表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

38/87

不穏

 次の日、お堀造りも早い時刻に完成したので、僕達はのんびりぶらぶら村を歩いている。


「風が気持ちいいわねー、ユウマ」


 何もないところだけど、人は優しいし笑顔が多い良い村だよ。


 遠くの方に見える馬車もまたこの風景に溶け込んで、柔らかな気持ちにさせてくれる。

 もー、サイコーーー!


 夕方になり、僕達は最後の食事をと村長さんに誘われていた。

 だけど、向かうとなんだか、村が少し騒がしくなっている。


「おお、勇者様。良いところへお越しくださいました」


 すごい慌てて何があったんだろう?


「実は村の若い者が2人行方不明なんです」


 ここ最近、近隣の村で人さらいが発生している。


 隣村から帰ってきた村人も、見慣れない馬車を見かけ、もしかしてはと村人たちは相談をしていたところだ。


 昼間見たあの馬車だ!


「一人は外で農作業をしていた者、もう一人は明日からお世話になるあの娘です」


 二人とも、この時間になっても帰って来ないのはおかしい。僕達も手を貸すよ、何かあったら大変だ。


 村人による馬車の目撃情報だと、西に向かっていると考えられる。


 そちらの方向はスポーズ法国にしか行かない道だ。

 もう暗くなっているし、急がないと追い付けない。


「私たちは先行して追いかけます。行きましょうユウマ」


 相手は足の早い馬車。でも今日は新月で雲もある。

 僕達にとっては好都合だよ。暗い夜道では馬車を走らせる訳にはいかない。


 途中から道に、真新しいワダチを見つけ、方向が合っているのを確信する。

 見つければ、何とか助けられるかもしれない。


「ユウマ、今回のことは相当覚悟がいるわよ」


 僕たちは騎士団や警察ではない。

 拐われた人を助けに来たのであって、犯人逮捕や事件解明のために来たのじゃない。


 子供を助けるため、犯人をどう扱うか? を考えろと言われているのだ。


 犯人に情けをかけて、それにより後悔する結果を招いてはいけない。


 ―――つまり


「有無を言わさず殺さなくちゃいけないわ」


 僕は息を飲み走り続けた。





 それからだいぶ長い距離を進んだ。


「そろそろ近づいてもいいはずなのに。……この道じゃなかったかしら?」


 進んでも進んでも気配すらない。不安になりながらも、このワダチを頼りに今は進むしかない。


 これが本命であってほしい。今から引き返し別の方向を探すにしても、時間がそれを許してくれない。


 ナオミにも僕にも焦りが顔に出始めたとき、車輪の跡が横道にそれているのを見つけた。


 パッと見では分からないその脇道を、少し進んだ所に小屋を発見した。


 昼間見た馬車が止まっていて、中には……いた! 商店の娘さんのほかに、2人の女の子が縛られている。


 はやる気持ちを抑え、窓から伺っていると、男が2人笑いながら喋ってるのがわかった。


 僕たちは無言のまま合図を送りあい、別々の入り口に移動した。


 僕はまず袋から痺れ薬を取り出し、気づかれないようそっと室内に粉をまいた。


 飛んでいった薬は男たちの自由を奪う。気付いてもすでに遅いよ。


 動かなくなったのを確認し、ドアを開け空気の入れ替えした。


 中に入ると僕らを見て、女の子たちが大声で泣き始めた。

 可哀想に。怖かったに決まってるさ、よく我慢したね。


「全員、目をつぶっていなさい」


 ナオミがやるつもりだ。


 僕は3人の女の子を抱き寄せ、音も聞かせまいと耳をふさいであげた。


 この子たちは充分怖い目に遭ってるのだから、ショックなことはもうたくさんだよ。


 ことが終わり、この恐ろしいことをする役目が、僕でなかったこと安堵しているとナオミが言った。


「こういうことは年上に任せるものよ」


 その言葉に僕は何も言うこともできなかった……。


 そして、子供たちの縄を切るため立ち上がろうとした時、僕の太ももに矢が刺さった。

 ―――しまった、もう1人いたか!


 僕が負傷したことで敵は安心したのか、何の警戒もせずに入ってきた。


「くそがやってくれたな!」


 入ってきてのは肩幅が広く、腕が異常に長い男だった。


 顔は英雄を思わせるような迫力のある顔つきだが、瞳だけが光を宿さない、深い闇を覗かせている。


 そして、その整った顔とは裏腹に、着てる服はボロボロでひと目で貧民層と分かる。


 相手はその長い腕で剣をを突き出してきた。

 それを受け流し、隙をうかがうけどこの男かなり強い。

 一撃一撃をいなすだけで精一杯だ。反撃は難しい。いったい何者なんだ?


