それからの僕
3階のフロアボスを攻略した3日後、ベルトランとナオミを見送るために集まった。
ナオミも王都にある魔法院に入るため、一緒に行くそうだ。
予めお世話になって人には、挨拶を済ませてある。
だけど、ベルトランは肉屋のチャティーさんにだけはもう1度会ってきたようだ。
何度も頭を下げられ困ったと、悲しそうな顔で教えてくれた。
「……ベルトラン……ナオミ、こ……れを」
僕たちが攻略した白百合の迷宮で、1階から3階までの地図の写しだ。
ミーシャが記念にとみんなにも渡している。
そして僕も渡すものがある。
「これ、みんなにも持っていってほしいんだ」
全員にMP丸薬200個ずつに痺れ薬も少々。
これから先何があるか分からないし、持っていても損はない。
この前の秋から、ギルドランクを上げるため薬草採取に励んでいたんだ。これくらいの量わけないよ。
「わりぃな、みんな……じゃあ行ってくるぜ」
あっさりとした別れだった。これ位が丁度いいのかも。
それから2日後、ポーも年末用に仕入れた品が売り時だと言って南へ旅立ち、
残ったドンクとミーシャも、春の種まきに間に合うよう出発すると言っていた。
僕のその後の活動は、殆どソロが中心となっていた。
解散してすぐ、他のパーティへ入るのは気持ちがついていかない。
いくつか顔見知りの人に誘われたが、丁重に断った。
とにかくやる気が起こらないんだ。今まではどこに行くにもメンバーの誰かは一緒だった。
だから買い物をしていても……。
「この魔道具面白そうだね?」
振り返っても誰もいないのに、ついつい話しかけちゃう。はたから見ていたら変人だよ。
なんだこの嫌な感覚は……忘れていたけど、もしかして、これは……イヤ、思い過ごしだよ。
あれから僕も成長したんだ。絶対そんなはずはない。でも…………これは……間違いない。
――――ボッチの状態だ!
怖くなった僕は、臨時でパーティに入れさせてもらった。
うん、ボッチじゃない。ちゃんとパーティにも入れてもらえるし、何より頼りにされている。
ふ~、僕の勘違いでよかったよ。うん、うん、うん、うん、そうだと信じよう。
それに、これはこれで結構楽しかった。いつもとニーズが違うし、良い勉強になったかな。
そんなスローライフを過ごしている中、1つだけ熱中していることがあるんだ。
それは今まで棚上げにしていたスキル『サルマワシ』だ。
これは端的にいうとティム、つまり従魔契約のスキルだ。
なぜ今まで使わなかったかというと、契約する時の前段階に手間がかかり、パーティを組んでいると気軽にはできないんだ。
手順としてまずは、相手を心服させる必要がある。
この人にはかなわない、この人すげーと思わさなければいけない。まっ、当然か。
そうしてからスキルの発動。この間、対象モンスターは襲ってこないので安心。そして上手くいったら契約となる。
しかし。
――ドゴッ――
横っ腹にいいのをもらった。別モンスターの乱入だ。
対象モンスターは襲ってはこないけど、他のは別だ。
しかもスキルが発動していると、僕が途中では止められないので、メッタ打ちにされる。
クーッ! HPはそんなに減らなくても、結構堪えるね。
こうならない様に、平原のウサギで試していたがミスしちゃった。気を取り直して次行こう。
レベル10になって力も上がり、殺さない程度にHPを削るのも一苦労。
そしてパーティを組んで、これをしなかった最大の原因は、このスキルの発動モーションにあるんだ。
「♪モ~モタロさん モモタロさん おっこしにつけたきびだんご~ ひっとつわたしにくださいな♫ あ~げましょお あげましょお わたしについてどこまでも~ ついて~くるならあげましょお♪」
熱唱プラス振りもいる。少し歌詞違うし……。
こんな恥ずかしいこと、人前ではできるはずないよ。
しかもティムに失敗して、〝フン〞ってフラれたとき心へのダメージは大きい。
「おかしいなぁ。
〝心服させた相手にスキルを発動すると、高確率でティムできる〞
てあるのに、いいところ5回に1回ぐらいじゃん」
何がいけない? これはいろいろ試さないと、手の振りや顔の角度? ――ドゴッ――
イタッ、もう1度。今度は流し目では……ダメか。
歌の工夫をしてみよう、ビブラートをつけたり、もっと大きな声? ――ドゴッ――
う~、全然ダメじゃん。1日中やっても何も掴めなかった。
明日もこれをやるのか。……人に見られないよう本当に気をつけないといけない。
あれから何日も頑張っているけど、孤児院への寄付のお肉が増えるだけだった。
それでも今日もまた歌い続けます。
「♪モ~モタロさん モモタ」 ――ドゴッ――
またやられちゃった、集中集中! 何も掴めないまま時間が過ぎる。
「はぁ~、どうしたらいいんだろう」
ギルドで調べても普通のティムは載っているが〝サルマワシ〞はその文字すらない。情報が全くないんだよ。
だから自分で考えて試すしかないんだけど、思いついたこと全部出し切っちゃった。
もう無理です。
それに何度も歌っているせいで、普段でもつい口ずさんじゃう、変な癖がついたし困ったよ。
「♪おっこしにつけたきびだんご~」
今もまた歌っていた、ヤバッ!
