30話
狼共め!俺をただのゴブリンだと思うなよ!?
・・・あれ?
あっ、本当にただのゴブリンだった。
何て事を考えているうちに、俺とパトラは敵を殲滅して行った。次から次に飛び掛かって来る狼を千切っては投げ、千切っては投げ・・・。
本当に千切っては投げるのが効率的なんだ。
あまり、体を大きく動かさないで戦うには、狼の死骸が邪魔になるからな。
ジャブを打つように頭や喉を爪で抉り、そのまま殴り飛ばす。
慣れて来たら和太鼓打ってるみたいで楽しくなってきた!
ドン、ドン、ドドン、カッ、ドン、・・・いや、『カッ』は無い。
・・・徐々にリズムが悪くなってきたな。
辺りを見回すと、俺の近くはもう、残りが6匹。
うちの金華猫さんは?と目を凝らす。
俺の他にも狼の輪が出来ている箇所が有るのだが、そこにいるハズの猫さんが見えない!
だが、心配はしていない。
何故なら、猫は見えないが、一呼吸に一匹ずつ、狼が倒れて行くからだ。
風のように獣の命を刈り取って行く。
「パトラさん、パネェッス」
ついついミーシャのような言葉遣いになってしまった。
無理も無い。戦闘では、やはり金華猫。俺では一歩及ばない。
幻獣、金華猫は別格の強さだと改めて認識した。
でも、狼の群れを苦労無く殲滅出来ても、ゴブリンはゴブリンなんだよな・・・。
これだけ見た目が変わって、強くもなって来ても
『グギィッ!ゲゲッ!ギィギィ!』
と、ハァハァ言うゴブリン。
人の肩くらいの身長で、茶色のハゲ、ゴブリン。
そんなゴブリンと種族は同じ。
俺はゴブリンの呪縛からは抜け出せない。
「終わったようね?」
「あ?あ、そうだな!考え事してる内に終わってたみたいだな」
「狼に囲まれて襲われてる時に考え事って、流石に危険よ?間違って一撃もらえば、あなた死んじゃうかも知れないんだから」
「そうね、ゴブリンだもんね」
「もう!フザケて無いで帰るわよ!?」
二人で跳ね橋へと振り向く。と、そこには三匹の狼さんが・・・ヤバい!
俺達は無言で、全力で走った!
そこに雑魚い狼2匹と白銀狼らしき個体がいた。
「無事か!?」
「グラーフが腕をケガしました!」
「分かった!グラーフを連れて俺の家へ行け!」
「冗談だろ!?白銀狼相手にお前らだけで戦うつもりか!?」
ちょっと面倒なヤツだな?吹き飛ばそうかな?
「私がやるわ!脳筋ハゲは下がってて!」
「オレ?脳筋ハゲって、オレ?」
「グラーフさん!従って下さい!」
「パトラなら大丈夫だ」
俺は声を掛けつつ2匹の狼を蹴り殺す。
「分かった。邪魔はしない!少し下がって見届けよう」
パトラがひとっ飛びで白銀狼を飛び越え、スティーブの前に降り立つ!
格好いい!アレ、俺もやってみたいな!正義のヒーローみたいだ!
俺は白銀の後ろに構え、退路を塞ぐ。必要かな?パトラが獲物を逃がすビジョンが想像つかない。
「とりあえず小手調べよ!」
パトラが魔力を集める。ほとんど『溜め』をしないで尻尾から電撃を放つ!
良かったぁ!稲妻だったら、俺も黒焦げになりかねないからな!
「ギャイン!」
白銀狼がダメージを受ける。
「トドメよ!」
パトラが白銀狼の前で消える。
そして、白銀狼が千切れながら吹き飛ぶ!
やはり、目で終えない!パトラは俺を同格の強さと言ってるが、タイマンだったら勝てないだろうな。パトラの優しさが身に染みる。
「弱っちいわ!つまんない!」
「パトラ、前回より楽勝だったな?また強くなった?」
「言ってるでしょ?進化の途中だって」
「白銀狼が相手にならなかったな」
「コイツはオークキングの肉を食べて終わりだったのかも知れないわね」
「やっぱり、食って、戦って、食ってを繰り返さないと強くなれないんだな」
「それが分かっただけでも十分って事にしようかしら?」
俺は空堀の下に落ちた白銀狼を拾い、空堀の上へ放り投げる。
「ワン!ワンワンワンワン!」
「うるさい!!」
「!キャンキャンキャンキャン!」
「だから、うるさいって!!あれ?わんこ?」
空堀の底にいる俺の後ろでワンコみたいな鳴き声がする。振り向くと本当に子犬がいた!
