異変
秋の訪れを感じたある日。
僕たちはゴブリン狩りにもなれて、少し奥の方まで来ていた。
【シールドバッシュ!】
「【風遁の術・鎌鼬】でおしまいだ」
「2人とも少し怪我をしていますね【ヒール】」
「いやー、ゴブリン3連チャン疲れなー!
ちょっとビックリしたけど、ちゃんといけたな」
丁度運悪く、3つのゴブリンパーティーの中間に来てしまったようだ。
1つを全滅させたら間を置かずに、次々とやってきたのだった。
「これもタイトな、ゴブリン狩りをやった経験が生きたかもな」
それだけじゃないと思う。実際ベルトランも休日には時間を作り、ギルドの技術指導受けている。
この前も、僕が受け流しの技術指導受けている横で頑張っていた。
何事に対しても、すごく真面目なんだよね。
ちなみにポーはその時間、戦いよりもお金に関することが良いらしい。
商工ギルドへ出入りをして、ボランティアという名のコネクション作りに一生懸命だ。
「それにしても、この数日ゴブリンの数が多くありませんか?」
「うん、ポーの言う通りだよ。森の奥深くでもないのにおかしいよね。
帰りにギルドへ報告しておこうよ」
「そうだな。それじゃ、今日はまだ行っていないこのルートを通って帰ろうか!
たぶん地形的に、薬草も生えていそうだしな」
そろそろ秋となり、草花も実をつけ冬支度に入る。
雪が降る前に、春までの分を確保しないと、リーブラさんへの納品に支障が出ちゃうもんね。
焦る必要はないけど、早めに片付けるに越したことはない。
その後は、不思議とゴブリンとの遭遇もなく進んでいき、少し小高い丘の上へと向かった。
辿り着いたその場所には一面に広がる薬草。種類も多くたくさんあり、取り放題かも!
「うおーー! 宝の山だぜー!!」
見つけにくい麻痺草や月下美人まで生えている。
先の方は崖になっているようだけど、進むほどに密集しているよ。
これだけあれば春までの分だけじゃなく、来年分もあるんじゃないかな!
喜んで駆け出したその先にある崖の下には窪地があった。
その窪地に広がる異様な光景。
小屋らしきものがあるのだ。
丸太を互いに寄り添わせただけの粗末なものだが、何十個とひしめき合っている。
そしてそこにいるのは何百匹ものゴブリン!
見たことのない数のゴブリンの集落だ。
「まずい、頭を下げろ!」
いくら弱いゴブリンでも、この数では対応しきれない。
もし襲われたら、数の力で押し切られ殺されてしまう。
圧倒的恐怖。自分の息を吐く音さえも怖くなる。
「森の異変はこれが原因だったのか! クソッ、ついてないぜ」
「ギルドに報告するにも、ある程度数だけは確かめないといけませんね」
話し合いの末、数の確認と上位種の有無と動向だけを見極めることにした。
幸いにこちらは崖の上と風向きで、気付かれることはないものの、早くここから立ち去りたい。
ここから見ていると、崖の壁の少し先に遺跡の入り口らしきものがあり、そこから集落が広がる形だ。
地形としては、窪地を囲むよう切り立った崖があり、入り口が一箇所のため袋小路のような形になっている!
そして数は700匹を少し超えるぐらいで、上位種は見当たらなかった。
「ここまで調べたらいいだろう。そろそろ引き上げようか。
ん? ………おい、あそこ、入口の方を見てみろよ!」
よく見えないが遠くに4人の人影? 横一列に並んで遺跡に向かって歩いている。
「オイオイ、マジかよ!」
「間違いありませんね。あのド派手な色の鎧はトンスケーラですね」
僕もその名前は聞いたことはある。
獣人族のひとつ、狼牙人と言う種族でパラディンのジョブ持ちのリーダーだ。
トンスケーラを筆頭に、重戦士・回復魔術師と暗黒魔術師と、バランスのよい第一線級の高レベルパーティだ。
初めて会うので、ステータスオープンで少し失礼します。うわ、すごいレベル21だ!
感心している間に、その4人は700匹もの大軍の中に突っ込んで行き、次々と倒し始めた。
「そうか、もう報告があってトンスケーラ達に指名クエストが発生したんだ」
「でもあの数だよ。さすがにヤバクないの?」
「バッカ、あれを見てもまだ心配なのか? まさに無人の野を進むが如くだよ」
レベル1がレベル21に対して何もできない。実際あっという間に5分の1を葬った。
それは一方的な蹂躙でしかない。
トンスケーラの咆哮で、ゴブリンたちは身を縮ませ動けなくなり、重戦士の剣の一振りで数体がなぎ倒される。
回復魔術士の放つ魔法で吹き飛ばされ、暗黒魔術師がここぞとばかりに焼き払う。
彼らの表情に一切の油断はない。
一匹の撃ち漏らしもないよう丁寧に刈っていく。
今まで幾度も経験してきた討伐。その先にある人類の未来を信じての行進。
揺るぎない正義の盾、これこそ勇者! カッコイイ。
どんどんと打ち倒している中、ふと雰囲気が変わった感じがした。
何が変わったのかはわからないが何かが変だ。
「あれ、勢いが弱まったか? う~んなんだろな……。あっ、分かったぞ。スキルや魔法を使っていないんだ」
「本当ですね。随分と余裕のことで。手応えがないから縛りプレイってとこですかね?」
それでも次々と倒していく。
時たま一撃をもらったりするが、ゴブリンなんか敵じゃない! ほら、もう半分になった。
少し時間はかかっているみたいだけど、徐々にその数を減らしていく。
でも、ちょっと疲れてるみたいで、動きが悪くなってきたかな。
「遊ぶのもいいけど、あのままで大丈夫かよ?」
「う~ん、残り150匹くらいだし、もし危なくなったら、さすがに全力を出すでしょ」
たまに4人が固まり、陣形を整えたりして立て直そうとする場面も出てきた。
いいのかなぁ、少し心配になってきたよ。
そしてその時、遺跡の中から上位種·レベル3のホブゴブリンが出てきた!
