謁見
すみません。
『僕らが行く道、帰る道』からタイトル変えました。
今まで読んで頂いた方には申し訳ありません。
何卒ごひいきにお願いいたします。
スポーズ法国。20年前に建国された若い国。
聖都アカミソは、元々グリーンストロルス王国の、ハウザー伯爵領で栄えていた街である。
当時伯爵領は、地の利を生かした貿易と、魔道具開発で街を発展させ、この地域を豊かにしていた。
その富に群がる輩はたくさんいる。その中にいた1人が前法王のグラバロル一世だった。
当時は一介の僧であり、諸国を旅する放浪の者。しかし、その聡明な頭脳と多彩な才能のため、伯爵に召抱えられた。
臣下に加わると、直ぐに大きく功績をあげ、瞬く間に宰相の地位にまで、上り詰めていったのだ。
彼の演説は人々を魅了し、人が求める答えを言葉として発していく。人々は酔いしれて彼を求めた。
短期間で、その地位に上り詰めるほどの傑物が、そこで終わるはずがない。
彼は徐々に領内の富をかすめ取り、領民の心を伯爵から離れさせ、そして信徒に反乱を起こさせた。
信徒の力で王にまでなると、ヒューム至上主義を掲げ、奴隷制度を推奨して、国民の心を1つにして国をまとめ上げていった。
そして勢いそのまま、グリーンストロルス王都を落とし、他の国内諸公を平らげようとしたのだ。
しかし、それまで傍観していた周辺の諸国の王たちも、このままでは自分のところも危ういと、行動を起こした。
スポーズ法国の反対勢力に援助することで、やっとその進行を止めたのだった。
そのあと旧グリーンストロルス王国は各領主が独立をし、連邦国として纏まり今日に至る。
「法王様におかれましては、御健勝のご様子。なによりでございます」
「賢姫の噂は、この法国にまで聞こえておるぞ。レディ·ジゼル」
謁見の間で姫様と対面しているのが、2代目法王グラバロル2世だ。
こちらジゼル姫の傍らには、文官が2人に騎士長が1人だけ。
警戒はしなければいけないが、ここは文官の戦場で武が出る幕ではない。
「本日は父ヨウドウ·ハワードの代理として、貴国との友好を図るため参りました」
姫の挨拶が続く。
「貴国は近年、天災が続き、国内の麦の育ちが悪いとか……。
民の苦しみの声に、法王様も嘆かれていると思い、その悲しみを少しでも軽くするため、幾ばくかの食料を準備しておるところでございます」
こういった理由でスポーズ法国において、本来なら人拐いをして、人口を増やしている場合ではないのだ。
だがそれでも、人々の不満の矛先をそらすため、政策を変えることはできない。
「これは、これは敬虔なお方だ。神もきっとこの良き行いを見ておられます」
「いえいえ、我々は同じく民草を守る身。当然のことです」
一領主の使いの者が、他国とはいえ王と同じ土俵だと言っているのである。
「ただ……1つ問題がございまして、我が領内で良からぬ声が出きており困っております」
双方まだ笑顔のままで話は進む。
「貴国の下々の者が他国に押し入り、人々を拐かしておるそうです。
我が領内でも被害は出ておりまして、その不埒な者どもが、隠れ住むこの国への援助など反対だと、主張する者が後を絶ちません」
法王が反応しなくても、周りの臣下が不快な表情をしている。
「この国のすべての者が悪いわけではなく、ごく一部の下賎な輩の行いに目を奪われ、真の良き行いを見失っておる者がいるのです」
その悪事を推奨する指導者に、素知らぬ顔で下賎な者と言い放つ姫。
一歩間違えれば、この場で破談となりえる物の言いようである。
しかし法王も、全てを突っぱねられる状況ではない。その事が分かっての言い方に、法王も心中穏やかではないはず。
しかし、それにもお構いなく姫は続ける。
「我々としましても、せっかく用意をし救える命がそこにあるのなら、今すぐにでも実行に移したいのです。
そこで法王様にお願いがございます。この被害に遭った者たちを、救い出して頂きたいのです」
