絶対確保
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尾行 2日目
馬車は昨日と同じ方向に向けて進んでいて、このままいけば港町に着くそうだ。
あのあとも合流する者はいなく、そろそろ決断を下さないといけない。
「夜襲の方が殲滅するに都合がいいの。でも今回は救出と捕縛なの。
夜だと捕り逃しの危険性もあるし、明るい方が確実なの」
作戦としては明日の起床前に襲撃をかける。勝負は一度きり、失敗は許されない。
100点満点で初めての成功だ。絶対やってやる!
次の日夜明け前から配置についた。敵の数は18人。
作戦はタイミングを見計らい、できるだけ集まったところへ、エリカの精神攻撃で動けなくする。
その攻撃に外れた敵や見張りには、ハーパーの眠りの曲で眠らせる。
それでも漏れた場合は、僕の影分身とキンバリーで取り押さえる。
不測の事態に備えエブリンとジェンナには、あと詰めをしてもらうことにした。
ハーパーが合図を出す。
エリカの立ち上がった姿に男たちは驚いた。しかし男たちはニヤニヤと笑いだす。
こんな森の中にもかかわらず、エリカの美しさに気を取られている。怪しいと思わないのだろうか?
そして次の瞬間、精神攻撃により18人全員が、頭を抱えてその場にうずくまった。
あっけない。いや油断は禁物だ、あの腕の長い男はどこだろう…………いた!
他の男たちと一緒で、涎を垂らして倒れているよ。でも他のと違いすごい顔で睨んでくる。
「クソが! な、何をしやがった……なっ、レ、レベル26だと!」
エリカのステータスを見たようだ。更に怯え混乱をした顔で彼女を見ており、全く動けない様子。これなら大丈夫だろう。
「みなさん助けに来ました。僕は冒険者ギルドのメンバーでユウマといいます。
外の男たちは全員やっつけましたので、安心して下さい」
湧き上がる歓声や泣き声、様々な感情が爆発した。
「ユウマ、コヤツら縄で縛りあげようぞ」
うん、そうだね。この男たちを身動きできないようにさせないと、みんな安心できないもんね!。
そう思い、マジックバックから縄を取り出した瞬間、名無しのファルサが動いた。
脱兎のごとく逃げ出したのだ。まただ、逃がさないと誓ったのに……追わなくちゃ!
僕も無我夢中で走り出す。
「ユウマ、1人で行くなー! お主ら、ここは任せた。妾がいく!」
影分身12人を出し、全員で囲うように陣を展開する。
メンバーとはだいぶ離れてしまったけど、ここで引くわけにはいかない。
しかしあの男のスピードは速く、なかなか追いつけない。どうしたら……あっ、そうだ。
「ファルサ、おい、ファルサ! 臆病者め逃げることしかできないのか」
さっきまで振り返りもせずに逃げていた名前のない男が、この名前で呼んだだけで立ち止まった。
「クソガキ、その名で俺を呼ぶんじゃねぇ!」
「いいや、お前にお似合いの名前だ。何度でも呼んでやる、ファルサ!」
「クソがーーーー!」
前にも増して重い一撃。僕もあれからずいぶんレベルが上がったのに、この男との差は埋まっていない。
影分身の援護も虚しく、次々に打ち取られていく。
「風使いの小僧。あの女の仲間だから警戒をしたけど、大した事ないじゃねえか。
お前はアホだな! 殺してもらうために来たのか? はははははー!」
このファルサの言う通り、僕の力はこの男に遠く及ばない。
だからなんだと言うんだ、僕は絶対ひかないし、諦めもしない。
「小僧、お前のせいで折角集めた獲物がパーだ! 代わりにお前の手足をもいでやる。
可愛い顔をした達磨として一生過ごせ」
「ファルサ、あんたはそうやって他人を苦しめてきたのかー!」
僕はこの男の隙を作るため、影分身をどんどん突撃させる。
「邪魔くせぇー! 【バーニングスラッシュ】」
影分身を全てかき消し、炎がここにまで迫ってきた。
「うわーーーーーー!」
痛い! 脇腹は焼き斬られ、ひきつる痛みを感じる。傷は深いようだ。
血が滴り落ちているし動けない。何とかしなくちゃ、ここで逃がすわけにいかないのに……。
「ユウマ!」
エリカの声だ。その声を聞くよりも早く、ファルサは後ろへと駆け出していた。
「エリカ、あいつは逃がさないで! 追いかけて」
「何を言うておる、お主の治療の方が先じゃ」
「それじゃダメなんだ、あいつが手掛かりなんだ……ベッツィーを……あぁ」
「…………」
エリカがHPポーションを何本も使い、僕の傷を治していく。
その間にファルサは消え、僕はまた逃がしてしまったことを悟った。
エリカと2人、先ほどの場所に戻ると、拉致された人達のため、食事が用意されていた。
拉致されてきたのは子供が多く、全部で31人だった。年齢は9歳~25歳、出身地や人種もバラバラ。
食事の前に水浴びを希望する人には、忍術で提供した。
見るつもりはなかったけど、中には痛々しいほどの傷を負った子もいる。
「なんでこんな酷い事ができるのよ」
ジェンナによるアクアヒールで治療され、人心地ついた子から食事をしてもらう。
少し前からこの子たちに聞かれない所まで離れ、エリカが誘拐犯たちの尋問を始めていた。
「こういうことは大人の妾に任せるがよい」
子供の僕が問い詰めても、効果はないだろうし、ここは素直にお願いすることにした。
だいぶ時間が経ってから、エリカが戻ってきた。
やはりスポーズ法国から来ており、国家主導の拉致だった。
逃げたファルサが指揮官で、この先の港町から船に乗せ運ぶ予定だったらしい。
僕たちがこのまま港へ行っては危険だと判断したので、領主の城があるベニカルロの街へ向かう事にした。
誘拐犯たちは1台の馬車に押し込め、逃げれないようにしておく。
「イデデ、こんな汚ねえ所にいれるな、オェッ」
「ギャハハハ、アホなお前らにはお似合いのところだぎゃ」
「なんだとー小娘!」
「……自分のしたことを考えろだぎゃ、それとも今ここで首をはねてほしいぎゃ?」
「うっ………………」
エブリンの冷めた声とすわった目に、男達は黙るしかなかった。
僕たちは出来る限り急いで街を目指した。
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