モンスター討伐、僕にもできたよ
ギルドを出て装備を確認していると、声をかけられた。
「ユウマ君、こんにちは」
知り合いのいないこの街中で、初めて名前を呼ばれた。
ギルドの正面にあるパン屋から、元気に手を振る優しい笑顔。
サン·プルルス孤児院で一緒のハンナだ。彼女は、このパン屋で見習いとして働いている。
可愛いハンナに声をかけられると、ちょっと照れくさいけど、人に名前を呼んでもらうと、嬉しい気持ちになるね。
「おう、ハンナか。ちょうどユウマの登録が終わって、今から狩りを教えるんだ」
「気をつけてよ、無理しないでね」
彼女に別れを告げて門に近づくと、そこに立っていたのは、初日にお世話になった、あの兵隊さんだった。
孤児院のメンバーと一緒なので、安心をしてくれた顔だ。
挨拶をして門を抜け外に出ると、右の森には行かず、左手の広くひらけた草原へと向かった。
ここで何をするかというと、モンスター・ホーンラビットを狩るんだ。
ウサギといっても体高60cmと大きく、名前の通り角がある。
角は鋭くないけど当たったらヤバそう。
可愛さのカケラもない表情で、突進してくるので結構おっかない。
2人に言わせれば、ウサギは溜めてから動くし、直線的なので、たいしたことはないって。
だから1人が囮となって引きつけ、2人が木刀で倒す作戦だ。
確かに動きが単純だし、かわして着地を狙えば僕でもいけそうだ。
まっ、そう思っていたけどね。実際はテンパって、何がなんだか分かんなかったんだ。
って言うか、狩りてこんなに難しいの?
初めて倒せたのはホンの偶然。
振り下ろした木刀が、空振って地面でバウンド。
跳ね反ったのが、たまたま当たったんだ。
「ユウマ君、ナイスアタックです」
それでも、嬉しいや。
5匹倒した時点で終わりとし、川へと向かいそこで解体を始める。
モンスターといえ、生き物を殺すことに抵抗はあった。
でも必死だったし、なんとか2人についていけるよう、一生懸命頑張ったよ。
でもさぁ、さすがに解体はグロすぎるよ!
内臓を出すところから、も、もうダメです。
皮剥ぎでピ、ピンクの肉がヒイィィッ、み、見えてる! もう、ダメーーーー。
こ、これは防御システム発動! 自動モザイクON。……ってそんな機能ないか。
ショックで青い顔をしていると、静かな声でポーが教えてくれた。
「ウサギ2匹は、孤児院でみんなの夕食です。
残り3匹は肉屋に売るんですよ。
独り立ちするにも、誰も助けてくれないですから、そのときの資金は貯めておかないと」
人は食べなきゃ死ぬ。それはわかっている。
だけど昨日のシチューの肉が、どこから来たのかは、考えたことがなかった。
誰かが手に入れ、調理してそれを食す。
その誰かが自分になったのだ。
食べるたびに、他者の命を気に病んでいては、生きてはいけない。
この世界の当たり前。いや、元いた世界でも同じことだ
それは残酷なことではなく、他者の命で自分の命をつなぐ覚悟の行為。
……僕も向き合うべきだ。
「僕も……やるよ」
避けて通ってはいけない道なんだ。
やってみて分かったよ。
捌く工程で、獲物の変化に不快さを感じるけど、終ればなんてコトない。
冷蔵庫にある肉と、何も変わらないや。
ははは、喜んではやらないけどはね。でも、出来ない事じゃない。
捌き終わり、少し軽くなったとはいえ、結構な重量。
担ぐのを順番に変わりながら、帰路につき、夕暮れ前には門番さんに挨拶ができた。
まず向かうのはお肉屋さんだ。
チャティーさんの精肉店は、買値がここら辺で1番いい。でもベルトランは愚痴っている。
「あそこの娘、うるさいんだよなぁ。血抜きが遅いとか、切り方が雑だとか。あれがなけりゃいい店なのにな」
「はははっ、ベッツィーはいい娘ですよ。
ベルトランにも、優しく教えてくれるじゃないですか」
「えー! あれが優しいのかよ」
その精肉店は入った門から、少し離れた街の中央にあるお店だ。
買値も売値も良く、店主のチャティーさんの腕もよい。
それと10歳になる娘のベッツィーも可愛らしいので、お客に対するその軽口も人気の1つになっている。
「あ~、やっと来た。遅いわよベルトラン。
血抜きが遅いって言われたことを、覚えている頭があるなら、今日はちゃんとしてきたんでしょうね?」
「げっ! 聞こえていたのかよ」
そんな訳ないでしょ。何百メートルも離れていたじゃん。
「大きな声を出せば聞こえてくるし、それにあんたの噂話の伝わり方なんて、あんたの足より早いんだからね」
え? マジ、気をつけなきゃ。
「ほら見せなさい。
……最低ラインは超えているけど、う~ん。じゃあ、こっちの3個を買いとるわね。
はい、銀貨4枚と銅貨50枚、まいどありー」
この世界の通貨は、銅貨・銀貨・金貨がある。
銅貨100枚で銀貨1枚、銀貨100枚で金貨1枚の交換で流通している。
価値としては多分、銀貨1枚は1000円以上の価値はあると思うんだ。
よくわからないのは、今までお小遣いで買っていたのは漫画かジュースぐらいだし。
この世界に、それらがあるわけがないので、比べにくいんだよね。
ベッツィーに笑顔で送られ、冒険者ギルドへ向かう道中でも、街のみんなに声をかけられる。
この街はチャティーさんの所だけじゃなく、みんな親切で良い人ばかりだよ。
ギルドでは、ホーンラビットの毛皮を納品するけど、これも2匹分は冬支度のため、孤児院に欲しい。
残りをギルドポイントを貯める兼、資金稼ぎのために買い取ってもらう。
モニカさんはまだ仕事をしていて、怪我なく帰ってきたことを褒めてくれた。
毛皮は3つで銀貨3枚になった。
ちなみにホーンラビットの魔石は安く、1個銅貨5枚。クズ魔石らしい、ちょっぴり可哀想。
大変な1日だったけど、すごく楽しかった。そして帰る途中2人に。
「なっ、今日楽しかっただろ? 明日から毎日一緒に行こうぜ」
と誘われた。
マジ? やったー! メチャクチャ嬉しい。友達ができるのかと思うと緊張する~。
本当にいいのかな? お礼を言うと怪訝な顔された。
「ありがとうなんて変だぜ。とっくに俺たち友達じゃないか」
ははは……2人に会えてよかった。ほんと、ありがとう。これでボッチ卒業です。