表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

44/87

有給ないけど慰安旅行はあるよ

 3階攻略を始めた頃、なかなか中ボスに出会えずに、みんな焦っていた。


 だから、レベル上げるため経験値を稼ぐ手段は何かないかと、事あるごとに検討していたんだ。


 いろんな案がある中、ドンクが魔道具の〝呼び寄せ香〞を使ってはと提案をしてくれた。


「ドンク、あんたバカ? あれは討伐クエスト用の外で使うものでしょ。

 ダンジョンみたいな所で使ったら、全エリアのモンスターが集結するのよ。確実に死ぬわね」


 却下になるに決まっているよ。


「それでしたら、鈴とかの鳴り物で音を出してみておびき寄せるのはどうですか?

 これなら調整もできますよ」


「ポー、ゴメンな。それだと索敵やマッピングの俺たちがうるさくて仕事できねーよ」


「じゃあさぁ、こっちにはメタル系のスライムとかいないの?」


「いや聞いたことないけど、どういう意味だ?」


「大量の経験値といえば定番…………ではないんだね、ゴメン」


「やっぱりこれしかねぇっしょ。じゃそろそろ今日3回目のアタック始めねぇ?」


 そうなんです。今の僕たちにはモンスターハウスがあるのです。

 経験値もさることながら稼ぎがすごい! 3階とは思えない金額なんだよね。


 レアモンスターのアラクネはレベル7が固定みたい。

 レベル9にはなかなか辿りつけないけど、お金はドンドン貯まっていく。


 しかも、この階は日帰りが可能なので、どんなに疲れていてもちゃんとベットで眠れるんだ。こんな好条件ないよ。


 肩たたき券も初めのうちは使っていたけど、誰からということもなく、使わなくなってしまった。

 勿体ないからね、このアイテムもたまる一方さ。


 稼げるのが楽しくて楽しくてさ、も~凄いよ。

 2ヶ月以上休みなし。やればやるほど貯まっていく。あはははははははははは……。


 さらに10日ほど経ち、無理だと思っていたレベル9にも到達したよ。

 ジャイリンさん所の境地に達したかも。


 クーーッ! もっとだ、もっと。あはははははははははは……。


 アシタハ新記録狙ッテミヨウカ、ガンバルゾー。 あハハハはハハハハハハッ。





「……もう……いい加減にして……」


「ドウシた、ナおミ?」


「いつまでやれば気が済むのよ! そりゃお金好きだからたくさん欲しいけど、やりすぎよー。

 何日も休んでいないのよ。夏終わっちゃうし、疲れすぎてゾンビみたいなっているは臭いはで、もうダメ。限界よー、うわーーーん」


 ……ギルドでも噂になっているそうだ。


 異臭を放ち泥まみれで目がうつろ。買取量も化け物級のバトルジャンキー。


 話しかけてくる人も少なくなってきている。

 言われて初めて気付いたよ、またやっちゃったんだ……。


 ベルトランとポーと僕は目が血走るほど、のめり込んでいて、ミーシャやドンクでさえも無口になる位疲れていた。

(ドンクはこれぐらいが丁度いいかも)


 だいぶ精神的にやられていたみたいだ。


 ほどほどにしないといけないね、少し休みを取ろうか。



 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇




「風気持ちいいねー、ヒャッホーー!」


 ダンジョン攻略はひとまず休み、長期の休暇をとって全員でバカンスに出かけた。


 今は船に乗り川を下っている。

 船の甲板でドンドン進むその開放感に、みんな酔いしれてハシャイでいる。


 河口の町で一旦乗り換え海にでて、合わせて三日間で目的地に辿り着いた。


 そこは商業と娯楽の街、お金持ちリゾート都市·エンディンダム。


「ふわー、高い……ビル……いっぱい」


「道路もきれいだし、あそこか今日泊まるホテルって? スゲェいいんじゃねぇ」


 街全体がエンターテイメントに溢れ、訪れた者を必ず満足させる。


 通りには大道芸人やストリートミュージシャンがいて、自分の技を披露しているよ。

 それを見ているだけでも、時間が経つのを忘れちゃう。


 演芸場やオペラホールも大きなものだけでも4つあり、そのほかにスパ施設やショッピング街、遊園地がいたるところにあるんだ。


 この街の全てを楽しもうとしたら、3ヶ月はかかると言われていて、

 1周するころには、更にまた何か新しいものが始まっているんだ。


 そんな魅力いっぱいの街で、その実力は10年連続

 〝もう1度行きたい街ランキング〞や〝ハネムーンはここで決まりランキング〞で第1位をとり続けている大陸一のリゾート地さ。


「ねぇ、ホテル前の噴水みた?

