おしゃれは足元から
クエストで離れていたので、久しぶりのユバの街だ。
心なしか、変なスッキリ感が、街に漂っているのは気のせいかな?
それに街の中で、よく声をかけられる。
知らない人も多くて、ずっと朝の挨拶とか、しっぱなしだよ。
なんか、ミュージカル映画の主人公に、なった感じで悪い気はしない。
ちょっとステップを踏んだりして、さすがに歌は歌わないけど、楽しい気分の朝だ。
ギルドでクエスト報酬を貰い、ランクもCランクに上げてもらった。
レベルに対してまだ低いってモニカさんには言われるけど、単純に嬉しいな。
気分もいいし、今日は買い物に行ってきます。
装備の修繕や、旅で使った消耗品の補充もしたい。
あと初期メンバーだけにしか、渡していない白いマントも、揃えるつもりさ。
報酬で余裕もできたし、みんなお揃いにすると、一体感も出るからいいんだよねぇ。
みんなでシャノンさんの魔道具屋に、行ってみる。
「おや、いらっしゃい。杖やマントの使い心地はどうだい?」
僕たちの顔を覚えていてくれたようだ。
「婆さんが作ったのでもないのに、ドヤ顔ですね」
あわわわ~、ジェンナ。いきなりのフルスロットルは良くないよ。
「ユウマちゃんは、礼儀正しくいい子だね。それに比べて……。
従魔なら、主人に恥をかかせないよう、きちんとしな!」
シャノンさんも負けていない。
「そう言うのは、もっと良い品を揃えてから、言ってほしいですね」
2人ともニヤリ顔で喋ってるから、案外気が合っているのかも。
「きょ、今日はメンバーが増えたので、この前のマントを2つ頂こうと思ってきました」
「丁度よかったよ、2つ手に入ってばかりでね。ツイているよ、ユウマちゃん」
調整も必要なさそうなジャストサイズ。
ハーパーにもピッタリな、小さい物もあるなんてラッキーだよ。
ただエリカは、自分のカラーに合わないと渋っていた。
「そうぎゃ? 黒と白で一番エリカが似合うぎゃ」
エブリンのこの一言で、スッカリご満悦。それに面白いものを見つけたと、喜んでいた。
「これは一発吸魂珠といってな、昔はよく見かけたものでの。
効果はエナジードレイン、つまり相手のレベルを1つ下げる魔道具なのじゃ」
そんな凄いものが、たった金貨1枚ってスゴくない?
「でもねダーリン、今は使われていないのに理由はあるのなの」
「そうなのじゃ、これが効果を発揮するには、戦闘を始めて、1時間を待たねばならぬのじゃ」
出たよ、ネタアイテム。それで金貨1枚は高いでしょ。
「うむ、1時間も対峙せねばならぬのなら、ソヤツはまさしく強敵じゃ。
その強敵を弱体化させるのなら、すばらしい効果ではあろう。
しかし、普通はそこまでモツはずがない。あっという間に全滅じゃ、はははは」
「開発者の苦労と、現場の要望が噛み合わない、代表作として有名なの」
と言いつつ、ハーパーは4つも買っている。
お小遣いは渡しているけど、それって無駄遣いじゃないよね。
ハーパーはシャノンさんに、また面白いものを見つけたら仕入れてほしいと、何か良からぬシンパシーで通じ合っていた。ほどほどにね。
そして次に寄ったのが、以前僕の靴作りでお世話になったオールバース靴店。
今日はあいにく店長さんはいなかった。
代わりに、職人さんのトムトムさんと、ジョリジョリさんがいたので、注文を聞いてもらった。
「おー、お客さんまた注文に来てくれたのかい?」
「はい、今回は前回よりも、もっと無茶な注文できました」
「……ウソだろ」
「もしかして、後ろに居る人達、全員分じゃないだろうね?」
「はははっ、全員分に決まってるじゃないですか。それと各々の好みも聞いてあげて下さいね」
やった! 2人とも気絶しそうになってる。からかい甲斐がある2人で楽しいね。
そのアトは他の店員さんも混じって、あれやこれやと注文取りが始まった。
「え~と、こちらの方は踏ん張りが、絶対に欲しいのですね?」
「そうよ。敵からどんな衝撃が来ても、一歩も退かないのが使命。
それと色々なフィールドを、想定したものが理想です」
キンバリーの方は割とスムーズに進み、もう足型を取り終えたみたい。
横ではエブリンが、同じような要望をしているけど、やっぱり本来の動きの軽やかさを、気にしているみたいだ。
2人とも自分の意見が言えて嬉しそう。
最後に、可愛いデザインにしてほしい、と忘れないで伝えていた。
残る3人が少し手こずっている。
気になって隣で聞いていると、ちょっと職人さんが可哀想になってきたよ。
「はっ、お客さん戦闘用の靴ですよね? なんでパンプスなんですか?」
「女のたしなみじゃ、黒色は妾のアイデンティティじゃ」
「黒はいい、黒はいいんだけど、なんだよグリップが効くパンプスって? おぅ!」
「はて? 出来ぬのか。ならば仕方がない無い。今回は諦めるか……」
「誰もできないとは言ってませーんー! 舐めてんのかって言ってるだけですぅーーー!」
「そうか、ならば期待をしていおるぞ」
「トムトムさん、俺あいつ嫌いだぁーーー!」
無理難題を言い、ニッコリ笑うエリカに対して、ブチ切れているジョリジョリさん。
なんだかカオスになっているよ。
「はぁっはぁっはぁっ。次の、お嬢さんどうぞ」
「はい、私は水属性なので、水の靴をお願いしますわ」
「成る程、さっきの人より、だいぶ良心的な人で助かります。
では、どんな水属性の、付与を施した靴がいいですか?」
「はぁ? 何を聞いているんですか? 水の靴をと言いましたよ。もしかしてバカなの?」
ジェンナ、また地が出ているよ。
「水って、水そのもの?
…………はぁ? 出来るわけないですぅーー! お前も舐めてんのかーーって言ってやりますぅーーーー!」
「バカマスター、やはり田舎はダメですね」
「トムトムさん、2人目発見! 俺の天敵2人目発見しました」
そんな横で、トムトムさんはハーパーの注文を受けていた。
「お客さん。あっしは、ウサギさんの注文は初めてなんで、トンチンカンな事を聞くかもしれませんが、その時は勘弁してやって下さい」
「いえいえ、この足に合うのなら、特別なことはいらないのなの。
ただ色は白くて、輝くものであればいいのなの。勿論使っていても、いつも綺麗なものでなの」
「防汚の付与を付けるとして……白く輝くってーとこんな色ですかい?」
「いえいえ、もっとなの」
「それじゃあ、これですかい?」
「全然足りないのなの」
「じゃあこのラメ入りのはどうですかい?」
「的外れもいいとこなの」
こちらも苦戦しているようだ。今日中に終わるか心配だったけど、夕方までにはなんとか足型まで取り終えた。
全ての店員さんがゾンビ化して、息も絶え絶えだった。
最後にすごく小さな声で、〝受け取りは2ヶ月後です〞とだけ呟いたのが、ナンとか聞き取れた。
みなさん本当に、ありがとうございました。そして、ごめ~んね。
投稿の間隔が空きましたが、ストックは40話ほどあります。エタッたんじゃないです。
今新作を書いていまして、そちらでまず注目を浴びたいと思っています。
この『お~いユウマ君』は思いいれの強い作品で、ぜひ沢山の人に読んでもらいたいのです。
少しズルイかもしれませんが、新作で注目を集め、この作品につなげたいと思っています。
どうか気長に付き合い頂きますようお願いします。