僕は男です
あの後、僕は行き交う人々の姿に驚き、そのまま座り込んでしまっていた。
「そんなエルフや獣人だなんて、ありえない……もしかして、ここは異世界……なの?」
追いかけて来たガーラル院長は、僕が他種族を初めて見たと、悟ってくれたのかも知れない。
改めて自己紹介をしてくれたんだ。
「私はドワーフ族のガーラルだ。
ヒューム族である友人のユウマ·ハットリよ。安心しなさい、私たちは同じ人類だ」
不思議と優しく響く言葉。
この人ドワーフだったんだ。
どうりで背が低いし、ヒゲも立派だなと思っていたんだ。
ドワーフのイメージは頑固者だけど、この人は全然違う。優しさの塊のような人だ。
こうして〝身寄りのない〞僕はガーラル院長の孤児院で、厄介になることとなった。
理不尽な事が起こっているけれど、泣き言なんて言ってられない。
この世界の光景を目の当たりにして、日本じゃないどころか、元にいた世界ですらないのだから。
それに僕は決して、納得し諦めたわけじゃないよ。
こちらへ来たからには、逆に帰る方法はあるはずだし、それを見つければいいだけさ。
ただ、1つ気がかりのことがある。
それはパパやママそれにお姉ちゃんの事だ。
突然いなくなって、僕のこと心配しているに違いない。
そう考えると、申し訳ない気持ちでいっぱいになる。
でも、今の僕にはどうすることもできないのはわかっている。
14歳になったばかりで家もお金もない。
服だって、体操着とハーフパンツにランニングシューズ。こんなんじゃ、どこにも行けやしないよ。
だから、帰る方法を見つけるためにも、ここの人達と仲良くなって、色々と学ばなくちゃいけないと思うんだ。
昨日感じただけでも、僕の常識とのズレがたくさんあった。
周りの人から見ると、僕はすごく浮いた存在だってわかる。
そんなことを考えていると鐘が鳴った。
昨日教えてもらった、朝食を知らせる合図じゃん。
急いでトイレに行って、支度をしなくちゃ。
トイレに駆け込むと、獣人の男の子とぶつかりそうになった。
出会いがしらで、向こうもビックリしていたけど、ゴメンね。
僕も急いでいるし、軽く挨拶だけをして用を足した。
スッキリして、手を洗い、身支度を整えようと鏡を見る。
でもそこには僕の顔はなく、カワイイ女の子の姿が映っていた。
あれ、ここ男子トイレだよね?
うしろを振り返っても、誰もいない……。
「 えーーーーーーーー!」
鏡に映っているのは、紛れもなく僕だった。
でも違うよ、これ僕の顔じゃない。
でも、やっぱり映ているのは、僕自身なのに顔は美少女。
なんで? どうした? 異世界ってこういうものなの?
昨日までの僕は、普通で平凡な感じだったけど、THE·男の子って顔だったよ。
それは間違いないのに、何がどうなっているの?
こんなカワイイ女の子に…………。
あれ? 体はどうなってる?
も、もしかして、イヤ、待てよ。
さっきちゃんと、トイレもできたから大丈夫か。
ふー、よかったー。
落ち着いてきて、マジマジと鏡を見れるようになった。
大きな瞳に少し垂れた眉毛、サラサラヘアも、いいね! マジかわいい。
これってもしかして【男の娘】? ……になるのかな。
本当にこれ僕の体だよね?
う~ん、だんだん分からなくなってきた。僕であって僕じゃない? 考えれば考えるほど…………。
「ユウマちゃ~ん、いる?」
あ、やばっ、朝食の時間だった急がなきゃ。
「すみません、すぐ行きまーす」
食堂兼談話室には、もうすでにみんな揃っていて、僕のことを待っていてくれたみたい。
「遅くなって、ごめんなさい」
「ああ、大丈夫だよ。さぁ空いてるところに座って」
席に着くと、テーブルの真ん中には、山盛りに積んであるパンと、それぞれにスープが用意されていた。
「パンはいくら食べてもいいんだよ」
横の席の子が教えてくれ、僕は慣れない硬さに苦労しながらも2つ平らげた。
スープはこってりしていて、クセになる美味しさで腹持ちがよさそう。
思っていたより、ちゃんとした食事でよかったよ。
みんなも食事が終わったようなので、ガーラル院長の席に話をしに行った。
「お、おはようございます。ガーラル院長」
「おはよう、ユウマ。昨日は眠れましたか?」
「はい、なんとか気持ちの整理がつきました。そこで、お聞きしたいことがあります」
やっぱり、大人の人との話しって緊張する~。
「なんでも、どうぞ」
「ぼ、僕みたいに、どこか知らないところから、いきなり現れた人物って他にもいたりしますか?」
真剣な面持ちで、ガーラル院長は静かに話し出した。
「あのあと、君の事を考えていたら、ふと前王国の開祖·女王サクラを思い出したよ」
…………サクラ。
「彼女の出生には謎が多くてね。
諸説の中には、違う世界からやってきたと、言われているのもあるのだよ。
実際彼女の功績には、奴隷開放などのそれまでになかった考え方があって、あながち嘘とも言い切れないんだ」
やった! いきなり当たりを引いた感。帰り方がわかるかもしれない。
「うーむ、彼女は女王として、60年の長き統治したとされているから、それを見つけたかどうかは、なんとも言えないな」
望みは薄いかな。でも彼女のことを調べたら、何かヒントになるかもしれない。
ただ前王国のことだから、ちゃんとした資料となると、王都の図書館にしかないらしい。
そして、そこに入るのも、いろいろと条件がいるみたいだ。
これで何をするべきか、なんとなく分かってきた。
僕、まずはここで頑張ってみたいと思います。
「君は強い子だね。うん、きっとうまくいくよ。
そうだ。色々と分からないだろうから、2〜3日案内できる子をつけてあげよう。
ハンナー、ちょっとこっちへ来なさい」
やって行ってきたのは、スラリとしたエルフの女の子。
同い年位かな。落ち着いていて、優しそうな瞳だ。
でも案内役が女の子ってことは、やはり勘違いをしているよね。
早めに、誤解を解かないといけないかな。
「あの~、もし誤解されていたらいけないので、改めて言いますね。
僕……男なんです!」
「 ブーーーーーーーーッ!!」
盛大に飲み物を、吹き出してくれた。やっぱりね。
でもみんな、ちゃんと理解してくれるか心配だな。
序盤なので判断つかないと思いますが、もし読み進めて面白いと思ったら、ブックマークとかお星評価お願いします。