 私達が来たのに合わせて『HEROES』って文字が出ていたよね」


「……すっごく……感動……よかった……」


 10日間は滞在するのでスイートルームは無理だけど、それでも高級ホテルの1室なのでお城のような豪華さだよ。


 このベットのフワフワさ加減といったら、1度寝たら起き上がれないかも。


「オイ、ユウマ。珍しい動物がガラス越しで見れるレストランの予約が取れたぞ。寝ていないで起きろよ」


 腕をつかまれ、外の食事にいったそのレストランが、まぁ本当にすごかったよ。


 壁だけじゃなく天井もガラス張り。


 見たこともない美しい蝶々から、棘の生えた猛獣にまさかの火の鳥までいて、ちょっとした野外博物館だよ。


「……すごいね……ここ天国……?」


「ミーシャは心を持っていかれすぎっしょ」


「いやいや、実際に楽しいですよ。

 それと明日の予定ですが、午後にあの人気ミュージカル公演『青い翼』のチケットが取れました」


「おーー! ポーありがとう」

 パチパチパチパチッ!


 それって有名なの?


「最近人気が出ている演目の1つで、俺っちでも知ってるぜ」


「そうなのよ。滅亡した祖国を想い10人の男たちが、主君の仇サムエル·ビーバー王を討ち取るお話なの。

 この10人が格好よくてね、どんな苦難にもめげずに1つになり、立ち向かっていくのよ。

 そして最後には10人全員が死んでしまう、切なくも心たぎる名作中の名作よ」


 どっかで聞いたお話。赤穂浪士みたいな感じかな。


「そしてお席は、前から6列目となっております。はい拍手」


「すげえなポー。よく取れたなそれ? コネでも使ったの?」


「ふふふ、内緒です。ですがこれが私の実力ですよ」


 本当に面白いミュージカルだった。

 特に主役の大盾使いのカイリン、彼は男の中の男でカッコ良すぎる。


 フィクションだとわかっていても、惹かれてしまうよ。


 劇場を出たあと後ろを振り返って見る光景に、ふと昔のことが頭の中によぎった。


 おばあちゃんの影響で1度宝塚に行ったことがある。

 入る前からワクワクしていて、建物の中も本当に綺麗だった。


 演目にもドキドキしっぱなしで、終わった時にお姉ちゃんが、『私も宝塚に入る』と言ってみんなを驚かせていたっけ。


 青い翼、お姉ちゃんに見せてあげたいな……。


「……ユウマ……どう……したの?」


「はっは~ん、またユウマのウジウジ病が始まったっしょ」


 あっいけない。みんなが楽しんでいるのに、1人で沈んでちゃダメだよね。


「ごめん、ごめん。ちょっと感動しちゃったから……ゴメンネ」


 ベルトランが僕の瞳をじっと覗き込んでくる。


「あはは、ユウマの方がドンクより大人ってことだぜ」


「あんだって? でも、それは否定できねぇか」


 みんなには敵わないな。ドンクもありがとう。


 次の日からも色々なところを見て回り、忙しく楽しんだ。


 日を追うごとに、エンディンダムの色に染まっていくのが自分でもわかる。

 楽しいことが多すぎるんだよ。


 陽気な町並みに誘われて、少し派手なシャツを買っちゃったり、道端で似顔絵なんかも書いてもらったりもしちゃった。


「ユウマ君、自分だけズルイですよ」


 結局6人の似顔絵師に全員集合の絵をみんなの分描いてもらったよ。

 1人1枚ずつのいい記念になったと思う。


 お次はショッピングモールみたいな大きな建物で、男女別々のグループに分かれてお店を回った。


 僕が特に惹かれたのは魔道具のお店。ユバにはない品揃えだった。


 くだらない商品でいえば、声を録音できるひっつき虫とか、温度で色がカラフルに変化するスプーン。


 個人的に気にいっているのが、カエル型のヘビ駆除装置や、名騎手気分になれるミサンガ(10本入り)といった物。


 逆に一般受けするのが、極寒地でも使える範囲型のホットカイロ、お湯を注ぐだけでお茶を楽しめるコップ。


 それと20㍍先までなら狙った所に巻きついてくれるロープなど、有効性のある物もたくさん見つけた。


 あとメッチャ掘り出し物だったのが、小型のマジックバック。


 どれを買おうか迷っちゃうので、とりあえず全部買っちゃった。


 次の日はドンクと町をプラプラ歩いている。


 僕は初日に買った星とハートのサングラスをかけて、さっき店員さんに勧められたスパンコールのシャツを着ている。


 すごくお似合いですよって言われたら、もちろん買っちゃうよね。


 でもドンクは僕よりもっとカッコいい。


 1㍍はある背高帽子に天使の羽(これはどこで買ったか教えて欲しい)。

 あとビキニパンツでキメている。


 センスがいい。みんな振り返るし目立っている!


「なぁ、ユウマ。明日からのクルージングめっちゃ楽しみだよな」


「そうだね。まず川を2日かけてのぼって湖の上でも1泊だっけ?

 次の日、別ルートで川下りって言ってたけど、僕はその湖上のホテルが楽しみだよ」


「なーっ、俺たちハイクラスっしょ!」


 そうだ。帰って明日の用意をしないといけない。

 でも、もう1回だけ買い物に行ってこようかな。


 こういう時ほどマジックバックがあって良かったと思うよ。

 いくらでも入るからね、あははは。



バカンス、僕らはこのご時世無理ですが、早く世の中正常に戻ることを願ってます。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