みんなルールは守りましょう
1階での日々もだいぶ経ち、僕ら6人はここの戦いに慣れてきた。
ペースは相変わらず順調で、マッピングも次々と埋まっている。
ダンジョン攻略がマンネリにならないよう、マッピングをする時はそれに集中をする。
地図ができている方に転移した時は、戦闘回数の記録挑戦とかをして、かなり楽しんでやっているよ。
ずっと更新できなかった記録も、前回たまたま徘徊集団が重なって、なんと25回できました。
終わりの時間を決めているので、なかなか記録は伸びにくいのに、よくいけたと思う。
ドロップ数も多く、1人当たりの稼ぎが初めて大台の金貨1枚超えしちゃいました。笑いが止まんないよ。
羽振り良くなってきてドンクは武器を、ミーシャは盾を新調し、ナオミは本を買い漁っているらしい。
ドンクの武器は連射性を重視したボウガン。
1発の威力は変わっていないけど、総合的な攻撃力が大きくなった。
速いってことは、イレギュラーのことにも対応できているので、すごく助かっているんだ。
ただ、金遣いが荒いのがちょっと心配かな。
この前も酔っ払って人に奢りすぎちゃったって反省していたし、涙目のドンクはよく目にするんだよね。
そしてある日のこと、未踏エリアを進んでいると、初めて見る雰囲気の部屋を見つけた。
他の部屋に比べて非常に大きく、縦横60㍍を超える広さで、天井も20㍍はあるかもしれない。
中はうっすらスモークがかかっていて、一番奥には、二足歩行の羊のモンスター:クライングビッグホーン(Lv4)が立っていた。
中ボスってやつだ! 初めてボスモンスターを見たけど、他とは纏うオーラが違う。
その風貌は毛が短い代わりに、羊らしからぬマッチョな体だ。
そしてそのぶっとい腕には、大きな片刃斧のバルディッシュを握っている。
あんな重そうな物ちゃんと扱えるのかな?
少し観察していても、それ以外のモンスターはおらず単体のようだ。
時々斧を振り回しているけど、やっぱり重すぎて体を持って行かれている。
でも当たれば痛いじゃすまない破壊力だ。
「ベルトラン、あの斧さばけそう?」
「あの威力でもっと速ければ無理だけど、動きも読めるし、受け流せば問題ないぜ」
「私の阻害魔法もいけそうですわね。あのタイプで魔法防御力が高いって事はありませんわ」
じゃあ、あとは攻撃が通るかどうかかな?
討伐目安のレベル差2つはクリアしているけど、どうしようか?
「う~ん、俺っちの矢が通るなら、みんなのも大丈夫だろうしなぁ。
それを基準にベルトラン、ナオミのどちらかの判断で決めたらどうよ?
まずはぶつかってみるしかないっしょ!」
話は決まったので戦闘準備に取り掛かる。
ポーション系の消耗品チェックに、装備の点検。
ベルトランも盾を持ち替えた。
衝撃に強い鋼鉄製の分厚いタイプで重くなるけど、あのスピードなら関係ないってさ。
そして最終打ち合わせに入る。
「まずいつものように開戦はナオミ頼むぜ。
ついで、ユウマ・ドンクによる遠距離攻撃と俺のスキル連発によるタゲ取りだ。
それとユウマ、影分身は初めから2体にいけるな? よし。
ミーシャは盾役を意識せず、みんなとの連携のなか背後から頼む。
あとは流れ次第だが、もし撤退を判断したら、影分身を盾にして一目散に出口へそれぞれ向かえ。
エリアを超えれば助かるから焦ることはない。
何か補足はあるか?」
とその時、背後から声をかけられた。
「こんにちは。あっ、構えないでよ。
中ボスいるか俺らも見に来たんだけどさ、先客なんで声をかけたんだよね。
俺パーティ名〝ミラージュパトリオット〞のリーダー、コムロってんだ。よろしくな」
「よろしく。パーティ名〝HEROES〞で、リーダーはまだ決めてない集まりですけど、私はポーと言います。
それで用件の方はなんでしょう?」
メンバー全員、ポーのスキル·交渉術を知っているので、彼に任せる姿勢だ。
「いやなにね。ボス討伐の優先権はそちらにあるんだけど、もし、やらないのなら代わってもらえないかと思って、声をかけたんだよ」
「そうでしたか。たった今、準備が終わり始める所でした。
申し訳ないですが譲ることはできません」
「だよなー、なぁー言った通りだろう。
あっ、すまんね。一応聞いたまでだからよ、気を悪くしないでくれよな」
「いえいえ、声をかけていただけるだけでも嬉しいですよ」
「もし、旗色が悪くなって救援欲しくなったら言ってくれ。
その時は共通ルールだけどいいか?」
「救援を願い出た方は、ドロップアイテムの放棄と、1人当たりの謝礼は銀貨80枚でしたっけ?」
すごく丁寧でいい人達だった。
救援のことも、終わるまでここに居てくれるそうで、安心していいと言われた。
話も終わり、さぁ行こうとした時だった。
「おらおらー! どけ、どけ、どっけーい邪魔だー!」
3人組の冒険者が走ってきて、あっという間にボス部屋へ突入してしまった。
「とったぜ、イェーーーー!」
「なんですの? もしやあなた方の仲間ですの?」
「いや、いや、知らねーよあんな奴ら。それに今話したばっかなのに、掟破りなんかすっかよ」
「何、呑気にしてんだよ。俺らも行こうぜ!」
「いえ、ドンク待ってください。みなさんも落ち着いて」
「なんでだよポー。横取りされて悔しくねぇのかよ?」
「いえ、彼らをよく見てください。
Lv4が3人とはいえ、準備もせずに突入をして、しかもバランスが悪いですね。
討伐どころか、自分たちの命を心配したほうがいい展開になると思いますよ」
本当だ。すでにドワーフの1人が倒れているし、残りの2人も避けるだけで全く手を出せれていない。
「助けてくれー」
「放っておきましょう」
「お願いだーー!」
さすがに見殺しはよくないじゃないかな……。
「いえ彼らは条件提示をしていません」
「え?」
「あのような掟破りをした人達に情けをかけても、ちゃんと報酬を払うとは思えません」
でもあのまま放っておけないよ……。
「いや、そのあんちゃんの言う通りだ。今助ければ〝善意による行動〞とか言いかねない。
やつらが蒔いた種だ。やつらが解決しないとな。
それと優先権は君らにあったんだ。交渉についても同様と俺は考えるし、その証人になってもいいぜ」
「ギャー、だめだ。早く助けてくれー」
「ポー、交渉は任せる。納得いくまでやってくれ」
「「「任せます」」」
「なかの3人、あなたたちは救援条件を提示していません。
助けがいるなら速やかに提示してください」
「これ見ろよ、そんなこといってる場合じゃ。……早く、早くー!」
「残念ですが、条件を言って頂かない限りこちらは一切動きません」
「…………分かった。共通ルールで」
「ドロップアイテム放棄と、救援報酬1人につき銀貨80枚ですね?」
「…………くっ」
「どうしますか?」
「クソッ、分かったそれで頼む」
「わかりました。では今から救援に入ります。
後のイザコザがない様私たちが入ったら、速やかにエリア外に出てください。良いですね?」
「……わかった」
こんな人達でも人の生き死にがかかっている中での話だから、心配で心配で。早く決まって良かったよ。
「おーし、みんな気合い入れてくぞー」
「「「「「おーーーーー!」」」」」
読んで頂きありがとうございます。
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