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我が名は

 森のとある場所、身篭った女が生まれてくる子のため、産着をこしらえている。


 幸せそうに笑う口元。もうすぐで生まれて自分の元へ来てくれるかと思うと、嬉しくてついつい張り切ってしまう。


 もう何着目だろうか、今日も頑張った。そろそろ体を休めないとお腹の子に響く。


 暖かい寝床にもぐり、この子の夢を見るために眠りにつこう。


 その部屋を静寂と夜の帳が優しく包んでいく。




 しばらくすると何処からか、ホタルほどの小さな光がいくつも集まってきた。


 淡く優しい光。胎児を祝福するかのように、お腹の周りを飛び回っている。


 この光の正体は精霊たちだ。


 精霊たちは傷つけてはいけないと、そーっとお腹の中の子を見つめている。彼らに好かれた特別な子。


 そして精霊たちは歌うように話し出す。


 ――わー、カワイイ。今度は私がこの子の名前をつけるわ。ね、いいでしょ?――


 ――何を言っておる。この子は既に名前を持っておるわい。誰かがつけることではないわい――


 ――そしてその名前は意味を持つ――


 ――我らはそれを伝えるための存在。名前を伝え、魂に染み込ませる。そして目覚めの時を迎えるの――


 ――そう、この子自身が名前の持ち主――


 ――自分の名前を忘れたら悲しいわ――


 ――それでは『エブリン=生き生きとした者』よ。その名と共に生きるがよい――





 私の名前はエブリン。東ゴブリン23番目の村に生まれた女の子。


 今日も先輩ゴブリンに、いろいろ教えてもらい頑張っています。

 兄さん方も姉さん方も、みんな強くて頼りになりすっごくカッコいい。


 それにイケメン多すぎです。スラッと伸びた鷲鼻に、流し目が似合う鋭い瞳。

 たくましい腕にあのお腹、揃いすぎてます!


 特に棍棒の勇者は棍棒使いの名人で、なんでもブッ叩くしなんでも割ります。

 私も早くあんな風になりたいなぁ。


 そんなカッコいい先輩たちが、たった10人で凶悪ホーンラビットを倒しに行くと言っている。


 危ないから止めようよ、怪我をして死んだら怖いよ。


「そうだな、やっぱり止めておくか」


 よかったー、無茶してもよいことは1つもないよ。


 ぐがうぅぅうぅうぅうぅうぅうっ!


 みんなのお腹が鳴った。今日は何も食べていないからなぁ。


「やっぱ行くか」


 そうだよ、お肉食べたい、お肉大事。


 しかし狩場まで出るのも大変です。

 他の村のゴブリンに会うこともあって、さっきも2回出会った。


 あいつら、いつもに2~3人らしくあっという間にボッコボコだ。私も端から殴ってやったよ。


 戦利品の棍棒を巻き上げて、二刀流になった先輩ゴブリンもいる、カックイイー!


 森から出る手前で獲物となる1匹を見つけた。まだこちらに気づいていない。


 ウッシッシ~、これはチャンス。ぶん殴るため前に出ようとしたが止められちゃった。


 ホーンラビットを狩るには、綿密な作戦が必要らしい。

 今からその会議だ、勉強になります兄さん方。


「いいか、ホーンラビットはあそこにいる。だから俺は今のここからギャーって行くぜ」


「なるほど、じゃあ俺もここから行くわ」


「フフフッ、お前らそう来たか。だったら、お前とお前、俺と一緒にここからギャーと行くぞ」


 作戦は決まった。一糸乱れぬ固まっての突撃。ホーンラビットもビックリして逃げ出している。


 ふははは~、恐怖におののいていやがるぜ。


 あっ、前の2人がコケた。その後ろの3人も巻き込まれ、持っていた棍棒もどこかへすっ飛んで行っちゃった。


 ふーっ、こうなったら私がやるしかないってことね。


 うりゃーっと勢い良くホーンラビットの前に出たけれど、あれ……怖い。


 なにこれ、おっそろしーよー。もしあの角に突かれたら痛いだろうし、あの目つきもヤバい。


 あの目はきっと、何人ものゴブリンを殺してきた目だよ。


 この凶悪兎は血に飢えたモンスターだったんだよ。

 そうとは知らず、目の前に立ってしまった私のバカ、バカ、バカ。


 恐怖で立ち尽くしていると、さっき何処かへ飛んでいった棍棒が跳ね返って戻ってきた。

 そして丁度、ホーンラビットの顔面にヒットしてくれた。


「よくやった、エブリン」


 兄さん方が駆けつけて、よってたかって滅多打ち。さすがイケメン先輩見せ場を作るね。


 初めての狩りで初めての大成功。しかも私がやりました、エッヘン!


 早速焼き始める。もう匂いでヨダレが止まんない。


 いい感じに焼けてきた、どれどれ……おいしー! 怖いけど美味しいってホーンラビットは凄いよ。


「エブリンは本当においしそうに食べるな」


「うん、お肉サイコー」


「エブリン〝お塩〞って物を知っているか?

 その粉をかけると美味しいお肉が更にメチャクチャ美味しくなるんだ」


 なにその魔法の粉。かけるだけって凄すぎ!  いつか手に入れて試さねば。


「それとエブリン、さっきは良かったぞ。ほらこれを使え」


 渡されたのはさっきの棍棒だった。


 もしかしてくれるの? 武器なんかお前にはまだ早いって持たせてくれなかったのに、なんで?