 ――――

 ヒューム:男

 Lv:9


 ?? なんだろうレベルがわかるのに名前がない。

 いや、そんなことに気を取られるな。強敵とわかるだけで十分だよ。


 暗い瞳で睨んでくる。でも僕は怖くないぞ。僕は強くなってるんだ。

 それに僕の後ろには守るべき子供たちがいる。


 ナオミの阻害魔法もきいている。分身の術も最大の5体を出して、一気に決めるんだ。


【風遁の術・鎌鼬】


 目に見えない刃で足元を狙い、ダッシュで距離を詰める。


【風遁の術・疾風】(体を前へ) そして。


【風遁の術・疾風】(力を)


 首元に叩き込んだ一撃を防がれた。


 渾身の力を込めたのに……ならばこれでどうだ。

 間をおかずに鎌鼬を放つけど、鼻面をかすめただけ?


 うそ、影分身の多段攻撃も受け止められた。


 しかし手応えはある。敵も僕がスキルで底上げした一撃に面を食らっている。


「うー、クソぐぁーーー!」


 男は叫ぶとテーブルを蹴り飛ばし、外へと転がり出た。


「小僧ども出てこい!」


 ここからだと外の男が見えない。


 罠なのは見え見えさ。焦る事はない、ゆっくりでいいんだ。確実にあの男を倒さないと。


 向こうがしびれを切らして、仕掛けて来るのを待つ。しかし、馬のいななきが聞こえてきた。


 いや、あれは誘導だろう。逃げると見せかけて、逆の窓から来るかもしれない。


 弓矢さえ気をつければ……影分身を囮にしてみようかな。


 おかしい……蹄の音だ。もしかして逃げたか? イヤ、罠かもしれない。


 警戒しつつも外を伺うと、馬に乗り遠ざかっていく男が見えた。


 本当に逃げたんじゃん、やられたよー!


 でも脅威はなくなったのは良かった~。子供たちの縄を解き、怪我がないかを確認する。


 2人はあの村の子供だが、もう1人の子は別の村からさらわれたそうだ。


 その子には、一度あの村に帰ってから送り届けることを約束し、落ち着かせた。


「複数の村からの拉致ね。手口を見る限りかなり組織的な犯行ね」


 あの男は逃げたけど、安心はしていられないので、急いでこの場を立ち去ろう。


 残されたもう1頭の馬は連れて行き、荷台は走れないように壊しておいた。


 3人を連れて来た道を戻っていくと途中で村人たちと会えた。


「おかーさーん!」


 これでひと安心、もう大丈夫だろう。


 王都への出発は1日遅らせて、村からも念のため2人の男手が出してきた。


 女の子は恐ろしいのだろうか、僕のそばにぴったりと寄り添い、道中を小さな足で頑張った。


 時々声をかけ励ましてあげると、嬉しそうに微笑んでいる。


 そうして、無事王都に着き店まで届けることができた。





 集合場所の宿屋に着くと、すでにみんな揃っていて、ベルトランが呆れながら僕に話しかけてきた。


「ドンクがなんで前回調査できなかったのかわかったぜ。

 前からチャラいと思っていたけど、ここまでとは思わなかったぜ」


 実はドンク、価格調査よりも女の子に声をかけまくっていたらしい。

 だからまた来たと女の子は騒ぐし、男衆からも目の敵にされる。


「俺がいっても、調べ直すのにメチャクチャ苦労したよ」


「いや~、あの村は美人が多すぎるんだよ。仕方ないっしょ」


 ベルトラン大変だったね、すごく、すっごく、お疲れ様でした。


 あと、ポーの方も大変だったみたい。


「調査はスムーズに済んだのですが、村にゴブリンやモンスターの群れが現れまして、自衛団と防衛するはめになりました」


 サラリと言ったけど、数は少なかったの?


「いえ、200体を超えていたそうです。村人もひるむことなく戦い続けたので、なんとか追い払うことができました。

 お陰でミーシャと2人、レベルが上がりましたよ」


 上位種もいたらしく、村人も揃ってレベルを上げたそうだ。


 僕の話も聞いてほしいけど、結果的に全箇所の調査は終わったので良しとしようか。


 あとは迷宮都市ユバに戻って、報告を済ませれば、晴れてFランクに昇格だよ。

本日短編をあげました。


タイトル『我が聖戦はコンビニにあり』


ぜひこちらのほうも読んで下さい。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