ダンジョン攻略開始
新しく決まったパーティ。
狩りに出る前に、パーティ内のルールを決めておかないといけない。
まず分配方法。これは一般的な方式を取り入れた。
基本ドロップ品はレア品を除いて、人数での頭割りのシステム。
それは現物でもお金でも、本人が望むほうを選べる。
そしてレア品の扱いだ。
基本頭割り。ただし買取を希望する人がいたら、ギルドでの下取り価格を一括購入可能な場合のみ買取できる。
その分配方法は、買い取った1人を除いた頭割りだ。
つまり希望者がいれば、希望者も他のメンバーもお得になるってこと。
次にスケジュールは、3日間ダンジョン探索をしたら2日休みとなる。
この2日間の休みのうちに体を休めたり、武具の手入れや消耗品の補充と、することはたくさんある。
特に僕はリーブラ錬金雑貨店への納品があるので忙しい。
そのことを思い切って、メンバーに相談してみた。
ベルトランとポーに手伝ってもらっていた、薬草採取とMP丸薬の提供だ。
「リーブラ雑貨店のMP丸薬? それってもしかして数量限定のヤツか?」
「うん、それだよ。あまりみんなに無理を言って、迷惑をかけるのも悪いし、ダメならダメってはっきりと……」
「いやいや、MP丸薬提供? 無料でか?」
「うん、1日1個までだけどね」
「いいよ! いいに決まってるよ。こんないい話断るバカはいないっしょ。
なるほどねー、噂のハイペース狩りの裏には、これがあったのか」
「うん、うん、異常な早さだからね。悪魔とでも契約してるんじゃないのかって、噂になっていたわよね」
ありがとう。でも悪魔ってひどくない?
「あとね、顔合わせの時に使わなかったスキルがあるんだ。
忍術の中の1つで、僕そっくりなもう1人の僕を作り出せるんだ」
「え? ちょっと待てよ。それってすごくねぇか?」
影分身は喋れないからなぁ。
意思の疎通ができないし、事故が怖くて出さなかったけど慣れてもらいたいな。
「はは、驚かされることばかりだわ。戦力が上がるし問題ないけれど……。
はぁ~、他に言ってないことはもうないでしょうね?」
「……たぶんない、あっ!」
「なに?」
「大したことじゃないけど、ポーは将来、商人を目指してます」
「「「それこそなんでだよ!!」」」
ツッコミも揃って楽しくやれそう。
「じゃ、あと決めるのは一番大事なパーティ名の件だな」
ベルトランのこの発言に、ナオミとポーの目が鋭く光った。
「えー、わたくしが提案したいのは、❰麗しき花々の輝き❱ですわ。
美しさと優雅さを表した名前で、私たちにぴったりだと思いますわ」
ナオミさん、その名前ちょっとキツいよ。
「いえ、それだと弱々しさが目立ち、他のパーティの目もありますので、よろしくないのでは?
ですので、代わりに❰金は時なり❱を推します。まさしく人生を表す言葉、いいですよね?」
どっちもどっちじゃん。
他の人達も案を待っていたようだが、2人の熱に入っていけないみたい。
「こうなったら、採決を取って決めましょうよ」
え? これどっちかに決まっちゃうの? ちょっと嫌かな。
「あのう、❰HEROES❱(ヒーローズ)てのはどう?
ちょっと安直で、カッコ悪いかもしれないよね、ゴメン」
「そうですよ、ユウマ君。ネーミングは私に任してくれればいいですからね」
「そうですわ、HEROESだなんて。さあ採決をとりましょう」
結果……
麗しき花々の輝き 1票
金は時なり 1票
HEROES 4票
2人共ごめんね、でも変な名前にならなくてよかったよ!