・・・ん?なんだ?腹を出して。かわいいな!
「ジーク?何してるの?犬みたいな鳴き声がするんだけど?」
俺は子犬を拾ってジャンプ、空堀から飛び上がった。
「空堀の底にいたみたい。連れて帰っていい?」
「・・・ちゃんと面倒みれるの?」
「やる!ちゃんとやる!」
「エサも散歩も糞の片付けもよ!?」
「わかってるよ!」
「それならパパに聞いてみなさい?」
「ありがとうママ!」
スティーブとグラーフが困惑の表情をしている。
・・・ハズしたかな?ネタが通じなかった様だ。
「って、古典的な小芝居をはさんだワケだが、本当に連れて行くぞ」
「多分、子供の狼が白銀狼になったのね」
「ミーシャにテイムさせてみよう」
「なるほど!面白そうね!」
俺は子犬を抱っこした。さっき俺にうるさいと怒鳴られてからは静かにしている。いや、怯えているのかな?まあいいや。群れを皆殺しにしたのは俺達だ。そりゃ怖いだろうな。
「ジーク殿?正気か?小さくても幻獣、白銀狼だぞ?」
「ジークさんなら問題無いですよ。パトラさんも居るし。グラーフさんも先程の戦いを見てたでしょう?」
「おう。そうなんだがな・・・白銀狼を飼うって、聞いた事が無いからな」
「脳筋ハゲは足を引っ張っただけなんだから、ごちゃごちゃ言わない!それにその熊の獣人はスティーブ、次の村長よ。ここでは村の決定権を持ってるの」
「その呼び方はやめてくれ!・・・いやぁ、次期村長だったのか。すまない、スティーブ殿、色々な無礼をはたらいた!」
「気にしなくても大丈夫ですよ」
「スティーブ、うちのミーシャがテイムの魔法を使えるんだ。試してみたいがどうだろう?」
「そうですね・・・やってみましょう。ただし、間違って暴れ出したらトドメを刺しますよ?」
「もちろんだ。他の村人達に迷惑を掛けるワケには行かないからな」
「スティーブ・・・スティーブにも持ってもらっている白銀狼の死骸は私達がもらってもいいかしら?」
「もちろん良いですよ。・・・出来れば、今度は僕も食べてみていいですか?」
「不味いわよ?」
「エグいぞ?」
「の、望むところです!」
「熊の獣人は不味いのを食いたがるのか?」
「・・・役立たずの脳筋ハゲは黙りなさい」
「酷い!」
スティーブにも白銀狼の上半身を持ってもらって帰る。俺は左手に白銀狼の下半身、右手は子犬。パトラは四足歩行なので荷物は持てない。
そして脳筋ハゲ、もといギルドマスター、グラーフは左腕を右腕で押さえながら歩く。雰囲気からして重症ではなさそうだ。
「ジークさん!おかえりなさいッス!」
「グラーフさん?大丈夫ですか?」
「アーシャ、さっきの治癒促進の魔道具をグラーフに使ってみてくれ」
「ジーク様?ソレはかなりの魔力量が必要ですよ?」
「アーシャはウサギの獣人だ。ウサギの獣人は強大な魔力を持っているんだ」
「はい、やってみます。グラーフさん、こちらにどうぞ、あたしの向かいに座って下さい」
「お、おう・・・」
「アーシャに変な事しないでよ!?」
「お、おう・・・」
「あれ?なんかグラーフの態度が変じゃない?」
「毒でも回ったのかしら?」
「ボーッとアーシャの顔を見てるぞ?」
「あのハゲ・・・もしかして・・・惚れた?」
「マジか?子供だぞ?」
「あら?この世界では十分、大人よ。前に教えたでしょう?」
「確か、子供を産めるようになったら大人の扱いだったか・・・しかし、年齢差がなぁ」
「こっから見てたら犯罪よね」
「厳ついオッサンと可愛らしいウサギの獣人だからな」
「脳筋ハゲのロリコンってヤバいわね!」
「・・・グラーフ!悪さするなよ!?」
「お、おう・・・」
「ああ!もうダメっぽいわね」
俺とパトラ、ゴルドさんとスティーブは気持ち悪いモノは見ない様にした。
「それではミーシャ。コイツにテイムして見てくれ」
「子犬・・・狼ッスか!名前は有るんスか?」
「ん?名前が必要なのか?」
「そうッス!ウチが名前を認識出来ないと失敗するッス。今までは勝手にウチが決めてたんスけど、これから先はジークさんが決めて欲しいッス!」
