遠い空のした
ケンタウルスは脅威ではあったけど、それ以上に問題なのは、100人の盗賊による襲撃だ。
現場ではすぐに検証が始まり、敵の正体も、おおよそ見当がついたようだ。
だけど今は姫様の安全確保が第一。
死体の検分が終わり次第、フルーツ狩りも中止とし、急いで街へと戻る事となった。
街に戻ったあと、メディキャモ側による、現地調査も行われた。
レベル的にも訓練された軍隊のものではなく、加えて防具も不統一。
初め考えていた通り、盗賊という線もあったけど、全員そろってヒューム族。
しかも、スポーズ法国の聖人教会の紋章が、ついた物を持っていた。
どの紋章も、長年使い込んだものばかりで、肌身離さず使い続けたのが伺える。
これらの証拠で、あの国の信者ということに、当たりをつけた。
それに加え、指揮をしていた2人が、上級聖職者であったのだ。
「そうなるとトンスケーラ殿、スポーズ法国自体での、姫様誘拐を企てたということになりますぞ」
「普通だったらありえないが、そうと考えるしかないな」
トンスケーラさんの言う通り、道理が通らない。
あの国にしてみれば、ハワード子爵様の申し出は歓迎される事。
邪魔だと思ったり、今時点での、敵対行動を起こす理由はないはずだ。
「姫様。スポーズ法国に対して、抗議をしますか?」
「いいえ、今はやめておきましょう。領民を救い出すのが最優先です」
僕の想像もできない次元で、何か物事が動いてるんだろう。
分からないことを、あれこれ考えてもしょうがない。
ただ、対策だけはしておかないといけない。
上でもやはりそう判断し、帰国することとなった。
「お姉さま、不本意ではございますが、帰国の予定を早めます」
「もう少し、語り合う時間が欲しかったですが、この状況では仕方のないことですね。
これでまた、あの国の動きが読みにくくなりました。
今後、協力者をもっと増やさないといけませんね」
楽しい別れとはいかないけど、この数日で両国の絆は深まったのは確実だろう。
帰国の際も、国境付近まで一個小隊に守られ、無事本国に到着できた。
もうすぐで、僕たちの護衛クエストは終わるけど、この国の上の人達にとっては、忙しくなる日々が待っているのだろう。
拉致も少しでも早く解決して、平和が訪れることを願うばかりだよ。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
ユウマ達とは遥か遠く離れた南の大国、ネウストブルグ王国。
この国の王都へ続く道に、馬車を操るポーの姿があった。
たった1両の馬車ではあるけど、実は大容量のマジックバッグで、本当は見た目より、ずっと大きな大商隊なのである。
ポーの商売は順調で、今も王都メネシスと各地の都市を行きかい、やり手の商人として名を馳せている。
今この国は海賊の被害が相次ぎ、大騒ぎになっている。
神出鬼没で追い詰めても、巧妙に切り抜けられ、討伐ができていない。
長引く被害と軍費で、物価も上がり続けている。
そこに目をつけたポーは、各地より物資を運び、国を相手に商いをしているのだ。
特に北の、エストラント王国からもたらされる、魔石と食料は、あればあるだけ売れてしまう。
その利益ですでに、王都メネシスに本店を構えただけでなく、北のエストラント王国にも支店を展開している。
扱う商品はエストラントの支店では、南で作られた魔道具と布地。
メネシスの本店では、備蓄のきく食料と、ダンジョン産の高級素材と魔石だ。
それぞれ販路を作り、安定した経営で、周囲の注目を集めている。
暫くはネウストブルグで、稼がせてもらえるだろう。
もうすでに、次の商談をしてきており、今回の実に4倍の量を決めてきた。
さすがに次回は、荷馬車を増やすなりしなければいけない量で、捌く先も決めておかないといけない。
そして、それらの販路とは別に、常に目新しいものを探すことも忘れていない。
各地に少なからずの投資も行い、人との縁を結び、情報網を張っているのだ。
時折、有能なスキルを持っている者を見つけては、スカウトをしたりと、足元を固めるのにも余念はない。
「ここらで野営の準備に入りましょうか?」
ポーが護衛の男たちに声をかけた。
いくら小さな商業用の馬車でも、守りを固めておかないといけない。
襲っても旨みが少なさそうな馬車でも、盗賊たちはお構いもなくやってくる。
「おーし、メシの用意だ。おめーは水を汲んでこい」
慣れた様子で準備に取り掛かる男たち。今回もいつも雇う3人で、裏事情にも詳しく頼りになる人達だ。
ただ、レベル的にはポーが一番高い。
レベル2桁というのは、一般的になかなかおらず、戦う商人としても有名だ。
メイス片手に盗賊を壊滅させたのも、つい半年も前のこと。
付いた2つ名が『血みどろメイスのポー』である。本人はこの呼び方に、苦笑いをするだけだ。
近頃では、ポーの販路はヤバすぎると、盗賊の間で噂になり、どこか他へと行ってしまったらしい。
「ポーの旦那、そういえば傭兵仲間に聞いたんですが、対スポーズの連合軍が作られて、近々戦さになるらしいですよ。あの国も終わりですね」
「どうだろうねぇ。各国も出せる兵に限りもあるし、それにあの国の恐ろしい所は、国民全員が信者であり、兵士でもあるということですよ」
「うへ! そうでしたね。何万人と押し寄せてきたら、いくら軍隊でも苦戦しますね。
それに、もし勝っても、民衆がいないんじゃ旨味もねーか」
「何をもって、勝ちとするかによるでしょうね」
「おや、旦那。また何か企んでいるんですか?」
「どうでしょうね……さぁ食べましょう」
どんな所でも儲け話はある。スポーズ法国は、資金繰りに四苦八苦しているらしい。
それと言うのも、魔導具などの特産品はあるのだが、扱おうという商人が少ないのだ。
それと人口の割に農地も少なく、どうしても外国に頼らざる得ない。
だから、ポーもコネを1つ作っており、近々あの国を訪れる予定だ。
明日には、その打ち合わせも兼ねて、本店で会議を開かなくてはいけない。
「おかえりなさいませ、ポー様」
留守の間の報告を、配下であるエルフのアルフィーから受ける。
「穀物中心に食料価格の高騰もあり、在庫が心配でしたが、今回頂いた分で当分はよろしいかと。
それと、例のキリキリ金融の買い付けが、当初よりも安くできました」
アルフィーは他にも、細かい収支や新事業の進捗状況、従業員間のトラブルなど、全てを把握している。
本来ならば、1つのエリアを任せてもよい能力の持ち主。
しかし本人が頑としてそのことを承知しない。
彼は私が子供の頃からの知り合いで、亡き父さまとも縁のある人物だ。
私が商売を、本格的に始めた頃から支えてくれて、商店が大きくなった今でも、私のそばを離れない。もう1人の私のような存在だ。
「それと、スポーズ法国へ納める品物の準備は、終わっています。
いよいよでございますね。……十分にお気をつけ下さいませ」
色々と胡散臭い国で、出し抜かれないよう、しっかりと準備はしてある。
私たちは強い信念で動いている。
あの欺瞞に満ちた、最悪の国と取引をしようとしているのだ。周りからも、良い評価は受けないだろう。
しかし、私たちにはやるべきことがある。
決して諦めず必ず、最後までやり遂げてみせる。ガッツリ食い込んで容赦はしない。
私の心の内を知る者は、アルフィーのほか誰もいない。
これからが私の戦い、商いが私の戦い方なのだ。
ケンタを仲間にしたかった。