36話
「パトラ、グラーフに頼んで人間にも手を借りるってどういう事だ?」
「そのままよ?皆で湖の淵を整形してるの」
「魔王に手を貸すのか?」
「ほらね!アーシャ、言ったでしょう?」
「ん?」
「パトラさんとサタンさんは根本的に勘違いしてたんです」
「勘違い?」
「ジークさんもですか?」
「俺も?」
さっきから話が見えて来ないからオウム返しだ。
「ジークさん。魔王とは何者です?」
「魔王って言ったら・・・魔物の王、怖い人?」
「そっちの世界はどれだけ危険なんです?」
「いや、世界は・・・俺達の居た国は結構平和だったな」
「なら、この世界は?」
「油断すると命を失う危険な世界かな?」
「魔王・・・魔物の王。なら、魔物の中で1番強いのでは?」
「・・・何が言いたいんだ?イマイチ分かって無いんだが・・・」
「ジーク、私達は間違っているの」
「何を?」
「何故、魔物の中で1番強いからと言って、人間を攻撃しようとするの?」
「それは・・・」
「・・・そう!・・・私達の勘違いよ」
「主殿、人間達は我等の敵にはならないし、敵に回らない。むしろ、敵対したがらない」
「・・・は?」
「ただでさえ危険なこの世界で、今まで以上に強い敵と戦いたい人は居ませんよ?」
「それはそうだが・・・」
「それとも、ジークさんは・・・まさか、世界を手中に納める気ですか!?」
「ジーク。私は付き合うわよ?」
「パ、パトラさん?本気ですか?」
「私はジークと一緒に歩むわ!ジークが世界を滅ぼすなら、喜んで世界を蹂躙するわ!」
「ジークさん!!何とか言って下さい!!お願いじまず!ばどらざんが、ばどらざんがぁ」
「しません!世界に侵攻とかしません!」
「よがっだ!ぼんどうでぃよがっだぁ」
「アーシャ、泣くなよ!いいか?俺は『間違って』村を潰しただけだ!事故だ、事故!俺が世界を攻撃する気は微塵も無い!」
「ばび、ばび!ぼんどうでずね!?」
「本当だ!安心しろ!だから落ち着け!」
「ぐずっ!・・・はい!」
「チッ!つまんないわ!」
「パトラ、お前の方が魔王に向いてると思うぞ」
「私も、そう思うわ!」
なんという事だ!
俺達の思う魔王はファンタジーだった!
この世界では手を出さなければ危険は無いと見なされているのだ。
そりゃ、多少はトラブルが有りそうだがな。
「ところで、アーシャの新しい魔法は試したのか?」
「先に自分に鑑定の魔法を使わせたわ」
「おお、なるほどな」
「凄い魔法だったわ!チート級ね!鑑定魔法も合わせたら、そこらのラノベの主人公よ!」
「勿体ぶるねぇ!ちょっと期待のハードル上げちゃうよ?」
「乗って来たようね!なんと・・・亜空間よ!!」
「本当に!?凄いじゃん!!人生勝ち組確定だな!」
「そ、そんなに喜んでもらえるとは・・・」
「羨ましいな!俺なんて・・・俺なんて・・・」
「ジーク、いいのよ?泣いてもいいのよ?」
「何があったんです?」
「「絶対言えない」」
「・・・本当に仲良しですね・・・」
「アーシャ殿。それでは我が・・・」
「お黙り!」
「むむむっ!」
コソッとパトラに確認。
「それで、アーシャの魔法の効力は?」
「今のところは、なんだけど半径10メートルって所ね。魔力の消費は空間を拡張する時だけが膨大に負荷が掛かるみたい。物の出し入れはほとんどノーリスクよ?」
「一応聞くが、生き物や時間経過は?」
「残念ながら生き物は入れる事が出来ないわ。時間経過は通常レベルね」
「俗に言うアイテムバッグみたいな感じか?」
「そうね。時間経過しなければ食事は一切気にしなくて良かったんだけどね」
「そこまでいったら、アーシャも魔王になってしまうからな。あ、重さの制限は有るのか?」
「ふふふっ!なんと、『無し』よ!」
「やっぱり、チートだな」
「そうね、主人公クラスね」
俺とパトラはアーシャ本人に聞こえない様に話をしている。
何故か?
それは、アーシャ本人が有効性に気付けば、本当にラノベ状態になりかねないからだ!
特殊な能力は多分、本人の人生を変える。
俺達の言えた義理では無いがな!
なにせ、既に滅茶苦茶にしてるからね!
