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HEROES

 肉屋のチャティーさん。親1人子1人仲のいい2人だった。


 僕らだけじゃなく、この親子のファンは多い。楽しい会話に安くて美味しいお肉。

 あの店に行くと、みんな楽しい気持ちになって家に帰っていく。そんな素敵なお店だった。


 事件がある10日ほど前、ある男が店にやってきて、ベッツィーの事をやたらと褒め始めた。


 最初は商売柄笑って聞いていたが、そのうち男は、ベッツィーの素晴らしい才能を神に捧げないかと言ってきた。


 宗教への勧誘である。


 得体の知れないものなので、やんわりと断っていたが、あまりにもしつこく来るのでキッパリと断ったらしい。


 それ以来、姿を見せなくなったので安心していたのだが、あの日、目の前でその男に拐われてしまったのだ。


 拉致されたのは全員で9人の女の子。

 年齢も人種もバラバラで、容姿も特に目立った特徴もない9人だった。


 強いて挙げるなら、各個人少しだけ変わったスキルを持っている程度。


 例えば、『聞き耳』『嗅ぎ分け』『暗転(短)』と普段の生活でもあまり役に立ちそうもないスキルばかりだ。


 手掛かりなしで、あとは屋敷に残っていた者を全員捕らえて、尋問したが有力な情報は得られなかった。


 捕まったのは街のゴロツキばかり。

 これ以上の情報は出ないと判断されたのだろう、死罪の判決が出てすぐ執行された。


 残る手がかりは、連れ去られたスポーズ法国にしかない。


 あの国は建国20年と若い国。法王による慈愛と欺瞞に満ちた国である。


 神の名において大陸で唯一奴隷を推奨する国だ。

 ヒューム族が優遇され、それ以外の種族は全て奴隷に落とされる。


 建国当初は国の規模も小さく、エセ王と蔑まれていたが、アレよアレよと版図を広げ、近隣諸国が無視できない程となった。


 建国時から他国への、布教活動という名の拉致を繰り返している。


 これには各国も警戒レベルを上げているのだが、手口が巧妙でなかなか事前には防ぎきれない。


 今回の事件に関して、領主並びに国王までも徹底的に追求すると宣言をした。


 世は反スポーズ法国の流れで大きく沸いている。





 そんな中、僕たちHEROESはパーティとして最後の活動を始めた。


 止まっていた3階攻略。フロアボスの撃破である。

 マッピングも6割程度で、フロアボスの場所もまだ分かっていないけど、残り1ヶ月やってやれない事はない。


 ミーシャも今までの経験をもとに、最短コースの予測を立ててくれている。


 メンバー全員気合も入っており、今までにないスピードで進み地図を埋めていっている。

 大変だけど熱の入りようが半端じゃない!


