35話
「大惨事ッスね」
「危なかったですね」
「大崩落だったからな」
「ケガが無いなら別にいいんじゃない?」
「そうだな。ま、気にする事は無い」
「「「「お前が言うな!」」」」
金華猫サタンのせいで川沿いの平原が大きく陥没した。
川の水が逆流している。このままでは大きな池が出来てしまいそうだ・・・。
「ここが池に・・・イケるんじゃないか?」
「ダジャレは嫌いよ?」
パトラの尻尾が放電を始める。
「落ち着けよ、パトラ。本当に凄い事になりそうだ」
「既になってますけど?辺り一面陥没してますけども?」
「見てごらん?川が逆流して、ここが溜め池になりそうだ」
パトラが俺の首に飛び乗る。
「本当ね。このまま水が溜まれば・・・」
「そうだ。水の道が消えてしまっているから、池が出来た後はこの辺り一面が湿地帯になってしまうかも知れない」
「・・・」
皆の顔が強張る。
この獣道が使えくなれば、もしかしたら生活に影響が出かね無い。
「そこで、だ。ダムにしよう」
「ダムですって?」
「更に魚の養殖なんかも出来るかもね」
「やりましょう!すぐにやりましょう!」
「ほほう!面白い事を考えるな主殿は」
「ジークさん、だむってなんですか?」
「水を貯める池だな。更にそこから水を流す量まで調整出来るかも知れない」
「川が溢れたりしなくなるッスか!?」
「もしかして必要な時に必要な分だけ流せるって事ですか!?」
二人の食い付きが凄いな。川の氾濫には苦労していたのだろうか?
「それに、魚のイケスも造れるかも知れないな」
「意味は分かるかしら?早ければ1年くらいで魚とスライムと畑の作物が安定して用意出来る様になるのよ」
「「・・・おぉぉ!」」
「実は他にも考えている事が有るんだ」
俺の首に居座ったままのパトラが言う。
「あなたの創造性は規格外だから楽しみよ?次は何を考えたのかしら?」
「氷室だ」
「ヒムロ?」
「そうだ。まず、倉庫を造って氷で満たす。狩りで取ってきた獲物を解体したら、冷蔵保管が出来る様になる」
「・・・氷はどうするの?」
「ま、追々教えるよ。それより・・・」
「そうね、ダムが先ね。明後日には穴が一杯になるかも知れないわね!どこから始めるの?」
「まずはミーシャ、アーシャの二人は村長とスティーブに連絡を、可能な限りの人数を集めてくれ!」
「了解ッス!」
「1日では終わらないと思うからその辺も頼む」
「分かりました!」
「コロマルは周辺の警戒を頼む!」
「アオン!」
「サタンは俺が仕事が終わってから出番だ」
「何をすれば良いのだ?」
「大仕事になるが、ダムの枠を造ってもらう」
「それは・・・難しいぞ?水圧に耐える程は、とてもじゃないが、可能とは言えん」
「一時的なモノで良い。これから村の住人に集まってもらう。壁の周りに土を盛らせる予定だ」
「流石は我の主殿。良かろう!協力しようぞ!」
「それで、あなたの仕事っていうのは?」
「俺は全ての魔力を使って穴堀魔術をブチ込む」
「だ、大丈夫なの!?ってか、一体どうなるの?」
「やってみなきゃ分からんが・・・おそらくはクレーターみたいになると思う」
「・・・」
「それで、パトラには俺を救助して貰いたい」
「救助?ジークを?」
「そうだ。もしかしたら俺は行動不能に陥るかも知れない。そうなったら・・・」
「あなたを助けてからサタンやスティーブに指示を出すのね」
「ついでに皆の夜ご飯もだな」
「人・・・いえ、猫使いの荒いゴブリンね!」
「余裕だろ?」
俺とパトラはクスクスと笑う。
「じゃ、皆頼むぞ!」
「「「「おう!」」」」
俺は陥没地帯の真ん中まで跳ねながら向かった。
地面に水が張って来ている。俺の足首位まで溜まって来ているな。
そろそろいいか?
少し水を吸って土も柔らかくなってるはず。
これ以上は水が重くなる。
俺は二度、三度と深呼吸をして魔力を凝縮する。
先日、穴堀魔術の魔道具である腕輪もオリハルコンに変質してある。全力にも耐えられるだろう。
これ以上は魔力を維持出来ない。という所まで魔力を練り上げる・・・
・・・今だ!!!
力の限り、腕輪に練り上げた魔力を押し付ける!
水が、土が、石が、草木が、全て俺を中心に、放射状に波打つ様に遠ざかる・・・。
俺は気を失った。
「・・・はっ!!どうなった?穴は!?」
俺は慌てて周りを見渡す!
「安心しなさいな。あなたの予定通りにコトは進んでるわよ」
パトラが何故かニヤニヤしている。
「何か言いたげだな?」
「あなたの造ったクレーターよ?見て?」
俺はパトラが向けた指、もとい脚先を見る・・・。
何だ?何も無いぞ?穴は?・・・失敗か?
