戦いの報酬
次の日は思っていたより早い時間から、事情聴取が再開した。
繰り返しの話ではあったけど、終わったのは午後もだいぶ過ぎた頃だった。
昨日あれから騎士団の精鋭は現場へ向かい、確認と調査をし始めた。
また冒険者ギルドの方でも、飛び去った暗黒魔術師の行方を追っている。
内容は詳しく教えてはもらえないが、早く捕まって欲しい。
そして、その後は僕たちも忙しくて大変だった。
まず冒険者ギルドへ行くと、あっという間に取り囲まれ声をかけられた。
自己紹介をしてくる人とか、褒めてくれる人、背中をバンバン叩かれたり、ホッペをつねられたり(なんで?)された。
ちょっとしたプチ有名人になったよ。
ボッチだった1年前じゃ絶対あり得ない状況。
アワワ、アワワと戸惑っているとベルトランが手を引っ張ってくれた。
「あはは、なに緊張してんだよ」
いろんな意味で助かったよ、ありがとう。
囲みを抜けて、ギルドカウンターに着くとモニカさんがいた。
「あなた達やり過ぎる子だと思っていたけれど、ここまでとは思わなかったわ」
「ははは、恐れ入ります」
「はははじゃありません。死んでもおかしくなかったのよ、反省をしなさい」
はい、すみません。
「でも、無事でなによりよ。三人共、おかえりなさい」
ここにも心配をかけさせてしまった人がいる。
「それじゃ、今日はポイント精算と報酬の話よ」
それは僕たちにとって、とても嬉しい内容だった。
まず今回は特例として処理をしてくれたみたいだ。
ゴブリンの100匹とホブゴブリン討伐は、ギルド依頼クエスト扱いとなった。
それで100匹分の報酬に加え、3名の冒険者ギルド所属メンバーの救助が加算された。
総額金貨7枚銀貨50枚、これだけでも凄いよ。
またその功績により、ランクアップ条件を満たしたとして、ランクGからランクFへと昇格しちゃった。
はははっ、一気にいろんなことがやってきたよー。
これはもしかして、目立っているんじゃないかな?
もしそうなら〝忍ばない作戦〞大成功じゃんか。
「それと伝言を預かっております。
パーティ・アルカナの鍵のリーダー、トンスケーラさんからです。
『金銭の用意はできました。明日の朝、迎えを出しますのでハワード子爵邸にお越しください』とのことです」
「え? 子爵様が来いって?
どうしよう俺着ていけるような服、持っていないぞ」
「そんな偉い人って僕怖いよ、怒られるんじゃないの?」
「まぁまぁ、落ち着いて下さい。
突然で予期せぬことではありますが、想像もしていませんでした」
「……ポー、君も変なこと言ってるよ」
ギルドで気軽に交換とはいかなさそうで残念。
こんなことになるなら〝忍ばない作戦〞もう少し地味な結果がよかったよ。
不安を抱えながらも、用事は一通り済んだのでここで解散となった。
2人は疲れたので帰ると言ってけど、僕は寄り道。
「お待たせ、ユウマ君」
「ううん、僕の方こそ呼び出してごめんね」
仕事帰りのハンナを待っていたんだ。
「昨日は大変だったんでしょ? 休まなくていいの?」
「孤児院じゃゆっくり話せないし、それにハンナには一番に話そうと思ってね」
「フフフ、今日のユウマ君なんかいつもより明るいね」
「そうなんだ、分かる?
みんなに注目してもらえる活躍ができたし、それとギルドランクとか、レベルが色々上がってね。
あっ、順番に説明するよ。実は昨日ね……」
ハンナと喋れる楽しさと明日の会合への不安からか、いつもよりお喋りしすぎた。
明日のことで相談を、2人に話さなきゃならないのに忘れていたよ。
次の朝、着替えを終わらせ迎えを待っている。
すると、とても大きく豪華な4頭立ての馬車が孤児院の前にやってきた。
あまりにも立派なので、いつもは遠慮のない小さな子供たちも遠くから見るだけだ。
僕たち3人も戸惑ってしまい、フワフワとした気持ちで乗り込んだ。
「綺麗すぎて座るのも怖いぞ」
こんなのテレビでしか見たことないよ。
細部の1つ1つまでもが美しく、まさに貴族の乗り物。
「凄いですね。もうここまで来ると、壊したとしても怒られないでしょう」
わー! ポー何考えてるのやめてよね!