「そうなのか。分かった!名前は・・・コロマルだ!」
「安直だけど分かり易いわね」
「じゃあコロマル、行くッスよ!」
ミーシャからテイムの魔法が放たれる。
なかなかの魔力だ。ミーシャも一度、白銀狼を食ってるからな。魔力量も知らず知らずに増えていたんだろう。
「コロマル!これでお前は使い魔ッス!・・・これからはジークさんをご主人様とするッス!」
「なんでだよ!?」
「ウチのご主人様はジークさんッス!ご主人様のモノはご主人様のモノ!ウチのモノもご主人様のモノッスよ!!」
「お、おう。力強く宣言したな」
「ジャイ◯ンじゃない!?」
「俺は悪く無い!」
「どうしたッスか?」
「「何でもない」」
「仲良しッスね!」
「ミーシャ様、初めてテイムの魔法を見させてもらいました。凄い技術ですね!」
「もっと褒めてもいいッスよ!?」
「本当に凄いよミーシャ、自分じゃ無くてジークさんの使い魔にするなんてね」
「凄く簡単ッスよ?普通にテイムしてからご主人様の権限を変えるだけッスから」
「そうなんですか?でも権限譲渡も難しいはずですが・・・奴隷を扱う商人もお抱えの術師しか出来ないですしね」
「本当に簡単ッスよ?ジークさん以外には難しいッスけど」
「・・・なるほど、自分のご主人様に権限を献上するって事なのね」
「ほら、ジークさん!コロマルがお腹を晒してるッス。撫でて欲しいッスよ」
「あいよ。コロマル、よろしくな」
「アオン!」
「決まり事は簡単だ。この村の村人達を襲わない事!そして、この村を守る事だ!・・・お?」
俺は一気に魔力が抜ける。
「うーん?クラっと来たな」
「強制の命令が発動したのね」
「そういう事か。なるほどな。子犬みたいでも白銀狼だったワケか。ミーシャ、良くテイム出来たな?」
「コロマルは最初から心が折れてたッス。何かしたんスか?」
「狼の群れを皆殺しにしてきた」
「150匹くらいは居たかしら?」
「おっと・・・予想以上の規模でしたね。ご無事で何よりです。・・・怪我人はグラーフ様だけですか?」
「パトラさんとジークさんがお二人で殲滅してくれました。私とグラーフさんが跳ね橋を守っていたんです」
「・・・グラーフ様、グラーフ様!」
「・・・はっ!ん?なんだゴルド?」
「グラーフ様が護衛をする件は無かった事に」
「な、なんだよ!そんな哀れみの顔で!俺だって弱くないんだよ!狼の群れに襲われて生き残れる方が珍しいんだからな!コイツらがおかしいんだよ!コイツらがバケモノなんだ!」
「シャァァァ!!」
「ひっ!」
「グラーフ様、いや、もう面倒ですね。グラーフ、あなたはしばらくこの村で療養しなさい。」
「分かったよ・・・これからしばらく頼むなスティーブ殿、ジーク殿、ミーシャちゃん。そして・・・アーシャちゃん!」
「「ウザイ!」」
「実はワタクシ達は幼なじみなのですよ」
「そうか。グラーフが老けているだけなのか」
「酷い!」
「そんなところです。ギルドにはワタクシから話をしておきますね?グラーフ、手紙を一筆頼みます」
「おう。頼む」
「手紙一枚で済むのかしら?」
「元々ギルドマスターなんて、大した仕事は無いんだよ。普段はのんびりとしたもんだぜ?後は皆がやりたくない討伐が回って来るな。ゴブリン退治とか?あぁ、ジーク殿、悪気は無い!パトラ、怒るなよ!!」
パトラの尻尾が放電する。
「いや、気にしないよ」
「そう?ジークがいいなら許すわ」
「さてと、それではスティーブ様。ワタクシ達が泊まれる所はございますかね?もちろん、代金はお支払いします」
「いや、代金は貰うわけにはいかない。グラーフさんは体を張って村を守ってくれたんだ。むしろ大したおもてなしが出来ないのが残念だ」
「・・・では、お言葉に甘えましょう。グラーフ、行きますよ」
「分かったよ。アーシャちゃん・・・またな!」
「「キモイ!」」
「じゃ、ジークさん。また後で来ますので」
「おお。楽しみにしとけよ?想像以上にクソ不味いからな!」
・・・さてと、ようやく落ちたな。ミーシャにお茶を淹れてもらおう。
いやぁ、疲れた。
主にグラーフに。




