ラーズ
突然現れた強敵。ケンタウロスのネームドモンスター!
騎士団との連携を考えたが、いたずらに被害を広げるだけだろう。
だから、僕らはたった4人で、この相手を迎え撃つしかない。
「こんな地域に、目当てのケンタウロスが移動していたなんて、いくら探しても見つからないはずなの」
「でもあの弓とスキルは厄介だぎゃ!」
「マイマスター、私が守りぬきます」
キンバリー早まらないでね。回復役のジェンナもいないし見極めるのが先。ハーパー勝算は?
「状況を見ますと、まず飛び回りながらの攻撃は手数が多く、HPポーション使いながら、キンバリーに耐え抜いてもらうしかありませんのなの」
キンバリーには、いつもより多めのHPポーションを渡してある。数には余裕があるはず。
「でも着地してからの溜めの一撃は、キンバリーの装甲でも一溜まりもないのなの」
「あ、あれを避けないといけないのか?」
無理もない。溜めの攻撃とはいえ、発射後の速度は威力同様とてつもない。
その時は、僕も影分身を盾にして、フォローに入るしかない。
「しかし距離さえ詰めれば、勝算もあるのなの。
移動もさせず溜めもさせずに、ダーリンの影分身で、畳み掛けるしかないのなの」
接近すれば勝てる、でも正直きついと思う。
もしもの時の為、みんなに影分身を3体ずつは護衛につけたいし、残り4体でどこまで押し切れるか。
相手はネームド、戦局次第では撤退も考慮していくよ。
「エブリン、マイマスターにヘイトがいかないよう管理は頼んだ」
「キンバリー任せるだぎゃ。それと嫌がらせもシコタマやってやるぎゃ」
「みんな死なないでほしいのなの【生命の息吹】」
ハーパーからHPリジェネの保険をもらい、ネームドモンスターに立ち向かう。
「ゴロゥワァッアーーー」
僕たちの決意に喜んだのか、笑いながらしかけてくる。
距離にして40㍍。僕らにとっては果てしない道のりだ。
【分身の術】
影分身たちも、武器で矢を弾きながら前に進む。
でも、進むよりも早く、繰り出される矢の弾幕に次々と消えていく。
やはりキツいけど、僕にくる以上にほとんどの矢が、ヘイトが乗っているキンバリーに放たれているんだ。
しかも信じられないことに、矢は影分身を避けて、後ろのキンバリー直接ヒットしている。
軌道が変わっているんだ!
後ろのハーパーのサポートもあるから、耐え忍んでいる形だけど、早くしないとキンバリーがもたないよ。
「うりゃぎゃ!」
いつもの間にか、回り込んだエブリンがバックアタックをしかけ、馬の部分のお尻に炎の短剣を突き立てた。
「ぐぎぃー!」
すごいじゃん、エブリン!
ケンタウルスは、エブリンを振り落とそうとして、暴れまわっている。でもエブリンは必死にしがみつき、決して手を離さない。
「ダーリン、今なの!」
僕もそのチャンスを見逃さず、一気に距離を縮めた。
【風遁の術·疾風】(前へ)
馬の体が大きい分、横や後ろからの攻撃に死角ができやすいはずさ。
僕は、エブリンが取りついている反対側を狙い、素早く剣を打ち込んだ。
ところが金属音とともに剣が弾かれた。ケンタウロスが弓を使い、防いだのだ。
「やるな、ぢいさぎものよ」
器用に弓を棍のように操り、突き出してくる。
遠距離だけでなく、接近戦もこなせるなんて、隙が無さすぎじゃん。
それと珍しくヘイト管理に失敗したのか、ネームドはエブリンを執拗に狙っている。
それに対してエブリンも、小馬鹿にしながら飛び跳ねて上手にかわしている。
「ちょごまがど、にげおっで!」
「にゃはは~、マスター今だぎゃ! チャンスだぎゃ」
エブリンが僕に顔を向け、大きなジェスチャーで合図を送ってきた。
嘘でしょ、どこにもそんな隙はないじゃん。
ネームドも僕の方を見てエッ? と驚いている。
「ウリャぎゃ!」
その時エブリンが駆け出し、前足を深々と切りつけた。
それはエブリンがネームドの時間を盗み、作り上げた隙だった。
「ぬおーーーー!」
完全に怒っているネームドに、キンバリーとハーパーも駆けつけて、距離を取られないよう包囲する。
「チッ!」
苛立つネームドはグッと踏ん張り、跳躍の構えを見せる。
「させるもんか!」
僕はすでに先読みをし、影分身4体を飛ばしてある。
影分身による攻撃や、覆い被さる妨害と足のケガもあり、さすがの馬力も活かせない。
ネームドはその場を動けず、踏ん張っている。
「まだぐるが……だはははっ、いいど、もっどごい! もっどだのじまぜろ」
なんであんな恍惚とした顔ができるんだ?
