表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

52/87

それからの僕

 3階のフロアボスを攻略した3日後、ベルトランとナオミを見送るために集まった。

 ナオミも王都にある魔法院に入るため、一緒に行くそうだ。


 予めお世話になって人には、挨拶を済ませてある。

 だけど、ベルトランは肉屋のチャティーさんにだけはもう1度会ってきたようだ。

 何度も頭を下げられ困ったと、悲しそうな顔で教えてくれた。


「……ベルトラン……ナオミ、こ……れを」


 僕たちが攻略した白百合の迷宮で、1階から3階までの地図の写しだ。

 ミーシャが記念にとみんなにも渡している。


 そして僕も渡すものがある。


「これ、みんなにも持っていってほしいんだ」


 全員にMP丸薬200個ずつに痺れ薬も少々。

 これから先何があるか分からないし、持っていても損はない。


 この前の秋から、ギルドランクを上げるため薬草採取に励んでいたんだ。これくらいの量わけないよ。


「わりぃな、みんな……じゃあ行ってくるぜ」


 あっさりとした別れだった。これ位が丁度いいのかも。


 それから2日後、ポーも年末用に仕入れた品が売り時だと言って南へ旅立ち、

 残ったドンクとミーシャも、春の種まきに間に合うよう出発すると言っていた。





 僕のその後の活動は、殆どソロが中心となっていた。


 解散してすぐ、他のパーティへ入るのは気持ちがついていかない。


 いくつか顔見知りの人に誘われたが、丁重に断った。


 とにかくやる気が起こらないんだ。今まではどこに行くにもメンバーの誰かは一緒だった。

 だから買い物をしていても……。


「この魔道具面白そうだね?」


 振り返っても誰もいないのに、ついつい話しかけちゃう。はたから見ていたら変人だよ。


 なんだこの嫌な感覚は……忘れていたけど、もしかして、これは……イヤ、思い過ごしだよ。


 あれから僕も成長したんだ。絶対そんなはずはない。でも…………これは……間違いない。


 ――――ボッチの状態だ!


 怖くなった僕は、臨時でパーティに入れさせてもらった。


 うん、ボッチじゃない。ちゃんとパーティにも入れてもらえるし、何より頼りにされている。


 ふ~、僕の勘違いでよかったよ。うん、うん、うん、うん、そうだと信じよう。


 それに、これはこれで結構楽しかった。いつもとニーズが違うし、良い勉強になったかな。



 そんなスローライフを過ごしている中、1つだけ熱中していることがあるんだ。


 それは今まで棚上げにしていたスキル『サルマワシ』だ。

 これは端的にいうとティム、つまり従魔契約のスキルだ。


 なぜ今まで使わなかったかというと、契約する時の前段階に手間がかかり、パーティを組んでいると気軽にはできないんだ。


 手順としてまずは、相手を心服させる必要がある。

 この人にはかなわない、この人すげーと思わさなければいけない。まっ、当然か。


 そうしてからスキルの発動。この間、対象モンスターは襲ってこないので安心。そして上手くいったら契約となる。


 しかし。


 ――ドゴッ――


 横っ腹にいいのをもらった。別モンスターの乱入だ。


 対象モンスターは襲ってはこないけど、他のは別だ。

 しかもスキルが発動していると、僕が途中では止められないので、メッタ打ちにされる。


 クーッ! HPはそんなに減らなくても、結構堪えるね。

 こうならない様に、平原のウサギで試していたがミスしちゃった。気を取り直して次行こう。


 レベル10になって力も上がり、殺さない程度にHPを削るのも一苦労。


 そしてパーティを組んで、これをしなかった最大の原因は、このスキルの発動モーションにあるんだ。


「♪モ~モタロさん モモタロさん おっこしにつけたきびだんご~ ひっとつわたしにくださいな♫ あ~げましょお あげましょお わたしについてどこまでも~ ついて~くるならあげましょお♪」


