外の世界とダンジョン
ゴブリン討伐で得た装備で、三人それぞれが、自分に合うもので身を固めた。
「ベルトランの新しい盾、やっぱいいね」
「ああ、最高だぜ!」
左手に構える、ミスリル製のラウンドシールドに、右手には業物の両刃剣。
ここまで揃うと、あともガッチリ決めたくなるみたい。
ベルトランは、マジックバックの中にあった、1番格好いいフルプレートアーマーを試着した。
「う、動けない」
あははは、欲張りすぎだよ。試しに僕も装着させてもらったけど、こりゃ無理だ。
フルプレートアーマーを諦め、ベルトランは自分の盾術を信じて、上半身は革製の胸当てだけにした。
そのかわり足元は、黒鉄製のグリーブを選んだようだ。
ポーも武器選びからはじめ、ミスリルと木製で作られたメイスをチョイス。
軽くて丈夫なので叩いてよし、受けて良しの優れもの。
しかも、中に魔石が組み込まれていて、最大MP量と魔力の底上げをしてくれる。
良いローブがあるから、着ないのかと聞いたら。
「この相棒だけで十分です」
だってさ、まさに戦う僧侶って感じだ。あっ、商人か。
そして僕が多分3人の中で、一番自分に合うものが見つけたと思う。
まず革鎧は、飛行系モンスターの素材を使用しているらしく、防御力・軽さが1段も2段も上がっていてすごく動きやすい。
手甲との色合いも合っていて、落ち着いた感じなんだ。
これにも、青いラインが入っているのでカッコいいよ。
そして武器は……。
「おーい、ユウマ。あのヘンテコな武器には、もう慣れたのか?」
「変な武器じゃなくて〝トンファー〞て言うんだよ」
「なんでもいいけど、実戦には間に合わせろよ」
ベルトランは自分に興味がないものには、いつもあんな風だ。
これはただのトンファーじゃなくて、能力付与のマジックアイテムなのにさ。
その効果はまず攻撃方法によって、武器の重心を自動で変えてくれる。
例えば長手の方を回し叩く時には、その先端に重心が移動し、遠心力を加速させ、衝撃力を上げてくれる。
逆に手元のほうで使うときには、そのバランスが元に戻ってくる。これだけでもすごい能力だよ。
でも、それだけじゃなくて手元·長手どちらでも、敵に突き出すとき先端が鋭く尖る。
打、突、両方に威力が出せる一級品だよ!
さぁ、装備も揃い、レベルも2になり、ギルドランクも1つ上がった。
いよいよこの地にある、白百合の迷宮に挑戦だ!
白百合の迷宮は、ユバの街からほど近い、平原の大岩が入口になる。
そのフォルムはまるで、大地から這い出てくる、巨人の上半身のように見える。
口をポッカリと開けていて、内部は遺跡のように整えられている。
壁一面に、色のついた繊細な白百合のレリーフが、彫り込まれており、非常にきれいな造り。
無骨な岩とのアンバランスさが、恐ろしさをかもし出している。
入り口の横には兵舎が1つ。
その前に番兵がいて、人の出入りの確認と、中からモンスターが出てこないかを、監視している。
ただモンスターは今まで、一度も外に出てきたことはない。
研究者の間では、この中は1つの独立空間となっており、境界線を超えることは、モンスターにはできないのだと考えられている。
「受付は無事終わったけど、やっぱり緊張するよな?」
初めてなので、番兵さんにレベル確認と、メンバーの名前を報告しないといけない。
これが終わってからようやく中に入れる。
入口の小部屋から転移装置で、1階フロアへと移動した。
転移の法則として、転移先のその数はフロア階数と同等の数になる。
つまり1階には1つ、2階には2つのと増えていく。
更に出発地点となる装置は、必ず1つなのに対して、行き先が複数ある場合、ランダムで決まってしまう。
そして、次の階に行く為の転移装置は、その階の最奥にいる、フロアボスのうしろの部屋にあるんだ。
たどり着くには、必ずボス部屋を通らなければいけない。
フロアボスのほかに、中ボスと呼ばれるモンスターの部屋もあって、それは階数と同じ数だけあるらしい。
それぞれの階に、フロアボス1匹+中ボス(階数分)の強敵がいるってことだ。
たくさんいる様に思えるが、迷宮自体広いので、すぐに遭遇することはない。
話を聞いていると、まさにファンタジーの世界だね。
