フロアボスとこれから
ベーグット博士から教えてもらった転移装置の件は、僕にとって明るい未来だ。
心が軽くなって気持ち良く、迷宮攻略にも益々ハリが出てきたよ。
僕は勿論、10日間おあずけをくらったベルトランもノっている。
空白の鬱憤を晴らすかのように、前へ前へと出てミーシャもそれに乗っかった形だ。
他の3人は遅れまいと前のめり。
だから、どんどん新しいところへ進んでいけて、ちょー楽しい!
そして気がつくと、一階フロアボスの部屋の前まで来ていた。
挨拶代わりのステータスオープン。
――――
ハイ·ソアイルビックホーン:メス
Lv:6
体の大きさは、通常のソアイルビッグホーンよりも2回りも大きく、間違いなく上位種だ。
以前戦ったクライングビッグホーンは二足歩行だったけど、これはそのままの四足歩行。
「倒せば2階へ行けるけど、今の私達のレベルでは無理だわね」
ナオミの言う通り、僕らのレベルはまだ3なのだから、無理をする必要はない。
あのフロアボスを倒す安全圏内のレベル4になるまでは、焦りは禁物だよね。
もと来た道を引き返し、なるべく早くフロアボスに挑戦できるようモンスターを狩りまくった。
するとそれから何日もしないうちに、ミーシャ、ドンク、ナオミの3人がレベル4になれたんだ。
「これは多分、この前のクライングビックホーンの経験値が、思ってた以上に多かったのでしょう」
この世界でレベルを上げるには、何百回何千回と繰り返さなければ上がらない。
でも、クライングビッグホーンを倒し、レベル3になれた僕たち。
それでも尚レベル4に近いということは、それだけ経験値を貰えたって事だ。
凄いぞボスの経験値って。この世の常識をひっくり返す裏ワザじゃん。
なんでみんなやらないんだろう?
「ユウマ、ボス戦てムチャ危険だっただろ。
あんまりホイホイと気軽にやるもんじゃねえぜ。
超ハイリスクのギャンブルさ」
良く分かんないけど、僕らもレベルアップが近いってことでしょ?
ますます張り切っちゃうし、あと少しとなったマッピングにも力を注げる。
それから1ヶ月ほど戦闘を重ね、僕ら残りの3人もようやくレベルが追いつけた。
他の人の事より、自分の身に起きたことの方がより実感できた。
僕は自分の選択がこうやって形に現れ、1歩1歩前に進めている現実に興奮している。
転移装置にレベルアップ。
簡単なことではないけど、僕は故郷に近づいている。
白い仔山羊亭に集まって、食事をしながらミーティングだ。
ここの料理は本当に美味しい。
宿泊者には、パンと肉か魚の1皿とスープが出る。
僕ら育ち盛りには足らないので、今日もついついもう一品頼んじゃう。
他の5人はビールとかを頼むけど、僕はまだ飲まないって決めてるんだ。
あっ女将さんに、あとで体を洗うお湯が欲しいと頼んでおこう。銅貨50枚あったっけ。
早目に言っておかないと、人数分のお湯を沸かすのが大変らしい。
「さて、食べながらでいいからな。
1階フロアボス攻略だけど、なにか意見のある人はいるか?」
その言葉を待ってたかのように、ナオミが自信ありげに右手を上げて話し出した。
「わたくしが調べたところでは、通常モンスターのノアイルビックホーンとの行動パターンの違いはそれほどなさそうね。
あえて挙げるとすると、〝突撃〞を使う頻度が多いのと、溜めの時間が短いそうよ」
ステータスはレベル6に相応しい高さになっている。
ただナオミの阻害魔法や刺突·打撃には弱そうだし、いつものパターンでいけるかな。
「俺っちも同じ情報しかないな。
まぁ所詮1階のボスだし、イレギュラーな事は今までなかったってよ」
「明日は今までの総仕上げで、いつもどおりの役割分担で行くか。他に何かある?」
ドンクが少しためらいながらも手を挙げた。
「1ついいか?
みんなにも考えてほしいことがあるんだ。
今回レベルも4に上げって嬉しいし、明日ボスを倒したらいよいよ2階だ。
半年も経たずに1階攻略は新記録になるんじゃねーかな」
おおー僕たち頑張ったもんね。
「だがよ、その速さが問題になるんじゃねーかって心配してんだ。
はっきり言って異常だよ。
他の人が何年もかけてやってるのに、ポッと出てきてヒョイヒョイ倒して金を稼ぎまくる。
他のパーティーから見て、どう思われるか心配なんだよな」
「つまり〝やっかみ〞があるんじゃないかって事なのか?」
「そうだ。それも上位クラスの冒険者からのを心配してんだよ」
冒険者はモラルも高くて、ギルドメンバー同士の結束も固い。
しかし互いに揉め事はやっぱりある。
殺人だって、ダンジョンの中では目撃者がいなけりゃ闇の中。
「そうならねぇ為にもよ、対策取ったほうがいいじゃねえかな?」
対策をとれって言われても、突然の話で固まっちゃうよ。
ドンク、誰からか何かあったの?
「まだねーよ。いや、あってからじゃ遅いしよ」
難しい。心配なのは分かるけど、対象者が不特定だし大人数となると、う~ん。
「おっ3人ともここで食事か?」
声をかけてきたのはトンスケーラさんだった。
他のアルカナの鍵の2人も一緒だ。
「お久しぶりです、トンスケーラさん。お元気でしたか?」
「あれから金策に必死よ。まぁすでに返し終わったけどね。
そちらはどうなんだい?」
「こちらは人数が増えてこの6人でやっています。
あっ、こちらナオミとミーシャとドンクです。
実は明日、1階のフロアボスに挑戦するんです」
「うへ、早くないか?
……いや、君達ならいけるか。そうか、無理はするなよ」
その言葉にお礼を言い、向こうも食事なので離れている席に着いた。
「おいおいおい、本物のトンスケーラさんだったよ。
俺っち、トップクラスの人と話しちゃったよ!」
「クリステルさん綺麗だったなー。魔力に溢れていてちょーかっこいい」
「エディさん……ゴツい……」
彼らの登場で話が飛んでしまったが、まだ解決していない。
そうだ、あの話ししてみようかな。
「ねぇねぇ、解決策になるかわかんないんだけど、いい?
春になって新芽が出てきたら、新しいMP丸薬作り始めるよね。
その時、前に作ったものが余ってくるんだ」
そうなんだ、丸薬自体2年以上は保つ物。
全然使えるんだけど、どうせなら新しいものがいい。
そこで孤児院が春と秋に開くバザーに、寄付してみたらと考えたんだ。
「孤児院にも貢献できるし、私たちのイメージアップにも繋がる作戦ですね」
リーブラさんに許可を取る必要はあるけど、みんなが喜んでくれたら嬉しい。
「即効性はないけど、いい案じゃないかしら?」
まだまだ春には遠いけど、みんなも賛成してくれて良かったよ。
あとはリーブラさん、OK出してくれるよね?
カクヨムでも載せています。