 1日の終わりには必ずみんなで食事をとる。

 残りの時間を惜しむかのように、でも皆そのことは口にしない。


 ベルトランは筆記試験の勉強のために早めに引き上げるけど、残りメンバーは明日のことを話し合うんだ。


「この地点からだと、上の方に行ったらいいんじゃないかしら?」


「……いいえ、このパターンだと……一旦迂回……したほうが」


 ベルトランは今だけじゃない、この先ずっと頑張るんだ。

 それなのに僕らが今頑張らないわけにはいかないし、みんなその思いだ。


 地図を買っては? という意見も出たけど、僕らHEROESらしくないし、(はなむけ)にならないと却下となった。



 今日は休養の日なので、チャティーさんのお店に向かった。

 持ち回りとなっている孤児院へのお肉の寄付も、もうすぐで1人になる。


「チャティーさん、お肉もらいに来ました」


「おう、ユウマ君いつもありがとうね。

 ベル君は王都に行くの来月だっけ? 寂しくなるなぁ。試験の方は大丈夫なのかな?」


「ええ、ベルトランは頭もいいし、ガッツもあるからそれは心配してないんですよ」


「そうだな、あの子は強い。……うん、心配ないか」


 チャティーさんはあの後、ベッツィーを追いかけスポーズ法国に行こうとしていた。


 無謀でもあるし、ノーム族のチャティーさんにとっても危険この上ないため、周りが必死に止めたんだ。


 あの子が帰ってきた時に、誰もいないでどうすると諭され、今もこの街にとどまっている。


 ベッツィーがいなくなって、その明るさが消えたお店。


 でも、チャティーさんはそれを補おうとして、前にも増して元気よく働いている。

 休日も返上して、来る日も来る日も娘が帰ってきた時のためお店を開けている。


「あの子が帰ってきて、寂れた店になっていたらガッカリするだろ? 落ち込んでなんていられないよ」


 ごめんなさい、僕があの時もっと……。


「ユウマ君、きみもベル君もよくやってくれたんだよ。

 ベッツィーのことを想ってくれるのは嬉しいんだが、あの子に起こった災いに心を奪われないでくれ、頼む」


 元気づけるためにやってきたのに、逆に励まされてしまった。僕は何をやっているんだろう。


「そうですね、チャティーさん。絶対帰ってきますもんね。僕も頑張りますよ」


 人生に悲しみはある。しかし人はそれぞれ生き続けなければならない。それがまた悲しいよ。





 僕らの3階攻略は、少し停滞してしまっている。


 通路が行き止まりばかりになり、正規ルートが分からなくなっているのだ。

 かなり変則的な階層だよ。


「地図の埋まり方を見ると、何処も行き止まりになるわね、ポーはどう思う?」


「ええ、これはもしかして中ボス部屋を抜けた所に正規ルートが存在するかもしれませんね」


 戦闘を避け、最短ルートでフロアボスを目指していたが、それが逆に裏目に出たかもしれない。


「可能性としては、こっちの中ボスエリアが怪しいっしょ!

 かなり遠いけど、今から行って確かめて明日につなげてぇよ」


 今までの経緯を見ると、試す価値があると判断し中ボス部屋へと急いだ。


 部屋の中はボスが残っていて、奥の方にある岩の後ろには通路らしきものが伸びている。


「これは倒して確かめるしかないっしょ」


 ――――

 ハイ·オーク:オス

 Lv:10


 初めて見る上位種だがレア種ではない。イレギュラーなことは起こらないんだろうが、反面ドロップアイテムも期待はできない。


「いつも通りナオミ、開幕を頼むぜ」


 影分身は出さない。というか、この探索が始まってから1度も出したことがない。


 僕ら6人だけの時間なんだ。影分身といえ誰にも邪魔されたくないんだ。

 だって僕ら6人だけの力で充分。ほら、ハイ·オークも簡単に倒せたよ。


「やっぱりですね、道は続いてましたね。この先のどこかにフロアボスがいるのでしょう」


 いよいよかも! 長いはずの1ヶ月。足らないと思っていた1ヶ月。

 こんなにも仲間と一緒に過ごす時間が、濃い1ヶ月はなかった。





 そしてベルトランが出発する3日前となった正午。


「やっと来たわね……ラストアタックのボスってことになるわね」


「ラスボスにしては迫力ないっしょ」


「でも……緊張……する……ね」


「ミーシャ、いつも通りでいいですよ」


「はははっ……ベルトラン、もういく?」


「ああ、時間はあるけど、さっさと決めて4Fに挨拶しに行かないとな!

 みんな準備はいいか? ラストファイト楽しもうぜ」


 1秒でも長くいたい。そんな思いと一緒に今この瞬間を楽しみたくもある。


 ほら、ナオミの開戦の1発が決まって、フロアボスもオロオロしているよ。


 で、ベルトランに釘付けにされて1歩も動けない。ハハハハハッ!


 ドンクは遠距離攻撃なのに、更に死角からってエグいよね。


 ミーシャは援護に徹していて、おおっ、今のうまい!


 ポーのヒールがあればみんな安心だし、あっ! ベルトランのシールドバッシュだ。

 あれは僕への合図。2人で作ったコンビネーション。


【風遁の術・疾風】(最大の力を)


 ほらね、キマッた。こんなモンスター楽勝だよ。

 どんな相手でも怖くない。僕たちは最強だ! 僕たちはどこまでも行けるんだ! 最高の仲間だ!







 ――――でもそれは今日で終わる――――







「なーーー! 宝箱は出ねぇってありえないっしょー」


「でもまぁ、レベルも上がりましたし、良かったと思いますよ」


「そうね、レベル2桁なんてそうそういないから、いいお土産になったわよ」


「ツベコベ言っても仕方ねぇし、もうあとは4Fに行くしかないっしょ」


 ボス部屋の奥にあるセーフティゾーンへ行き、全員で転移装置に触れ4階へと移動する。


 あまり変わり映えのしない景色だ。


 メンバー全員がいるナンテことのない景色。


「みんな、今まで楽しかったね」


「おっ、ユウマ泣かないのかよ?」


 最後にもドンクに冷やかされる。


「はは……みんな、ありがとうな。…………明日からはみんな別々の道だな。

 ……でも道は違っても、俺たちはいつまでも仲間だぜ。

 忘れるな、困ったときはいつでも俺が助けに行くぜ」


 ベルトランは最後までベルトランだった。


 なんだよ、みんなも泣いてるじゃん……グスッ。


「……これにて――HEROES――解散!」





明日から新展開です。


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