「・・・失敗したのか?」
「何を言ってるの?」
「何も無いんだが・・・?」
「およそ半径1キロメートルって所ね」
「何の事だ?」
「あなたが造ったのはダムでは無いわ!湖よ!」
「・・・なんてこったい・・・」
・・・しばらく放心してしまった。
「実は村人では手に終えなくてね」
「でしょうね!すんませんでした!」
「グラーフに頼んで人間も手伝ってもらっているの」
「そうなのか。いや、当然か」
「そして、水が溜まる前に外壁と水の逃げ道を造らなければならないの」
「規模が大きくなり過ぎてヤバいな。間に合うかな?」
「面白い事に、何とかなりそうよ?あなた次第だけどね」
「俺次第?」
「あなたの穴堀魔術は物を周りに掻き分けるわよね?」
「そうだな。掘り返すってよりは上下左右に押し退ける感じだな」
「この規模ならどうなると思う?」
「・・・すまない、良く分からん」
「クレーターの淵近くまで行ってらっしゃい」
「ん?分かった」
俺は思ったより軽くなっている体に驚いていた。
もしかして、かなり長い時間、気を失っていたのだろうか?
何となく、見るのが怖い気もするが手遅れになるわけにはいかない。
意を決して穴の淵へ進む。
・・・一瞬、理解が追いつかなかったよ。
俺の立ってるこの場所が、周りの森より30メートル位、高くなっている。
つまり、既にダムで言えばの外枠の盛り土が終わっている状態だったのだ!
そして、湖の底は200メートル位の深さとなっていた。
「信じられん魔力量だったな主殿!」
「サタンか」
「我が魔王を称したのは早計だった」
「・・・」
「主殿こそ魔王と呼ぶに相応しい」
「・・・」
「嬉しく無いのか?」
「・・・た」
「ん?何だ?」
「やっちまった!!」
「主殿?」
「ヤバい!ヤバい!ヤバい!」
「落ち着け!どうしたというのだ?」
「多分、ミーシャ達の村を潰しちまった!!」
「何だと!?」
「パトラ!パトラ!!」
「ジーク、どうしたの?取り乱して」
「ミーシャやアーシャが前に居た村を潰してしまったかも知れない!!」
「・・・」
「どうしよう!?探して?いやどうやって!?皆で手当たり次第に・・・」
「落ち着きなさいよ」
「落ち着けないだろ!?早く救助しないと!!」
「無駄よ」
「・・・」
「あなたは魔術1つで村を潰したわ」
「・・・」
「実は・・・あなたが魔術を使ってから1日経ってるの」
「え?」
「そして、あなたの魔術は押し退けるだけ。動けない物には穴を開けるわね」
「・・・そうだ」
「更に動ける物は外側に押すだけ」
「そうだな」
「村人は全員無事だったのよ」
「・・・良かったぁ」
「ただし、村は消滅よ」
「そっか」
「とりあえずはスティーブ達の村に避難させたわ。私達の家も明け渡したの」
「すまん、手間を掛けさせた」
「ここからあなた次第と言った理由よ?」
「説得か」
「それも半分は終わってるのよね」
「どういう事だ?」
「グラーフがあなたを魔王と認定してしまったの。スティーブや村長達はあなたの被害者扱いね」
「・・・はは、魔王か・・・」
「ジーク、私はあなたと一緒に居るわ」
「パトラ」
「あなたはどうするの?」
「・・・少し、時間をくれ・・・」
「主殿・・・我もおるぞ、安心するが良い」
「ありがとな」
「コロマル殿も主殿に付いて行くそうだ」
「コロマル、ミーシャとアーシャはどこだ?」
「コロマルは周辺の警戒、ミーシャとアーシャは村長達の所ね」
「そうか・・・獣人の村に戻ったのか」
「ああ、勘違いしないでね、皆の説得よ?村を守る為に魔術を使った。これからはこの湖が皆の為になるってね」
「無理があるだろうな」
「ダメで元々よ」
「危険が無ければ良いが・・・魔王の使いみたいなものだろう?」
「ふふふっ、あなたが言ったダムの話を武器にするって言ってるのよ?村人からしたら夢物語よね?」
「潰れた村の連中は?怒り狂ってるだろ?」
「それがね!スティーブが一喝よ!?」
「え?」
「強さを求めた貴様等が負けて何を言う!!って」
「は?・・・はは、はっはっはっはっ・・・」
「見直したわね。ふふふ」
「・・・決めたぞ。パトラ」
「・・・どうするの?」
「俺は魔王として君臨する!!」
「いいのね?」
「面白いだろ?ゴブリンが魔王だってよ?」
「・・・最高ね!」
決めた。魔物の王に俺はなる!
あ、このフレーズはヤバいかな?麦わら帽子被って無いからセーフかな?
辺りが暗くなってからミーシャ、アーシャ、コロマルが帰って来た。何故かダイクンとサイクンも居る。
「ミーシャ、アーシャ。これから俺は魔王を名乗る」
「「はい」」
「お前達はどうする?獣人達の村に戻るなら今の・・・」
「ジークさんと一緒に居るッス!!一緒が良いッス」
「あたしも皆と離れたく無いです!」
「随分と好かれたわね?」
「そんな魔王がいてもいいだろ?」
皆で笑い合った。これからの不安を吹き飛ばす様に。
もちろん、不安が無いはずが無い。なんせ人間全てが敵に回ったようなもんだ。
ゴルドさんみたいな人も居たけどな。残念でもある。
なんにせよ、俺も討伐されたくは無いからな。
人間を殺す事も有るかもな。
嫌だなぁ、ゴブリン。このまま心もゴブリンになって行くのだろうか?
・・・なるワケ無いな!
皆がいるからな。
などと1人で悦に入っていた。