次は犬かな
2連続のネームドモンスターの発見。
ありえないこの幸運に、乗っからないなんてありえないよ。
えーと、この女の子(?)はノビているし、放っておこう。
レベル10の僕にとって、だいぶ減ったこんな数、準備運動にしかならないよ。
崖をゆっくり降りていき、目の前にいるゴブリンから倒していく。
オーク達は急に出現した僕に驚いた顔だ。あのネームドモンスターも固まっている。
よし、ひと呼吸おいてから、残ったオークを端から倒していくと、自分たちの危機的状況に、やっと気付いたみたいだ。
全員でかかってきたが、そんな遅い攻撃当たらないよ。
躱し続け、ワンパンでザコをすべて倒し終えた。
眼前に立つ僕をネームドのオークは、信じられないという顔で見つめてきた。
う~ん、見れば見るほどヒュームにしか見えない。
確かにオークと言えばオークっぽいけど、十分ヒュームとしても美人の部類だ。
不思議だなぁ、名前を持つとここまで変わるものなのか。あっ、考え込んでいる場合じゃないや。
それにこのネームド何か言いたげだ。
伸ばした手を握り締め、自分の胸を一度ドンと叩きそして大きく頷いた。
戦えってことなのかな? なんか格好いいなこのオーク。
しかしレベル差があるので、殺さないためにも素手でやるしかない。すると向こうも武器を捨てた。
対等でいたいのだろう。益々気にいったよ。
ネームドはかなり速いパンチを打ってきたが、それをかわし懐へと潜る。
僕はリーチが短い分、内側に入らないと届かない。
お腹に1発入れて、苦しさで体を前に折ったところへ、アゴにフックをお見舞いする。
ネームドは脳震盪を起こし、座るように崩れた。
必死に立とうとするけど、足が言うこと聞いてないみたい。
僕は左の手のひらをオークの目の前に出し、まっすぐ見つめた。
「もう勝負はついた。僕の勝ちだ」
そしてスキル〝サルマワシ〞を発動させる。
「♪モ~モタロさん モモタロさん おっこしにつけたきびだんご~ ひっとつわたしにくださいな♫ あ~げましょお あげましょお わたしについてどこまでも~ ついて~くるならあげましょお♪」
さっきと同じ3つのアイテムを出す。
ようやく動けるようになったネームドは跪き頭を垂れた。
あれ、受け取らないの? 失敗でもなさそうだけど、念のためステータスオープン。
キンバリー
オーク(レア):メス
Lv:3
従魔契約主人:ユウマ·ハットリ
スキル:立体空間トレース 盾術
おぉ、しっかりティムできている。
「マイマスター、大いなる力の持ち主よ。この時より微力ではありますが、あなたの盾となり、如何なる時もお守りすることを誓います」
「喋れるの? しかも流暢じゃん」
「はい、会話ができなければ、意思の疎通はできません。主人に仕えるならば当然のことです」
そういうものなの? でもそう言ってるし、当たり前なのかもね。
何にしても、野生のモンスターみたいに、フゴフゴギャーギャーだと、いずれ無理が出てくるし有難い。
「この僕についてきてくれるんだね」
「命尽きるまで、どこまでも」
そう言うと、HPポーションを受け取ってくれた。
こんなふうに言われると、ちょっとジーンとくるね。
なんだか、昨日までの沈んだ気持ちも、どっか行っちゃった。
「マイマスター、お仕えした早々、申し訳ありませんが、お願いがございます。
この地にゴブリンにして、災いの種が出現したと聞き、これを討ちに来ましたが、まだそれを果たせていません。
少しのお時間を頂き、のちの憂いを払ってきたいと思います」
「災いってそれはどんなの?」
「生まれたばかりですが、ゴブリンのネームドモンスターです」
あれ? それってさっきの女の子のゴブリンの事じゃないかな? あーっ忘れていた。
「ティムして置きっぱなしじゃん。ヤバッ、君ついておいで」
急いで崖を登り、さっきの場所に戻ってみる。
あら、倒れたままじゃん。いや、寝ているよこの子、呑気だなぁ。
「マイマスター、コヤツです。では、今のうちに首を落とします」
わー! まって、待って! 違うよ、イヤ違わないけど、この子はティムしてあって、もう僕の従魔なんだ。
だから、そうね、そうだよ~。落ち着いて~。
オークのキンバリーも渋々だが、矛を収めてくれた。
その肝心なゴブリンのエブリンは、まだ眠ったまんまだ。
このアトはどうしよう。今からだと薬草採取には遅いし、かと言って明日また出直すのも嫌だしなぁ。
今日はこの近くで野営をするか。
そうするにしても、ここでは血生臭いし、別の場所にキャンプをしよう。
「キンバリー、どこかでキャンプを張るからそのゴブリンを背負って付いてきてね」
「うっ……仰せのままに」
一々、跪かなくてもいいからね。