更にジゼル姫が畳み掛ける。
「ただ貴国のみに、負担をかけさせるわけにはいきません。
ここに控えております者どもを、残しておきますので、ぜひとも早期解決につなげて下さいませ。
それと皆様の邪魔にならないよう、自分の判断で動けと申しておきますので、情報提供して頂ければ結構でございます」
図々しい申し出だ。自国の者を好き勝手にさせなさいと言っているのである。
「なるほど~、そのように人を拐かす者がいるとは初めて聞いた。それこそ神の御意思に反するものぞ。
許しがたい……うむ、こちらの方で対策を立てなくてはならぬな」
こちらも肩透かしを食らわす。許可は与えていないし、調べるだけで具体的に何をすると約束さえしていない。
2世とはいえあの初代の傑物·グラバロル一世の実子だけはある。
「外務大臣、このことは後でレディ·ジゼルとよく話すように。それとは別の話だがよろしいか?」
この内容を早めに終わらせたい気持ちなのか? それともこちらを焦らせて、有利に進めようという作戦か。どちらにしても、なかなかの役者だ。
そう思い感心していたが、出てきた言葉は全く関係のない内容だった。
「貴女に付き従うもので、薬調合に長けた者がおるそうだの?
今この国にも病めるものが多く、その者を借り受けたいのだが、いかがかな?」
予想外の指名に少し驚く。
護衛として付いてきた者の、知識を欲しっているのだろうか。
しかし彼は部外者であり、揺さぶりとしては少し変だ。
「申し訳ございません、法王様。
彼の者は自由な冒険者。なんぴとたりとも冒険者を縛り付けることができませぬゆえ、私からはなんとも。
それと彼は父との契約者。父からはしっかりと傍に置き指導するようにと、強く言われておりますので、愚かな私にはただ父の命令に従うしかありません」
「それは言われる通りだな。無理を言ってすまない」
法王はアッサリと引き下がり、会見はそれで終わった。案内係に誘導され私達は部屋へと戻った。
明日には外務大臣との会談が始まる。その中でこちらの要求が全て通ると思っていない。
「そうですね姫様、明日は向こうの要求がどれほどになるかわかりませんが、主導権を譲らないことです」
連中は今頃、大慌てでこちらへの対策を練っているであろう。
それに対して我々は素早く反応するか、1度持ち帰るかを判断しなければいけない。長い1日になりそうだ。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
ハワード家の護衛と付き人の控え室。
「時間はかかってますね、トンスケーラさん。姫様は無事でしょうか?」
「ユウマ君、心配はいらないよ。何かあったとしても騎士長がいる。
彼の〝奥の手〞があれば、姫様を連れて逃げ出せれるさ」
そんな話をしていると、謁見を終えた姫様が戻ってきた。
「お帰りなさいませ、スポーズの連中はどうでした?」
「人となりは見極めたつもりよ。まっ、本番の明日からも後手に回ることはないでしょう」
自信のある顔の姫様、カッコいい。
「ところでユウマ。薬師としてあなたを借りたいって言われたけど、あなたの薬はそれほど効くの?」
「い、いえ、MP丸薬はたくさん作ってますけど、薬はそんなに自信ないです」
多分どこかで、話が変な風にすり換わったんじゃないかな。
「ダーリン、もしかしたら狙いはそこじゃないのかもなの」
「どういう事? ウサギさん詳しく話して」
「ダーリンは北で、拉致部隊をつぶしているのなの。その仕返しも考えれるのなの」
「もう、ハーパー。大事な会談なんだよ。向こうも僕なんか一人に構っていられないよ。
そんなことでこの会談を台無しにするなんて、そこまで馬鹿じゃないよ」
「そうね。護衛とはいえ、人がいなくなればこちらも黙っていないですし、流石にそれはないでしょう」
「私の考えすぎなの?」
ハーパーは心配してくれたんだね、ありがとう。
この作品がみなさんの元気の素になりますように。