更なる戦い
絶対ハメ殺しの罠を、死に物狂いで退けた。
しかしそれは、単なる序章であり、その罠を上回る軍勢が沸き上がってきている。
さっきの戦いでパターンは掴めたし、アイテムの余裕も十分だ。
絶対乗り越えられる。こんな所で死ねないよ。
もう一発土岩壁を放ち、うしろのグループにもダメージを与える。
「ユウマ、ナイスアシスト!」
みんな、周りが見えている。
互いに声を掛け合い、こわばっていた顔も次第に緩んでいき、今は余裕すら感じるよ。
「お前の相手は俺だー【シールドバッシュ】」
「後方に打ち込むわ【アイスアロー】」
「……そこ……させない……」
「ミーシャ【ヒール】ドンクもこちらへ」
次々と打ち果たしていき、やがて最後の1体となった。
「これでおしまいだー【風遁の術・疾風】(力を)」
45体全て倒しきったけど、さっきのこともある。
みんな警戒し自分の状態チェックを済ませ、アイテムの残り数も伝え合った。
「来るなら来いよ! いくらでも相手してやるぜ。うおーーーーーーーー!」
ドンクも吠えて気合を入れている。
その声だけがこだまして、部屋は静寂に包まれる。
喉が…………………………………。
やっぱり来た。
今度は中央に、1つだけ光が浮かび上がってくる。
その光はどんどん大きく広がり、やがてゆっくりとそれは姿を現した。
普通より大きなオークが出てきたと思ったらそれは上半身だけで、その下には全長4㍍はある蜘蛛の胴体のモンスター。
――――
アラクネ(オーク種:レア):メス
Lv:7
アラクネって上半身きれいな女の人のはずなのに、なぜ豚なの?
これだけの理不尽な数のモンスターのあと、美を冒涜するこの生き物! 腹立つわー!
「「「「「絶対ぶっ殺す」」」」」
うは、みんな同じ意見じゃん。
しかし、その醜悪な見た目には似合わず、動きが素早い。
上からの振り下ろしをベルトランが受け流す。
「うぐっ!」
しかし、今までにない強烈な一撃。
攻撃を逸らしたにも関わらず、足が地面にめり込んでいる。
同じレベル7でも、他の敵よりレアモンスターは強い。うかつに近づけない。
僕は後衛組に混ざり、火炎弾や鎌鼬を放ち様子を探った。
糸をつたい身軽に動く蜘蛛の体と、筋肉質で重量感のあるオークの上半身。
バランスが悪いんだ。
1度だけ横ヘなぎ払いをしたが、勢いが弱かったのに、踏ん張りきれていなかった。
「ベルトラン、横に動いてみて。ついてこれないはずだよ」
ベルトランもそれだけでわかったようで、それから一切の被弾もなかった。
もうこうなれば怖くない。いつものパターンで必勝だ。
ナオミの阻害魔法をきめ、ミーシャとドンクによる蜘蛛の胴体への刺突攻撃。
そして6体の影分身と一緒に、クモの足を1本ずつ刈り取っていく。
苦悶を浮かべる顔に、手応えを感じていると、アラクネがぐっと体を沈め〝溜める〞体勢に入った。
「全員、後方に回避しろ! 影分身を盾にするんだ」
ベルトランの指示により、僕たちは次の攻撃に構えをとった。
どんな攻撃が来るか分からないけど、碌でもない攻撃に決まっている。
アラクネのどこから出たのか、全方位に蜘蛛の糸を飛ばしてきて、おとりの影分身を捕縛した。
もし、あれを受けていたら、全滅してたじゃん。
だけど、ネタさえ分かれば怖くない。
このあと何度か全方位のがきたけど、そのたびに影分身を前進させ、近距離で蜘蛛の糸をわざと受けさせる。
こちらは何食わぬ顔で攻撃を続けれるが、アラクネにしたら、逆転のための大技を、幾度も阻止され、疲労困憊になっている。
そうして、足も全てちぎれ、傷だらけのアラクネは力つきた。
最後の声は、豚とも蜘蛛ともどちらともつかない、くぐもった叫び声だった。
そして、さっきまで青白いスモークが、漂っていた部屋だったが、辺りは柔らかい光で満たされ、この戦いの終わりを教えてくれた。
「今度こそ終わり……だよな?」
「助かりましたわ」
他のみんなは、声も出せないくらい疲れていて、この戦いの凄惨さを物語っている。
普通は5体のモンスターを、用心深く構えて倒す。
もし2グループ3グループ重なったときは、逆にやられるので、必ず撤退するのがセオリー。
それを80体プラス、レアモンスターだなんて鬼設定じゃんか!
でも収穫は大きい。81体分のドロップアイテムと中央の宝箱だ。
その宝箱は戦いが終わったあとゆっくりと自ら開き、眩いまでの光を放っている。
期待に胸を膨らませ、全員で中を覗いてみると紙が6枚入っていた。
『肩たたき券』×6
………………………………………………へ?
どんなお宝が待っているかと、ワクワクしていたのに、肩たたき券って何?
いや知ってるけど、これ小ちゃい子が親に渡すやつ。
僕らが欲しいのは、誰も手にしたことないようなお宝なんだよー!
「あれだけ戦って、ボロボロになってアイテム使って、その報酬が肩たたき券?
体をいたわれって言うの? モンスターハウスとでは釣り合いが取れないわよ。
こんな物こうしてやるわ!」
ナオミもブチギレ、肩たたき券をビリビリに破り、地面に叩きつけ踏みつけている。
「あれ? ……ナオミ……お肌がプルプル……」
「なに?(怒)」
「お肌……スベスベプルプル……プニョプニョだよ」
「え? ウソ! 本当だわ、疲れもとれている。
それにHPMPも全快してるし、おまけに喉の調子まで良いわぁーーー」
体の異変に驚くナオミ。泥だらけだった顔や半開きの口もシャキッとなり、まるでエステのあとみたい。
「今からでも、もう1回やれそうよ」
とんでもない効果のアイテムだ。もしかしてエリクサーをしのぐ効果かもしれない。
勿体なくて使えないかも。
今回の戦いでの収穫は、肩たたき券が6枚と、250を超えるドロップアイテム。
そして、大量の経験値によるレベルアップだ。
みんな仲良くレベル7となって良かったね。
「今日は疲れたし一旦街へ戻ろうか」
そして、いつのまにか開いている扉をくぐると、空になっている宝箱が、バタンと音を立てて閉じた。
そして照明も、元の青白いスモークのかかった、部屋へと戻ってしまった。
「……これもしかして、何度も挑戦できるモンスターハウスか?」
その言葉にみんな、恐怖と期待の入り混じった、自分でも理解できない心の乱れを感じたのだった。
アッ、そうだ。探知機を持っている、ジャイリンさんの所だけには忠告しておこう。
普通じゃクリアできないもんね。