ベルトランも何か言ってよ。あれ、顔色わるいね。
「オレ緊張しすぎてお腹痛くなってきた。あっやばい漏れそうかも」
「わー! まってまって。汚さないでよ。すみません、馬車止めて下さーい」
この迷宮都市ユバでは、市民と貴族が暮らす場所は明確に分かれている。
大部分を占める平地の方は市民。
そして高台になって見晴らしの良い場所は、貴族やお金持ちの館が建っている。
そちらには、この領地の防衛施設なども立ち並び、最重要地域となっている。
そして、この街のどこからでも見ることのできる一際大きな建物。
そこがハワード子爵様のお城なのだ。
つまり僕たちは、この地で1番偉い人のお家に招かれ向かっているんだ。
緊張するなというのが無理な話で、3人とも朝食をろくに食べれなかった程だよ。
お城の門をくぐるけど玄関先までまだ遠い。
生えている木も道も何もかもが美しく、ファンファーレが鳴り響きそう。
何もかも目まぐるしくて、もうクタクタになってきたよ。
そしてお城に入り応接室に案内される。
そこには精悍な顔の40歳ぐらいのドワーフの男性と、トンスケーラさん達〝アルカナの鍵〞の3人が待っていた。
ドワーフの男性の服装は、いかにも高そうなシルクのシャツに、紺色のズボンとシンプルだが貴賓が漂う姿だ。
男は満面の笑みで両手を広げ近寄ってきた。
「よくぞ来てくれた、若き勇者たちよ。君らを迎えられて光栄だよ。
まずは名乗らせてもらおう。この城の城主、ヨウドウ・ハワードだ」
厚みのある声に心が震える。大人物ていうのは、こういう人のことを言うのだろう。
僕らも各々きちんと挨拶をする。
「無理を言った買い取りの願い、応じてくれて感謝しているよ。
あれらはこの家の宝でもあるが、それ以上に3人にはなくては困る物でね。
手元に戻るのであればと、きちんとした金額を用意させてもらった。
だから、その辺りは安心してほしい。さぁ、座ってくれ」
勧められるがまま席に着くと、話が進んでいく。
「早速ではあるが、当家の提示金額を伝えよう。
まずは『重圧の白剣』だがこれには金貨550枚。
そして『豊穣の杖』には金貨700枚。
それに『道化の聖魔鎧』に金貨900枚、合わせて金貨2150枚。
こちらを用意させてもらったのだが、どうだろう?」
度肝を抜かれちゃった。金貨2150枚なんて途方もない金額だ。
話しの流れが速いし、3人とも固まってしまった。
たかだか14歳の子供が、大人を前にしてちゃんと話をしろって方が無理なことだ。
それに加えてなんだよ、金貨2150枚って。高いのか安いのか区別もつかないよ。
なんだか、校長室に呼ばれて怒られている気分になってきた~。もう帰りたいよ……。
頭の回転が追いつかないし、なんて返したらいいのか分かんない。
沈黙が続き、やっと口を開いてくれたのはポーだった。
「子爵様、大変高額の金額を提示して頂き、ありがとうございます。
私たちにとっては、普通一晩で手にすることのできない金額で、只々驚いております」
ありがとう。あのまま沈黙が続いていたら、気絶していたよ。
「このアイテムが子爵様やお三方にとっても、大切なものであることがわかりました。
あの時私たちが助けると決意した理由も、お三方が人々にとって必要な方たちで、その後ろに守られている人達を、思わずにはいられなかったからです」
子爵様は不動の姿勢で話を聞いている。
「だから、3人で話をしたことですが、このアイテム…………買い取って頂くのではなく、献上させて頂こうと思います」
「なんと! 金貨2150枚であるぞ」
「……はい」
「それを無償にするというのか?」
「いいえ、そうではありません」
「なに?」
「我々3人は、それぞれ叶えたい夢があります。
ベルトランは騎士団に入り人々の盾となる事。
ユウマは遠く離れた故郷に帰ること。
そして私は大商人となり、立身出世することです。
この目標は大変大きく、困難なこともあるでしょう。
また誰かの助けを必要とするときがあるかもしれません。
もし子爵様が今日のこと覚えてて頂き、我らを思うのであれば、
その時にお力添えを、お願いしたいと思います」
「私と縁を結びたいと?」
「「「 はい 」」」
「……うむ、君たちのような、将来有望な若者との縁なら、こちらの方からお願いしたい位だよ。この取引受けさせてもらうよ」
凄いぞ、話がまとまったよ。
「さて、ダブついた2000枚どうしようかね。
……そうだ、もし君たちさえよければ、手に入れた他のアイテムをいくつか譲ってくれないか?」
ありがたい話です。獲得したものの中には、効果が高すぎて今の敵にはもったいない性能のもの。
単純に僕たちの能力が足らなくて、扱えないものが数々ある。
僕らが装備できたり、将来的に活用を見いだしたものは売らない。
特に5つあったマジックバックは、中型サイズの3つを手元に残した。
たくさんの品々、これらはみんな彼らのものだったんだ。
1つ1つ見る姿に申し訳ない気持ちになってくる。
アルカナの鍵のメンバーの1人、回復魔術師でエルフのクリステルさんと目が合う。
「これらを見ると名残惜しいです。大事にしてあげてくださいね。
もしよかったら、あなたたちとこの品々に幸があるよう、祈らせてはもらえませんか?」
こちらこそ、すみません。
元の持ち主にどう言葉をかけていいのかわかりません。
交渉が終わり、全部の売値が金貨2310枚。これに中に入っていた金貨311枚を合わせると、1人金貨873枚になった。
もう凄いよ、日本円に換算したらまさかの億こえるかも。くあーっ、一気に大金持ちだ!