配下のゴブリン達を下がらせて、勇者達とやるつもりだ。
ボス登場って感じだけど、レベル3なんて足元にも及ばない。
……と、気を取られたその瞬間。
前を行く3人に、後ろから暗黒魔術師の放った電撃が当たってしまった。
「ちょっと何やってるんだ、アイツ! 流石にあれはヤバイぞ!
ほら、フォローを入れないと全滅しちまうぞ!」
疲れているこの場面で痛恨のミスだよ!
3人は膝をつき痺れて動けない様子だし、見ているこっちの方が焦ってくるよ。
ホブゴブリンはチャンスとばかりに、襲い掛かっていく。
しかし、勇者たちも必死なので、痺れた体を動かし応戦をする。
いつもの力は出なくても、簡単にはやられない。
逆にほら、掠っただけでホブゴブリンの方が重傷だよ。
そして暗黒魔術師が3人を助けるため、杖を振りかざし再度魔法を詠唱し放つ。
敵を倒すため打たれた魔法は、またもや3人を襲った。
信じられない光景だった!
全く動かなくなった勇者たち。
それを見て高笑いを続ける暗黒魔術師。
黒衣のローブの中に狂気を帯びた鋭い瞳。
そしてその上の眉間に光る赤い宝石! 禍々しい光だ。
こんなに遠く離れていても、それを感じることができる。
何が起こった?
なぜ笑う?
僕たちは固まったまま、その場を動けずに静観し続けた。
ゴブリン達に引きずられ3人は、遺跡の中に連れて行かれたのに、暗黒魔術師は襲われずに立っている。
暫くすると空から恐ろしい鳴き声とともに、深緑のワイバーンが舞い降りてきた。
ここに来て新たなモンスターの登場。僕たちが手を出せるレベルの相手じゃない。
これであの暗黒魔術師も、ピンチに陥ったことになる。1人で立ち向かうには、分が悪い相手のはずだ。
しかし僕らの期待は裏切られた。
なんと暗黒魔術師はそれにまたがり、飛び去ってしまったのだった。
「どうなっているの? 何が起こったの?」
「決まっているだろ! 3人は嵌められたんだよ。
個人的理由なのか、国とかの大きな力で動いたかは知らないが、用意周到に練られた罠だぜ」
「そうですね。ワイバーンまで用意しているとは、かなり力を持った人物ですよ」
初めからのことを振り返ると恐ろしい。
まず、今までに無かった大きなゴブリンの群れの発生。
次に勇者パーティーへの討伐依頼。
そして、カラクリがわからないけど、スキルや魔法を使用不可能にし、ホブゴブリンで気をそらせてのとどめの電撃。
「かなりの策士です。しかもタチが悪い! この事を早くギルドに知らせなくては」
「待て、ポー! 俺たちは知らせには行かない」
「ベルトラン、まさか。……やめましょう。私たちに出来る事はありませんよ」
「ああ、まだあれだけのゴブリンが残っているんだ。
このまま行っても、すぐに踏み潰されて終わりだろうな。
でもよ、このままじゃあの3人の勇者は本当に死んじまうぜ! 見捨てていいのかよ?」
守るべきが誰であれ、決して見捨てることのないベルトラン。その彼が叫んでいる。
「連れて行かれた時、まだ生きているように見えた。
そうしたら、なぜ生かしているんだ? なぜ飛び去った?」
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「ゴブリン達に殺らせるためか? そんなまどろっこしい」
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「後で尋問をするためか? 分からない。
でも、もし生きているなら、これは時間との戦いだ」
僕らに話しながらも、自分に問いかけ考えているようだ。
「ベルトラン、あなたらしいですね。
でも、それは私たちじゃなくても良いではありませんか?」
ねぇ、2人とも落ち着こうよ。
僕もしっかりと考えた。
トンスケーラさんのパーティは、高レベルで迷宮都市ユバでも屈指の実力者だ。
そんな彼らに助けられた人は沢山いるはず。
もし彼らが居なくなったとしたら、困る人が大勢出てくるんじゃないかな?
それを僕たちが彼ら3人を助けることで、回避できるなら、僕たちは今ここで動くべきだと思う。
それが例え困難で危険のことであってもさ。
「ああ、ユウマの言った通りだ。しかし、それは俺1人の力では出来やしない。
ユウマ、ポー。お前達2人の力が必要だ!
彼らとその後ろにいる人達のためにも協力してくれ」
「気持ちはわかりました。でも何か作戦はあるのですか?」
「ああ、この3人ならではの策を思いついた。
先ずはユウマに土岩壁で円柱形の岩を出してもらう。それを崖の上に並べて…………」
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「なるほど、それなら上手く行きそうですね」
「流石だよベルトラン。
じゃあ念のためにMP丸薬を飲み直してね。
それと他の丸薬とHPポーションにMPポーションも渡しておくよ。
惜しまずにガンガン使っちゃってよ」
「よし、気持ちは固まったな。勝ちを掴みにいくぞ!」
「「お―――――!」」
読んでもらい有り難うございます。
ご意見ありましたら、聞かせてください。