いったい、何が起こっているの?
人はあまりにも、突然の出来事には上手く対応できない。
「ヒッ、ヒィィィィー!」
僕も今まさにそうなんだ。
宙に放り出され、その感覚を感じた次の瞬間、落下して背中を強く打ちつけた。
肺の中の空気が、無理矢理出ていく。
(苦しい、息が吐けない? す、吸えないんだ)
訳がわからず、もがき苦しんでいるうちに、やっと小刻みに吸うことができた。
「アッ……アッ……あっ………はぁっ………はぁっ」
すごく苦しかったし、体中あつい。
「はぁぅ~なんでこんな事に。……それにここはどこ?」
さっきまで、中学校の周りの道路を、走っていたはずなのに、映る景色が全然違うよ?
まっすぐ伸びた道の両脇は草むらだし、その奥は小高い森が広がっている。
校庭のフェンスや周りの民家はおろか、一緒に走っていた部活のメンバーすら、1人もいない。
気がついたら、いきなりこんな草っ原だなんて。
あっ、それとあの黒い雨や、暗闇はいったい何?
ゴルフクラブで、思いっきり叩かれるし、理不尽なことばかりじゃん。
体に異常なとこはなさそうだけど、あのあと一体何が起こってここに居るのか、全然分かんないよ。
う~ん、いくら考えてみても、全ての事が繋がらないし、上手く考えがまとまらないや。
服は体操着のままで、それ以外のことは《 なぜ 》の文字しか浮かんでこない。
あまりのことで混乱して、長い間座り込んでいたみたいだ。
遠くに見えていたはずの人影が、もうそこまで来ている。
そうだ、あの人に道を聞いてみよう。
どっちにしても状況を確かめないと。うんうん、そうしよう。
そう思い立ち上がろうとしたのだけど……。
(ゲッ……外人さんじゃん……言葉通じるかな……)
再び固まってしまった。
この状況で外人さんは、ハードルが高すぎるよ!
全くと言っていいほど、何も浮かんでこない。
アタフタしているそんな僕を見て、気を遣ってくれたのか、外人さんは笑顔で近づいてくる。
なんだか親切そうな人? あ~よかった。
……ん? 笑顔というより何かニヤニヤしてるかな。
「こ、こ、こんな所で座って1人で何してるんだ? け、怪我でもしたのかよ? へへっへへっ」
言葉は通じるじゃ~ん。
ちょっと変な感じの人だけど、声をかけてくれたんだから、ありがたく思わないと。
「あ……えっと……道に……迷って……」
「一本道なのに迷ったのか? そっか、そっか、お、お、俺が助けてやるよ。へへっ」
「あ、ありがとうございます」
そう言うと、そのおじさんは肩に手を置いてきた。
イタッ! 掴む手に力入りすぎですって。
ん? ちょっ……何? ……近い! 近いんですけどーーーーー!
おじさん息が荒くなっているし、もしかしてキスしようとしてないか?
それとなんで、ハーフパンツに手をかけてるの?
コレ、ダメなヤツだ、逃げなきゃヤバい!
でも突然の事で逃げようにも、上から押さえつけられ、手足に力が思うように入らない。
こ、怖い……誰か助けて。……こんなの嫌だよ! 逃げたくても動けないし……声も出ない……。
おじさんの息は更に荒くなり、手で防いでも防いでも割って入ってくる。
「く、くそっ。ガキが大人しくしろ!」
なんでこんな事を……やめてよ! こわい……怖いよ。誰か助けて……。
「お~い、そこの~~。私の連れがどうかしたか~~~?」
突然の声に、慌てておじさんが振り返る。
見ると馬車に乗った、少し背の低い黒衣の男が、手を振りながら馬車を降りて、近づいてきた。
この人もおじさんの仲間なの? ど、どうしよう。
「先に行かせたら、こんな所で道草をしおって。ほれ、こっち来い」
黒衣の男は僕をまっすぐ見て腕を掴み、ぐいっと引き寄せ、背中の方まで引っ張った。
何この展開? どうしたらいいんだろう。
「この子が失礼しました。
私はこの先にある街の神父でして、あなたはどうやら旅の方のようですね。
もし初めての街なら不案内でしょうし、一緒にいかがですか?」
黒い服は、修道士の格好になるのだろうか。
神父さんはおじさんに、笑顔で話しかけている。
「いや、……いい、いいや。そ……そうだ急いでいるし……ここでいいよ」
振り返りもせずに、おじさんは走って逃げていった。
「何かあったら、教会にお越しくださーい」
ぼ、僕は助かったの?
「ふぅ~緊張した。……さてと……君はどうする?
こんなところでまた1人じゃ、危ないだろう。家に送るにしろ、まずは一緒に街まで行かないか?」
この人は信用できるだろうか?
いや、これを逃がしたら次はない。ここにいてはダメだ。
礼だけを言って荷台に乗せてもらい、街へと連れて行ってもらう事にした。
馬車に揺れながら、さっきのことを思い出す。ショックだ。
変質者には気をつけなさいと、言われてはいた。
だけど、まさか自分が、こんな目に会うとは思ってもみなかった。
「もうなんで、あーいう時に限って、ステルスぼっちが発動しないのさ」
あっ、大声をだしすぎた。神父さんもビックリしている。
喉もと過ぎればじゃないけど、落ち着けばいくらでも、対処できていたと思うよ。
そうさ。あんな変質者には、必殺のクロールチョップを、お見舞いしてやればよかったよ。
「ははは、思ったより元気そうで良かったよ」
ええ、あんなのに負けてられませんよ。今度会ったら、とっちめてやります。
そんな話をしながら、馬車に揺られて進んでいく。
すると、暫くして街が見えてきた。
だんだん近づいてくる街は、とてもキレイで、とっても、とっても立派だった。
僕は完璧に、心をうばわれいた。
目を離すことができない。だって、そこには、素敵な世界が広がっていたんだよ。




