけを外して訓練すれば良かったはずだ」
「くっ!だが!・・・だが上官の命令は絶対だ!」
「その上官とやらもハゲて居るのだろ?」
「も、もちろんだ!我々の様に訓練すれば、ほとんどの者が頭皮を痛める!」
「本当に?」
「どういう事だ!?」
「上官が、いや、もっと上の立場の人間が、ハゲなんじゃないか?しかも!先天的なヤツな」
「・・・確かに、総長は・・・ぬ?あの方は兜を着けて無いのに薄い・・・まさか!?」
「おそらく、その通りだ。髪が有る人間が羨ましくて無理矢理に仲間を作ったのだろうな」
「な、何だと!・・・あの腐れ外道め!許さぬ!許さぬぞぉぉぉぉ!!」
吼え猛る兵士に文官2人は恐怖で絶句している。
「落ち着けよ、同胞」
「何だと!?ゴブリンが・・・同胞だと!?」
「ああ、そうだ!俺も以前は他のゴブリンと同様に髪が無かった。後ろから見たら泥団子だったよ」
「・・・何が言いたい?」
「今は、俺に髪が有る・・・気にならないか?」
「もちろんだ!どうやったら・・・いや・・・無理だろう。魔物の変化や進化は稀に起こるだろう。しかし、人間は・・・人間には無理なのだ!」
「無理では無い!」
「「「な!!!」」」
「俺には手段が有る」
「信じられるか!」
「俺の髪が雄弁に物語っているだろう?」
「・・・話を聞かせてもらおうか?」
落ち着いた兵士達に、文官が罵声を浴びせる。
「貴様等!いい加減にせんか!魔王を名乗るゴブリンの捕縛が貴様等の使命だぞ!?」
兵士達は完全に無視して、俺の話を待っている。
「俺はお前達に髪を生やせるかも知れない」
「な・・・何だと!?」
「ま、信じるかどうかは任せるがな」
「ぬぅ。髪が・・・髪が生えるだと?被せるワケでは無いのか?しかし、この滅びの時を迎えた毛根が、今更ながら復活するとは・・・」
「やってみなきゃ分からんがな。そこで、だ。俺も秘技を駆使する事になるワケだ。ならば、お前達は何かを差し出せるか?」
「髪が!髪が生えるなら!魔王に魂を売り渡そう!!本当に髪が生えたら忠誠を誓う!!」
「貴様等は何を言っておる?」
文官はもはや、置物と化している。
「良いだろう。ミーシャ、小屋に1人ずつ順番に案内しろ」
「分かったッス!」
そして、俺は小屋に入って来た兵士1人1人の後ろに立ち、封印された邪法を行使していった。
髪が生えた兵士達は皆、髪を恐る恐る触り、鏡を見て泣き濡れた。
分かる、分かるぞ!その気持ち!
「魔王ジーク様!我々は貴方様に心からの忠誠を誓います!!」
部下が出来ました。厳つい6人の兵士達です。
主に交渉していたのは隊長でバートンというらしい。
あっさりと王国を見捨て、ヤマタイの為に働く事を誓ってくれた。
髪の毛の為に国を裏切ってくれたのだった・・・。
それで良いのか王国守護兵。
ついでに言うと、文官達は怯えながら村から去って行った。