「いいか、エブリンよく聞け。武器ってのはな巡り合わせなんだよ。

 その者に必要となった時、その者がその武器を持つに値した時、向こうから勝手にやってくる。

 この棍棒だってお前を強者だと認めたからやってきたんだ。

 さぁ受け取って相棒に挨拶をしろ」



 コブがいっぱい付いた無骨な形。ズシッとその力強さを手に伝えてくる。


「さぁ、これからは〝棍棒の女王〞と名乗るがよい」


 称号キターーーー!


 ふっふっふ、生後8日目にしてすでに頂点を極めてしまった。自分でもこの才能が恐ろしいわ。



 村に帰ってきて、楽しいことはないか探していると、長老の授業が始まっていた。この前も聞いたけどすごくタメになる。


「これが木、これが火、これが人類。木は大事で優しい、火は大事で危険、でも人類は危険でいらないもの」


 絵があるからわかりやすいね。


「人類はとても恐ろしい。我々と違うところが多い。

 毛が多いのがいたり、牙を生やしていたり、体だって大きい小さいもある」


 なにそれ、毛深くて牙の大男? 想像しただけでも恐ろしくなってきた。


「長老、そんな色々いて、見るだけで人類ってわかるんですか?」


「ああ、直感でわかる。我らゴブリン族は優秀ゆえ、本能的に感じることができるのだ。

 そしてその中で気をつけねばならないのは〝ボーケンシャ〞と言うヤツラだ」


「〝ボーケンシャ〞に食べられちゃうんですか?」


「いや、我らを食べずに耳だけ持ち去る。ただ殺すだけだ」


 重い空気とともに沈黙が流れた。


「あのー、長老。中にはいい人もいたりするんじゃないですか?」


「うむ、優しいゴブリンならそう考えてしまうな。

 ……人類の社会全体が歪んでおってな。

 例えば先ほどの食べもしないのに我らを殺すと教えたが、では食事はどうしているか知っている者はいるかね?」


 誰1人手を挙げない。


「実は肉を食べるために、獲物を狭いところに囲い、子供の頃から育てて、大きくしてから食べるのだ。

 殺されるのを知っていて、育てられる気持ちは考えただけでも恐ろしい」


 うそでしょ、そんな酷い事をするのが人類なの?


「それと次に食べられる犠牲者は、育てたものに産ませる。産ませては食べるの繰り返しだ。

 極悪非道もいいところだ。こんな奴らの中に良い奴がいると思うか?」


 ショックだった。そんなことするなんて悪魔だよ悪魔!

 やっぱり人類なんて会いたくないや、夢にも出てこないで欲しいよ。



 次の朝、一晩寝たらすごく気分がいいや、風も吹いていて気持ちいい。


 さあ今日は何しよう。そう思い広場に行ってみると、なにやら人だかりが出来ている。


「オークの群れがここに向かってきているだと?」


 みんな大騒ぎで無理もない。オークは私たちゴブリンの最大の天敵。


 過去に幾度となく戦うが、今まで決着は付いていない。

 長年の恨みのみが蓄積されて、今度こそは皆殺しにしてやると全員意気込んでいる。


 さあー、準備で忙しくなるよ! 私も棍棒を磨かないといけない。


 それと次は……あ、お腹すいてきた。何か食べるものないかな。

 ウヒヒヒッおいしそうなイモがある。おいしー! もういっこー、おいしー。


 ふー、お腹いっぱい。えーっとなんだっけな? そうだ、棍棒手入れしないと、忙しい忙しい。


 それからあっという間に時間が経ち、ついにオークが姿を現した。


 みんなヒートアップしている。あっちでもこっちでも叫んでいる。

 〝やってやるー〞とか〝お前がイモ食ったんだろう〞とか気合入れまくりだよ。


「今日こそ奴らを根絶やしだー」


 オーーッ!


「オークの鼻をちょん切ってやれー」


 オーーッ!


「ついでに肉もいただくぞー」


 オーーーーーーーーッ!


 よーし、今こそ私の力を見せつけてやる。先陣に立ちメッタ斬りだよ。


 うっしゃー! ちょ、ちょっと……気合入れてるんだから押さないでよ……。

 ちょっと~……。あれ? そっちじゃないって……あれれれれ?


 最後尾に押し出されちゃった、う――――っ、まっいいか。主役は最後に登場するもんだしね。


 開戦の合図を待っていると、誰かに腕をつかまれ担がれた。これは何かの作戦?


 高台の少し離れたところで、降ろされたのでその相手を見た。


 なんと、……じ……じ……じんるーいーー。ギャーーーー、さらわれたーーーー。

 あっ、あ、悪魔が目の前に……誰か助けて……。


「君大丈夫? もう心配いらないよ」


 なんかしゃべっているけど、意味がわかんない。


 ヒッ、こっち来るな、これでもくらえ。 えい、えい、全然こたえてないや。


 でも何にもしなかったら確実に殺される。えい、これでどうだ!


「いい加減にしろーーーー!」


 意識を持っていかれそうになる。これがドラゴンの咆哮ってヤツか。


 ダメダ……勝てるはずがない。……生まれて10日も経っていない私が勝てっこない、参りました。


 何か歌ってる? そっか、なるほど殺す前に歌う流儀なのね。今更ジタバタしないわよ。

 もう全てあんたのものよ、好きにするがいいさ。


 あれ、食べ物くれるの? しかも団子じゃん、おいしそー、いただきまーす。


 うーん、鼻にツーンときて脳天まで痺れる美味さ。手足も痺れて……。


 ……あっ、目の前が真っ暗だ……





 こうして私は、マスターの従魔として人生を歩みだしました。



エブリン好きなキャラです。


みなさんのブックマーク励みになりますので、ぜひ登録お願いします。お星★★★★★評価もください。

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