…………ん? キビダンゴ?
もしかして歌詞をなぞっているスキルなら、きび団子をあげる? おっ、キタかも!
きび団子は手に入らないから、MP丸薬でやってみよう。
「ついて~くるならあげましょお♪」
バッと手の平に丸薬を出す、どうだ?
〝プイ〞
くーっ! いや めげない。他のもいっぱい出してみたらどうだ。
ヤケになり短剣 HPポーション しびれ薬 ビー玉 パンと一気にいろんなもの出してみた。
〝キュ?〞
HPポーションを受け取ったー!
―――――
ホーンラビット:オス
Lv:1
従魔契約主人:ユウマ·ハットリ
ステータス確認をしてみると、ちゃんと従魔になっている。
嬉しくなって何度も試しちゃった。そして、その度に次々と受け取ってくれる。
キターーーーーーーーー!
たまに目当てのアイテムがなくフラれてしまうこともあるけど、〝きび団子作戦〞上手くいきました。
検証してわかったけど、同じ種類のモンスターでも個体によって好みがある。
受け取るアイテムは薬や食べ物など消耗品であること。
あとは丸くなくてもイイってことがわかったよ、ははは……。
「……ねぇ君……ベルトラン……僕とパーティ組まないかい?」
そんな馬鹿げた問いかけに、ホーンラビットは答えるはずもなく、きょとんとした顔をしている。…………僕は何をやっているんだろう。
少し前まで一緒にいたHEROESの5人。内容の濃い1年だったなぁ。
他の人は10年以上かけて到達する所へ、たった1年でたどり着いたんだもん。
考えてみれば嫌な思い1つしたことがなかったし、いつも笑っていつもはしゃいでいた。
ボッチだった頃には考えられないことだよ。
キラキラしていた仲間。そんな彼らは自分の進むべき道を見つけ歩き出したんだ。
――ピシャッ――
顔を叩いて気合を入れた。僕だってもう少しだけ頑張らないと。
従魔にしたホーンラビットはその度に野に戻した。
いくら寂しいからって、モンスターはみんなの代わりになんてならない。
だいたいウサギを盾役にするなんて、考えただけでも恐ろしい。
それに、今まで散々ウサギ狩りをしてきたし、皮も剥いでベッドでも使っている。
だから今更なんだよねぇ。それに従魔にしたその個体が毛皮を見たらひっくり返るよ。
……だから今は練習だけにしておくんだ。
最近ハンナとよくお茶をしている。
今日は人気が出てきたカフェ·トロンに来ている。
「やっと座れたねぇ、もう注文するものは決まっている?」
このお店でのお目当ては店の名前が付いているスウィーツ『クリーム・トロン』
山に盛られた3~4㌢の丸いふわっふわのドーナツを、特製生クリームをつけて食べる。
今このユバの街で、いつも長蛇の列を作る人気のスイーツだ。
ちょっと柔らかめの生クリームに、1枚だけ花びらを添えているのが可愛いと評判だ。
「う~ん美味しい! ユウマ君そっちのも頂戴」
ハンナのはノーマルタイプだけど、僕はシナモンをかけたのにしたんだ。ハンナも気にいったみたい。
「近頃のユウマ君、ちょっと元気が出てきたね、私嬉しいわ」
「元気ていうか、前に言っていたスキルがモノになってきたんだよ」
一時期、何もする気がなくて、ハンナに心配をかけていた。
本当は頑張らなくちゃいけないのに、それでも何も言わずにじっと見守っていてくれた。
そのハンナの気持ちに気付くことができたから、僕も前向きに進むことができたんだ。
ありがとう、ハンナ。きっともう大丈夫だよ。
明日はどこのお店に行こうか?
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