パーティー名も決まり改めてダンジョンへ。
フォーメーションは話し合いの結果。
羊1匹に僕がまず1人であたる。
芋虫にはミーシャを先頭にナオミ・ドンクが対応し、全体のフォローにポーが入る。
そして残りの1匹にベルトランと影分身があたる。
1度やってみたけど3組とも速い。ほぼ同時に終ったし、2分切るぐらいだったかな。
「なんか今までの苦労がバカらしいな。これなら連戦何回でもいけるっしょ」
とは言っても休憩はしっかりと5分はとる。ドロップ品を集めて各々おしゃべりを始めた。
「……そうなんだ……騎士団が夢…………なんだ」
「ああ。孤児院に入って、世の中には助けてくれる人がたくさんいるって知ったよ。
でもさ、それ以上に個人の力じゃどうしようもないことがいっぱいだ。
だから、俺がその中の1つでも助ける力になれればと思っているよ」
「ベルトランは偉いな。俺っちら2人なんかさ。そこまで大きな夢じゃないし、恥ずかしいかもな」
どんな夢なの? 聞きたいなぁ。
「いやね。俺っちとミーシャの町はさぁ、人口2000人ぐらいでな。
ある程度レベルとランクが上がったら、街の守備兵として雇ってもらおうと思っているんだ。
まぁ、身入りはそこそこで危険なことはあるけど、年をとってもやっていけるんだよな。
親のこともあるし安定志向なんだよ」
人それぞれなんだ。
何回かの休憩の中で、色々と知り合うことができた。
その人の行動とか特徴もそれぞれだよ。
ミーシャは口数は少ないけど、コミュ障ってわけじゃない。
タイプの違うベルトランに同じ盾使いということで、いつも横に座って話を聞いている。
ナオミはお姉さん感が出ているが、魔法のことに関して研究熱心で勢いがすごい。
ポーだけじゃなく、僕の忍術にも興味があるようだ。
あと、みんなのドンクへの扱いはちょっと荒い。
「もう少しでマッピング……終わります。……待って下さいね」
「ゆっくりでいいよー」
進むペースが早いので、新しいエリアにもどんどん進んでいける。
比較的に罠の少ない1階とはいえ、ゼロではない。
ドンクの出番も頻繁にあり、見ていると頼もしい。
正午になり、さっき戦いが終わった部屋で、昼食をとることにした。
僕はホットドックによく似た肉を挟んだパンをほおばり、水の代わりに薬水を飲んだ。
薬水を飲んでもHPやMPは回復しないけど、心なしか疲れが取れる。
「ユウマ、それは何を飲んでいいのかしら?」
「ナオミ、これも僕の忍術で出した薬水って物で、主に薬製作に使うんだ。
ただこうやってそのまま飲むと、疲れも少し取れるからいつも飲んでいるんだよ。
美味しいよ、ナオミも飲む?」
「じゃあ俺っちにもくれよ。ミーシャも貰っとけ」
コップに注いであげると、3人共嬉しそうに飲んでくれた。ベルトランやポーはいいのかな?
「ウェッ、なんだこれ。激マズっしょ!」
「う~ん、少なくともご飯の時に飲むものじゃないわね」
「のめなく……はない……」
ベルトランとポーが大爆笑している。なんでだよ?
「あははははは、3人ともおかわりあるぞ」
「ごめんなさい。言って説明するより、飲んでもらったほうが分かると思って。あはははは」
「ユウマ。これを平気で飲めるのはお前だけって事だよ」
ウソ! 爽やかな喉越しで美味しいのに、もう頼まれたって二度とやるもんか。
午後は来た道を戻って何回か遭遇戦を行い、最初の転移装置へとたどり着いた。
ギルドに立ち寄り、素材と魔石の買取とギルドポイントの変換をお願いした。
今日1日の戦闘回数は全部で21回となり、買取金額は金貨5枚。1人当たり銀貨84枚です。
やった、キターーーー! モニカさんも驚いている。
「ベルトラン君、この伝票の素材って何日か溜めたものなの?」
「いいえ、モニカさん。これから毎日こんな感じです。よろしくお願いします」
「もう、驚くのに疲れてきたわ、私……」
このあとの打ち上げ兼反省会では、ドンクとナオミのテンションが上がりすぎて、それどころじゃなかった。
「あははは、私あれだけの数のアイテム初めて見たわ」
「おうよ、今日のこの1杯は格別にうめぇぜ」
2人がすごいペースで飲んでいる。
「お姉さんビールもう1杯! 今日は俺っちの奢りだ。じゃんじゃん飲んでくれー」
今日1日の稼ぎを、全部使っちゃうつもりだろうか。ナオミもあんなに調子乗っちゃっている。
ただ僕としては、今日の戦いの反省会をしたかったかな。
危なげない戦いで、すぐ終わるし見直すところも少ない。
だけど、まだ出会っていないけど強敵のことを考えると、今から準備をしておいたほうがいいんじゃないかな。
「ハハハ、ユウマ。まぁ初日だし大目に見てやれよ。それとあの2人、明日は二日酔いだな」
ベルトランには、まだ1階が始まったばかりでレベルもまだ2だから、まずこの階に慣れようぜと言われた。
少し気負いすぎたかな。ボッチが長すぎたせいで、人とのリズムの合わせ方がムズイよ。
と とにかく頑張りすぎないでおこうかな。