 熱唱プラス振りもいる。少し歌詞違うし……。


 こんな恥ずかしいこと、人前ではできるはずないよ。

 しかもティムに失敗して、〝フン〞ってフラれたとき心へのダメージは大きい。


「おかしいなぁ。

 〝心服させた相手にスキルを発動すると、高確率でティムできる〞

 てあるのに、いいところ5回に1回ぐらいじゃん」


 何がいけない? これはいろいろ試さないと、手の振りや顔の角度? ――ドゴッ――


 イタッ、もう1度。今度は流し目では……ダメか。


 歌の工夫をしてみよう、ビブラートをつけたり、もっと大きな声? ――ドゴッ――


 う~、全然ダメじゃん。1日中やっても何も掴めなかった。


 明日もこれをやるのか。……人に見られないよう本当に気をつけないといけない。


 あれから何日も頑張っているけど、孤児院への寄付のお肉が増えるだけだった。


 それでも今日もまた歌い続けます。


「♪モ~モタロさん モモタ」 ――ドゴッ――


 またやられちゃった、集中集中! 何も掴めないまま時間が過ぎる。


「はぁ~、どうしたらいいんだろう」


 ギルドで調べても普通のティムは載っているが〝サルマワシ〞はその文字すらない。情報が全くないんだよ。


 だから自分で考えて試すしかないんだけど、思いついたこと全部出し切っちゃった。

 もう無理です。


 それに何度も歌っているせいで、普段でもつい口ずさんじゃう、変な癖がついたし困ったよ。


「♪おっこしにつけたきびだんご~」


 今もまた歌っていた、ヤバッ!


 …………ん? キビダンゴ?


 もしかして歌詞をなぞっているスキルなら、きび団子をあげる? おっ、キタかも!

 きび団子は手に入らないから、MP丸薬でやってみよう。


「ついて~くるならあげましょお♪」


 バッと手の平に丸薬を出す、どうだ?


 〝プイ〞


 くーっ! いや めげない。他のもいっぱい出してみたらどうだ。


 ヤケになり短剣 HPポーション しびれ薬 ビー玉 パンと一気にいろんなもの出してみた。


 〝キュ?〞


 HPポーションを受け取ったー! 


 ―――――

 ホーンラビット:オス

 Lv:1

 従魔契約主人:ユウマ·ハットリ


 ステータス確認をしてみると、ちゃんと従魔になっている。


 嬉しくなって何度も試しちゃった。そして、その度に次々と受け取ってくれる。


 キターーーーーーーーー!


 たまに目当てのアイテムがなくフラれてしまうこともあるけど、〝きび団子作戦〞上手くいきました。


 検証してわかったけど、同じ種類のモンスターでも個体によって好みがある。

 受け取るアイテムは薬や食べ物など消耗品であること。

 あとは丸くなくてもイイってことがわかったよ、ははは……。




「……ねぇ君……ベルトラン……僕とパーティ組まないかい?」


 そんな馬鹿げた問いかけに、ホーンラビットは答えるはずもなく、きょとんとした顔をしている。…………僕は何をやっているんだろう。


 少し前まで一緒にいたHEROESの5人。内容の濃い1年だったなぁ。


 他の人は10年以上かけて到達する所へ、たった1年でたどり着いたんだもん。


 考えてみれば嫌な思い1つしたことがなかったし、いつも笑っていつもはしゃいでいた。

 ボッチだった頃には考えられないことだよ。


 キラキラしていた仲間。そんな彼らは自分の進むべき道を見つけ歩き出したんだ。


 ――ピシャッ――


 顔を叩いて気合を入れた。僕だってもう少しだけ頑張らないと。


 従魔にしたホーンラビットはその度に野に戻した。


 いくら寂しいからって、モンスターはみんなの代わりになんてならない。

 だいたいウサギを盾役にするなんて、考えただけでも恐ろしい。


 それに、今まで散々ウサギ狩りをしてきたし、皮も剥いでベッドでも使っている。


 だから今更なんだよねぇ。それに従魔にしたその個体が毛皮を見たらひっくり返るよ。


 ……だから今は練習だけにしておくんだ。





 最近ハンナとよくお茶をしている。


 今日は人気が出てきたカフェ·トロンに来ている。


「やっと座れたねぇ、もう注文するものは決まっている?」


 このお店でのお目当ては店の名前が付いているスウィーツ『クリーム・トロン』


 山に盛られた3~4㌢の丸いふわっふわのドーナツを、特製生クリームをつけて食べる。

 今このユバの街で、いつも長蛇の列を作る人気のスイーツだ。


 ちょっと柔らかめの生クリームに、1枚だけ花びらを添えているのが可愛いと評判だ。


「う~ん美味しい! ユウマ君そっちのも頂戴」


 ハンナのはノーマルタイプだけど、僕はシナモンをかけたのにしたんだ。ハンナも気にいったみたい。


「近頃のユウマ君、ちょっと元気が出てきたね、私嬉しいわ」


「元気ていうか、前に言っていたスキルがモノになってきたんだよ」


 一時期、何もする気がなくて、ハンナに心配をかけていた。


 本当は頑張らなくちゃいけないのに、それでも何も言わずにじっと見守っていてくれた。


 そのハンナの気持ちに気付くことができたから、僕も前向きに進むことができたんだ。


 ありがとう、ハンナ。きっともう大丈夫だよ。


 明日はどこのお店に行こうか?



今回のお話どうでしたか?


良かったら『お友達に、オススメ紹介』をしてください。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