「そうだ、ミーシャは?」
「魔法の練習よ。ミーシャも2つ目の魔法を覚醒してみたいんだってさ」
「そうか。魔力量が増えたら覚醒するかもな」
「でも、今の所、私達は1人で2つまでしか魔法を発現してないのよね?3つの人とか居るのかしら?」
「さてな、今度グラーフに聞いてみようか?」
「そろそろ来る頃よ、その脳筋ハゲが」
「・・・そうか。俺を魔王指定したギルドマスター様が、ここに来るのか・・・」
「何を考えてるの?ある意味で良い顔してるわよ?」
「俺が意識を失っている時に好き勝手したハゲ頭が来るのか・・・ふふふ」
「あーあ、あいつ死んじゃうかも」
それから間もなく、奴が来た。
何故か満面の笑みで。
「ジーク殿!お目覚めですか?」
「おお、グラーフ君!俺の事を『勝手に』『魔王』に認定しやがったグラーフ君じゃ無いかね?いやぁ、無事で良かった!俺が意識を失っている時に断り無く話を広めたグラーフ君!良く、俺の前に首を洗って出てきてくれたね?準備は良いんだね?」
「はっ!?えっ!?いやっ!?あのっ!?」
「何か言う事は有るのかね?」
「サーセンシタ」
土下座。
それは、己を殺し、相手を心から尊重する事を態度で示す。最上級のへりくだり。
「全く。パトラに聞いて本当にびっくりだ」
「オレもだよ!魔術の力加減を間違えて、村を1つ消滅させるなんて、聞いた事も無いんだ!そりゃ騒ぐだろ!?」
「んで?俺の名前を出しちゃった?」
「サーセンシタ」
2度目。
分かれば良い。人間、他の人を責めるのは程々にしないとな?
あ、俺、ゴブリンだから無視でいいか?
心を崩壊するほど責めてもいいか?
やっぱりダメ?
「はぁ。もうやっちまったのはしょうが無い」
「本当にすまなかった!俺も慌ててたんだ!」
「それで、人間達の反応は?」
「魔王ジークは不可侵」
「近寄るなって事か?」
「そうだ。ギルドは、な。これから国も動くだろう。恐らく、討伐より取り込みに動くだろうな」
「何故だ?俺はそこが1番気になるんだが」
「信じて貰えないかも知れないが、この俺でもノースティン王国では5本の指に入る強さだ」
「・・・うん。信じられない」
「いや、分かっている。あの白銀狼を瞬殺したパトラや魔術1つで地形を変えるジーク殿には信じられないだろうな」
「本当・・・なのか?国が・・・俺に敵わないと?」
「・・・本当だ」
「まさか!ゴブリンごときに人間達が敵わないと思うのか?パトラを追い出した人間達が!」
「本当なんだ!オレ達は・・・無力だ・・・」
「・・・すまない。そこは責める気は無かった」
「ジーク殿は悪く無い」
「ジーク、私はもう気にしないと言ってるのよ?」
「俺が気にするんだ」
「うふふ、嬉しいわ!でも、今は本当にどうでもいいのよ?」
「パトラ、頼むぞ!パトラ次第でジーク殿の気持ちが揺らぐかも知れん!」
「待て、むしろパトラの方が人間を滅ぼすのを楽しむタイプだ!」
「私はほんのちょっぴり、強い敵と闘いたいだけよ」
「・・・確かに、こいつの方が危ないかも」
「シャァァァァ!!」
「サーセンシタ」
本日3回目。
「しかし、不可侵と言われてもな」
「何な問題か?」
「ここに村を作りなおそうと思ってた」
「おっと!簡単に言ってくれるなぁ?」
「スティーブ達の居る村程度ならすぐだろう?」
「年単位だろ?」
「俺とダイクン、サイクンなら2日で家一軒だ」
「・・・マジで?」
「あいつ等、言って無かった?」
「聞いて無い!ジーク殿の称賛は耳にタコが出来る程聞いたがな!」
「ともかく。これからはこの辺りが村となる予定だ」
「名前はどうする?」
「名前?」
「ジーク殿の事だ、恐ろしい勢いで繁栄させるだろ」
「買いかぶりだよ」
「ジーク、私もそう思うわ。私達の知識と魔法、魔力ならね」
「・・・そうか。今は目の前の事で手一杯になりそうなんだがな」
「あなたの目の前の事に氷室とか魚やスライムの養殖、他にも幾つか入って無いかしら?」
「もちろんだ。どうせイチから作るんだからな」
「その時点で並みの村じゃ無いわよ?」
「そうなのか?」
「やはり村だか街だか知らんが名前は付けてくれ」
「・・・そうだな・・・パトラ、なんか有る?」
「ここで私!?・・・そうね・・・あ」
「お?なんだ?」
「桃源郷は?」
「もう一捻り!」
「・・・ヤマタイ国」
「邪馬台国かヤマタイの村、ヤマタイの街・・・いいな!いい!流石パトラだ!」
「分かった。ヤマタイの村だな」
「もう国でも良いんじゃない?」
「家が1つも無いのに国は恥ずかしいだろ」
「そうね。まぁ、時間の問題だけどね!」
「そうかな?」
「そうよ!いい?ここから私達はゲーム的な、ラノベ的な展開を迎えるのよ!」
「やっちゃうのか?」
「やっちゃうわ!残念ながらジークには魔王の座をとられたわ。なら!今度は建国物語よ!」
「なんだ、やっぱり魔王になりたかったんじゃん!」
「魔王より、よ?ジークと闘う気は無いわ」
「ありがたいです」
「私の今度の目標は建国よ!ジーク、付き合ってね」
「おう!ご一緒するよ」
「ここの二人で国を滅ぼせるんだもんな・・・」
「グラーフ君!敵に回らないようにしてくれよ?」
「こっちのセリフだ!!」