テンションも高く意気揚々と入ってみたが、その雰囲気に圧倒されてしまった。
思っていた以上に広い。
内部は洞窟タイプで、道幅は一定ではないが10㍍位はあり、高さも同じ位だ。
広すぎだを。ここで戦い、探索を進めるのかと思うと、不安になってくる。
明るさは充分だけど、岩などで薄暗く見えづらい所もあり、慣れるまで時間かかりそう。
「ストップ! 何か気配を感じるぞ」
モンスターの群れを見つけた。僕らも事前調査はしてある。
1階の出現モンスターの種類は2種類。
羊型のモンスター:ソアイル·ビッグホーンと、大型イモ虫:ホワイトキャタピラーだ。
常に3匹で行動し、割合は変化するが単一種の場合はない。
「羊が1に芋虫が2か……。
情報通りの対処をして、もしヤバくなったらすぐに撤退しよう。そのときは合図を出すからな」
気をつける事は、羊の場合体重200㎏から繰り出される突進だ。これに当たればひとたまりもない。
もし即死しなくても、うずくまっていれば次でやられるだろう。
そして、羊ばかりに気を取られていてもダメだ。
移動速度は遅いイモ虫だが、口から吐き出す粘着糸がある。
これに絡まれば、アッという間に行動不能となりこれまたヤバイ。
この対策として、2種類ともこの技を繰り出すとき、必ずタメがあるらしい。
それさえ見極めれば簡単だ。
「ユウマ、お前は右にいるあの羊を頼む。後はポーと俺で持ち堪える」
羊は体毛が厚くモコモコで、体への攻撃は刃物だと全く通らない。
有効性があるのは打撃と刺突で、僕の新装備・トンファーを選んだのは、そのためなんだ。
毛に覆われていない頭や、足元を狙い一発入れればいけるはず。
ただ、突進してくる羊に、一撃を入れるのはちょっと勇気がいるよね。
いや、勇気を片手に突撃だ。
初ダンジョン、初戦闘の結果は……微妙だった。
期待通り、トンファーでの攻撃の通りは、悪くない。
ベルトランも防御が上手いので良いとして、ポーが攻めあぐねている。
粘着糸をバンバン飛ばされ、攻撃どころじゃない。
それが気になり、僕も集中できなかった。
結局、ベルトランがポーを、フォローしつつ持ち堪えた。
そして、僕がなんとか羊を片付けた後、ポーのイモ虫を僕と2人でやっつけ、最後の1匹へと移った形だ。
想定していて流れだけど、時間がかかる。掛かり過ぎるんだよ!
「だーーっ! やっぱゴブリンのようにはいかないか。3人じぁ無理だなー」
「そうですね、メンバーを闇雲には増やせませんが、もう少し人数は欲しいですね」
それからはできるだけ戦闘を避け、今後のために迷宮内部を偵察した。
迷宮と外での違いを、3人でしっかりと確認しておきたいからね。
通路を進むと所々部屋があり、モンスターはその部屋にたむろしているか、通路を徘徊をしている。
ある程度行動パターンは、決まっているみたい。
そして討伐後、モンスターを解体することができない。
というか、ドロップアイテムだけを残し、遺体はじきに消えてしまうんだ。
初めて見たときは寒気がしたよ。
だって命が尽き、存在そのものが消えるんだよ。
ゲームではよくあるけど、実際目にすると、この世界の摂理が恐ろしく思えてくる。
その逆のポップもする。今まで何もなかった空間に、モヤのかかった姿が見え、やがて実体化するんだ。
しかも、1グループまとめてなんだ。
完全に実体化するまでは、こちらも攻撃できないし、モンスターも動くことすらない。
ポップするまでの時間のサイクルは、確認できなかったけど、1日中その場に、留まるわけにはいかないので仕方ない。
迷宮ならではのルールは、沢山あるけど覚えなければ命に関わる。
罠の類もあるようで、僕たち3人の手に負えるものじゃなかった。
まず見つけることができないし、解除もちょっと無理だろう。
1階で命に関わるような、致命的の罠はないけど、今後のことを考えると対策は必要だ。
短い時間でいろいろ確認できてよかったよ。
でも問題は山積みだ。メンバー補充や罠のこともあるし、あと迷子になることも心配だよ。
何から手をつけていいのやら、前途多難の迷宮です。
晴れた外を見ながら書きました。
みなさんの住んでいるところはどうですか?