互いに命をかけているのに。……それを楽しんでいる。
「お前の相手は私だ【シールドバッシュ】」
キンバリーが両手を使い、あの巨体を押し込んでくれた。
ドガラ、ガバシュッとネームドは多々良を踏み、そのまま膝をついた。
「うおー! 【風遁の術·疾風】(力を)」
このチャンスに僕は、ケンタウロスのヒュームと馬との境い目に、深々と恐不知を食い込ませた。
命を刈る手応え! 刃が背骨まで達した渾身の一撃だ。
ネームドの瞳もグルンと白目をむき、口を力なくあけている。
「が、がっ……」
あまりにも強敵すぎて、ティムをする余裕なんてなかったよ。
残念だけど、僕には手に負えない相手だった。
「がっ、あっ…………ばがらー!」
力尽きそうだったネームドから、突如繰り出される弓の先端。僕の眉間を狙っている。
これで決まったと油断をしていたよ。
――あ、ヤバい――
「マイマスター! 【神槍·唐獅子牡丹】」
キンバリーが体勢を崩しながらも、必死に食らいつき、弓の先端に穂先を合わせる。
軌道を反らせてくれたお陰で、弓の先は僕の右肩を大きく抉るだけですんだ。
「痛っつっ!」
焼ける痛みに顔が歪むが、目の前に迫る燃えたぎる瞳は、この戦いを諦めていない。
僕だって負けてたまるもんか! 刺さったままの弓を左手で掴みとった。絶対に離すもんか!
「だ、だにを!」
「だぎゃーーーー!」
その場を動けないネームドの首に、エブリンが炎の短剣を突き刺した。
「あぐっ…………」
それが決め手となり、大きく血しぶきを吹き出しながら、ケンタウルスは力尽き、崩れ落ちたのだった。
「勝てたのかな?」
「ええ、あれだと、もう立てる力は残っていないのなの」
「やりましたね、マイマスター」
良かった、誰一人倒れることなく、勝つ事ができた。どう見てもケンタウロスの命は尽きる。
「ヒュッ……ぢいさぎ……ヒュッ、ものよ」
まだ喋れるのか? 僕たちは警戒して身構えるなか、ケンタウロスのその目はエブリンに向けられていた。
「われの……あいぼうど……だましいを……うげどれ」
そういうと、自分の胸に手を突き刺し、えぐり込んでゆく。
「なにするぎゃ?」
「グフッ! ざぁ……」
差し出したのは自分の魔石だった。魔石を切り離せば命は尽きる。
それにも構わず、引きちぎったその瞬間ケンタウロスは死に、魔石はオーブへと変化した。
「ど、どういう事?」
以前迷宮で一度だけ見つけたオーブで、ベルトランがジョブを取得することができた。
モンスターのジョブってあるのかな?
エブリンは受け取ったオーブを抱かしめながら、倒れたケンタウロスを見詰めている。
するとオーブが何の前触れもなく、スルっとエブリンの体に溶け込んだ。
「大丈夫エブリン? 体はなんともない?」
「ん? おおーーーー! スキルを習得しているぎゃ」
エブリン
ゴブリン:メス
Lv:13
スキル:意気投合 索敵 罠解除 弓術
すごいじゃん、あれはスキルオーブだったんだね。
「というと、これが新しい相棒だぎゃ。よろしくぎゃ」
ケンタウロスが使っていた白銀の弓。『ラーズの弓』を拾い上げニヤニヤしているよ。
「こんな事初めて見たのなの。弟子でもないのに全てを託されるなんて……」
「これが私の実力だぎゃ」
「まっ、エブリンの言うことは放っておいて、後衛が増えたのは最高ですのなの」
ティムできなかったのは残念だけど、エブリンが新しく遠距離攻撃を手に入れてくれて、メチャクチャ嬉しいよ。
なんかみんなドンドン成長していく。
特にエブリンは種族がゴブリンだったので、期待をしていなかったけど、一番成長しているんじゃないかな?
主人公級の強さを手に入れつつあるよ。
「ふぉっふぉっふぉっ、私は無敵だぎゃ」
今回は活躍も大きかったし、当分はあのまま調子に乗らせてあげてもいいかな。
「マイマスター、談笑中ですがソロソロもどらないと……」
ああっ! 忘れていたよ。護衛クエストの最中じゃん。
早くも戻って報告しないと、怒られるどころじゃ済まないよ。い、い、急げー!
誤字脱字の指摘ありがとうございました。
毎日見直していますが、無くなりませんね。
これからも宜しくお願いします。




