表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

86/87

騎士養成機関《ベルトランの道》

「『それではみんな元気でいてください』

 っと。よし、書けた。これを明日の定期便で孤児院に送れば……。

 あれ、集荷は何時までだっけ? あっ、10時までだったか。うん養成場へ行く前に出せばいいか」


 私はユバの街を離れてから初めて、手紙を書いた。


 王都での1月の試験に合格したあと、直ぐに騎士養成機関へ入所。


 そこでは質問する暇などなく、次から次へとすることを言われ従った。

全てを規則で固められた生活が、スタートしたのだ。


 あまりにも目まぐるしく、自由がないと気付くのに、2ヶ月もかかってしまった。


 春になり(ようや)く、ここでの生活にもなれ、勉強や同期とも向き合えるようになった。


 2人で一部屋を割り当てられた。同居人になったのは、アラタというエルフの男だ。


 入所当初は日々の訓練が、思っていた以上に大変で、部屋はただ寝に帰るだけ。

 それも今では、少しずつ互いのことを、話し合えるまでの仲になった。


「ベルジ、今日の授業のここ教えてくれよ」


 アラタは年齢も2つ上で色々と頼れるが、〝自分は落とし子〞なのだと、少し卑屈な面もある。


 父親の血は受け継いでいるが、教育は充分に受けておらず、座学で後れを取ってしまうのが、悔しいらしい。


 ただその反面、剣術スキルを持っていて、腕は確かだ。それを褒めるとアラタは言う。


「俺は領地で肩身が狭い。他の場所でも父の手前悪いこともできない。

 周りや父に認めてもらうには、この道しかなかったんだよ」


 誰の手も借りず、独学でスキルを手に入れた。


 スキルを得るということは、レベルを上げるよりも遥かに難しいことだ。


「普段、顔を見たこともない父に、きちんと会えたのは1回だけだ。

 この騎士団の入団試験を受けさせてくれると、伝えられた時だけだよ」


 剣の才能に秀でた息子の話を聞いたからだ。


「その時の父がな、もっと突っ慳貪(つっけんどん)だったら俺も憎むことができたのに、すげー優しく名前を呼ぶんだよ。

 ……嬉しくてよ、それだけで十分だった。

 俺はこの騎士団で上を目指し、父に認めてもらえる男になる」


 そんな強い思いがあるから、慣れない机にも向かうし、誰にでも教えてもらおうとしている。


 私はそんなアラタが好きだし、良い同期だと思っている。


 だからこうやって1日の終わりには、勉強して互いに頑張っているのだ。


 この自習も2人だけではなく、そろそろ他のメンバーもやってくる頃だ。


 ノックと共に入ってきたのは、筆記試験トップ入学のヘンリーと、回復魔術持ちのフレディーだ。


 ヘンリーは座学は得意だけど、他の訓練生と比べ体力が低い。

 1日の終わりには、夕食が食べられない程へばっている。


 しかし、私たち2人が頑張っている事を聞くと、この勉強会に1日も欠かさず、参加するようになっていた。首席入学の意地だろう。


 そして、フレディはただ気が合うという仲間で、いつしか一緒にいるようになっていた。


 狭い部屋で窮屈ではあるけど、仲間がいることで励みになる。


 たった一年の訓練生活での成績と、適性によって、そのあと各軍団への配属が決まる。


 その後の人生が決まるのだから、疲れたと言っている時間などない。


 特に私たちは500人の合格者の中でも、トップ成績にあたる、第一組の50人に選ばれている。


 他の誰よりも期待されている訓練生なのだ。


 だけど、ガムシャラに頑張って、ライバルを蹴落とせばいいという事ではない。


 ゆくゆくは同じ騎士団で助け合い、国と民を守っていく仲間なのだ。


 今から互いに信頼を築けるよう、互いの短所、長所を把握し、より生かせることを考えなければいけない。


 集団での行動を守ったり、人に教えること自体も自分の勉強になる。

 ここでの全ての事が、成功するために必要なことだと、私は考えている。


 ただ、ここで学ぶことだが、思っていたのと少し違う。


 もっと剣の稽古や軍事訓練で、体を動かすことばかりだと思っていた。


 それは全くの逆で、体を動かすことは5%もない。座学に費やす時間が、ほとんどといったところだ。


 入所当初に、先輩騎士から言われたことがある。


「君たちが1年後に配属された時、私たちと同じように動けるなど、これっぽっちも期待をしてはいない」


 この言葉に当然だと思ったけれど、意味が少し違っていた。


「力量の少ない君たちを鍛え上げ、1人前にするのが騎士団だ。

 たが、一年間で現役騎士と同レベルまで、成長するべき事が、ひとつだけある。

 それは〝知識〞だ」


 先輩騎士が言われた事は、考えたら当然のことだった。


 例えば、旗記号もろくすっぽ分からない。

 伝令のやり方・重要性を知らない。

 戦術が持つ意味がわからない。

 助けるべき人の順番も守れない。

 そんな人間が現場にいたら、その1人のせいで全てが乱れる。


 つまり、騎士団はそんな人材を、必要としていない。


 分からないならまだしも、間違ったことを仲間に伝え、それで全滅ということもありえる。


「だから君たちにはここで、頭と心を鍛えてもらう。そして一年後胸を張って、私たちと合流しろ」


 知識の重要性をみんな十分理解し、ここでの生活が始まったのだ。


 ここの規律はすごく厳しい。時間厳守、整理整頓は当たり前。

 身分に関係なく、言葉遣いも気をつける。

 身だしなみにも、気をつけなければいけない。汗臭いのもダメだ。


 しかし、重い鎧を着て動けばすぐ汗をかく。


 訓練が終わればすぐ汗をぬぐい、インナーも着替える。常に民に見られていると、意識をせよとのことだ。


 洗濯や食事の準備には、専門のサポーターがいるけれど、防具は自分の命を守るもの。他人には任せられない。


 こういった雑務もこなし、勉強をする。だが、今日の隊列行進はキツカッたな。眠りたい……いやダメだ、頑張ろう。


 疲れすぎた時の取って置きとして、ユウマの薬水がある。


 疲労回復に効果はあるけれど、すごく不味いので、飲んでいなかった。


 しかし、最近良い方法を見つけた。

 数滴だけお茶に入れるのだ。原液ほどではないけれど、かなりの効果はある。


 3人にも黙って飲ませているが、みんな口々に誉めてくる。


『スッキリした』とか


『ベルトランの入れてくれるお茶は、魔法のお茶ですね』


 と、かなり気にいっているみたいだ。知らないという事は幸せなことだ。


 ユウマ、遠く離れた君がいないこんな所でも、君の力でみんなを元気にしているぞ! ありがとうな。


 よし、私も負けずにもうひと踏ん張りだ!



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